第2話 なんかレベル上がってる…。
あの後、盗賊と行商人全員纏めて死んでもらい、彼らの絶望の顔をたっぷり楽しんだ後、荷に積まれていた娯楽用品(+生活用品)を全て強奪し家に帰ってゲンキちゃんが『嫌な事件だったね……』と呟いた二ヶ月後。
俺は今、廃墟で見つけた経年劣化の比較的少ないベッドの上で、自分のステータスを見て唸っていた。
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【魔神リュミエル】
性別:女
種族:龍魔王
LV:3
HP:68523
▷ギフト
【神の眼】【魔王】【魔神リュミエル】
総合ランク:B−
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さりげなく性転換してる事はどうでもいい。前回だってゲンキちゃん(他称)に『貴女』とか呼ばれてたから何となくわかってた。それにこの身体は性別に関するアレコレを考える必要はない。女になった所で何も問題はない。
寧ろ顔面偏差値高い分美人に生まれ変わってラッキー程度の認識である。
問題は……____
「なんか、レベル上がってね?」
『盗賊倒したからでは?』
ベッドの上で食べカスが落ちる事も構わず行商人から強奪したポティトゥチップスを食べながら一言。
目の前に現行犯の証拠があるにも関わらず、行商人も一緒に倒した事実に目を向けずに盗賊を倒したと言う現実の見えてないゲンキちゃんの戯言は考え難い。
何故ならあの場にいた全員倒しても俺のレベルは一つも上がらなかった事を既に確認しているからだ。
『酷くない?』
聞こえない。
『まぁ、君は魔王だから。もしかしたら魔族の誰かが手に入れた経験値を貰ってるのかも』
………何? つまり、魔王だから魔族という種族全体と獲得経験値を共有していると言いたいのかね?ゲンキちゃん(他称)は。
それは暴論というのでは?
『そりゃだって、魔王が前線で戦うとかあり得ないでしょう? この世界を作った人たちならこんなギミック入れていても可笑しくないですし?RPGでラスボスがレベリングしてる場面とか誰も見たくないでしょう』
………まじか。それが本当なら経験値狩りは他の魔族に任せて一生ゴロゴロしてるだけで強くなれるのか。
食べ終わったポティトゥチップスの袋をそこら辺に投げ捨ててゲンキちゃん(他称)に聞く。
『そうとも限らないよ。だってこの世界の魔族、絶滅寸前だし』
……は? ぱーどぅん? りありぃー?
『だから魔族は絶滅寸前だって』
それを聞いた途端、俺はベッドから起き上がりゲンキちゃん(他称)に猛烈なる抗議の体制をとる。
俺は、断固として抗議する事を諦めない!!
「何故それを言わない。魔族が絶滅したら必然的に俺もゲームオーバーなんだぞ」
『えっ?そんな事言われてたっけ?』
言われてた、言われてた。
魔族を束ねて、勇者と競い合い、同郷のプレイヤー達と殺し合え。
の、〝魔族を束ねて〟の辺り。
これってつまり魔族がいないと俺はこの条件を満たせないのだけど、違うの?
新しいポティトゥチップスの袋を開けながらゲンキちゃん(他称)に問う。
『えっ?あっ………そうかも』
このポンコツめっ!!
『酷いっ!!』
………で、どうやったら魔族巻き返しができるかな?
ゲンキちゃん(他称)、今魔族はどんな感じなんですか?詳細求む。
俺はポティトゥを指で掴んでヒラヒラさせながらゲンキちゃん(他称)に向けて脳内で話しかけた。
『そろそろ(他称)ってやめてよ………。名前は教えられないからゲンキちゃんでいいよ、もう。
魔族の人口事態は特に減ってなくて、単に弱体化による全滅が現実的ってだけだから、何をするにしても魔族を統一して導く人が必要なんじゃないですか?』
…………ふむ。
そうなると、必然的に勇者の聖剣でしか倒せない不死性を持ち、永劫に絶対性を示す事ができる俺が統一に適していると。
導くのは絶対向いてないけど、魔族が強くなれば、獲得経験値共有により俺も強くなるからこの世界のラスボスとして君臨するには魔族統一は必須か…………。
『あ、意外とラスボスになる事には前向きなんですね』
そりゃ、この世界に来てから散々試したけど自害できないし、死ぬためには勇者に倒されるしかないでしょ。その勇者に倒される為には人間からの脅威にならないといけないし。
『まさか死ぬ為にラスボスになるとは。なんか厨二病みたいでカッコいいですね』
うるさいな。
俺はポティトゥを素早く口に含むと、ベッドに寝っ転がった。
食べカスがチクチクしてウザい。