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津見と伐  作者: 斎木伯彦
八牙、交易路を求めて紗那に至る
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津見と伐

  四月一〇日


 紗那(しゃな)へ向けて、柴津(しばつ)の港から船が出港して行く。数日前に到着した紗那の豪商山科との交渉もまとまり、今後は安定した交易を期待できる。

智顕(ともあき)、これで我が国も安泰か?」

「陛下、この交易がもたらす利益は、間違いなく、我が国を潤します」

「そうか」

 出港して行った船を見送りながら瑞穂(みずほ)は頷く。海の向こう、そこには彼女の想い人も今や遅しと目の前の船団を待っているはずだ。

「何事もなく、到達してくれ」

 瑞穂の視線は水平線の彼方へ消え行く船を追い掛け続けていた。

「陛下、交易を円滑に行う為に、水軍の増強をお許し下さい」

「水軍の増強か……」

 瑞穂は彼の進言を口の中で繰り返した。帝国には水軍と胸を張れる代物はない。水軍のような部隊は存在するが、それでも精強な部隊とは程遠かった。

「交易船を目当てに海寇も横行するか。良かろう、智顕に任せる」

「有り難きお言葉。なれども、水軍の増強は他の者に行わせます」

「何?」

「この柴津に、呉内(くれない)仁成(ひとなり)と申します、水軍の扱いに長けた人物がおります。かの者を説得して、事に当たらせたいかと」

 智顕はどこから情報を入手して来るのか、そういった人材の消息に詳しかった。

「智顕に任せると言った。好きにすれば良い」

「ははっ」

 瑞穂は最初から物事には拘らない方だ。任せると言った以上は、余程の事が無い限りは口出ししない。水平線の向こうへ消えた船団を見送って、彼女たちは政庁へと(きびす)を返した。

「ところで、紗那から来た漁師たちはどうしている?」

白水(しらみず)殿は早速、付近の海域の潮の流れを見に行きましたよ」

隼人(はやと)が遣わした者たちだ、粗雑に扱わぬようにな」

「畏まりました」

 智顕は言われるまでもなく、彼らには既に最大限の便宜を図っていた。柴津に所属する漁師たちに彼らの紹介を済ませ、技術の相互交流を命じている。造船技術や、操業技術など学び合う点はいくつもあるだろう。

内海(うちうみ)の安全を確保せねばならぬな……」

 瑞穂の頭の中で、漁師たちによる簡単な偵察行動が可能かどうか、繰り返し試行錯誤されていた。


  四月二八日


 柴津の港に数隻の船が入って来た。その様子を眺めながら、瑞穂は苛立ちを隠せない。

「ええい、もっと早く来れぬのか!」

「陛下、ご自重を」

 彼女の脇に控える智顕の言葉も虚しい。

「船とは、あれ程までに遅いのか?」

「いえ、船に比べて海が大き過ぎるだけかと思います。それに今少しで柴津王殿下にも会えますよ」

「別にあやつが心配な訳ではない!」

 瑞穂は膨れたまま桟橋へと向かった。今日は紗那との交易で帰って来た船を初めて出迎える日だ。智顕はこの交易を成功に導く為に、大々的な式典を催そうと考えていた。その考えは既に隼人にも伝えられており、今頃は船の上で最後の確認をしているだろう。

「さて、如何なりますかな?」

 妻に押されて、智顕はゆったりと桟橋へ向かった。桟橋には既に船が接舷している。交易船とは言え、その作りは漁船に毛の生えた程度だ。甲板から隼人と真依が桟橋へ飛び降りて来た。隼人は威儀を正すと瑞穂の前に(ひざまづ)く。それに倣って真依も彼の後ろへ跪いた。

「紗那より戻って参りました」

「うむ、詳しい報告は政庁に戻ってから聞く」

 彼らの後ろでは船から積み荷が次々と降ろされ、荷車へと載せられて行く。積み荷は柴津にはほとんど馴染みのない物品ばかりだ。その積み荷を従えて瑞穂たちは柴津の街中へと繰り出した。これから始まる交易とは、どのようなものなのか市民たちに知って貰う為だ。物珍しさも手伝って沿道には多くの市民たちが押し寄せていた。

「柴津の民よ、これよりはこれらの品々が我々の手に入ることと相成った。いづれも珍しい大陸の品々、我らの国は豊かになるぞ!」

 瑞穂の言葉に触発されて、沿道に集まっていた民衆は歓迎の叫びをあげた。そしてそのまま柴津の街はお祭り騒ぎへと突入して行く。

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