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4話 「ダジャレ、雨、コール&リコール」

「おはよう、優平」

「あ、おはよう雲雀野さん」

「そろそろさんなんて他人行事な呼び方やめてくれないかしら?り・ん・ねって呼んでほしいわ」

「まぁ、雲雀野って呼ぶことにするよ」

「連れないわね。前世ではあんなに……」

「前世では恋人でも今は違うわけだし」


「二人して朝からいちゃついてるな。心重(ここのえ)は彼女いるのにな。堂々と浮気するなんて一周回って尊敬するぞ。嘘だけど」

「愛島、話してるだけで別に浮気じゃないよ」

 愛島が隣から嫌味を飛ばしてくる。愛島は去年からの友達で口は悪いが意外と正義感が強い、ツンデレみたいなやつだ。


 多分これも釘をさしてるんだ。俺じゃなくて雲雀野さんに。

 心重には彼女がいるんだぞって。


 まぁ、完全に雲雀野さんは無視してるけど。本当に俺以外の人に興味ないんだな。

 うわ、なんか考えてると恥ずかしいな。


「私が占い好きなのは昨日話したけど、今朝の占いは見たかしら?」

「俺、朝ってあんまテレビ見ないんだよ」

「そう、ちなみに私は一位よ」

 すごいドヤ顔してくる。そんなにドヤることなのか一位って。

「俺はみずがめ座なんだけど何位だった?」

「……」

 完全に無視。ある意味すごいな雲雀野さん。

「おーい、自称彼女のメンヘラ女さーん」

 愛島(こいつ)も凄かったわ。


「さっき二人前世だなんだって話してたけど、ちなみにあれなに?」

 ぎくっ。隣にいたなら、まぁ聞かれてるかぁ。

 まずい、どう誤魔化そうか。雲雀野は……。


 微動だにしていないっっ!!

 しかも、スマホいじってる〜。


「優平は今日も絵を描くの?」

「うん、今いいのが描けそうなんだよ」

「へぇー、美術部もうすぐコンクールだっけ?」

 普通〜に愛島が会話に入ってくる。愛島の言う通りコンクールは確かに近い。


「コンクール用の絵は終わってるよ〜、後輩はまだ納得いってないらしくて細部いじってるけど」

「後輩ちゃん、意外と真剣なんだな」

「はじめの頃はブーブー言ってたけど、今はすごく楽しそうに絵描いてるな」

 思い出すと懐かしい。あと一年もすれば俺も引退してるからかぁ。

 ま、下手すれば美術部廃部だけど、二年は俺一人で後輩も一人だから。


「その後輩ってどんな子なの?」

「あー、可愛くて明るくて人当たりが良いよ。前世の彼女(笑)と違って」

「まだ煽るのかよ!」

「そう言えば、後輩の子昨日はいなかったわよね」

「またスルーするんだ!」

「スルー、する……?0点よ」

「ちがう、雲雀野そう言うつもりじゃなかったから」

 やめて、ダジャレ言うつもりなんてなかったから。滑ったみたいな空気やめて〜。


「あれだよ。ほら、昨日は美術部としてじゃなくて個人的に描いてただけ。だから後輩はいなかったんだよ。ちなみに今日も来ないよ」

「今日も来ないんだ。ちなみに下校はいつも彼女さんと?」

「いや基本俺残るから、別に帰ってるけど」

「そ、フフフフ!!」

「な、なぁ笑い方怖くないか?」

「あー、俺はもう慣れたな」

「すげーな」

「すげーよ」

「フフフフフフフフフフフフフフフフ!!!」

「てか、長くないか笑うの」

「長いよ」


 愛島はのちの休み時間でも、嫌味を雲雀野に言わなくなった。正確には関わろうとしなくなった。


『ヤベーやつだ、関わらないでおこう』って思ったんだろう。

 



 ☆




 場面は変わって、美術室。

 時刻は放課後。


 俺は絵を描いていた。昨日スケッチブックに描いた絵をキャンパスに下書きしていた。


 すると静かな教室に音が聞こえた。俺の描く音と別の音。


 雨音だ。

 やばっ、今日雨か。強くなる前に帰ろ。



「あら、今帰り?奇遇ね」

 下駄箱のところに雲雀野がいた。

「えっと、雲雀野は何して残ってたの?」

「女に秘密はつきものよ」

 まさか、まさかとは思うが俺を待ってたのか?

「傘持ってきてないでしょ?入れてあげるわ」

 まさか、まさかとは思うが相合傘をするために?


「あ」

「どうかしたの?」

「今朝、俺はニュース見てないって言った。放課後一人で帰るってことも」

「知っている?奇跡は起こるものじゃなく起こすもの。偶然に頼っていては何も変わらない、自らの力で必然にする。当然のことよ」

「かっこよく言ってるけど、単に待ち伏せしただけだよな?」

「さぁ、早く帰りましょう」

「ちなみに傘に入らないって言ったら……」


 スッ。静かに手をこっちに向けられる。

 昨日の放課後、身動きできすらできない気の力を思い出す。

「ごめんなさい。よく聞こえなかったわ。さぁ、早く帰りましょう」

「傘に入らないって言ったら」

 体が、動かない!また気だ!


「ごめんなさい。よく聞こえなかったわ。さぁ、早く帰りましょう」

「RPGのNPC思い出すな」

 はい、いいえの選択肢で結局はい選ぶまで進まないやつ。いいえ押してもループするんだよな。


「それはいい例えね。言っておくけど私執念深いの。わざわざあなたのこと特定して同じ高校に転校してくるくらいにはね」

「え、転校って偶然じゃないんだ」

 怖いよこの人。

「さっきも言ったでしょ、運命は作るものよ」


「言っておくけど、私は何度でも問答を繰り返すし何なら明日の登校時間まで粘るわよ」

 多分、いや間違いなくマジだ。この人。


 だけど、俺だってマジだ。超マジなんだ。


 相合傘くらい良いじゃないか。そんな甘えはしない。もしかしたら、静月が知れば傷つくかも知れない不安がるかも知れない。


 マジで静月のことを好きだから。大したことじゃないって思われても、そのくらいって言われても俺は拘る。


「根くらべとするかぁ〜、雲雀野。ちなみに親とか連絡しなくて大丈夫か?」

「心配ないわ。そっちは?」

「大丈夫」

 母親帰ってくるの遅いし、その時間には俺は寝てる。朝は起きるのが遅くてその頃には俺は登校してる。

 晩御飯減ってないとか朝ごはん作ってないとか不審には思うだろうけど、疲れてたと思うだけのはず。




 ☆




 キンコンカンコーン。一般生徒の下校のチャイムがなる。

 チャイムが鳴った、つまり今は六時。


 よくよく考えれば七時にはーー部活生も含めてーー全生徒が完全下校する。

 そのあとは学校の施錠、見まわりがされる。つまりタイムリミットはあと一時間だ。


 雨はもう止んでいる。



「ねぇ……あなたの彼女さんってどんな人なの?」

 急に話しかけられて面食らう。ちょっとビクってしたのは内緒にしてほしいな。

「え、あぁ、そうだな〜。無関心・無表情で適当で、でも優しかったり……」

 突然なもんだから言葉はスラスラと出てこない。きっぱり言えればかっこいいんだけど。

 恥ずかしいし……。


「あーやめやめ、恥ずかしいよ。まぁそんな感じの人、彼女は」

「そ。傘、貸してあげるわ。ちゃんと返してね」

「ちょ、あ、何言って!」

 そそくさと外靴に履き替える雲雀野を止める。

「もう雨やんでるし……えーと、な、なんで?」

「ちゃらーん、輪音クイ〜ズ。第一問」

 超棒読み。感情も抑揚も一切ない。Siriよりもない。

「物を貸すとどうなるか分かるかしら」

「貸すと、返す?」

「そう、返すの。つまり話すきっかけになる。一々全部説明させないで欲しいわ。察しなさい」

「えー、まぁうん」

 察しろってキツイよそれはぁ〜。

「別に傘なんて貸さなくても話くらい」

「念には念を、よ。それと『(かさ)』なんて『()さ』なくても?ダジャレのつもり?0点ね」

「ダジャレじゃない、たまたまだって。ていうか過剰反応するし、雲雀野もしかしてダジャレ好きなのか?」

「好きよ」

「あぁ〜、そう、なんだ」

 好きなのかよ!?えーうっそ意外。しかも超真面目な顔で言うことなのか?


「じゃあ、もう遅いからバイバイ」

「あぁ、バイバイ」



 雨がやんだら、空は晴れる。

 人々は束の間の空を謳歌する。

 また、雨は降るのだと知りながら。



 ☆



 プルルルルプルルルル

 帰り道を歩いていると携帯電話が鳴る。


 静月?

 画面を見ると俺の彼女、鏡水 静月からの電話だ。


 ほぼ毎日夜には電話してる。けど、今はまだ夜前だ。


 声が聞きたかったのぉ〜ハート、みたいな理由では静月は電話をかけてこない。


 何か急用だ。

 悪い予感がする。できれば出たくないとすら思う。


 そう言うわけにはいかないけど……。



「もしもし、静月どうした?」

「優平くん、転校生には近づかないで欲しい」

「はぁ?何言ってんだよ。嫉妬、じゃないよな?」

「違う。彼女には悪いのがついてる。今まで見たことないくらい禍々しくて真っ黒なのが」

「えーっと……」


 皮膚に何か当たる。冷たい何か。

 今更になって、雨がまた降り出した。


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