表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第3章 想いの欠片
92/256

15話 うさ耳姉妹の姉の追憶 その3

「このハンバーグ美味しー!」


「他の人に迷惑だから静かに食べなさい」


「はーい!」


 魔族から助けたツーオさんのレストラン“エア”で、私達は食事を楽しんでいた。

 出された料理は本当にどれも美味しくて、みゆ様が喜ぶのも頷ける。


 みゆ様がヒロ様に注意されると、それを見ていたベル様がクスクスと楽しそうに笑んでいた。

 そんなベル様と、その隣に座るみゆ様と、みゆ様の隣に座るヒロ様を見て思う。


 やっぱりお似合いですね~。


 そう思うと、少しちくりと心が痛んだ。

 その痛みに少し驚き、そして私は気が付いてしまう。


 もしかして、これって初恋ってやつですかね?

 もしそうならヤベえですね。

 まさか、私が英雄のヒロ様に恋しちゃうなんて……この事は墓まで持って行きましょう。

 でも、ランには……いいえ、駄目です。

 墓まで持っていくべきですね。


 そんな事を考えながら目の前に座っているヒロ様に視線を向けていると、ヒロ様と目がかち合う。

 そして、ヒロ様が「ん?」と声を上げ、私は慌ててテーブルの料理に視線を移した。


 ゆ、油断出来ねえ状況だぜい。

 うっかり目が合うとか、このままだと不味いですね。

 この恋は絶対に叶わぬ恋。

 出来るだけ意識をしないで、普段通りにいきましょう。

 そうしていれば、いつかはこの恋も冷めてくれるでしょう。


 私は自分にそう言い聞かせながら、みゆ様が絶賛されたハンバーグに丸ごと噛みついた。


「ね、姉さん……? どうしたの?」


 いつもであれば、ハンバーグをナイフで切ってから、フォークで刺して食べている。

 動揺していた私はそれをせずにかぶりついたので、それを見たランに驚かれて、そこでやっと自分の行動に気がついたけどもう遅い。

 とりあえず誤魔化す為に、驚いた顔してるランに「美味しいから丸ごと食べたくなっちゃったんだぜい」と言うと、もの凄いジト目を向けられた。

 残念ながら、墓まで持って行こうとした私の想いは、ランには気付かれてしまったようだ。

 流石私の双子の妹。

 察しが良くてお姉ちゃん涙が出ちゃうくらい悲しくて嬉しいよ。




 食事を終える頃に、ツーオさんが私達のテーブルまでやって来た。


「今日は本当にありがとうございました。お口に合いましたでしょうか?」


「うん! とっても美味しかったよ!」


「うんうん。また来たくなる美味しさだったよね」


「それは良かった。是非またいらして下さい。スタッフ一同心よりお待ちします」


 ツーオさんが深々と頭を下げ、柔らかな笑みを浮かべた。

 そして、直ぐに「ところで」と、真剣な面持ちで言葉を続ける。


「当店のスタッフから伺ったのですが、風の精霊様をお捜しなのですか? あなた方が昼間に、町の者に聞き込みをしているのを見たと言っているスタッフがいました」


「ですねん。でも、誰も知らなくて、結局分からなかったんですよ~」


 私が答えると、ツーオさんは「やはり……」と呟いて、私に視線を向けて目がかち合う。


「実は、この町には暗黙の決まり事があるのです。それは町を護る駐屯兵も知らない、町の者しか知らない事です」


「暗黙のルールってやつか。もしかして、その決まり事ってのが風の精霊と何か関係があるのか?」


 ヒロ様がツーオさんに尋ねると、ツーオさんはヒロ様に「はい」と頷いて言葉を続ける。


「皆さんもご存知のこの町に吹く天井の町と地面の町の間を流れる風ですが、あれは風の精霊様が発生させているものなのです」


「だからか。精霊があの強風の中を移動出来てるのが不思議だったんだよな。しかも、あの魔族を連れて通ってたし」


「はい。私もまさか風の精霊様があの魔人を連れて行ってしまうとは思いもせず、あの時は驚きました。ですので、本来であれば教えてはならない決まりを、あなた方に話そうと考えたのです」


「そうか。助かるよ」


「いえ。こちらの方が巫女様というのなら、きっとあなた様は噂に名高い巫女様の近衛騎士団団長様なのでしょう。少年でありながら、世界一の強さを誇る近衛騎士団の団長様だと聞き及んでおります。巫女様とあなた様の力になれるのなら、この上ない喜びです」


 ツーオさんは勘違いしている様だけど、残念ながら“英雄”の存在は一般に公開されていないので、説明がつかない。

 ヒロ様もそれはご存知なので、顔を引きつらせて「ははは」と苦笑いで話を流していた。

 そして、そんなヒロ様に苦笑するベル様と、ジト目を向けるみゆ様。

 三人の姿に面白いなと思っていると、ランが真面目な顔で「あの」と声を上げた。


「それより、決まり事と言うのは何でしょうか? 風を発生させているのが風の精霊様と言うのは分かりましたが、それを隠す事だけが決まり事と言うわけではありませんよね? 他にもあるとお見受けします」


「これは失礼しました。話が脱線してしまいましたね。仰る通り、決まり事は他にあります」


 確かに話は脱線してしまったから、ナイスフォローではあるけど、いつになく真面目なランに私は少し驚く。

 でも、私が驚こうが時間が止まるわけでは無い。

 私が驚いている間にも、ツーオさんは一礼して、再び真剣な面持ちで言葉を続ける。


「風の精霊様が住処すみかにしている場所が、この町の住民が決まり事として隠している事です」







 ツーオさんから風の精霊様の住処を聞いた私達は、早速そこへ…………は向かわなかった。


 言葉で伝えてしまうと、それを聞いてしまった人が噂で流してしまう可能性があるから、明日早朝にツーオさんが道案内をしてくれる事になったからだ。

 それにもう一つ。


 魔族が使う魔法は必ず闇の属性で、それは、周囲が闇に染まった夜であれば存分に力を発揮する。

 力を発揮すると言っても、魔法の威力が上がると言うわけでは無く、単純に魔法が周囲に溶け込んでしまう。

 最悪の場合は視認できない程に夜の闇と見分けがつかなくて、魔力を探知できない者からしたら、かなり厄介になる。

 そうなってくると、夕暮れ時に戦ったあの魔族の強さを考えれば、夜に戦闘をするのは得策とは言えない。

 あの時は魔法を全く使ってはこなかったので、恐らくあの魔族はまだ本気を出していないと、私達は考えた。

 そう言った理由もあり、既に周囲も暗くなった今を避けて、明日の早朝に向かう事になった。


 私達はツーオさんの紹介状を頂いて、そこそこ豪華な宿に泊まる事になった。

 そして、私は大ピンチに陥ってしまった。


 それは、ベル様とみゆ様が一緒におやすみになられて、ランも昼間の疲れで先に眠ってしまった後の事だ。

 私も直ぐに寝ようと思ったけど、ヒロ様の事が頭の中に流れて眠れなくて、悶々(もんもん)としながら気分転換に宿の露天風呂へと向かった事で起きてしまった事件。


 私は露天風呂に足だけつからせて、大理石に座りながら空を見上げていた。

 すると、少し時間が経ってから、誰かが扉を開けて入って来た。

 何となく視線を落として露天風呂に入って来た人物に視線を向けて、また空を見上げようとして、その人物を二度見した。

 そして、その人物と目がかち合い、私では無くその人物が「わああああああ!」と悲鳴を上げて前を隠す。


「ひ、ヒロ様……どうしてここに?」


 露天風呂に入って来て悲鳴を上げたのはヒロ様だった。

 ヒロ様の体は丁度良い筋肉が……そうではなくて、タオルで前を隠すなどせずに堂々と入って来たのだ。

 悲鳴と同時に隠されたけど、時既に遅く、嬉し……では無くて、残念ながら既に私は見てしまっている。


「それはこっちのセリフだ! って、前隠せ前!」


「へ? …………っひゃ」


 ヒロ様に指摘されて気がついたのは、私もヒロ様と同様に隠していなかったと言う事。

 そして、想像以上の大ピンチ到来。

 隠そうにも、タオルを持って来ていない私。

 手で隠すしかないので私は焦りながら手で隠して、でも、ヒロ様に見られても恥ずかしいけど嫌では無かった自分に驚く。


 そしてこの状況でそんな事に驚いていると、ヒロ様が「すまん」と言いながら出て行こうとしたので、つい「待って下さい」と声をかけてしまった。


「待ってって……。は、話があるなら後で聞くよ」


「い、いえ。あはは~……た、たまには裸の付き合いで親睦を深めようぜ旦那、みたいな感じの……」


 何言ってるんだ私いいいい!?


 もう自分でも自分が何を言ってるのか分からない程の愚行。

 異性との裸の付き合いとか、最早誘ってるとしか思えないって、何を誘っているんですかね!?


 自分で言って自分で慌てふためいていると、ヒロ様が「ははは」と可笑しそうに笑いだす。

 そして、顔を背けながらだけど、少し照れたような微笑みを見せて「タオル持って来るよ」と言って出て行った。


「タオル? ……………………っあ」


 言われた意味が分からなくて首を傾げて考えて、少ししてから意味が分かると、丁度その時ヒロ様が大きめのタオルを持って戻って来た。

 そして、器用に私から視線を逸らしながら近づいて、私にその大きなタオルを差し出した。


 私がそれを「ありがとうございます」と受け取って体に巻くと、ようやくヒロ様が私に視線を向けてくれた。


「俺最近気がついたんだけどさ。ランってフウに合わせてないか? ポーズとか口調とか」


 視線を向けてくれたと思ったら、ヒロ様が私の隣に座って同じ様に湯船に足だけ浸けて、その後直ぐにヒロ様の口から出た言葉がそれだった。

 それが何だか可笑しくて、私は笑ってから、冗談ぽくヒロ様に視線を向ける。


「分かっちゃいました~? 出来た妹なんですよう」


 楽しい。


「そうだな。それに、きっとフウの事が大好きなんだろうな。二人を見てると、すげえ信頼関係だなって思うよ」


「あったりまえですよお。羨ましくてもあげませんよん」


 楽しい楽しい。


「ははは。羨ましいけどいらないって。だって、フウとランの二人だからこその良さだからな」


「言いますね~旦那。分かってるじゃないですか~」


 私は、ヒロ様が好きだ。


「だろ?」


 ヒロ様はそう言うと、とても素敵な笑顔を見せてくれた。


 ヒロ様は、きっとベル様の事が好き。

 そして、ベル様もヒロ様の事が好き。

 二人を見れば誰だって分かる。

 気付いていないのは、きっと本人たちだけ。

 だから私の入る余地なんて無い……でも、本当は叶わない理由がそれだけじゃない事も分かってる。


 二人の気持ちの事は直接聞いたわけじゃないし、私の勘違いかもしれない。

 それでも、私の恋は絶対に叶わないと私は知っている。

 きっとベル様でも叶わない……ううん、違う。

 叶ったとしても、いずれは諦めなければならない時が来る。


 だって、ヒロ様は異世界の人だから。

 いつか邪神を封印して、みゆ様と一緒に元の世界帰られる。


 決して叶わない恋だとしても、それで良い。

 私はこの恋を大切にしたい。


 でも、少し不安になる。

 それは、恋の話じゃ無くて、別の事。


 ヒロ様は英雄様なのに、体がとてももろい方だ。

 能力スキルを使っていなければ、私よりも簡単に死んでしまう程に脆いのだ。

 だから、いつかそれが原因で命を落としてしまわないか不安になる。


 だからせめてヒロ様がそうならない様に、私はヒロ様をお護りしよう。

 この日、綺麗な月に照らされながらヒロ様と過ごした夜に、私はそう固く心の中で誓った。


 メレカさんとナオ様が帰って来て、ヒロ様達が東の国に行く時に、ウルベ様達に相談して私もヒロ様の旅について行こう。

 ランはちょっと怒るかもしれないけど、きっと大丈夫。

 それに、ランも一緒に来てくれるよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ