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エピローグ

とある日、コリーヌが学園から帰ってみると、見慣れないメイドがいた。

短い銀の髪のまだ若い女性だ。


「お姉様。新しいメイドが入ったのですか?」


姉のマーガレットに聞いてみれば、マーガレットは笑って。


「先程、リリアーナ皇太子妃様の命で、こちらで働くようにとよこされたメイドよ。」


「え?何故にリリアーナ様の??」


メイドはブスッとした不機嫌そうな顔で、コリーヌに挨拶した。


「アリーと申します。あああっ。悔しい。何で私が人間ごときに、仕えなくてはならないのっ。」


「ええ?人ではないのっ?アリーは。」


「私は竜ですっ。この間、リリアーナに吹っ飛ばされた。あ、リリアーナって呼び捨てた事は内緒にしておいてくださいっ。お姉様達はリリアーナ様のメイドになりましたわ。父上の命令で。あああああっーー。私はあの三姉妹の末娘なんですっ。テリアス様と結婚したかったのにぃっ。よりにもよって、テリアス様の婚約相手のメイドとはっ。」


姉のスタンシアが、クスクスを笑いながら。


「そう言う事で、この子はコリーヌ専用のメイドだから。うんとコキ使うのよ。それから、テリアス様のデートには連れていっては駄目よ。色目使うから。」


「解ったわ。私はコリーヌ。よろしくね。アリー。」


こうしてコリーヌは新しいメイドを手に入れた。


姉妹には専属のメイドがいなかったのである。いかにも伯爵家、専属メイドを持つ程、潤っている訳ではない。




「あれが新しいメイド?可愛いお嬢さんじゃの。」


「良かったじゃない。コリーヌ。」


テラスでソルジュとリオが優雅に紅茶を飲みながら、コリーヌに話しかける。

何故か、アシュッツベルク家の幽霊二人も最近、この家に住み着くようになってしまって。


昼間から茶なんて楽しむ幽霊なんてお前達しかいないっていうのっ。とコリーヌは言いたい。


アリーは何故、紅茶を3つも用意しなければならないのか、不機嫌な様子で。

いつの間にかそのカップが空になっていたりするし。


コリーヌは焼き菓子を摘まみながら。


「あんたたちの姿は見えないんだから。ああっ。私、絶対に変な人だと思われてる。

独り言をブツクサ言っているって。」


「御令嬢にしては、コリーヌは十分変だと思うがのう。」


「そうだね。優雅さがちょっと足りないよね。」


ぐさっと来るような事を言われたような…


「そうよね。わたくしはとか、そうですわとか言わないと、令嬢だからマズイよね。舌噛みそう。」


ああ…将来公爵夫人になるのに、大丈夫かしら…


そういえば、アシュッツベルク公爵家で自分を婚約者と紹介する夜会があったような。


なんか嫌だな…やらかしそうな気がする。


コリーヌが落ち込んでいると、アリーがお代わりの紅茶のカップ、3つを置きながら。


「何と話しているか知りませんが、コリーヌ様が夜会が嫌なら、私が行ってもいいんですよ。テリアス様の婚約者として私が紹介されても。」


「絶対に駄目。私が婚約者なんだから。」


「だったら、ブツクサ言わないで、それから、人間って陰口が得意なんでしょう?

きっと悪口言われますから、気を付けて。」


「え??悪口?」


「だって、あんな素敵なテリアス様の婚約者がこんなチンチクリンな令嬢だなんて、夜会で陰口を言われているに決まっています。」


「チンチクリンだなんて言わなくても。」


アリーはコリーヌに顔を近づけて。


「ダンスは踊れますよね?」


「ま、まぁ、それなりにレッスンは受けた。」


「そのモブ顔なんとかしたらどうです?」


「冴えない顔は生まれつきっ。今更どうにもできないよ。」


「テリアス様に恥をかかせるつもりですか?」


「あんた、竜の癖に、やけに人間くさいじゃない。」


コリーヌの言葉にアリーはニンマリ笑って、


「私達だって人間の世界に興味があるから、時々、こちらへ遊びに来ることがあるのよ。ともかくテリアス様に恥をかかせない。いいですね。」


婚約してからの初めての夜会。

社交界デビューもまともにしていないが、テリアスと婚約が発表されているのだ。

それに今回はコリーヌを紹介する夜会。

主役なのだから行かない訳にはいかない。


アリーが空のカップを盆に乗せて行った後、

ソルジュが、コリーヌに向かって。


「あああ、わしも見に行きたいのう。見に行ってしまおうか。コリーヌがテリアスの婚約者として発表される夜会。」


リオもにっこり笑って。


「僕も行きたいです。」


「アンタ達は、幽霊だから入り放題じゃない?」


「まぁそれはそうじゃが。」


「でも、テリアスが羨ましい。」


リオがため息をつきながら。


「本当は僕がコリーヌと結婚するはずだったんだ。アシュッツベルク公爵は生きていれば僕がなっていたんだから。僕、コリーヌと結婚したかったな。」


コリーヌは慌てて首を振って。


「リオは私を選ばなかったと思うよ。だって私がテリアス様を竜だって見破ったから、追いかけてきたんだから。」


「うん。そうだよね。それは解っているけど。ともかく、夜会。見に行くから頑張ってね。」


「有難う。リオ。」


ちょっと切ない。この少年は生きていれば、やりたい事も沢山あっただろうに。


「もっと沢山の女子と交わっておけばよかったかのう。人生悔いだらけじゃわい。」


そっちの骸骨は滅びてしまえ。


と叫びたくなったが、コリーヌはにっこり笑って。


「奥様がいたんですよね。これはもう、怒られますよーーー。」


「今は妻は先に成仏しておるから、自由じゃ。夜会に行ったら目の保養じゃの。」


スケベなソルジュの事はともかく、

人目にさらされて、公に婚約者紹介されるのだ。

何だか夜会が憂鬱になってきたコリーヌであった。



そして、夜会の当日、コリーヌは両親と姉達と共に、馬車に乗り、アシュッツベルク公爵家に向かった。


門の近くで馬車を降りれば、沢山の貴族達が、馬車から降りて、アシュッツベルク公爵家へ入って行く。


白に金糸の入ったふわりとしたドレスを着たコリーヌは馬車から降りると、皆の注目を浴びる。


高位貴族達は静かな物だ。

この間のマーシュリー伯爵家でのひと悶着があったからであろう。


コリーヌが屋敷の入口へ向かおうとすると、友のレティシア他、学園の数人の友達が、庭の方にいるのが見えた。


ちょっと行って挨拶をしてこようと、コリーヌが近づいてみれば、友達たちは悪口を言っていた。


「何でよりによってコリーヌなのかしら。」

「マーシュリー伯爵家はお姉様達の方が余程、美人よね。」

「この間、高位貴族達が文句を言いにマーシュリー伯爵家に行ったら、テリアス様が、私とコリーヌの仲を引き裂こうとするのなら、我が領地特産、皇室御用達のゴザを用意し、皇太子殿下に使用して貰う事になるが?それでもよろしいという事だな。と言ったそうよ。」

「うわっ。コリーヌ、上手くやったわね。」

「レティシア。アンタも黙っていないでなんか言ったらどうなの?」


コリーヌの親友であるレティシアは一言。


「正直、テリアス様って見る目ないと思うわ。いくらでもふさわしい公爵令嬢とかいるのに、

あの子はいい子だけど、公爵夫人を務めるにはちょっとねー。」


コリーヌはショックだった。

応援してくれている友達が悪口を言っていた。

特にレティシアは仲が良かったのだ。


「あ、あんまりよ。」


コリーヌに気が付いて、レティシアや友達達は真っ青になった。


「みんな大嫌い。」


コリーヌはアシュッツベルク公爵家の庭を飛び出して行った。


涙が溢れる。


「どこへ行くのじゃ。」

「コリーヌが主役なのに。ねぇ。どこへ行くの?」


幽霊たちがまとわりつく。


「うるさいっーーー。私なんかふさわしくないのっ。公爵夫人になんてなれないのっ。」


雨が降って来た。


ずぶ濡れになりながら、カフェに入る。


涙が溢れた。そう私はモブ令嬢。人ごみに紛れてしまえば誰も解らない。

店員は紛れてしまったコリーヌに気が付かず、コリーヌはひたすら泣いた。


ソルジュが心配してくれる。


「このままでは風邪を引いてしまうぞ。」


リオも心配してくれる。


「そうだよ。ねぇ、夜会に戻ろうよ。コリーヌがいないとなったら大騒ぎだよ。」


「いいのっ。このまま婚約破棄されてしまえばいいんだから。」


その時、バンとカフェの扉が開いた。


びしょ濡れのテリアスが立っていた。


どうしてここが解ったの?顔向けできない。紛れてしまおう。そうすればテリアスは見つける事は出来ない。


でも、テリアスはまっすぐにコリーヌの所へやってきた。


「なんで私が解ったの?」


「以前とは違う。私にとってコリーヌは特別な人だ。だからどんな所へ紛れようとも、

探し出す自信はある。さぁ、夜会へ戻ろう。」


「でもでもっ。もう始まっているんじゃ。」


「ちょっと位、遅刻しても大丈夫だ。私の妻は君しかいない。」


「テリアス様っ。」


テリアスに抱き着いて大泣きした。

自分は未熟だ。未熟だけど、テリアスの事が大好きだ。

テリアスは優しく髪を撫でてくれて。


その時、ドドドっと両親や姉達がなだれ込んできた。


マーシュリー伯爵や伯爵夫人が、


「コリーヌっ。無事でよかった。」

「心配したのよ。」


姉のマーガレットやスタンシアも、


「ああ、こんなびしょ濡れで。」

「風邪を引いてしまうわ。」


テリアスは皆に向かって。


「急ぎ、公爵家へ。そこで違うドレスに着替えて貰おう。」


マーガレットが、


「ドレスはあるのですか?わたくしがドレスを脱ぎます。ちょっとコリーヌには長いけど。」


スタンシアが首を振って。


「私のドレスの方が、素材が軽いわ。急ぎ公爵家へ。私のドレスをコリーヌに。」


「お姉様っ。ごめんなさい。」


なんて優しい姉達なのだろう。



コリーヌを連れてテリアスやマーシュリー伯爵家の一家は急ぎアシュッツベルク公爵家へ戻る。


スタンシアのドレスは水色のドレスだった。丈がコリーヌには長いが、なんとか着付けして、

夜会は始まっている。


アシュッツベルク前公爵夫妻がその場をなんとか収めてくれているようだ。


水色のドレスを着たコリーヌに手を差し出して、テリアスは微笑み。


「さぁ。行こう。コリーヌ。」


「ええ。テリアス様。」


夜会の会場に二人連れだって現れる。


テリアスは集まった貴族の皆に向かって、


「今宵はお集り頂き有難う。私の婚約者、コリーヌ・マーシュリー伯爵令嬢だ。

彼女が学園を卒業したら結婚する。私はコリーヌのような素晴らしい令嬢と結婚する事が出来て本当に幸せだ。皆、祝って欲しい。」


コリーヌは皆に向かって。


「コリーヌ・マーシュリーです。この度、アシュッツベルク公爵様の婚約者になりました。

未熟な所もありますがよろしくお願い致します。」


優雅にカーテシーをした。


皆が拍手をする。


そこへレオンフィード皇太子とリリアーナ皇太子妃が揃って、到着した。


レオンフィード皇太子はテリアスとコリーヌに向かって。


「おめでとう。このような場に呼んでもらって俺は嬉しいぞ。」


リリアーナ皇太子妃も、


「お似合いのカップルね。とても素敵。これからもこの帝国の為。

よろしくお願いしますわ。」



そして、テリアスと共にコリーヌはダンスを踊る。


テリアスは紛れたコリーヌを見つけてくれた。


今日の私はモブじゃない。主役なのだ。


なんていう幸せな日なのだろう。


テリアスがコリーヌと踊りながら微笑んで、


「コリーヌ。愛している。共に幸せになろう。」


「ありがとうございます。テリアス様。幸せになりましょう。」





パーティが終わって、悪口を言っていたレティシアや友達達は平謝りにコリーヌに謝ってきた。だから許してあげた。

嫉妬をしてつい悪口を言ってしまったと言う。

まぁ確かに冴えないモブ令嬢だから仕方ない。


2年後、学園を卒業し皆に祝福されながらテリアスとコリーヌは結婚した。


沢山の子供に恵まれ、二人は幸せに暮らした。

勿論、アシュッツベルク公爵家の幽霊達も、コリーヌが寿命を迎えて死ぬまで長く

傍にいて、テリアスとコリーヌ、そしてその子孫達の幸せを見守り続けたと言う。


拝見してくださった方、有難うございました。


結婚後の二人。聖剣を盗まれた勇者は王女様に恋をするに、ちょっと出演してます。

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