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第3話 セイサイ時間

「よ!静月(しずき)

「うん」

 鏡水 静月(かがみず しずき)ーー俺の彼女ーーは無表情に頷く。

 静月を一言で表すなら、名前の通り「静か」になる。

 大人しくて、無表情、無関心、非主張。ほとんどの人が抱くイメージはそんなところ。


「今日、転校生来たの?」

「そうそう!知ってたんだ。珍しいな」

 クラスのこととか学校のこととか普段は疎いからな。本人の性格と友達が少ないしってのも相まって。

「クラスで男子が大きい声で話してた。可愛いって」

「お、おう。でも、俺は静月の方が可愛いと思うし好きだから」

 実際ひいき目抜きにしても優劣つれられないくらいには静月は可愛い。

 ほとんど喋らないのに男子に告白されることもあったしな。


「そう。私もいつも思うよ。やっぱりこの人が好きだって」

 か、かわいい。静月が微笑んだ。

 満面の笑みじゃなくて、口元が少しゆるむような笑顔。だからこそ、こうなんとも言えない可愛さがある。


「それはそれとして、優平くん悪いのついてるよ」

「え、まじ?」

「マジです」

 悪いのつまりは不幸に襲われるということだ。


 静月は特殊な目をしていてる。彼女の目には黒いモヤモヤしたものが見えるらしい。


 その黒いモヤは人の悪感情から生まれる。

 生まれたモヤは合体したり、人に付いたりするらしい。

 人に付いたモヤが所謂(いわゆる)、悪いのだ。この悪いのがつくと人は不幸や不安に襲われる。


「あ!」


 ーー「信じるかわらかないけど優平には悪いものが付いているわ。気をつけて」


 やっぱりそうだ。雲雀野さんにも見えていた。だとしたら、その目の力で俺が前世の彼氏だとも見抜いたのか?


「どうしたの?」

「あぁー、いや転校生の話なんだけどさ」

 まだ雲雀野さんが虚言癖とかの可能性もある。たまたまそれが当たっただけかもしれない。

 だけど先に話しておくに越したことはないよな。


「転校生、雲雀野さんって言うんだけど。あ、漢字はこんなの」

 俺はポケットからアイフォンを取り出し、文字を打って見せた。

「わかった。それでどうしたの?」

「えっと、俺の前世の彼女らしいんだ」

「?前世の彼女……」

 こんな突拍子もない話を聞けば当然そうなよなぁ〜。困ったような唖然としたような顔をするのが普通。


「ねぇ、それって騙されてるんじゃない?詐欺とか。いきなり転校生の美人が前世の彼女って言ってくるなんて変だよ」

「だよな〜。でもさ雲雀野さんが俺に悪いものがついてるって言ったんだよ」

「悪いもの……?まさか私と同じ」

 静月の視線が斜め下を向く。眉毛がほんの少し歪んでる。

 静月は不運や不幸、悪感情が見える。だから苦しみ・悩んできた。


 自分と同じ境遇となると思うところもある。もっと言葉を選んだ方が良かったかもしれない。


 俺はいつもそうだ。気づくのが遅い。鈍感でバカで恥ずかしい。


「今日放課後会う約束してて、そこで特殊な力ってのを見せてくれるらしい」

「特殊な力を見せる?私の目は自分が見えるだけで他人への干渉は出来ない。特殊な力なんて見せれないよ」

「うん。目と他に力があるのかな?うーん、分かんねーな。とにかく放課後だなぁ〜」

「だね。放課後、場所は?」

「美術室。あ、もし浮気とか心配なら静月も来るか?」

 ブンブンと静月は首を横に振る。


「そういえば絵の調子はどう?」

「んー、転校生来てインスピレーション?みたいなのは湧いてきたかも」

「完成したら見たい」

 静月が目をキラリとさせながらふんすと迫ってくる。

「そうだな。完成したら一番に見せるよ」


 その後も俺たちの話は続いた。毎日話しても意外と話は続くもんだ。



 ーーキンコンカンコーン


 予鈴がなる。あと五分で授業が始まる合図だ。

「じゃあ、そろそろいくか」

「先に片付けて来ていい?」

「おう」

 静月は学食を片付けに行く。俺たちは二人とも移動授業じゃないので急がなくても間に合う。


 六階から階段を降りて四階に行く。ここが俺たちのクラスのある階層だ。


「じゃあ、また夜に」

 手を振りながら言うと、静月も無表情に「うん」と言って手を挙げた。




 ☆




 ーー放課後


 美術室。


 ガラガラガラ。

 開くことの少ない扉が開く。


 扉が開くときは必ず元気な後輩の声が聞こえてくるけど……。


「おまたせしたわね」

 代わりに聞こえてくる声はツンケンとしたような声。まだ聞き慣れない声。

「いや全然」

「にしても、わざわざ別々にくる必要あったの?」

「ほら勘違いされても嫌だし」

「私は一向に構わないけど。私はあなたの彼女だもの」

「前世のね」

「っ!……そう。フフフフフフフフフフフフフフフフフフ!!少しは信じてくれたのね」

 笑い方相変わらず怖え〜。しかも切り替え早っ!


「じゃ、今から優平についてる悪いやつを取るわ」

「取れるの!?」

「あなたについてる悪いやつ、それは正式には悪霊と呼ばれているわ。一応祓うことは私なら可能よ」

 私ならってことは他の人には出来ないのか。だけど悪霊って正式な名称が決まってるなら組織とかありそうな感じもするけど。

「ただ、払うための条件が一つだけあるの」

「条件……」

 教室で払わなかったのは条件を満たしてなかってことか。


「条件は周りに自分と悪霊に憑かれている対象しかいない状況になること」

 今はまさにその状況。そう言えば初めて雲雀野さんにも会った時も二人だけだった。

 あの時も俺に付いていた悪霊を払ってくれたんだな。

「あとは気を悪霊に浴びせる。弱い悪霊ならこれで死ぬわ。死んだわ」

「はや!よわ!」

 そんなお手軽感覚でやっつけれるんだな、悪霊ってのは。


「あ、ありがとう。でも特殊な力ってこれのこと……?」

 悪霊なんて俺には見えないし、力と言われても今一つ実感がわかない。

 静月に悪霊が消えたことを確認して貰えば証明にはなる。けど、雲雀野さんは静月のことを知らない。

 なら、他に俺にも分かるような力ってのがあるのかな?


「今のじゃ実感が湧かなかったでしょう。さっき言った『気』の違った使い方をみせるわ。わかりやすくあなたに向けてね」

 スッ。かざされた手のひらから妙に(プレッシャー)を感じる。

 手に少し汗をかく。汗っかきだからビビらせるのはやめてほしい。

「ふん」

「ん!」

 からだが、うごかない。こえもでない。いきはできる。


「ふ」

「おお!動くようになった。これが気の力ってやつかぁ〜」

 目には見えないけど強大な力を確かに感じた。存在してると確信できた。

「そうよ。他にも物体を動かしたり身体能力を高めたり色々できるわ」

「はぇ〜、便利だなぁ」

 コタツから出ずにものとったりとか出来るし、なんかズルイこともできそう。

「あなたも使えるはずだけど」

「俺が?なんで?」

「前世で使えていたからよ」

 前世……。力は本物だ。なら、雲雀野さんの話も本当なんだと思う。嘘をつく理由もないし


 前世の話は聞いていいのかよく分からない。言葉が詰まって何も出なくなる。

 会話が途切れてしまう。


 というかやる事とかは終わったわけで普通なら「じゃあ」で終わる。

 でも俺から言うのもなんだか悪い。何か世間話でもするか。


「絵、描くの?」

 あっちから話しかけてきた。

「そうだけど」

 返事がなんかぎこちなくなってしまう。だって前世の彼女が相手って元カノよりも気まずいじゃん。

 彼女の話を信じてしまったから、意識してしまったから、半信半疑の頃よりも言葉が重い。

「今からも?」

「うん、描くの好きなんだよ俺」

「……そ、じゃあ私は先に帰るわ」

「バイバイ、また明日」

 くるりと背を向けた雲雀野さんに手を振る。

「ええ、また明日」

 また明日と言った後に雲雀野さんは何かに気づいたように足を止めた。


「フフフフフフフフフフフフフフフフフフ!」

「どした?」

 もう、この笑い方にも慣れてきて普通に返せるようになった。俺って割と適応力ある?

「明日も会えるのね。夢や妄想じゃなくて。また明日もまた明後日も」

 本当に楽しそうに笑う背中に胸が痛む。


 雲雀野さんは俺のことが好きだと分からされるから。

 なのに、俺は雲雀野さんのことを何も覚えていないから。



 雲雀野さんが去った後の教室で俺は考えていた。前世のことを思い出せないかと試行錯誤したりとか、雲雀野さんと明日からどう話そうかとか。


 時計の針が半回転した辺りで、考えても仕方ないと当たり前といえば当たり前の結論にいきつく。

 結論は簡単でも納得できるかは気持ちの問題で難しい。気持ちに整理をつけなきゃ絵にも悪影響するから、しっかり納得しないといけなかった。


 とはいえ、三十分もは勿体ない気もする。


 まぁいいや、絵を描くかぁ〜。


 俺は鉛筆とスケッチブックを出す。まずは絵の構図を練るところからだ。


 イメージは自然と浮かんでくる。いや正確には雲雀野さんを今朝見た時から思い浮かび続けている。


 筆が乗っている。今までと比べても異常なほどに。浮かんでくるイメージは実際に見てるかのように鮮明だ。


 いくつものアイディアを書いた。どれもいい出来だけど、それを混ぜたりして、再検討していく。


 これだ。と思った。


 凄くいいものが書けた。満足感、達成感、そしてこの絵の完成に対する期待感。

 俺はニヤつく頰を抑えることができなかった。誰かに見られていたらキモがられてたな。


 窓の外を見ると気づけば、日は暮れていた。集中しすぎたな。


「もう下校の時間じゃん」


 もう少し書いていたい。家でも書けるけど部屋が狭いからせいぜい小さい絵しか描けないし。

 キャンパスに描かけるのは美術室だけだし。


 でも、仕方ないよな。明日はもっといいのが思いつくかもしれないし。


「帰るか」


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