第32話 大崩壊時代、その一端の記録。
長くてどうでもいい話が続きますが、一応伏線です。
後、設定がある程度固まったので、序盤をまるっと大幅に修正しました。
「まず最初に、アイリーン学園創設には3つの時代を跨いだ背景があるのです」
ノートを開いて教科書と睨めっこしている間にリンディ先生の授業が始まる。Sクラスの面々はもう既に授業の準備はできている。
「まず始めに、2500年前。有史前から凡そ8000年続いたとされる《大崩壊時代》。
そして、1200年前の《魔神王顕現》から始まり、記録上では150年前の帝国の皇太子アルタイルが設立したのが、このアイリーン英雄学園です」
最初に概要を説明されたが、ちょっとよくわからない。《大崩壊時代》は『人が始祖龍の怒りに触れて、星の全土が焦土と化し、数多の竜が大地を飛び回っていた、過酷な時代』で、《魔神王顕現》は『王国の隠された王女エルティ・アイオンハートの死亡と共に彼女が使役していた白き巨神が魔王化した結果起きた史上最悪の大戦の話』だと教科書には書いてある。
どれも詳細までは教科書に書いていないようだ。
「順を追って話しましょう。まず、《大崩壊時代》の終盤にて最初に『皇太子アイン』が龍に支配された焦土の世界をなんとかする為に、当てのない旅に出ます。当然、家臣団からは反対されたそうですが、彼は『大崩壊をなんとかしない限り人類に未来はない』と言い残し、帝国から一時離れました。その時の手勢は僅か四人だったそうです」
なんとまぁ、アクティブな皇太子殿下だなぁ……。手勢四人で始祖龍に嘆願でもしたんだろうか?無茶苦茶だなぁ。
「皇太子アインは、その旅の中運命的な出会いをします。『白巫女ユーリカ』と呼ばれる女性との出会いです。
白巫女は当時唯一、竜を倒す〝力〟を持っていたらしく、〝力〟の詳細は不明ですが、皇太子達の切り札として同行していたようです。当時、始祖龍の怒りに呼応するように人間を襲うようになっていた竜は絶対倒せない天災の様なものだったらしく、この皇太子達が手に入れた〝力〟とやらがどれだけ重要かがわかります。少なくとも、始祖龍の怒りを鎮める為には必要不可欠な力である事は確かです」
竜、ねぇ……。
身体の8割以上が魔力で構成された絶対的な生命体ーー神に唯一比肩できる存在として創造された………というより始祖龍が産んだ存在だったかな?
天災、とはよく言ったもので、いまでも竜は絶対的な力の象徴である。大崩壊時代のように人を襲うのは今では無いらしいが、その力が脅威である事には変わりない。
ゲンキちゃんが言うには、人間のレベル上限が100であるのに対し、竜は幼体で既に80以上のレベルを持ち、成体の竜は人間の上限を超えた150レベル相当の力を発揮するんだとか。上位種などになると、マジで勇者や魔王に対抗でき、最上位の古竜は本当に神に対抗できるとか。星を丸々焦土にした始祖龍なんかお察しである。
強くても20レベル相当の人間が対抗できる存在ではない。
その人間が使える力で、竜に対抗できる力、ともなれば、それが切り札となるのは当然だろう。それに、そんな力が常用できるものとは思えない。ここ一番、という状況で使ってたのは容易に想像できる。
「こうして、白巫女を加えた5人は立ち塞がる竜達から人々を護りながらも、始祖龍の怒りを鎮めるのだけど………、Sクラスのみんな、ごめんなさい!実はこの時代の記録は殆どがなくなってて、どうやってこの5人が始祖龍を鎮めたのか、殆どわかってないの。大崩壊時代は記録が少なくって………」
それは、リンディ先生が謝る事じゃないよーな……。そもそも星そのものが8000年も焼け死んでたんなら記録媒体も少ないだろうし………。
「先生、それなら質問が」
「うん、どーぞ。ココロちゃん」
おっ?なんか、勇者の相棒らしい女の子であるココロ・オラシオンさんが質問があるようだ。黙って聞いておこう。彼等の現状がわかるかもしれない。【勇者】はある意味、1番の警戒対象だ。
何より、ヒムちゃんと関係がある話をぽろっと零してくれたら嬉しい。
「竜に対抗できる力について、何か少しでも記録が残ってないんですか?聖剣とは違うみたいですし……。私は、啓示された、いずれ産まれる《最後の敵》に備えて、力が欲しいんです」
なんだ、そっちか。………いや、さっきの話しで気になったならその部分だろうとは思ってたけど。
それにしても、《最後の敵》ねぇ……。明らかに私だよな。啓示で神から聞いたとか言ってるが、そもそもその神に転生させられた身だから知っていてもおかしくない。
「それなら、オレも聞くべきだ。先生、お願いします。その〝力〟について、何かあれば教えてください。父より【勇者】を継いだのだから、俺は最高の勇者じゃないといけないんだ」
「リクくんまで……。うん、学園長から【勇者】には最大限協力するよう言われてるし、いいけど。……あんまり話せる事は無いよ?」
ここで、リク・ヒムヤが立ち上がり、続いてお願いをする。まぁ、啓示で私の存在を知っているなら、何か対抗できる存在を探すのは当たり前だろう。
私、一応この世界のラスボスらしいし。
………おや?ラウラさんがこちらをじっと見つめているがどうしたのだろう?
「どうかした?」
「いや、なんでもないよ!?なんでも……あはは………(ラスボスは魔王よりも上の存在である事はわかってる。魔王より上といえば………魔神?………いや、でもそれは………まだ早計か。確証がない)」
ラウラさんはプレイヤーだと思われる存在だ。そこから私の姿を見て《魔神》を連想してもおかしくない。でも、それが《最後の敵》に繋がるかは確証が無いのだろう。
私をじっと見ていたから、「何か用か?」と聞けば直ぐに「なんでもない」と返した。
まぁ、ラウラさんは今のところ判断しきれない所もあるが、危険はない。私が脅威に感じるとしたら【勇者】なので、直ぐに意識を質問している二人に戻した。
実際、勇者の聖剣なら私にダメージを負わせられる。
入学試験時にSランクの対国魔法攻撃すら無傷で切り抜けた事実を『防御力が高い』という言い訳で通した以上、彼等にあっさり傷を付けられたら学園にした言い訳が通らなくなるし。
「〝力〟について………そういえば〝力〟を使ってた人が《白巫女》って言われてるなら、『白い武器』なのかも………?アイリーン英雄学園で〝白〟といえば………やっぱり1200年前の巨神かなぁ………。だとしたら、《司書》様達が何か知ってるかもね」
「「《司書》……ですか?」」
「うん。あまり知られてないけど、《司書》様達はアイリーン学園創設時からずっといるんだよ。
それで、色々噂になってるんだけど………1200年前の《白き巨神》は150年前の学園創設時にアルタイル殿下に力を貸したっていう記録があってね?だったら、《司書》様はその現場に居たはずだから」
「『アイリーン学園に行け』と啓示されたのはそういう事か………」
「うん。その《巨神》が関係あるかはわからないけど………150年前から生きてる《司書》なら、何か知ってる可能性は少なくともあるはず……!」
「「先生、ありがとうございました!」」
……ん?うぅん……んぅ?
なんかよくわからない会話が目の前で繰り広げられてる……?
【勇者】コンビは何か糸口を掴んだみたいだけど、私にはさっぱりわからん。
《巨神》がどうとかは気になるんだけど。どっちかって言うと巨大ロボットでも出てくれば面白そうだな、とか思っただけだし。
《司書》に聞くとかいう話になってるが、アザミの怖さを知ってる身としては、純粋に「やめておけ」と言いたい。
……まぁ、もし《司書》が怖い集団だとしても、痛い目見るのは【勇者】達だ。私には関係ないな。
「あっ、そろそろ時間だ。じゃあ、今日の授業はここまで、続きは明日な!予習はちゃんとやれよー、生徒共!!」
今思ったけど、リンディ先生のホームルームと授業終わりの時間だけ口調が変わる現象は何だろう?
………私は《巨神》とかよりその現象の方が気になる。