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魔王になっても  作者: 暴虐の納豆菌
第1部序章 入学まで
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第5話 とある少女の13年

毎日投稿と決めた訳ではないけど、前回更新できなかったので今回の実質2話分の2000文字で許してつかーさい。



『いってらっしゃい!パパ!』



____それが、パパと最後に交わした言葉だったのです。



唐突な話ですまないのです。でも聞いていってほしいのです。

私の今までの軌跡を。



私が産まれたのは、実は世界的に有名な夫婦の間でした。勇者と聖女なんて呼ばれてたそうです。生活自体は質素でしたけどね。


それなりに幸せな生活。

それなりに幸せな家庭。

それなりに幸せな環境。


____その日も、それなりに幸せなある日だったのです。


世間では勇者と呼ばれていた父。

世間では聖女と呼ばれていた母。

家を出て、次代の英雄として期待されている兄もいる。


これだけなら、私はどれだけ才能に恵まれていたのかと、誰もが想像するでしょう。

ですが、残念ながら私に才能はありませんでした。全て兄に持ってかれたとも言えますです。

それくらい兄弟で差があったのですよ。


勇者な父は中央の何かと持て囃される環境に辟易して、平穏な生活を求めて田舎に隠居したらしい。珍しい、というか羨ましい悩みですが、私としては兄に比べられる環境が嫌だったので、何も知らない人達のいる田舎に引っ越すのは賛成だったのです。


母と兄を連れて、誰も私たちを知っている人のいない田舎で小さな家を借りて暮らしていたのですが、それでも父の実力は隠しきれるものではなく………村人からの願いによって父はしょっちゅう家を空けていました。内容は様々なのです。単純な害獣退治もあったし、辺境にたまに出没する凶悪魔獣と戦ったという話も聞いてます。


兄は両親のネームバリューにある意味耐えきれなかったのか、「俺も英雄になるんだ!」と言って家を出て行ったそうです。その時の私の年齢は8歳だったので、兄が居なくなって、しょっちゅう泣いていたそうです。


そんな平穏とは程遠い家出騒動もあったりしましたが、兄の英雄とは名ばかりの慈善稼業は順調だったのですよ。神より齎され、世界で一つしか持てないスキル【勇者】を持つ父も、自分が死んだら【勇者】を受け継ぐのは兄だ、と言っていたくらいですから。

たまに届く兄からの手紙に一喜一憂していた時期もあったですね。


そんな日に、村人から父にいつもの〝お願い〟が舞い込んできたのです。



まぁ、その日もいつもと変わらない唯の魔獣退治だと、私は思っていたのですが。



村の人は父が勇者だと言われなくても薄々感じていたのか。だから、何かにつけて頼るのです。魔獣退治から唯の子供の喧嘩にまで介入させようとするのは依存しすぎだと思うのですよ。


何にせよ、いつもの様に村の人に呼ばれた父は『嫌な予感がする』と言っていた母を無視して外に出て行った。人を助けるのが勇者の本分だと、信じて疑わない人だから、『嫌な予感』程度で止められる筈が無かったのですよ。


私も、父が倒れる訳がないと勝手に思い込んでいたので、言ったのです。


いつものように。満面の笑顔を浮かべて。



___行ってらっしゃい、と。




『大丈夫かしら……?』



『大丈夫ですよ!パパは強いのですから!』



その時の事は後悔してもしきれない。


もっと母の勘を信じていれば良かったのかもしれない。いや、寧ろ私が父を引き留めるべきだったのかもしれない。


どちらにしろ、楽観的にも私は「今日はちょっと遅いですね」なんて思いながらも、何も心配して無かったのです。



嫌な予感が抜けないのか、心配する母と二人で父を待つ。


____父の訃報を聞いたのはその日の夜だったのです。


父は村人達を連れていかなかったので、誰も死に際を見ていなかった。


二人で遅いね、と言いながら待っていた時に〝兄への【勇者】スキルの譲渡〟が神殿から遥々来た神官様から知らされた時の絶望感は如何程だったか。


今はもう、思い出せないのです。



ただ言えるのは、その後も女手一つで私を育ててきた母は父の死への絶望感からやがて錯乱し、聖女というにはおぞましい程に醜く死んで行った事。


そして私は、都で成功していく兄を頼ることも出来ず、やがて村を出てスラムに身を堕としていった事。



その時からでしょうか?



私は不思議な力が使えるようになっていた。


触れた存在を問答無用で燃やし尽くす黒い茨の剣。

いつのまにか私の中にあったその剣の存在に私は確信したのでした。



ーーーああ、父は悪魔と契約したんだな、と。




父が死んだその時を知っている人は全くいない。


もしその時、死ぬ直前か、死に際かはわからないが、父が何らかの目的で悪魔と契約したのならば、私のこの力にも納得がいくのだ。


悪魔も助けそうな父なら、契約が救済に繋がると言われてホイホイ契約したりしそうなのですよ。



悪魔とは、肉体の8割以上が魔力でできた竜種に次ぐ幻想の存在なのです。

彼らは契約の対価が大きければ大きいほど強い力を契約者の血族(・・)に齎すという伝承が残っている。



この場合、父が何を望んだか、悪魔が何を対価としたのかは知らないが、それなりに大きい代償を払ったのでしょう。


私は、その時から何者をも焼き尽くす《黒き焔》を手に入れたのです。



でも、それでも、私一人で生き抜くには足りなかった。

強力な力ではあれど、所詮戦場でこそ活躍する力だ。

生き抜くには余りにも足りなかったのです。



そして運命の日。


その時、食い矜持を稼ぐ為に盗みを働いて運悪く盗みに入った店が傭兵を雇っていたのでした。

哀れ、私は取り押さえられて、目の前で傭兵が私に向けて剣を振りかぶる。


盗人に罰を。罪人に死を。まぁ、当たり前の末路なのです。


殺される、と思った時でした。



ーーーその人が現れたのは。



「魔神ちゃん、こぉおーーーりぃーーーん!!!」



訳の分からない言葉と共に颯爽と現れ、傭兵と店主を一瞬で殺したその人を怖いと思った。


でも、同時に美しいとも思った。



「幼女に乱暴するヤツなんて、疾く消え去ればいいんだ!…ぺっ!____えっ?〝何もしないとか言ってる割に結構やらかしてる〟?………う、うるさいな」



その人は、一頻り虚空と会話するという謎の行動をした後、私を見て驚いた顔をした。

後で聞いた話だと、なんでもステータスが信じられないモノだったとか。

多分、ステータス鑑定系のスキルを持っていたんだろう。そこに書いてあった【勇者の末裔】という表記を見て『勇者没落したの?マジで?俺の存在意義は?』なんて考えてたらしいのです。兄の存在を話したら安心したようですが。


何はともあれ、その人は私の顔を一頻り観察した後、意を決したように提案をしたのですよ。



「君はーーー僕の〝剣〟になる気はないかい?」



後から聞くと、なんでも私に宿る悪魔の力が必要だったようです。


だけど、そんなのどうでもよかった。


両親は死に、兄には頼れず、拠り所のない私にとってそれは、まるで福音のように思えたのでした。


あぁ、こんな穢れきった私でも、まだ誰かに必要としてもらえるのか、と。


家族と暮らした幸せな10年と、他者を貶めて生き抜いた底辺の3年間。

13年の月日の結末は今、ここに、この人が結果を残してくれるのだと。



ーーーそう、何の根拠もなく思ったのでした。





「ーーーはい。私は、貴女の忠実な〝剣〟です」



主人公が何でこんな行動に出たのかは次回で。

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