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津見と伐  作者: 斎木伯彦
八牙、交易路を求めて紗那に至る
2/17

津見と伐

  三月二四日


 智顕(ともあき)の案に従って、隼人(はやと)紗那(しゃな)の街に来ていた。

「ここも久しぶりだな」

 四年前、旅の目的地として辿り着いたこの街で、彼は瑞穂(みずほ)に出会った。その当時と変わらぬ活況を街は保っている。昼下がりの街中は、通りを行き交う人々と、道路脇に軒を連ねる商店で買い物をする人々で混雑していた。

「思えば、ここが全ての出発点か」

「そうね」

 彼の横を歩いていた金髪の女性が相槌を打った。真依ともこの街で出会っている。

「あの宿、今でもやってるかな?」

「さあな。それよりも、任務が先だ」

「はい、殿下」

「……その呼び方はやめろ、今は前のままでいい」

 隼人は殿下と呼ばれるのに抵抗感があった。それは日が浅いと言う問題ではなく、彼女からはそういう畏まった呼ばれ方をされたくないだけの問題である。その辺りに彼の彼女に対する想いが滲み出ているのだが、真依はその想いには全く気付かないふりをしている。

「柴津王殿下は、まだ呼ばれ慣れない?」

「だから、誰に聞かれているのか分からないんだ、その呼び方はやめろ」

「は~い」

 真依はおかしそうに笑いながら返事をする。人選を誤ったのではないかと、隼人は溜め息をつきそうになった。けれども彼に同行しようと最後まで頑強に主張したのは、例によって例の如く、愛姫だった。彼女を同行させまいと反対したのは他ならぬ瑞穂で、その瑞穂の命令で真依が同行役に定められている。それは彼女ならば隼人の同行をしても良いと瑞穂が認めた証でもあった。

「本当なら、瑞穂が来たかっただろうに……」

 帝王という立場上、軽々しく外遊もできない。ましてや帝国の周辺には領土を狙う者たちが虎視眈々と構えている情勢では、隼人ですらも外遊できなかったはずだ。

「それだけ、智顕は交易に力を入れたいのか」

 自らに課せられた使命を思い返し、隼人は気を引き締めた。しかし、それを緩めるのが今回の同行者である。

「は・や・と」

「ぐえ……」

 いきなり背後から首筋に抱きつかれて、彼は情けない声を出した。

「緊張し過ぎだよ、もうちょっと楽になったら?」

「……、真依は楽になり過ぎだ」

「ひっど~い」

 隼人は彼女の抗議に耳を貸さない。それでも心の中では彼女に感謝していた。そのじゃれ合う二人を見つめる影が一つ。

「隼人様……」

 誰あろう、鳶尾(いちはつ)だった。彼女は瑞穂の密命を受けて二人の監視役をしている。智顕には二人の生命を危険から守るという理由にされていた。

「瑞穂様より承りし使命、必ずや果たします」

 悲壮感溢れる決意は、彼女の想いの強さを表していた。想いの強さの分だけ普通ならば周囲への注意力は希薄になりがちだが、彼女の場合はその辺りの配分を能く心得ている。目の届く範囲に二人を収めつつ、その二人に近づく怪しい者がいないかどうかも同時に確認する。そのように守られているとは思わない二人は、呑気に雑談を交わしながら通りを歩いて行く。

「あ~! ほら、隼人、あの宿!」

 突然、大声を出した彼女が指差す方向には、一軒の宿屋が佇んでいた。それを隼人が確認する暇もあればこそ、真依は彼の腕を引っ張っている。

「こ、こら、真依!」

 周囲の視線を気にしながらも彼は抵抗しようと試みる。けれどもそれは無駄な努力と言わなければなるまい。彼女に引っ張られるまま二人は宿屋に入っていたからだ。

「懐かしい、あの頃と何も変わってないみたい」

「どうやら、そのようだな」

 隼人もその宿が、彼女と出会った場所だと思い出して相槌を打った。席に着くと、あの頃と変わらない店主が無愛想に出迎えてくれる。

「っらっしゃい、ご注文は?」

「お酒と、オススメのつまみを」

「昼間っから……」

 隼人は彼女の注文を変えさせようと考えたが、軽く頭を振ってその考えを振り落とし、彼女と同じ注文を繰り返した。

「珍しい、隼人が昼間から飲むなんて」

「情報は身近な場所から集めるに限る。時には羽目を外す事も重要だろう」

 彼は理由をそう述べたが、実際のところは真依と共に過ごす気苦労を軽減したいだけだった。数時間後。

「ちょっと、隼人!」

 充分に酔い潰れた彼を起こそうとするが、それは無駄な努力と言わなければなるまい。

「空いてる部屋はあるかしら?」

「上がって一番奥の右の部屋だ、好きに使いな」

 店主が鍵を渡してくれる。それを受け取って真依は、隼人に肩を貸しながら階段を登った。廊下の突き当たり、右側の部屋の扉とその鍵は合った。施錠を解いて、部屋の中に彼を引っ張り込む。寝台の上に放り投げられた彼は、そのまま眠ってしまったようだった。

「……ったく、あたしの苦労も知らずに、幸せそうな寝顔で……」

 彼の幸せそうな寝顔を眺めている内に、彼女は一つの仕返しを思いついた。

「うふふ、覚悟なさいよ」

 嬉しそうに微笑みながら、彼女は身に着けていた衣類を全て脱ぎ捨てる。ついでに彼の服も全部剥ぎ取った。

「目覚めの驚き、第二弾!」

 指を二本立てて彼女はニヤリと笑う。それから彼と同じ寝台に潜り込んだ。彼女の為に断っておくが、元々この部屋にはこの寝台一つしかなかったからだ。

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