第10話 恥ずかしいらしい
今俺は、神社にいる。何故神社が異世界に?とか無粋な事言ってはいけない。作ったに決まってるだろ。
俺は神社を作った後、その前に長い石畳の通路を作り、その下に階段を作っていく。
ほら、あれだ。夏祭りとかでよく見る光景だ。アレを再現しようと思ったのだよ。
ヒムちゃんの歓迎会に我が日本の闇鍋文化を持ち出す事にはちょっと抵抗があったが、面白そうという思いが優った。
「あっ、そっちお願い〜」
「グギャ?ゴギャ!」
指示を出すと人型の影としか言えない謎の物体がその指示通りに動いて、屋台を形成していく。中には豪華なツリーを建てた働き者もいるようだ。
瓦礫を退け、木材を組み立て、辺りは祭りの様相を作りあげていく。
異様なのは、その祭りに人がいない事、そして影の化け物があちこちにいる事か。
「あの、何してるんですか?」
「え?見ての通り祭りの準備だけど?」
「ええと、何故に?」
ヒムちゃんが今更聞いてくるが、何を言ってるのかよくわからないな。
俺は、言ったじゃないか「祭りにしよう」って。
つまりヒムちゃん歓迎会の準備だよ。
「恥ずかしいですから、直してくださいです!!」
ええー、そんなー。
………俺は今、モーレツに悲しい。
「せっかく、せっかくの祭りが………新しく覚えた《眷属召喚》も駆使して整えたのに……」
『何だこの祭りに対する並々ならぬ思いは……』
祭りは、直せと言っても聞かない俺に業を煮やしたヒムちゃんが黒焔をファイヤーして召喚した眷属諸共瓦礫の下となった。
どんだけ恥ずかしかったんだ、ヒムちゃん……。
ちなみにさっきから言ってる眷属召喚とは、【魔王】スキルの効果の一つで、自分の種族に応じた同カテゴリに属する種族を呼び出すスキルで、召喚された眷属は召喚者に絶対服従する。
ただこれ、実態は召喚といるよりは創造に近いので、この世界の何処かから自分に近い種族の存在を呼んでくるのではなく、この世界の魔力を使って自分に近い種族の存在を創り出すと言った方が正しい。
俺の種族は龍魔王だから、ドラゴンが出るかと思ったんだが、影の化け物が出た時は流石に予想外だった。
どうやら龍魔王とは〝龍の因子を持った魔王〟であって、〝魔王になった龍〟や〝魔王の要素を持った龍〟という訳ではないようだ。
つまり何かと言うと、龍というより魔王の因子の方が色濃いらしい。
そして【魔王】とは固有の種族なので、近い種族も魔族位しかいない。かといって知的生命体を眷属にするには俺の練度が足りないという事で、眷属召喚で召喚されたのは『人型』の影だった訳だ。
少しでも魔族に近い存在にした結果だろう。
いや、解説してる暇じゃない。早く祭りの再開を!
……今だ!ヒムちゃんが旅の再開のためにカバンをゴソゴソして背中向けている今がチャンス!
「みんなが旅の準備をしている今がチャンスだ!さぁ、祭りの準備を始めろー!!」
『残念ながら読んでました』
「ふぁいやー、です」
「ああああぁぁぁあああ!!!」
しかし、俺達からは姿が見えないゲンキちゃんが俺を監視していたらしく、ゲンキちゃんの言葉に即反応したヒムちゃんが神速の連携で私の作業再開を妨害する!
『どんだけ祭りしたかったんですか。というか、今から始めても此方が気づいて処理する方が早いですよ?』
「お前ら、祭りに何の恨みがあるんだよぉ!!マツリタノシイ!!オーケー!??オーケーなら返事しろぉおおおおおお!!!」
「恨みはないけど、恥ずかしいのです」
『祝ってくれるなら、祝われた方が良いとは思いますがねー。ヒムちゃんは申し訳ないようなので』
「ちくしょおおおお!!」
『そんなにやりたかったんですか?なんか祭りへの情熱が天元突破してません?貴女一応この世界のラスボスなんですけど』
「恥ずかしいから、ごめんなのです?」
というか、どんなに隙を作ってもかかる手間が多いこちらの方が確実に出遅れる。結果として見つかって妨害される前に祭りの舞台を整える事は不可能だと気づいた。
ちくしょう。
俺は涙ながらに旅を再開した。ヒムちゃんは申し訳なさそうにしていたが、若干頰が緩んでいた。
何だかんだで祝ってくれるのは嬉しいらしい。大規模にしなければいいのかな?
俺は懲りずに歓迎会の準備を頭の中でしながら旅路に戻る。
リュックは、若干軽くなっていた。これ、要らないもの処分されたな。………俺のコックリセットが……。