第2話 重い思いの想い
「私は、雲雀野 輪音。優平の恋人です!」
えぇ〜。うっそだろぉ〜。マジで言ってんのか転校生。
「優平やるなぁ!」「お前マジでクズじゃんw」「えー、心重くんってそんなタイプなんだぁ。意外と」「優平さいってー」
攻められてる。クラスの全員がこっちを向いてる。視線が鋭すぎる。
「違う!初め、2回目だし会ったの!」
パンパン。
「はぁーい。皆さん静かにしてくださいねぇ」
担任がメガネを中指と親指でクイッとあげながら言った。教室の喧騒は嘘のように収まってみせた。流石だぜ。
「じゃあ、と、りあえず。雲雀野さんは空いてる席、窓際の一番後ろに座ってください。あっこねあれ」
「はい」
タン。と教壇から降りて一歩ずつ席へと近づく。つまりは俺とも近づく。
妙な緊張が教室には走っている。ボソボソーーよりは少し大きくらいだろうかーーとした会話が耳に入ってくる。
でも、耳には入るけど頭には入らない。俺もなんだか緊張してる。
なんで緊張してるんだろ俺……。もう訳がわからん。
ヒバリノさんが席に着く。紺色の髪がふわっとしてなんかいい匂いがした。
香水とかは苦手だけど、なんか嫌な感じはしない匂いだ。
「それじゃあ、HRは終わるんで一限目の準備してくださぁい」
先生がそう言って教室を出ていくや否やみんな立ち上がる。ガタガタガタと。
みんなは当然こっちに来る。
「優平ついてきて」
「え?ちょっ」
有無も言わさず、ヒバリノさんはコツコツと歩き出す。
付近に集まってきた生徒たちはガン無視。
教室を出てそのまま何処かへ向かうヒバリノさん。それについていく俺。
「えっとぉー、ヒバリノさん。さっきの俺の彼女ってなに?」
教室を出て周りに人があんまりいないタイミングを狙って聞く。
「事実だけど。まぎれもない正真正銘のーー」
「ーーいや、俺彼女いるしそういうのは……」
あ、言葉遮っちゃった。でもあんな嘘つかれても困るしなぁ。
ピタッと、足が止まる。無言のままヒバリノさんは俯いててるみたいだ。
「……」
俺が前に回り込んで顔をのぞいてみる。
「あ、あなたは前世を信じているって前にいったわよね」
「あ!前のこと覚えてたんだ!俺信じてるとはいってないと思うよ。あったら面白いかなって」
「私にとっては同じよ。そんなの」
「同じ?」
「私は、あなたの彼女」
「だからそれは」
「最後まで聞いて、私はあなたの彼女なの」
最後まで、ってどういう意味?あれで終わりだろ言い分は。
「前世のね」
……ぜんせ?ぜんせ、前世。
「前世の彼女……?アハハハそっかぁー。前世の彼女か」
「やっと分かってくれたみたいね。記憶はないみたいだけど」
「ってならねぇよ!前世って。はぁ、仮にそうだとしても前世なんて記憶ないなら別人なんじゃ……」
「そんなこと知らないわ。でも、初めて四月にあなたと当たった時のあなたの笑い方同じだったし」
笑い方が同じ?そもそもこの人はどうやって前世なんて判断した?
「……なぁ、その前世が仮にあるとする。でなんかこう証拠?みたいなのとかってある?」
不思議なことは経験済みだし、そうじゃなくても頭ごなしの否定はよくない。
相手はいつだって本気なんだ。話くらいは聞くべきだ。
「証拠……前世とは関係ないけど私には特殊な力がある。見て貰えば少しは信じてもらえるかも」
「ふーん。じゃあ、今日の放課後に美術室に来てくれるか?」
美術部は3年が引退して現状俺と後輩が一人しかいない。後輩は部室に毎日顔を出すわけじゃない。正確に言えば部活動は週三日のところを俺がほぼ毎日部室を使ってるだけなんだけど。
今日は部活のない日で、つまりは後輩は来ない。だから、誰にも見られない。最適な場所だ。
「いいわ。私はあなたと一緒に居られるだけで幸せだから。断る理由なんてないわ」
「あぁ、えっとぉー場所とかわかる?」
転校した初日だし場所分からないよな?
「心配無用よ。転校前に見学に来てるわ」
「ならよかった。んじゃあ、教室戻るかぁ〜」
本当に大丈夫か?とも思ったけど……。なんかこの人なら大丈夫だろうって気もする。
そういえば。
「あのさ、ヒバリノさんって変わった名前だよな。漢字どう書くの?」
ヒバリノって見たことない、珍しいよなぁ。
俺の【心を重ねる】で【ここのえ】の方も変わってるけど。
「雲に雀に野原の野で雲雀野よ。下の名前は輪っかに音で輪音よ」
えーっと雲雀野 輪音か。
「俺は心重 優平心を重ねるで、心重。優しいに平で優平だよ」
「そ。教室着いたわよ」
反応薄っ。なんかどうでも良さそう。
「お、本当だ」
教室入ったら絶っっ対質問ぜめされる。俺は何もしてないのにめんどくせぇ。
ダダダダダダダ!!
「優平話を聞かせてもらおうか」「優平ろんとに二股してるの?」「優平二人でナニをしてたんだぁ?w」
案の定これかぁ。
「あぁー!俺と雲雀野さんは付き合ってないから!ほかに詳しく聞きたいなら本人から聞いてくれ」
ん。と俺が促すように視線を雲雀野さんへ向ける。釣られて皆んなの視線も雲雀野さんの方に向く。
「私はあなたたちに興味がないわ。話すことなんてない」
な、なにをぉ、ぉ……。
空気完全に凍った。き、気まずい。
「あ、次の授業の準備しないと。教科書出してないや」
俺は教室の後ろにあるロッカーへ向かう。別に逃げたんじゃない。とだけ言っておく。
あんなことを言った雲雀野さん、それでも見た目の可愛さにつられて休み時間には何人かの男子が話しかけにきた。
当然のように全部無視するとか。逆に俺に対してはかなり話しかけてくる。
雲雀野さんは占いが好きらしく、一通りの相性占いをした。
周りからの目は痛かったけど、ニコニコと話しかけてくる相手を無下にもできない。
ーーそんなこんなで四時間目が終わった。
昼食はいつも彼女と食べている。場所は六階にある食堂だ。
彼女は学食を食べることが多いことやら、教室だと照れ臭いことやらが理由で、食堂で食べている。
教室を使わない理由にはそもそもクラスも違うしってのもあるけど。
俺が席を立つと、左隣から声をかけられる。
「優平」
「ん?」
左を振り返る。雲雀野さん、なんだ?
「信じるかわらかないけど優平には悪いものが付いているわ。気をつけて」
「悪いもの……?」
「放課後に話すわ。詳しくはその方が信じてもらえるでしょうし」
「お、おぅー」
放課後に話すなら今そんな意味深なこと言わなくてもいいんじゃ。ちょっとビビったじゃん。
「大したものじゃないけど、一応心配なの。好きだから」
俺は立っていて、雲雀野さんは席についている。
当然上目づかいになるわけで。照れる。いつもの癖でうなじのあたりを触る。
六階の食堂へ向かう間俺は、雲雀野さんののことが頭から離れなかった。
悪いものが見える。
彼女の言葉が本当なら、俺はその力をよく知っているのだから、