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皇都に戻ったら、婚約者を辞退しろと周りが…

コリーヌは、アシュッツベルク公爵の領地からテリアスと共に皇都へ戻って来た。

テリアスとは、領地を色々と案内して貰ったり、裏山や川で遊んだり、有意義な夏休みを過ごせて幸せだった。


王立学園へ久しぶりに今日は登校である。

もの凄く嫌だった。


婚約発表を正式にしてからの登校であるので、令嬢達に大人気のテリアス・アシュッツベルク公爵の婚約者になった令嬢が、ぱっとしない見かけの赤毛でチビのコリーヌ・マーシュリー伯爵令嬢では、文句の一つでも言いたくなるのではないかと思われたのだ。


王立学園の教室へいつものごとく、おはよう と言いながら入っていくと、

友達のレティシア・アレクト伯爵令嬢が他の令嬢達と近寄ってきて。


「おめでとう。コリーヌ。もう驚いたわー。人気のテリアス様の婚約者なんて。」


他の令嬢達も、


「凄いわー。コリーヌ。玉の輿ね。」

「向こうのご両親も大歓迎って言うじゃないのー。」

「羨ましいわ。」


ワイワイ、皆、楽しそうに騒いで、コリーヌに色々とテリアスとの事を聞いてきたりして。

コリーヌはほっとした。みんなとても優しい。


しかし、教室の扉を開けて、取り巻き達と入って来た女性がいた。

金髪のきりっとした顔立ちのマリー皇女である。この国のレオンフィード皇太子の妹の一人だ。(ちなみにレオンフィード皇太子は弟妹が多い。)

コリーヌの目の前に来て、凄い目で睨みつけながら。


「ちょっと、貴方、どういう事よ。いつの間にテリアスに取り入っていたというの。

わたくしがテリアスの妻になるはずだったのよ。貴方、婚約者を辞退しなさい。

わたくしがテリアスと結婚するのだから。」


コリーヌは内心焦った。

どうしよう。皇女様に難癖つけられるなんて、身分が違いすぎる。不敬罪なんて問われたらおしまいだ。でも、テリアスと別れるなんて考えられない。


「辞退するつもりはありません。私は望まれて婚約者になったのですから。」


「伯爵令嬢の癖して、なんて、ずうずうしい。いい加減にしなさいよ。でないと…」


その時、ガラっと教室の扉が開いて、

サラサラの長い銀髪をなびかせて一人の美しい女性が入って来た。

女性の護衛騎士を二人従えて、高貴な白のドレスを纏っている。

コリーヌとマリー皇女の傍に来ると、


「あら、マリー皇女様。テリアスとコリーヌの婚約を祝うんじゃなくて、婚約辞退を迫るとはおだやかではありませんね。」


「あら、リリアーナ皇太子妃様。学園に何の用でいらしたのですか?とっくに卒業しているはずですが。」


「レオンフィード皇太子殿下の命で参りました。皇太子殿下は今日は外せない会議がありますので。レオンフィード様は今回のお二人の婚約を非常に喜ばれておりますわ。

勿論、わたくしも応援しております。ですから、コリーヌ嬢に婚約辞退を迫るのでしたら」


リリアーナ皇太子妃は教室をぐるりと見渡す。


皆、巻き込まれたくないと、二人の言い争いを遠巻きに見ていたのだが、


「あら、貴方は、騎士団長子息のレッテレロだったわね。いいわ。貴方とその周りにいる殿方。今こそ見せる時です。簀巻き講習の成果を。マリー皇女を簀巻きにしなさい。」


「えええええっ??そ、そんな不敬な事できませんっ。」


真っ青になって騎士団長子息レッテレロは断る。


マリー皇女が叫ぶ。


「リリアーナっ。貴方にその権限は無くてよ。元伯爵令嬢の癖して。生意気な。

わたくしは皇帝の娘です。皇帝の娘を簀巻きにする権限等ないはずですわ。」


リリアーナ皇太子妃は扇で口元を隠しながら、微笑んで。


「何をおっしゃいますやら。わたくしは次期皇帝陛下の妃、いずれは皇妃になる身ですわ。

息子もいずれ皇帝になるでしょう。そういう貴方のお母様は平民のメイドでしたわね。

わたくしが皇妃になった暁には貴方なんて虫のように踏みつぶす事も可能ですのよ。

それに、簀巻きはレオンフィード皇太子殿下の命令です。

帝位を狙おうにも、レオンフィード様の御母君は皇妃様。他の弟君、妹君は皆、側妃様達のお子でしたわね。

どう逆立ちしたってレオンフィード様が有利で、あなた方側妃様の子は皆、不利ですわ。

もう、次期皇帝はレオンフィード様と決定しておりますし。

確か…レオンフィード様を怒らせたヘンリー第二皇子殿下は辺境の国境警備隊に行かされて、今、何年になるかしら。ちっとも戻ってきませんですわね。

スコット第三皇子殿下も、国庫のお金を使い込んで、今、河川公共事業で働いて返しておりますわ。

言い忘れましたが、エリーヌ・カティリシアス公爵令嬢は海外へ強制留学になりましたわ。

何でもマーシュリー伯爵家の事業を妨害したとか。

マリー皇女様はどのような処罰をお望みで?」


騎士団長子息レッテレロは、他の男子生徒達と、いつの間にか届けられた簀巻きのゴザを手に、じりじりとマリー皇女へ近づく。


「お前達、わたくしを簀巻きにするなんて。」


その簀巻きのゴザに施された模様は見事な赤い薔薇だった。

コリーヌは思う。

あれも、テリアス様の領地のゴザなのね…。


リリアーナ皇太子妃は命令を下す。


「やりなさい。」


「はっ。」


「何するのよ。わたくしは皇女なのよっーーー。おやめなさいっーー。」


マリー皇女は手際よく簀巻きにされて、教室の外へ運び出されて行った。


取り巻きの令嬢達は真っ青になって、教室から逃げていった。


コリーヌはリリアーナ皇太子妃に礼を言う。


「有難うございます。庇って下さって。」


「いいのよ。わたくしも伯爵家の出で、でも、学園ではレオンフィード様が助けて下さったわ。テリアス様は学園を卒業されて、助ける事も叶わぬでしょう。ですから、わたくしが今日、ここへ参った次第ですわ。それにしても本当に可愛い方ね。今度、皇宮に遊びにいらっしゃい。一緒にお食事しましょう。」


「あ、有難うございますっ。」


皇太子妃様に助けて頂いた上、お食事まで誘われてしまった。

なんて有難いのだろう。


それにしても、この国の第二皇子と第三皇子って何をやらかしているんだか…


とりあえず騒動が終わったので、安心して、教師が来たので、宿題を提出して、授業を受けて一日が終わったのだが。


屋敷へ戻ってみると、伯爵家の前には馬車がずらりと並んで。

何事?とか思って急いで家に入ってみると、


両親の前には名の知れた公爵家や伯爵家の方々がずらりと並んでおり、


「おたくの長女次女ならともかく、あんな冴えない三女がアシュッツベルク公爵家の婚約者なんて、どういう手を使ったんだ?あの冴えない三女が弱みでも握って脅しているとか?」


「いえ、たかが伯爵家がアシュッツベルク公爵家に嫁ぐなんてっ。そりゃ前公爵夫人は伯爵家出身ですけれども、我が公爵家のうちの娘こそふさわしいですわ。」


どこぞの公爵家の夫人が叫べば、他の公爵家の公爵が、公爵夫人に向かって、


「おたくの娘は婚約者がいるだろうがっ。我が娘は婚約者はおらぬ。我が娘こそふさわしい。」


「ともかく我ら貴族はこの婚約は認めない。辞退する事を勧める。」


マーシュリー伯爵である父は困ったように、


「この婚約はテリアス様から望まれて、成立したものなので、苦情はそちらに入れて下さいませんか?」


マーシュリー伯爵夫人も頷いて。


「テリアス様はうちのマーガレットやスタンシアより、コリーヌが良いと強くお望みですわ。コリーヌの可愛らしい所が好みとおっしゃっておりました。ですから、わたくし達と致しましては、テリアス様の望みをかなえて差し上げたまでですのよ。」


コリーヌは泣きたくなった。

やはり自分はふさわしくないのだろうか。


姉のマーガレットがコリーヌを抱き締めてくれた。


「気にすることないわ。貴方はテリアス様に愛されているのだから。」


もう一人の姉、スタンシアも、


「それにしても頭に来る連中だわ。一言、言ってやろうかしら。」


コリーヌは慌てて。


「駄目よ。騒ぎが余計に大きくなるわ。ああ、どうしよう。」


その時、部屋に入って来たのがテリアス・アシュッツベルク公爵その人だった。


「何の騒ぎだ?」


ギロリと騒いでいる貴族達を睨みつける。


「私の婚約者に文句を言っているようにも聞こえたが?」


公爵の一人が、


「あんな冴えない小娘よりうちの娘の方が余程、アシュッツベルク公爵家にふさわしいと思うが。」


「いえ、うちの娘の方がふさわしいかと。」


「いや、うちの娘がっ。」


皆、ワイワイと騒ぎ出す。


テリアスは、皆に向かって宣言した。


「私はコリーヌ・マーシュリーと婚約した。それを破棄する事なんてありえない。

我が両親もマーシュリー伯爵夫妻も賛成している。

レオンフィード皇太子殿下夫妻から祝いの言葉を頂いた。

もし、これでも私とコリーヌの仲を引き裂こうとするのなら、我が領地特産、皇室御用達のゴザを用意し、皇太子殿下に使用して貰う事になるが?それでもよろしいという事だな。」


貴族達は真っ青になる。


簀巻きにされたら、外国へ飛ばされるか、辺境へ飛ばされるか、牢へ入れられるか、下手したら処刑もあり得るのだ。貴族としてもおしまいである。


「申し訳ございませんでした。この度はおめでとうございます。」


「ああ、なんて愚かな事を言ったのでしょう。ご婚約おめでとうございます。」


皆、口々に祝いの言葉をテリアスとマーシュリー伯爵夫妻に言い出した。


スタンシアが出て行って、


「御用が済んだらお帰りを。お帰りはこちらですわ。」


玄関を指さす。


貴族達は皆、急々と屋敷を出て、馬車に乗り帰って行った。



コリーヌは、両親とテリアスの元へ行き、


「私…やはりふさわしくないのでしょうか…。こんなチビだし、赤毛で冴えない風貌だし。」


テリアスがコリーヌの顔を覗き込んで。


「私にとってコリーヌは愛しくてたまらない大切な人だ。愛しているよ。だから、必ず私の妻になってくれ。」


マーシュリー伯爵も頷いて。


「有難い事ではないか。コリーヌ。」


伯爵夫人も。


「そうよ。テリアス様に嫁いで、幸せになって頂戴。」


姉のマーガレットが、コリーヌの手を取って、


「貴方は私達の大事な大事な妹なのよ。だから、一番幸せになって欲しいの。」


スタンシアも、


「今度、文句を言ってくる人達がいたら私、ぶっ飛ばしてやりたいわ。」


ああ、なんて良い家族なのだろう。

だけど、凄く不安だ。本当にテリアスの妻になれるのだろうか。



コリーヌは涙して、テリアスに抱き着いた。

テリアスは優しく髪を撫でてくれる。


不安な心のまま、今日の初秋の夕日は沈もうとしていた。


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