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テリアス様が訪ねて来た。

それから、しばらくは平和だった。

この間の事を忘れかけていたある日、いきなり、テリアスが訪ねてきたのだ。


驚いた父、マーシュリー伯爵は慌てて出迎える。


「これは、アシュッツベルク公爵。この間は我が娘たちをご招待頂き、有難うございました。して、今日は、どのような用件で?まさか??」


「いや、婚姻相手はまだ決まっていない。ちょっと確かめたい事があって、この間の夜会の出席者の家を回っているのだ。」


「そうなんですか?」


そんなやりとりを、こっそりと覗き見していたコリーヌは、焦っていた。


まさか…私を探している??さすがに一対一じゃ、紛れる事が出来ない。


そして、テリアスが、こちらの方へ視線を向けて、視線と視線がばっちり合ってしまった。


「伯爵。あのお嬢さんは?」


「末娘のコリーヌですが…。」


「ちょっと、話をさせて貰いたいのだが。二人きりで、テラスをお借りしても?」


「ええ、構いません…。うちの娘が何か?」


「確かめたい事があるだけで、ご心配なく。」



逃げられないっーー。コリーヌは諦めて、テラスでテリアスの相手をすることになった。


「あの…。どのようなご用件でしょうか?」


メイドが運んできてくれた、紅茶と焼き菓子を前に、コリーヌはガチガチに緊張していた。


「私の事を竜だと言って逃げたのは、君だね?コリーヌ。」


「ええ??人違いですっ。私は知りませんっ。」


「私の目をごまかせると思っているのかね?」


テリアスに睨まれる。


ひえええっ。ばれてる。観念するしかないっ。


「はい…。私です。マズイ事を言ってしまいましたか?」


「当たり前だ。竜である事を隠して、こうして人に紛れて暮らしているのだから。」


「ええええ?やっぱり竜っ?????」


唇に指を当てて、テリアスは、シィっと言い、


「静かに。私とて、好きで人間と共に暮らしているのではない。私の身の上を聞いてくれるか?」


「いえ、聞きたくありません。」


「そうか…聞きたいか。」


うわっ…この人、やっかいな人だと、コリーヌは思った。

これは聞かないと機嫌を損ねるだろう。出来れば聞きたくない。聞いたら厄介ごとにさらに巻き込まれそうな気がするから。


「私の育ての親である、アシュッツベルク前公爵夫妻は、子を亡くして悲しんでいた。

その頃、庭に一つの卵を見つけたそうだ。それが…私で、私は公爵夫妻に実の子として、育てられ現在に至るという訳だ。」


「テリアス様は捨て子だったわけですか?亡くした子の代わりって、それって偽者っ??」


「そうだ。私は偽者だ。だから、他言して貰っては困るのだ。

そして、私は君に興味がある。どうして、私が竜だと解った?それから、この間、屋敷からどうやって逃げ出せた?」


「そ、それは…。」


凄い美男な上に、竜から発せられる圧がっ…。オーラが…。


「すみませんっ。もう少し、オーラを抑えて貰えませんか?」


「そんなに感じるのか?私の力が。」


「もう、押しつぶされそうです。」


「すまない。」


スっと身体が楽になる。


テリアスは紅茶を飲んでから、


「コリーヌ・マーシュリー伯爵令嬢だったな。私は君に婚約を申し込む。」


「ひえっーーーーーーー。それは困りますっ。」


「君の持つ力。私の役に立って貰いたい。」


「あの、私に拒否権は。」


「マーシュリー伯爵家が拒否をしたら、潰れるだろうな。」


「解りました。婚約を受け入れましょう。」


公爵家に圧力をかけられたらそれこそ、ぺしゃっと潰れる我が伯爵家。

泣く泣く婚約を受け入れるしかないっ…。


「勿論、それなりの謝礼はする。とりあえずの婚約だ。君が私の望みをかなえてくれたら、

すぐに婚約を君から辞退して貰って破棄という事でいい。」


「ほっとしました。公爵夫人だなんて、私には無理ですから。」


「普通は、喜ぶべきことだろう?この私と婚姻出来るんだぞ。」


「竜と結婚なんて、死んでも嫌です。」


いくら、高位貴族で美男と言えども、正体が竜なんて怖すぎる。


「それに婚約は必要ですか?」


「もうすぐ、学園は夏休みに入るだろう?私の領地に来て欲しい。

独身の令嬢が私の領地へ来るのだ。それなりの理由が必要だろう?」


「その、望みって、テリアス様の領地へ行けば、叶えることが出来る望みですか?」


「そうだ…。私は竜であることを隠して、こうして公爵となって、生きてはいるが、

やはり、本来の姿になって空を飛んでみたい。だが、どういう風にオーラを高めて、竜になれるのか、解らないのだ。竜になったとして、元に戻れるのか?戻れなくなったら?

君なら、私の力になってくれる。そう思ったから…。」


何だか、ちょっと可哀想な気がした。


「確かに皇都だと、竜になったら大変な事になりますよね。解りました。任せて下さい。一緒に、領地へ行って、テリアス様が竜になって空を飛べるように、力を貸しましょう。」


「有難う。婚約の事と、領地行きの事、君の父上にも話をしておこう。私が竜である事は隠して。」


「よろしくお願いします。」


テリアスは、マーシュリー伯爵に、話をつけてくれた。


仮の婚約という事で、夏休みに自分の領地で力になって貰いたい事があると言う事。

それなりの謝礼はする。領地での仕事が済んだら、婚約破棄をしてもらっても構わないという事。

マーシュリー伯爵は、テリアスに。


「いや、どうせなら、うちの娘を貰って下さってもかまいませんっ。公爵様。」


「本人が嫌がっているのだ。」


コリーヌは頷いて。


「公爵夫人なんて、私には無理ですっ…。お父様。」


「ううううむ。そうか?私としては、玉の輿万歳なのだがな。」


マーシュリー伯爵は残念そうだ。


テリアスは、コリーヌに向かって。


「今日の所はこれにて失礼する。又、会いに来よう。」


「ええっ???来なくて結構です。」


何だか、偉く不機嫌な雰囲気が漂ったので、


「いえ、いつでも来て下さいね。お待ちしております。」


にこやかにコリーヌはそう答え直した。


人間に化けた竜、テリアス・アシュッツベルク公爵はその日は帰って行った。


留守にしていた、マーシュリー伯爵夫人の母と、姉達は、話を聞くと大騒ぎして。


姉のマーガレットも、スタンシアも、


「絶対に、このチャンスを物にしなさいよっ。」


「そうよ。玉の輿っ。玉の輿よっ。」


慌てて、コリーヌは、


「仮の婚約だし、公爵夫人なんて私には無理。望みをかなえたら婚約破棄するっ。」


スタンシアが、


「望みって何??パーティの時、竜がって言っていたけど。」


テリアスの秘密は内緒にしておいた。父であるマーシュリー伯爵にも伏せてある事だからだ。


「何でもないっ。知らないっ。ともかく、夏休みはテリアス様の領地で過ごすから。

あ、そうだ。お姉様たちも一緒に。数日、お屋敷で過ごす位なら許して貰えるかもしれないし。」


マーガレットもスタンシアも、口を揃えて、


「それは、まずいと思うわ。」


「私も…。行ってはいけないと思う。」


「何故っ???」


マーガレットが諭すように。


「妹の幸せを横取りする姉に見られたくないわ。私は、貴方に幸せになって欲しいから。」


スタンシアも頷いて。


「その通り。私は全力で、コリーヌが玉の輿に乗れることを応援しているわ。だから、

頑張るのよ。」


ああ、なんていい姉達なのだろう。


マーシュリー伯爵夫人も、


「そうよ。コリーヌ。あんな素敵な公爵様と共に領地で過ごせるのだから、チャンスは最大限に生かしなさい。いいわね。」


いやその…公爵様は竜…竜なんですけど…。

家族にものすごく応援されてしまった…。


何だかテリアスの領地へ行くのが憂鬱に感じるコリーヌであった。


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