7話「エブリデイ・アフタースクール」
ーー放課後、公園
ということで公園に来ました。
公園にはブランコが二つ、滑り台一つ、鉄棒が大、中、小と三つある。
後は砂場と、ベンチもある
小さな公園だ。幼稚園児とか小学生くらいが遊ぶような。
実際遊んでいるのを帰りに見かける。今は見当たらないけど。
「まずは優平は前世を思い出すこと。前世さえ思い出せば、悪霊を見ることも祓うことも思い出してできるはず……多分」
「た、多分かぁ」
自信なさげな様子が見て取れる。なんか目合わないし。
「次にあなた……名前、苗字は?」
「「あ」」
俺と静月の声が重なる。そう言えば自己紹介もしてなかった。
それだけ余裕がなかったんだな、俺も静月も。
「ごめん、鏡水 静月です」
「そ。私は雲雀野 輪音」
「俺は心重 優平」
「「それは知ってる」」
うん、そうだよね。
でも、ほら流れ的に言った方がいいかなーみたいな、ね?
「で、鏡水さんについてだけど私にも分からないわ。そもそも悪霊を見えてること自体がバグよ、あなた」
「えー、」
「バ、バグって!どういうこと!?」
鏡水が話す前に俺から反射的に言葉が出た。バグってなに?ヤバかったりするのか?
「な、なに?すごい反応ねぇ。順を追って説明するわ」
雲雀野は少し引き気味、額に汗が出てそうな顔をしてる。
「まずね、本来悪霊が見える人間はこの世界に私とあなただけなの」
そう言って雲雀野は俺の方を見る。
「俺?」
「悪霊を祓う家系が二つあるの。それが前世の私とあなたの家系」
「はぁ。だったらその家系のやつも見えるんじゃないの?」
「家系は前世の私とあなたの代で途絶えている。だから、ないわ」
家系が途絶えた。後継者がいなかった?あるいは後継者を作る前に死んだ。
二人とも?不運が重なったのかそれとも……何かあったのかなぁ。
「一体なぜあなたには悪霊が見えるのかしら?そもそも本当に見えているの?」
雲雀野は静月をじっと見つめる。怪しんでるというよりも疑問をぶつけてるみたいだ。
静月から目をそらすとあたり頭隊をぐるりと見渡す。一周見渡し終わる前に雲雀野が静止する。
一人の人物を指さして、こう聞く。
「あそこにいる悪霊が見える?」
「はい。見えるよ」
俺には全く見えない。試しに意識を集中してみたがやっぱり無理だ。
「どんな姿?」
「姿?えっと黒いモヤみたいなヤツです……小さい」
「モヤ??おかしいわ。私と見えてるものが違う……。じゃあ他に悪霊のついてる人は?」
「えっと……。あの人」
「合ってる。姿は?」
「黒いモヤ。さっきよりも小さい」
「違う。というかあなたはもしかして悪霊は全て同じ見た目に見えているの?」
「うん。サイズは違うんですけど」
「そ。あなたの目は不完全なのね」
雲雀野は考え込む。すごく考え込む。
長い……。
目閉じてるけど、もしかして寝てるのか?
「お〜い、雲雀野起きてるか?」
「分からないわ。あなたの修行方法なんて私にも分からない。帰ったら?」
「な!」
思わず声が出た。
「いや、帰らないです」
修行方法がないなら帰らないのは理論的にみて、おかしい。
最初に静月は力を得たいから、と言ったのだから。
「なぜ?何か特別な理由でも?」
「二人きりで毎日は不安だよ」
雲雀野は特別を強調する。
「仮に二人きりで過ちが起こっても、優平の意志によるものでしょ?」
「……」
「浮気が起こるなら仕方ないことじゃないの?本人の意思なんだから。それが嫌なら別れればいい」
「一緒にいる時間も欲しい、から」
「なら私にだって……」
声が小さくてよく聞こえなかった。かろうじて聞こえたのは「私」って言葉。
「ならあなたは見ていればいいわよ。私と優平がしゅ・ぎょ・う♡するところ」
「オーケー」
「なんなら目の前で浮気してやるわ」
「ダメです」
「そ」
「で、始めましょうか」
「おう!」
返事をしたものの何を始めるのかは分からない。
いや、俺の前世の記憶を戻すためのことをするのは分かってるよ?
「前世を思い出すために前世でやったことや行った場所を体験しましょう」
「分かった。……呼び方とかは?変えなくていいのか?」
前世と同じようなことをしてフラッシュバック的に思い出させる作戦だろ。
なら名前は大事な要素の筈だ。より前世に近づけるために。
「私にとってあなたは優平だし、あなたにとって私は雲雀野でしょ?だからいいのよ」
雲雀野は俺のことが好きだ。
だから前世の俺も心重 優平も完全に同一視してると思ってた。
でも違った。
雲雀野は心重 優平じゃなくて、前世の俺に名前を呼んで欲しいんだ。
俺のことは好きだけど、前世のことは別問題。
すごい特別なことだと実感した。
だからこそ、修行にのったのかもしれない。
自分の名前を呼んでもらうことを願って。