第1話 ありきたりな非日常(テンプレートなプロローグ)
ーー四月
「うああああああ!!」
なんだこれ、なんだこれ!? その辺の石やら木の棒やらが宙に浮いて俺に襲いかかってくる。
あぁーくそ、静月の言う通りしばらく家に籠っておけば。
命に関わるレベルじゃないけど、痛っ、痛っ。
普通に痛い。
あ、女の子が横から。
「危ない!」
すぅ。女の子が右手をかざす。
ストトトト。
宙を舞って、俺を突いていたて木もぶつかってきていた石も全てが地面に落ちた。
「えっと、あー、ありがとう。よく分からないけど助けてくれたんだよな?」
紺色の髪は乱れなく腰まで伸びていて、目は信じられないくらい綺麗。鼻と口は可愛らしく、肌は白く。
すっげぇー美人だ。
「ねぇ、あなたは前世って信じてる?」
「えっ、ぜ、前世? あぁー……」
うーん。前世、前世か。突拍子もない質問なんだけど、なんか重い感じがする。こう圧を感じんだよな。
この選択で世界が変わるのかってくらい。前世なんて今まで真剣に考えたことなかったなぁー。でも。
「考えたことないけど、それって信じてないって言うのかな。でも、あったら面白いよな」
「そう、なんだ。フフフフフフフフ! 」
なんかすげぇー笑ってな。
「フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ!!」
本当に長いな!!
「フフ、フッフフ。じゃあ、またね」
「え、あぁ〜うん」
またね? なんか怖いんだけど。
よくわかんない体験をしたなぁ。こんな不思議なことは人生で二度目。
怪奇現象。謎の少女。
「お、おおお!」
なんか絵を描くイメージ湧いてきた。
いいの描けるぞ。これは!
はやく帰らないと。いや道具かって今すぐ描いた方がいいな。
☆
ーー十一月
サッ、サッ、サッ。
「こう、いやバランスが悪いか? うーん」
何かが違う。自分の書いた絵の下書きを見て、違和感が拭えない。
ピタリと張り付いた気持ちの悪さは喉から全身にかゆみを送っていく。
最近スランプ気味だ。スランプというより単に実力がないだけかもだけど。
四月にはいい絵が描けていたのに。
理由はわかっている、たぶん。四月には面白いことがあった。
奇妙な現象と変な女の子、まるで物語みたいな出来事だった。
高一の頃は彼女と色々あって、それが想像と創造の刺激になっていた。
毎日は楽しいし、幸せだけど、絵を描くには足りない。
「はぁ」
「うぃー、心重。ため息なんてついてどうした? 悩んでますよアピールか? 態度で遠回しに言うなんてめんどくさいタイプの典型だぞ死ね」
「お前いつも毒舌すぎだろ、愛島」
愛島 求、去年つまりは高一からの付き合いになる友人。深緑色の髪とどこか不思議な雰囲気のイケメンだ。
毒舌キャラとして学校では知られているが、実際はキャラじゃなく単に捻くれている。
「ん、てかお前の隣の席」
愛島が俺の左隣の席ーー窓側の最後尾ーーを指差す。
「そう、机と椅子増えてんだよな」
「だよな。ってことは転校生か」
「え?転校生」
転校生くるの?なにそれ聞いてない。
「担任昨日も結構前にも言ってたぞ。心重は絵を描いていて聞いてなかったかもしれないけどな。ホント中学生男子の妄想並みにいつでも絵を描いてるよなお前」
「なにその分かりにくいたとえ」
ーーーガラガラガラ。
「「あ」」
扉が開いて担任が入ってくる。その後ろには見慣れない一つの影が追随する。
「はーい、皆さん席に座って静かにしてくださぁーい」
転校生だ。
深海あるいは宇宙を思わせる紺色の髪。世界の綺麗な景色全部を色にして混ぜたような瞳ーー
ーーあ。
「マジか〜」
「心重? どうした?」
「いや、あれほら四月の頃に話したろ。謎の少女」
「んあ? あー。あ! そういえばあったな! そんなの」
怪奇現象から救ってくれた謎の少女。いや、なぞの美少女。
約半年ぶりの再会ということになる。再会といっても向こうは覚えてるかわからないけど。
「はい、心重くんも愛島くんも静かにねぇ」
「あ、すいません」
「優平は彼女いるのにテンション上がりすぎじゃね?」
「べ、べつにそんなんじゃねーよ! 静月にちくんなよ!? 違うけど」
ハハハハハとクラスで笑い声が上がる。なにわろてんねん。そもそも大きい声出したの愛島だし。
ちなみに優平は俺の下の名前だ。
俺はどちらかというと名前で呼ばれることの方が多い。愛島は苗字で呼んでくるけど。
「フフフ、それじゃあ雲雀野さん、自己紹介の方をお願いします」
「……」
みんなの視線が転校生に集まる。緊張してる? こんな人前で発表だしそれもそうか、
俺だったら嫌だなこんなの。自己紹介とか何言えばいいかわかんないし。
せめて、真剣に聞こうと緊張してそうな転校生の顔をじっと見つめる。頑張れ〜というゆるい気持ちをこめて。
すると、目があった。というか睨まれた。
てか、睨まれてる。ずっとこっちに鋭い視線送ってくる。なんで?
ちょー怖いんだけど。ちょー怖いんだけど転校生。
「えっと、雲雀野さん」
ずっと喋んないもんだから先生が声をかける。まだ俺を睨んでる。
先生も転校生ーーヒバリノさんっていうのか?ーーの視線につられて俺を見る。なら当然クラスの目も俺に向くわけで。
「えっ、と俺?」
なになにこの空気? 俺が悪いのか? いや違うよな。
すぅーっとヒバリノさんが息を吸う。何かを言おうとしてるのか。
「私は、雲雀野 輪音。優平の恋人です!」
クラスの空気が凍りついた。