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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第3章 想いの欠片
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5話 汚れた巫女

「と言うわけで、私も今から諦観者・・・として、ヒロさん達を観察する為に同行しま~す」


「ピュネちゃんも一緒に来てくれるんだー」


「おおー」


「…………」


 どう言うわけだよって感じでピュネちゃんが俺達の旅について来る事になり、ベルが喜び、みゆが拍手する。

 俺はと言うと、本当に見るだけなんだろうなと、呆れてジト目を向けるだけ。


 どうやら、ピュネちゃんは宝鐘ほうしょうの守り人の役目を終えたので、俺達を観察する為だけについて来るようだ。

 もし魔族との戦いになったらどうするんだと質問すれば、のほほん顔で「見守ります~」と笑顔。

 誰かが死ぬ様な事態になってもかと質問すれば、のほほん顔で「そんな事になったら悲しいですね~」と笑顔。

 本当の本気であくまでも観察するだけの諦観者。

 気が向けば、たまに助言をする事があるかもしれないが、基本は何もしないと言いきられた。


 そんなピュネちゃんを連れて、俺達は海賊のせいで食えなかった食事をとる。

 尚、ピュネちゃんに見守られながら食事をした。

 一緒にどうかと誘ったら、のほほん顔で「今は良いです~」と言われて、食事の最中ものほほん顔で見つめられて微妙な気分になった。


 そうしてピュネちゃんの視線の中食事を終えると、みゆの楽器魔法の為に再び噴水のある広場までやって来た。


「あれ? 人が全然いないよ? なんでだろう?」


 ベルが首を傾げて言う通り、人が全くと言って良い程いなくなっていた。

 ピュネちゃんに視線を向けても、とくに何か言うわけでも無い。

 理由は分からないが、とにかくチャンスだ。


 みゆが小走りで噴水の三角錐さんかくすいのモニュメントに近づいて行き、早速封印を解き始める。

 すると、噴水とモニュメントが光り輝き、モニュメントから楽器のトライアングルが現れた。

 トライアングルはゆっくりとみゆの体に向かって行き、そして、みゆの体の中に入って行く。


「成功したみたいだね」


「ああ。とりあえずはひと段落ってとこだな」


「うん」


 ベルと言葉を交わすと、楽器魔法トライアングルを手に入れたみゆが、ニコニコしながら俺達の許まで戻って来た。


「よくやったな」


「うん!」


 みゆの頭を撫でて褒めると、みゆは嬉しそうに笑顔で頷いた。

 すると、ベルも嬉しそうにみゆを後ろから抱きしめて、ニコニコしながら「みゆちゃん偉い」と褒める。


「皆さん仲良しさんですね~」


「ぴゅねお姉ちゃんも仲良しだよ」


「わあ。可愛いです~。ヒロさん、この子私に下さい」


「それは出来ないな。っと、結構早めに用事が終わったけど、フウラン姉妹の様子でも見に行くか?」


「あ、うん。そうだよね」 


 話題を変えると、ベルがみゆから体を離して頷き、心配そうな声で言葉を続ける。


「乗れる船が見つかってれば良いんだけど……」


「べるお姉ちゃん心配なの?」


「うん。今は……ううん、みゆちゃん気にしてくれてありがとう」


「ベル、みゆの事は気にしなくて真面目な話言って良いぞ。こいつ一応もう五年生で高学年……って、そんなん言っても分からないか。まあ、アレだ。気にしなくて良い」


「ヒロくん……」


 ベルが俺に視線を向けて目を合わせ、それから直ぐにみゆを視線を落とす。

 そして、少しだけ躊躇ためらってから、言葉を続ける。


「みゆちゃん、あのね。今は魔族がいて、それだけじゃなくて戦争も始まりそうな時期だから、船が制限されている筈なの」


「そっか。じゃあ、見つけるの大変かも」


「うん。もしかしたら、私達がこれから向かう水の都フルート行の船は、全面休船かもしれない」


「そっかあ」


 成る程な。と、俺は納得した。

 確かに魔族だとか戦争だとか、あまり子供には聞かせたくない内容ではある。

 と言っても、みゆが相手になら気にしなくて良いだろう。

 みゆは俺より異世界に馴染むのも魔法を使うのも早かったし、妙な所で大人な所がある。


 とまあ、それはともかくとして、ベルの言う事も確かにって案件だった。

 俺は何も考えていなかったが、言われてみれば納得の理由だ。

 こんな大変な時期に、船がそんな簡単に乗れるわけがない。

 しかも、俺達が向かおうとしているのは、水の都フルートと言う海底国家バセットホルンの首都。

 戦争間近な国の首都行きの船に、よそ者がそう簡単に船に乗せて貰えると思えないし、なんならそもそもとして船が出ていなくてもおかしくはない。

 ベルの心配は最もだったと言うわけだ。




 船着場までやって来ると、そこはにぎやか…………と言うよりは、騒がしかった。

 雰囲気はあまり良い雰囲気では無く、何と言うか不穏だ。


「二人とも何処かな?」


「いないね~」


 ベルとみゆが呟き、周囲をキョロキョロと見回す。

 ピュネちゃんも二人の姿をのほほん顔で楽しそうに見ている。


 フウラン姉妹を今直ぐに見つけ出さなければならないと言うわけではないので、俺はフウラン姉妹では無く、不穏な雰囲気をだしている騒がしい人達に視線を向けて耳を傾けてみた。


「シャーン海賊団が町で暴れたらしいぞ」


「くそ。こんな時に駐屯兵は何やってるんだ!?」


「あんな奴等に期待するなよ。どうせ役にも立たねえ」


「おい、聞いたか? この町に封印の巫女が来てるって噂だぜ」


「はあ? 封印の巫女だあ? 汚れた巫女が何しに来やがった」


「どうせまた魔族から逃げてるんだろうよ」


「違いねえ。汚れた巫女は俺達の命なんかより、自分の命の方が大事だからな」


「もしかしたら、俺達がこの町から船に乗って逃げられないのも、汚れた巫女のせいなんじゃないのか?」


「絶対そうだ。もうこの町も終わりだ。シャーン海賊団に町を魔族から護ってもらう条件で町長が言いなりになっちまうし、俺達はどこへ逃げればいいんだよ?」


「これも全部あの汚れた巫女のせいだ」


 ……なんだこいつ等?


 正直言って、胸糞悪くて、はらわたが煮えくり返る思いになった。

 シャーン海賊団ってのはカルクって奴の海賊団で、あいつ等が暴れた事は俺達も関わっているから、まあ悪かったと思う。

 だが、他は別だ。

 ベルは確かに封印の儀式をして遺跡から逃げただろうが、その後は戦って来た。

 それを勝手に逃げてると決めつけて悪口を言って汚れた巫女だとか言ってるが、汚しているはこいつ等だ。

 この町の事情だって、ベルには全く関係ない事。

 それを全てベルの責任にするなんて堪ったもんじゃない。


 確かに、フロアタムを出る前に言われた通りだ。

 世間からは“魔族を世に放った汚れた巫女”と言われ、ベルはうとまれている。

 こんな連中がいる場所とはさっさとおさらばしたい所だが、そこでタイミング良いのか悪いのか「「ヒロ様~」」と、俺を呼ぶフウラン姉妹の声が聞こえた。


「「随分と早いですね。もう終わったんですか? しかも、何やら新人――――っがあ!? りゅりゅりゅ、龍族!?」」


 フウラン姉妹は目の前までやって来るなりピュネちゃんを見て驚きの声を上げ、左右対称に器用に驚きのポーズをとる。

 すると、周囲にいた何人かが俺達に注目して、更に何人かが目を見開いた。


「おい、あれ……。汚れた巫女じゃないか?」


「うそ……? 本当にいるの?」


「汚れた巫女だ! 間違いない! 俺はクラライトであいつの顔を見た事がある! 俺の息子を返せ!」


「私の息子も返してよ! お前が儀式を失敗したせいで、私の息子は遺跡で魔族に殺されたのよ!」


「夫を返して!」


「卑怯者!」


 最悪な事になった。

 フウラン姉妹の声で注目した奴等の中に、ベルの顔を知っている奴がいたのだ。

 そのせいで、周囲の奴等が全員でベルを睨みつけ、大声で罵声を浴びせながら近づいて来る。


「「も、申し訳ございません! ベル様!」」


「みんな酷い! べるお姉ちゃんに謝って!」


「フウ、ラン、お前等なあ……っ。いや、それよりも今はっ」


「わ、わた……私は…………っ」


 ベルが体を震わせて、自分に罵声を浴びせ近づく面々に怯えて一歩後退る。

 しかし、それ以降は恐怖で動く事も出来なくなり、その場で倒れそうになったのを俺が支えた。


「みゆ、俺に捕まれ! フウ、ラン、この場を離れるぞ!」


「うん!」

「「ラジャー!」」


 みゆが俺に捕まった直後、俺はベルとみゆに腕を回して掴んで、海賊どもから逃げた時の様に一気に跳躍して屋根の上に逃げた。

 そして、下で「やっぱり逃げやがった!」だの「また逃げるのかー!」とか騒いでる連中を一度睨み、この場から離れる為に駆けだした。







 どう逃げて来たのか……正直覚えてない。

 港町の連中が騒いだせいで、声が聞こえなくなるまで走り回った。

 ようやく声が聞こえなくなる頃には、町並みが寂れたものへと変わっていた。


 ……スラム街って感じだな。


 路上に倒れている人や、建物にもたれかかって座りうつむく人。

 誰も彼もが気力の無い顔で、さっきまでいた町並みとは全然違う。

 本当に同じ町の中なのかと疑問を持つほどに。

 だが、逃げる時にフードが頭から外れて、黒い髪が晒された俺達を見ても騒ぐ人は誰もいなかった。


「べるお姉ちゃん……」


 不意にみゆがベルの名前を呼び、俺はベルに視線を向けた。

 ベルはすっかり傷心して顔を曇らせていて、何て声をかければいいか分からなかった。

 フウラン姉妹も心配そうにベルを見て、焦った様子だ。

 かなり空気が重くなっている。

 みゆの言葉を最後に、誰も何も言わない沈黙の時間が流れ始める。

 だけど、そんな時だ。


「そう言えば、私ご飯まだだったんですよね~。お腹が空いちゃいました~」


 黙って立ち止まっていた俺達の沈黙を破ったのは、いつもののほほん顔でそう言ったピュネちゃんだった。

 まるでこうなる事が最初から分かっていたかの様に、さっき一緒に食事をしなかったピュネちゃんの落ち着いた言葉に、正直少し助けられた気がした。


「じゃあ、ご飯が食べられるところを探そっか」


 ベルが作り笑いをして答えると、ピュネちゃんが「そうしましょ~」と微笑んだ。

 作り笑いのベルとのほほん顔のピュネちゃんが微笑み合い、一応ではあるが、場の空気は軽くなった気がした。

 だが、何ともやりきれない気持ちが、心の中でモヤモヤと膨れ上がっていった。


「お兄ちゃん」


 不意にみゆに声をかけられて、腕を思い切り引っ張られる。

 そして、腕を引っ張られて俺の顔がみゆに近づくと、みゆが俺の耳に口を近づけて声を潜めて話しだす。


「しっかりしなきゃ駄目だよ。べるお姉ちゃんをお兄ちゃんが支えないと」


「……ああ、そうだな」


 情けない。

 妹に気を使わせてしまった。


 みゆが俺から離れて、ベルの手を掴んで繋ぐ。

 ベルは相変わらず無理して笑っていたけど、みゆが笑顔を向けると、少しだけそれも和らいだ気がした。

 フウラン姉妹も調子を取り戻して、ベルとみゆの目の前まで移動して、左右対称にポーズをとりドヤ顔になる。


「「そう言う事なら、我等フウラン姉妹にお任せあれ! 以前この町に来た時に、このスラム街も調査済みでっさー!」」


「おお。ご飯が食べられるとこあるの?」


「「一つだけありまする。さあ、こちらへ~」」


 フウラン姉妹が左右対称にクルクルと回ってポーズをとり、先導して歩き出す。



 フウラン姉妹の案内で歩いて行くと、結構ボロい酒場に到着した。


「おい、フウラン姉妹。ここ酒場じゃねえか。俺達未成年だぞ?」


「「何を仰るヒロ様~。ヒロ様が十六でベル様も既に十五。何も問題は無いですよん。みゆ様も保護者同伴なら余裕で入れるんだぜい」」


 そう言や、この世界って十五で成人扱いなんだっけか……?

 だけどなあ、流石に不味いだろ。


 なんて事を思っていると、俺を置いて全員が酒場に入って行く。

 終いには、みゆが顔をひょっこり出して「お兄ちゃん遅い」なんて言ってきた。

 俺以外が店の中に入って行った手前、もう後戻りは出来ないなと、俺は観念して酒場に入る事にした。

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