竜になれるかどうか試して貰いました。(ドキドキの体験でした)
翌朝は天気が良かったので、コリーヌはテリアスと共に、屋敷の裏庭から続く、山道を登っていた。
「もう少し、登れば開けた場所がある。そこで、竜になれるかどうか、試してみたい。」
「解りました。オーラがどういう風に出ているか、見て見たいと思います。」
夏の太陽がじりじりと照り付け始め、暑くなってくる。
蝉の声が賑やかに、鳴いていて、暑さを余計感じさせる。
森の道を少し登って行けば、開けた草原にたどり着いた。
風が吹きわたり、草木を揺らす。山の頂上へ続く道の左手にはその草原、そして右側に、緑豊かな森が続いていて。
テリアスは、草原に立ち空を見上げ。
「今日も入道雲が出ているな。あそこまで飛んでみたい。」
「そんな遠くは駄目ですよ。それじゃ、オーラを身体の外へ出して下さい。」
テリアスの身体からオーラがあふれ出す。
コリーヌは、テリアスに向かって。
「もっともっと、外へ膨らむようにイメージを。自分の身体が、魂が膨らむイメージ…。
ああ、戻る時は逆ですよ。小さくなるようなイメージですかね。」
「膨らむイメージだな。」
徐々にテリアスのオーラが強くなっていく。
凄い圧を感じる。これが竜のパワーなのか。
突然、ブワーっと力がはじけ飛び、テリアスは巨大な白竜になって天に昇って行く。
嬉しそうに、空を駆け抜け、グルグルとコリーヌの上空を回り出した。
「あまり遠くは駄目ですよーー。とりあえず、戻ってみてくださいっーー。」
コリーヌが叫べば、竜のテリアスは近くまで降りて来て、ゆっくりとオーラが小さくなっていく。そして、オーラがある程度小さくなったとコリーヌが思った時、
テリアスは人の姿に戻っていた。そう、素っ裸で地に立っていたのだ。
「きゃああっーーー。テリアス様。服はどうしたのです??」
「あ…竜になる時に吹き飛んでしまったみたいだな。」
いやその、美形の素っ裸って、眼福ですけど、さすがに、衝撃が計り知れなくて。
マジマジと見惚れてしまう。
鍛え抜かれた綺麗な身体しているよね…。
って、肝心な所は見ない見ないっ。
「洋服、屋敷に行って取ってきますっ。このまま待っていて下さいね。」
とりあえず、コリーヌは走り出した。
屋敷への道を駆け下りて行けば、背後から声がした。
「おはようございますっ。どうしたんですか?」
振り返れば、この間、風呂場に現れた少年が後ろからすうううううっとくっついてくる。
「あ、幽霊のテリアス様っ。どうもこうも、テリアス様が洋服をすっ飛ばしてしまったみたいで、
取りに行くところですっ。」
すると行く手を遮るように、骸骨のご先祖様の主が立っていて、慌てて立ち止まると、服一式をコリーヌに手渡して。
「気が利くじゃろ。これを持っていくがいい。」
「え?そう言えば貴方達、幽霊でしょう?真夏の昼間に現れてっ…違和感半端ない。」
幽霊のテリアスは、にっこり笑って。
「僕たちは応援しているんです。コリーヌが、テリアスと結婚する事を。」
主も、頷きながら。
「だから、ワシ達も協力したいと思っておるのじゃよ。」
「あ、有難うございます。この服、貰っていきますね。素っ裸なテリアス様に届けないと。」
二人の幽霊を残して、再び坂を駆けのぼる。
あああ…この暑いのに、本当に大変だわ。
やっと草原にたどり着けば、テリアスは素っ裸のまま、草原に座って空を眺めていた。
「ああ、持ってきてくれて有難う。」
「早く着て下さい。」
テリアスは服を着ながら、
「今度、竜になる時はあらかじめ、脱いでおいた方がいいな。本当に気持ちの良い体験だった。付き合ってくれて有難う。」
「いえ、大したアドバイスもしなかったですけど。」
「おかげで竜になる事が出来た。今度、竜になる時は、空をもっと堪能したい。」
改めて辺りを見渡せば、山の上の方へ向かって草原は斜面になっており、その広大な景色は、
なんとも心を和ませて。
「素敵なところですね。テリアス様。」
「ああ、ここはお気に入りの場所だ。吹き抜ける風が気持ちよくて、この景色を見ていると、心が洗われる。」
ふと、何かに足を掴まれて、コリーヌは、よろけてしまった。
思わず、テリアスにしがみつく。
「きゃっ。申し訳ございません。」
慌てて離れれば、テリアスは、
「いや、その…。コリーヌは小さいのだな。」
「え??改めて何を言うのです?」
今度は、テリアスが急によろけて、コリーヌにしがみついてきた。
途端に、バランスを崩して二人で倒れ込む。
間近で見るテリアス様っーーー。ちょっと、とても恥ずかしいんだけど。
テリアスは赤い顔で、コリーヌの耳に囁いてきた。
「明日も、竜になる場に立ち合って貰いたいのだが…。」
「え??か、構いませんが…。天に昇っていってしまうのが心配ですし…でも、何故、耳元で言うんですっ。」
「私は竜だ…。竜では駄目なのか?」
「そ、それは…。」
その時、コリーヌの耳に聞こえてきた。
「そこじゃ。もう一押しじゃ。」
「一気にプロポーズっーーー。」
幽霊二人が、すぐ近くで、覗き込んでいた。
コリーヌが悲鳴を上げる。
「きゃっーー。」
そして、怒り出す。
「ちょっとアンタ達、アンタ達の仕業でしょうっ。」
テリアスはいきなり、コリーヌが起き上がり、後ろを向いて怒りだしたので、驚いた。
「コリーヌ?誰に向かって怒っているのだ?」
「幽霊たちよっ。もう、私達を転ばせて。」
テリアスに説明している間に、視線を戻してみれば、幽霊たちはいなくなっていた。
「逃げられたわーー。」
「とんだおせっかいな幽霊たちみたいだな。」
肩に手を回される。
そして、コリーヌにとってとても恥ずかしい時間が始まった。
背後から抱きしめられながら、テリアスはコリーヌの耳に囁く。
「仮婚約では無くて、本婚約にしないか?」
「え???私、伯爵令嬢ですよ?身分が違いすぎます。」
「私の母も伯爵家から嫁いできた。問題ない。うちの両親も賛成している。君のご家族だって賛成しているんだろう?」
「え、ええ。賛成していますけど。」
「だったら何一つ問題はない。やはり、私が竜だから、嫌なのか?」
コリーヌは返事に困り果てた。
確かに竜に嫁ぐなんて、何だか怖い…。
テリアスは熱く囁く。
「私は竜だが、人として育てられている。私が他の令嬢と仲良くしていてコリーヌは嫉妬しないのか?」
ここまで関わってしまって、コリーヌは、他の令嬢とテリアスが、話をしている事を想像しているだけで、何だか嫌になるような気がした。
「嫉妬。なのかな…でも。私、美人じゃないし…と、ともかく、本婚約の件はちょっと、考えさせてください。」
「解った。無理強いはしない。」
何とも気まずい雰囲気になりながら、テリアスと共に山を下りた。
「コリーヌ。走らせてしまったから、喉が渇いただろう?冷たい瓜が冷やしてあるから、
一緒に食べよう。」
裏庭の井戸へテリアスは、コリーヌを案内する。
井戸の中に冷やしてあった瓜を引き上げてくれて、物置から小刀を持ってきて切って、コリーヌに食べさせてくれた。
「うわっ。冷たいっ。」
「美味しいだろう?」
井戸の傍の草地で座って、瓜を食べるコリーヌ。隣でテリアスも瓜を食べながら。
「領地へ帰って来ても、楽しいと感じた事はなかったのに、コリーヌが一緒だと、
何をするのも楽しい。午後から小川で釣りをしないか?」
「釣りですか?」
「小魚が釣れて、面白いぞ。」
「よろしくお願いします。」
お弁当を持って、近くの小川へ午後から出かける。
テリアスと釣りを楽しんだ。
小川に釣り糸を垂らしながら、お弁当のサンドイッチを食べる。
澄んだ小川には、沢山の小魚の姿が見えた。
コリーヌは釣り糸を垂らしている小川を覗き込みながら、
「こっちに餌があるよーー。食いつけ食いつけーー。」
「なかなか食いつかないな。」
小川の水がキラキラ光って、傍には綺麗なテリアスの顔が…。
コリーヌの視線に気が付いたのか、テリアスはコリーヌを見つめた。
銀の髪が小川に当たる日の光に反射して、キラキラ光っている。
コリーヌは思わず、
「本当にテリアス様って綺麗ですね。」
「コリーヌ。コリーヌも可愛いと思うぞ。」
そう言うと、テリアスの顔が近づいて、唇にチュっとキスをされた。
ドキドキする甘酸っぱい体験。コリーヌは、この時が永遠に続けばいい。
テリアスの顔を見て、そう感じた。




