プロローグ
設定がそれなりに固まったので序盤を大幅に修正しました。
____目が醒める。
と、同時にその事実を否定した。
何故なら自分が生きていることはあり得ないからだ。
俺は死んだはずだが、どうして?
そうだ、俺は死んだ。長く怠惰を貪った罰か、はたまた神の気まぐれか。もしくは、俺がここまで生きてきたツケを支払わされたのかもしれない。
どちらでもいいが、どちらにしろ、俺はあの時死んだのだ。
みっともなく。滑稽に。
全てが遠ざかっていくあの瞬間に涙したのだ。
ならば、もういいだろう。
ここまで来てまだ、生に縋り付いているわけでもない。
早くこの意識を切ってくれ。もうまた失う痛みは耐えられそうもない。
____それは不可能さ。だって君は選ばれてしまったのだもの。
虚空に響く声。男とも女ともわからず、また年齢もはっきりしない、不思議な声。
選ばれた、とはどういう事だろうか。自分は何もしなかった。出来なかった、ではなく、何もしなかった、その果てが俺だというのに。
何もしなかったからこそ、〝彼女〟は救われなかったのに。
もしその〝選ばれた〟が、なにかの基準を持って選ぶべきものなのなら、やり直した方がいい。
ただの落ちこぼれならともかく、何もしない者に何かを成し遂げられる訳が無いのだから。
____そんなことはない。事実、君は何もしなかったからこそ選ばれた。
ほら、君の命はまだ続くよ?
____巨いなる《黒焔の王》となって。
………黒焔の、王。
どこかで聞いたような気がするフレーズだ。ゲームのキャラのフレーバーテキストだったかな?
どちらにしろ、自分には役不足だろう。目を閉じさせてくれ。何も見せないでくれ。
そうして………何もかも捨てさせてくれ。
死に際に夢を見るから捨てられないんだ。早く俺を殺してくれ。
そう思った時には何故か、視界が歪んでいた。
なんだ、これ。
視界だけじゃない、身体が、魂が、まるごと掻き混ぜられているかのような不快感の後、唐突に身体が崩される。
これはひどい。何もしなかったからこそ、何の耐性も持たない自分にはキツすぎるな、これは。
身体が弄られて弄ばれる感覚なんて感じた事もなかった。
ああ、或いは、〝彼女〟も、こういう感覚だったのかもしれない。
不快感が身体中を走る。自分自身の身体は、まるで積み木のように組み立てられては壊されるを繰り返し、やがて満足のいく形となったのか、うんうん、と納得の声とともに視界が暗転する。
____これより君は〝魔王〟となった!
万を超える魔族を束ね、勇者と競い、そして同郷のプレイヤー達と殺し合え!
そうして、やっと君は頂点に立つだろう。
これより始まるは神魔の代理戦争!
唯一神の承認を持って、君を異世界という名の盤上にご招待しよう!
その言葉と共に、意識が解けていく。
もう何も感じないし、感じれない。
そう考えて、自分で驚いた。自分はまだ、感じるものがあったのか、と。自嘲した。
あれほどあった生への渇望も、希望も、全て生前に捨てた。ならば、今まで、この死に際で感じていたのは、なんだったのだろう。
それはもしかしたら、いつのまにか持っていた希望………………もうそれも無くなった。
驚くほどの虚無の中、最後の声がやけに耳に響いた。
____君はラスボスだ。
多くのプレイヤーの命を束ね、成長した勇者に倒される運命。
見事その運命を踏破した時、餞別を与えよう。まぁ、無理だと思うけどね。
____さぁ、存分に殺し合え、若人よ。
その言葉だけは聞き逃さなかった。それだけは、大切な事に聞こえてしまって。何もかも失くしてしまった自分が持つ、唯一の『意味』に思えてしまって。
ーーーこうして、何もなかった俺に〝勇者に倒される魔王〟という『意味』が生まれた。