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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第3章 想いの欠片
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21話 おどおどな王女様

「おお、これが水の都フルートかあ。綺麗なもんだな」


「「ですねん。これは我等も予想外」」


「にゃー。ニャーも初めて来た時は感動したにゃ。姉様から、フルートに集まった魚や海藻や微生物が光ってるって聞いたにゃ」


「それであんなに輝いてるのか」


 そんなわけで、水の精霊メールの泡の波に乗ってかれこれ一週間が過ぎ、俺達は水の都フルートが見える所までやって来た。


 南の国の王都である水の都フルートの外観は、滅茶苦茶綺麗だった。

 まずパッと見て思うのは、楽器のフルートと同じ様な外観。

 そして、それが少し傾いていて、まるで演奏をしている様に泡が音符を奏でている。

 それを不思議に思ってよく見れば、水の都は空気に包まれていて、その空気が少しずつ泡となって上に昇っていた。

 それ等全てが綺麗に輝き、水深約三万キロの光の無い海底を照らしている。


 俺達はそんな光り輝く水の都に辿り着いたわけだが、問題は勿論ある。


「あたちが助けてあげられるのはここまでぷー。でも、一応都の中に入るまでは一緒にいてあげるぷー」


「良いのか? メールまで俺達みたいに敵視されるんじゃないか?」


「構わないぷよ。それに今あたちがいなくなったら、皆こんな海の底じゃ、あっという間に死んじゃいそうでぷ」


「にゃー。ニャーは絶対無理にゃ」


「「私達も秒で死ぬ自信がありますぜ」」


「秒でて……。まあ、確かに流石にきついよな。メールのおかげで、こうやって息も出来て言葉も喋れてるってだけだもんな。俺等」


「「ですねん」」


 フウラン姉妹が頷くと、その直後に「おさ~!」と声が聞こえて来た。

 声の聞こえた方に視線を向けると、手の平サイズの二頭身……水の精霊が手を振りながら、こっちに泳いで来ていた。


「もしかして、あの子が情報を提供してくれた精霊なのか?」


「でぷね。水の精霊Aって呼んでるでぷ」


「いや、名前で呼んでやれよ」


 なんて事を言っていると、水の精霊が俺達の目の前までやって来た。


「どうもはじめまして。あなた方が英雄とその他ですね」


「ニャーはその他じゃないにゃ」


「そうなんですか? それなら、猫の獣人とお見受けしたので、その他Nと呼びます」


「ニャーはナオだにゃ!」


「おお。やはりNであってましたか! その他Nさん、よろしくお願いします」


 礼儀正しいのか失礼なのか分からない水の精霊Aに、俺は冷や汗を流してメールに視線を向けると、メールが俺と目を合わせて頷いた。

 ナオは言い返す気も起きなくなった様で、肩を落として「もうそれで良いにゃ」と諦めていた。


「それより長、言われた通り、誰にもバレずに水の都に侵入出来る場所を探して見つけましたよ」


「よくやったでぷ。案内するでぷ」


「おお、ありがてえ。そんなの頼んでたのか」


「でぷ」


 メールが頷くと、俺達は水の精霊Aの後について行く。

 そうして水の都に近づくと、そのデカさに驚いた。


 水の都は遠目で見れば、その形が傾いている楽器のフルートに見えるわけだが、下から近づけば海の底にある大きくて長細い岩が海底に刺さっている様にしか見えない。

 例えるなら、パソコンやスマホで文章を書く時に使うスラッシュが、地面に刺さってる感じだ。

 と言っても、スラッシュほどの傾きは無いが、少しでもバランスを崩せば倒れてきてしまいそうで正直怖い。

 そんな大きな岩の真下を俺達は泳いで進み、侵入できると言う場所までやって来た。


「扉……? どっかの地下に繋がってるのか?」


 比較的上の方……と言っても岩の真下だが、そこに一つだけある出入り出来そうな扉。

 それを見て俺が疑問を口にすると、水の精霊Aは頷いた。


「はい。フルート城の地下に繋がってます」


「フルート城の地下か。それなら……って、フルート城の地下あ!?」


「「まさかの目的地への直通なんだぜ」」


「手っ取り早くて良いにゃ」


 俺が驚き、フウラン姉妹は冷や汗を流し、ナオはニコニコと笑顔になる。

 それを見て水の精霊Aは満足したのか、ニッコリと微笑んだ。


「って事は、ベルとみゆを捜しだす前に、メレカさんの救出か。順序が逆になったけど仕方ないか」


「「でも、ここから入っちゃって大丈夫なんですかね? 中の状況が分からないから、入って直ぐに警備の騎士に見つかるなんて事もありえますよ?」」


「全部やっつければ良いにゃ」


「あのな、俺達は戦争をしに来たわけじゃないんだぞ? そんな事……いや、意外とありかもな」


「「ヒロ様?」」


「どうせメレカさんを助け出せば、俺達晴れてお尋ね者だろうし、ここは盛大に行っても良いかもしれん」


「ヒイロ分かってるにゃー」


「まあ、でもそれは最終手段だ。出来るだけ穏便に行くに越した事は無いからな」


「ヒロ様がそこまで仰るなら、いざと言う時は私も全力でサポートします」


「ね、姉さん!? ……はあ。仕方ないですね。分かりました。姉さんがそう言うなら、私も覚悟を決めます」


「決まりだな」


「今の英雄は面白いでぷね~」


 と言うわけで、メールが感心する中、俺達は扉を開けて中に入った。

 すると、扉の先は空気があり、そこでメールとお別れになる。


「メール、色々と助かったよ。ありがとな」


「気にしなくて良いでぷ。邪神の封印を頑張るでぷよ」


「ああ。絶対成功させる」


「ニャーも手伝うから余裕にゃ」


「もちろん私も手伝います」


「私も姉さんと一緒に手伝いますよ」


「やっぱり、五千年前とは雰囲気が全く違うでぷね~。でも、大丈夫そうでぷね。また何かあったら来るでぷよ。ではでぷ~」


 メールはそう言うと、水の精霊Aと一緒に手を振ってこの場から去って行った。

 俺達は二人の姿が見えなくなるまで見送って、見えなくなると、静かに扉を閉めた。


「まずは罠チェックだな。ちょっと待っててくれ」


 そう言って、魔力を見れる目で周囲を確認したが、心配はいらなさそうだった。


「とくに何も無いみたいだな」


「「フロアタムの王宮にある隠し通路みたいなものですかね?」」


「そうだな。何かあった時に、王族のみが通って逃げられる道かもしれないな」


「にゃー。魔力を探ってみたけど、近くには誰もいないみたいにゃ」


「そうか。でもまあ、用心に越した事は無いだろうし、メレカさんを見つけるまでは慎重に進もうぜ」


「「ですねん」」


 とにかく今はメレカさんが何処にいるのか捜さないといけない。

 俺達は話し合いを終えると、通路を慎重に進み始めた。




 通路を進んで少しすると、とくに別れ道も無く階段までやって来た。

 そして、その階段を上ると、ようやく城の騎士の姿を見かけた。

 と言っても、向こうはこっちに気づいてない。

 階段の出入口の反対側に体を向けていて、ジッと立っているだけだった。


 これはこれで逆に困るな。

 さて、どうしたもんかね……。


 などと考えていると、ナオが物音立てずに素早い動きで騎士の許まで跳躍して、騎士に攻撃を加えて気絶させた。


「漫画みたいな事するな……」


「ヒイロ、周りには誰もいないみたいにゃ」


 ナオが手招きして、俺とフウラン姉妹は階段を上りきる。

 そうして周囲を警戒したが、ナオの言う通り見張りは他にいない様だった。


「とりあえず城には侵入出来たみたいだな」


「「問題はここからですね~。ナオ様は以前来た時は牢屋とかに入れられたんですか? 一応犯罪者扱いされちゃったんですよね?」」


「にゃー」


 ナオは返事をすると、周囲を見て、尻尾の先をピクピクさせて歩き始めた。

 俺とフウラン姉妹はナオの後ろを歩きながら、周囲を警戒して歩く。


 そうして暫らく騎士と遭遇するのを上手に避けながら歩いて行くと、城のエントランスホールの目の前へと辿り着いた。

 俺達がいる通路から見える範囲では、騎士が少なくとも六人ほどいて、このままエントランスホールに入るのは良くない状況だ。


「にゃー。ここを通らないと、姉様が入れられてる牢屋に多分行けないにゃ」


「って事は、どうにかしてここを突破する必要があるのか。牢屋までの距離はどのくらいなんだ?」


「ここまで歩いて来た距離と対して変わらないにゃ。左右が同じ通路を来たにゃ」


「つまり、俺達が上って来た階段と同じものが、向こう側の通路にあるって事か」


 ナオの説明から考えるに、城の構造が左右対称になっていて、俺達が侵入した場所の逆側が牢屋のある場所。

 だから、エントランスホールから見える向こう側の通路を同じ様に通れば、メレカさんがいる牢屋に行けるってわけだ。

 俺の考えは当たっている様で、ナオは俺の言葉に「にゃー」と頷いた。


「「そうなると結構距離がありますね~」」


 フウラン姉妹の言う通り、それなりの距離を歩いて来た。

 そうなると、ここを通る為に今から暴れるとなると、流石に脱出が困難になりそうだった。


 さて、どうしようか。と、俺達は物陰にこそこそと隠れながら考える。

 するとそんな時だ。

 物陰に隠れていた俺達の前に「あの……」と、頼りない声で声をかけて来た者が現れた。

 俺達はその声に驚き、誰もが声をかけて来た人物を無力化しようと動こうとして、その人物を見て動きが止まる。


「――メレカさ……ん?」


 その人物があまりにもメレカさんに似ていたので、俺は思わず呟いた。

 だが、メレカさんにしては幼すぎていて、本人と言うわけではなさそうだった。


 メレカさんは二十五歳の美女なわけだが、目の前に現れたのはベルと同い年くらいに見える美少女だ。

 ただ、メレカさんに似ていると言うのもあって、俺以外の三人も驚いて動きが止まってしまった。

 すると、その少女は少し怯えた様子で一歩下がり、それでも勇気を振り絞る様な目で俺と目を合わせた。


「私はお姉様……アマンダお姉様の妹のリビィです。貴方様は英雄のヒロ様ですか?」


「妹……? あ、ああ。ヒロは俺で間違いない」


「良かった……」


 メレカさんの妹と名乗る人物……リビィと言う名の少女は、そう言って安心した様にホッとため息を一つ吐き出した。


 リビィはパッと見がメレカさんに似ている少女だったが、それでも髪の色も瞳の色も違っていて、その為かしっかりと見れば全然違った印象を受ける美少女だった。


 メレカさんの髪は青空の様に綺麗な空色だが、リビィは海の様な青く美しい髪。

 瞳もメレカさんは綺麗な赤紫だが、リビィの瞳は綺麗なエメラルドグリーンだ。

 それに、メレカさん程のオーラの様なものが感じられなかった。


 メレカさんの様に姿勢も良いし、身に着けているドレスも煌びやかで美しく、いかにもな王女様だがそれだけだ。

 弱々しい見た目に、頼り無さそうな雰囲気で、更にはおどおどしている。

 とは言え、妹と言うのは間違いないだろう。

 髪の色も違うと言っても、若干の違いはあれど同じ青色だし、何よりパッと見で間違える程度には似ている。


 しかし、敵なのか味方なのか、そこが問題だ。

 この少女が俺達に何か出来るとも思えないが、ここに騎士を呼ばれたら厄介だし、メレカさんの妹であれば見た目に反して強いかもしれない。

 俺の事を知っている様だし、俺の魔法や能力スキルの対策をされている可能性だってある。

 それに、俺達全員が話しかけられるまで存在に気が付かなかった。

 少なくとも気配を消すだけの実力がある。

 だから、俺は警戒はした方が良いと、気を緩めたりはしなかった。

 だが、そんな俺にリビィは今度は目尻に涙を溜めて懇願する様な瞳を見せ、そして俺の右手を両手で掴んで握った。


「ヒロ様、お願いします。アマンダお姉様を助けて下さい」

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