第30話 《暗黒剣》の真の使い方?
まさか、飽きやすい私が30話も書けるとは………。
最初は様子見だった……と思う。
僕は、『Sクラスの落ちこぼれ』という存在に、どれほどの可能性があるのか、見てみたかった。
だがそれは、彼女自身が戦いを放棄した事から落胆に変わった。
山をも吹き飛ばす一撃ーーー本来なら切り札というべきそれを、初撃で切る事。文字通り盤上をひっくり返す一撃を、最初に捨てたのだ。
相手に効くかどうかの確信もせずに。
本来なら戦いとは、数ある駆け引きの中で相手の情報を掴み、捉え、逃げられないような状況で一撃必殺の切り札を使うのが基本だ。
僕はそう思ってるし、他の人もそう思う人物は多いだろう。
それらの『戦い』というものの中で起こり得る全てを、無視して。最初から眼中にないとばかりに放たれた暴虐。
僕のスキルがなければ、確かに確実に勝てる一撃だ。だが、その僕のスキルだって調べれば直ぐに分かる。
その時思ったのだ。ーー彼女はまともに戦う気がない、と。
だからこそ落胆したのだ。落ちこぼれと言われようと、Sクラスになった存在がこの程度か、とーー。
だが、戦っているうちにそんな考えは霧散した。彼女は途中からではあるものの、真実自分の全てを賭けて挑んできた。
僕も、それに応えよう。そうして、全力を互いに出し尽くし、最後まで剣を合わせ続ける……そんな想像までする程の〝意思〟の宿る目だった。
それをーーーオママゴトだと。
真実、二人の全てを賭けていた。僕だって途中からは様子見などという無粋な事はしなかった。全力で相手する覚悟だった。
なのに________
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ーーーなってないよ!!!」
「はぁ………?」
それが、アリスさんが私の体を治療して、何とか動かせるようにしてから放った言葉だった。
腕にはまだ違和感があるが、一応消滅した部位を復元する、というのは神話級の魔法らしいし、これ以上は求め過ぎというものだろう。
しかし、「なってない」とは、何のことだろうか?
「そりゃ、当然あのスキルの事………って、ああ、腕動かすのは数日控えてね。貴女の身体、結構特殊だから復元も比較的簡単にできるけど、本来なら後遺症が無い方がおかしいんだから」
「わかりました……」
その言葉に、少し不安になる。この右腕の違和感とは一生付き合わなくてはいけないのだろうか?
決闘で吹き飛ばしてしまった腕も、訓練を含めれば都合4回はお亡くなりになっている。そろそろ動かすのに支障が出たりしてもおかしくない。
「ああ、別に後遺症がある訳じゃないよ。その腕の違和感も数日中に無くなる筈だから」
「ほんとですか!……良かったです」
アリスさんの追加補足にヒムちゃんが喜びを表す。
「うん。本来ならもっと何かあってもいいんだけど……ーーーーって違う!!今はそれじゃなくて!!」
「?……何か?」
その反応に少し医者っぽく私の身体の状態を説明しようとするが、直ぐに当初の話を思い出したのか、大声を上げて話を軌道修正するアリスさん。
「何か?……じゃないよ!!どういう事さ、あのスキルの使い方は!?」
「どういう………って元々そんなスキルだし……」
「は?」
アリスさんはどうやら私の《暗黒剣》に対して文句があるようなので、言っておくがアレは元々自爆技である。修正してどうにかなるようなものでもーーー
「はぁぁぁぁ………わかってないわね〜、この娘は……」
「へ?」
しかし、その説明を聞いてもアリスさんは痛そうに頭に手を当てて、溜息を吐くだけだった。
「いい?【スキル】って言うのはね、その人の力の結晶でもあるけど、同時にルールでもあるのよ」
「ルール?」
「そ。ルールっていうのは、基本そのルールの中に暮らす存在が安全に暮らせるように作られるでしょう?ーーーそれはスキルも同じ。スキルによって守られる事はあっても、スキルによって自らが傷つく事は正しく使えるならばあり得ないのよ」
「ーーえ。」
それって、つまり………私は間違った使い方をしていたという事か?アレ?でもゲームでもリュミエルが使う《暗黒剣》は完全に自爆技だったよな?
『そりゃ、近接戦にも深い理解を持つ魔術師なんてあまりいませんし、そのゲームの魔神ちゃんが《暗黒剣》の使い方を間違えて使っていてもおかしくないのでは?』
「ーーーあ。」
そして、ゲンキちゃんの言葉にリュミエルが本来魔術師である事を思い出し、いきなり説得力を帯びてきた気がするアリスさんの言葉に納得してしまう。
ーーというか、さっきから「あ」とか「え」とかしか言ってないな、私。
「わかった?わかったらなら、今までと同じ自爆攻撃じゃなくて、ちゃんとスキルを理解した活用法を思いつきなさい!!
………………まったく、この一週間監督してきて全く進展無いから、遂に口出ししてしまったわ………恐ろしい娘……」
「へ、へーい」
多分、このスキルのルール云々の話は、聞かれなくても知っているのが当然なのだろう。最後ら辺の小声は聞き取れなかったが、愚痴を言ってるのは分かるので、私は逃げるようにアリスさんの前から消えた。
それにしても、《暗黒剣》の真の使い方……か。考えてもいなかったけど、もしそんなのがあるなら…………。
そうして、今日は少しばかりの光明が見えたりもした放課後だった。