第9話 ヒムちゃん歓迎
別段、特に何も話進んでねぇな……。
あの後、なんか俺への討伐隊が組まれた時、ついでにプレイヤーも殺しちゃったよ。
初の同郷人との対峙なのにあっけない。でもあの人別に強くなかったしなぁ。単純なアタッカービルドだったから勇者の聖剣以外効かない俺の前では攻撃にステ振りした分紙装甲だけしか残らないし、当然か……?
それにしても弱かったな。レベルにすると30くらい?…………プレイヤーはプレイヤーでも初心者だったのかな?
なんにせよ、俺の初のプレイヤーとの邂逅は俺の知らないうちに終わったのだった。
あの時は驚いた。討伐隊の中でちょっと強い奴がいるなー、私は兎も角ヒムちゃん狙われたら守りきれないかもしれないし優先して殺しちゃおう。って感じで殺した相手が、後でゲンキちゃんから『あっ、その人プレイヤーですよ』って報告された時の驚愕よ。
まいったまいった。
「にしても、意図せず指名手配犯になってたなー。これじゃゴロゴロできないジャマイカ」
『貴女の座右の銘〝何も考えないし、何もしない〟でしたっけ?……正直貴女の立場が魔王という時点で無理でしょう?』
「………み、耳がいたい」
適当に当てもない旅をしながら愚痴を吐く。それをゲンキちゃんが論破するのはよくある光景だ。
ゲンキちゃんも、私の態度に慣れたのか、最初のゲンキっぷりが嘘のように静かになった。
「……?何かあったのです?」
「ヒムちゃんは関係ない事だよ!大丈夫!」
「いつもの脳内会話ですか?」
………そんな頭痛い人みたいに言わなくても……いや、悪意は無いんだろうけどね?
「『そうそう』……って、ゲンキちゃんの声はどうせ聞こえないんだから話さなくても___」
「あっ、私にも聞こえたのです」
「マジで?」
………ここでまさかの衝撃の真実ゥーー!!
ゲンキちゃん、お前、俺の監視って言ってたじゃん。神様が遣わした精霊の声的なアレだと思ってたんだけど!?そういうのって普通主人公にしか聞こえないよね!!
『私は声を伝える相手を選んでるだけで、別に貴女の脳内に住んでる訳じゃないんですから、私が認めた人なら声も聞こえますよ?』
「お前そういう事は先に言いなよ。……じゃあ、ヒムちゃんは認めたって事なの?」
『はい。とりあえず悪意も敵意も今のところ無さそうですし』
「……地味に嬉しいのです」
ヒムちゃんは複雑な顔をしている!………まぁ、今日聞こえたばかりの声から上から目線で判断されるとモニョるよね。
それでも、私と一緒の声が聞こえるというのが嬉しいのか、『地味に』と付くが嬉しいと答えてくれた。
可愛い奴め。
とりあえず、後でナデナデだな。
「うんうん。仲間から認められるのはいつの時代も良いことだ。俺は祝福するよ?」
『一応、私は貴女も監視対象なのですがね』
「そういえば、そうだった!?」
そんなコントをしていると、自然と笑いが漏れる。
いつのまにか笑いは伝染し、三人で笑う。いつもの穏やかな旅路である。今日も平和。
因みに、女性が「俺」とか言うのはマズイかなー?と思ったりもしたのだが、俺の『男口調だと問題だ。でも完全に女になりきるのも問題だ』という複雑な心でもって、「オレっ娘とかいるし」と勝手に自己完結して元の素の言葉遣いを継続している。
これに関しては弁明する気は無い。存分に扱き下ろしてくれ。
何て、俺の心の葛藤とかはどうでもいい。今は先の戦いで私の剣として活躍し、晴れて仲間と認められたヒムちゃんの歓迎会をしよう。
『傾国』なんて二つ名を貰うほど活躍しちゃったもんなー。困るなー、もー。にへら〜。
それに、座右の銘はアレだが、祭りは好きだ。だから、祭りごとに関しては俺の座右の銘も一度折らざるおえない。
盛大な歓迎会にしよう。
以前、個人的な祭りごとの途中に魔王召喚されて大恥かいたのは忘れて、盛大に行こう。