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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第3章 想いの欠片
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3話 トラブル発生

 メレカさんが一ヶ月後に処刑されると聞いた次の日。

 俺達は海底国家バセットホルンの女王の住む“水の都フルート”へ向かって出発した。


 事態は最悪な状況へと向かっている。

 俺達を驚愕させたのは、メレカさんの処刑宣告だけでは無かった。

 メレカさんについて行ったナオも失踪して行方不明となり、情報が全く無くて無事かどうかが分からない。

 俺達は一刻を争う事態におちいっていた。


 この事態をどうにかする為に、俺と一緒にバセットホルンに向かうのは、封印の巫女であるベルと俺の妹のみゆ。

 それから、今は亡き長老ダムルの近衛騎士だったフウラン姉妹だ。

 ウルベやミーナさんも一緒に行きたがっていたが、今は自分の国が大変な時であり、チーワも支えなければならない為にそれは出来なかった。


 そうして王都を出て数日が経ち、俺達はトライアングルと呼ばれる港町へと辿り着いた。


 港町トライアングルには、三角海月さんかくくらげと呼ばれているトライアングルジェリーフィッシュが生息している。

 どんな生物かと言うと、簡単に言えば空飛ぶカラフルなクラゲだ。

 赤や青や緑や黄など様々な色の空飛ぶクラゲがいて、それがとても綺麗で美しいイルミネーションを作りだし、それを見に観光に訪れる人が多いのだとか。

 実際に色んな種族の人達が町に来ていて、初めて見る種族もちらほらと目に入る。


「お兄ちゃん、凄いよ! クラゲが空を飛んでる!」


「こら。顔を上げるな」


 顔を上げて目を輝かせたみゆの頭を掴んで、直ぐに顔を下げさせる。


「ちょっとくらい良いじゃんか」


「忘れたのか? 俺達は正体を隠してるんだ。目立つ行動は禁止なんだよ」


「……はあい」


 みゆはまだ納得いかないと言いたそうな顔をしていたが、返事をしてはしゃぐのを止めた。


 みゆに話した通り、俺達は身分を隠して行動していた。

 理由はある。


 まず、封印の巫女の存在……ベルの存在を隠す為だ。

 ベルはこの世界の殆どの人から悪く見られている。

 隠さなければいけないこの理由を最初に聞いた時は驚かされ、これには納得いかなかった。

 だが、納得出来なくても、無理にでも受け入れなければならない。


 原因は封印の儀式の失敗だ。

 トランスファやタンバリン、それから王都フロアタムでは全くそんな感じはしなかったが、それはそこを治める者達が理解のある者達だったからだ。

 トランスファは英雄召喚の儀式を執り行う場が近くにある為、そこに暮らす人々は邪神復活の際の対策を代々受け継いでいた。

 タンバリンは王族の関係者がいた為、何かあった時は巫女をサポートする様にとしていたし、何より村を救ったベルを悪く言う様な人は誰もいない。

 王都フロアタムはクラライトと友好関係の深い国の中心だし、タンバリンと同じ様に、助けてもらった恩人を悪く言う人はいない。

 しかし、ここから先はそうじゃない。


“魔族を世に放った汚れた巫女”


 それが、今この世界で暮らす人々の見解けんかいだ。

 悪いのは邪神が率いる魔族であり、ベルじゃない。

 本当に馬鹿げているが、それでもこれがこの異世界の現実だった。


 それから、俺とみゆ、そしてベルの髪の毛の色だ。

 ベルは邪神から魔力を奪われて、髪の色が変色し、漆黒を思わせる様な深い黒に染まった。

 そして、俺とみゆは日本人で、元から黒い。

 髪の毛が黒色と言うのが、この世界では異質なのだ。

 この世界では毛薄人けうすびと……いや、【ヒューマン】と呼ばれる俺やみゆやベルの種族には、黒い髪の毛を持つ者がいない。

 つまり、俺達ヒューマンが黒い髪の毛と言うのは、イコールで邪神に関わって命が奪われずに助かった者。

 すなわち、女であれば巫女である可能性が高いと言う事に繋がる。


 ウルベから聞いた話では、タンバリンの生き残った住人達は、かなり運が良かった様だ。

 王都の復旧作業と同時に調べた結果だが、邪神に魔力を奪われた人達は高確率で殺されていたのだ。

 だから、男である俺ですら、この地毛の黒を見られるわけにはいかなかった。


 結果、深みのあるフード付きのローブを羽織い、俺とベルとみゆはフードを深く被って行動している。

 顔を上げて少しでも黒い髪の毛を見られてしまったら、面倒な事になりかねないからだ。

 フウラン姉妹はそんな俺達のサポートと、魔車の操縦をしてくれている。

 それに、身分を隠す為に、フウラン姉妹には俺とベルを名前で呼ぶようにしてもらっている。

 元々は英雄様と巫女様と言っていたので、誰かに聞かれでもしたら大変だからだ。


「ここから先は海に潜れる船での移動だったよな?」


 みゆが顔を下げて直ぐに、俺はベルに尋ねた。

 すると、ベルが頷いて、声を潜めて答える。


「うん。でも、急の事だったから、ウルくんも船の準備が出来なかったんだよね。だから、今からフルート行の船を探さなきゃだよ」


「まあ、仕方ないよな。……しかし、本当に人が多いな」


「「この港町は今のところ平和ですからね~。今は観光よりも逃げ延びて来る人も多いですよん。と言っても、ヒロ様のおかげで、魔族なんてこの国には殆どいないですけどねん」」


「そう考えると、やっぱりクラゲを見に来てる人ばかりなんだ……ろ……な?」


 不意に、ポスターが俺の目に映る。

 異世界でポスター? とも思うが、重要なのはそこじゃない。

 俺はその謎のポスターを見て、目を見開いて驚いた。


「サルガタナス一味の大サーカス!?」


「「あ~。それ、見ちゃいましたか」」


「見ちゃいましたかって、どう言う事だよ? サルガタナスって、メレカさんとフウとランで追いかけて、倒したんじゃなかったのか!?」


「「お兄ちゃん、声大きいよ」」


「――っあ。すまん」


 あまりにも驚きすぎて、忍んでいる事を忘れて、つい大声を上げてしまった。

 が、しかしだ。

 マジでこれは大変な事だ。


 魔人ベレトを倒した後に、魔人サルガタナスの目撃情報が入り、メレカさんとフウとランが数日間サルガタナスを追いかけていた。

 そして、無事に解決したと言って戻って来た。

 俺はそれを聞いて、サルガタナスを倒したのだとばかり思っていた。

 だが、実際には違っていたのだ。


 まさか、操られているのか!?


 ミーナさんの例だってある。

 操られたうえで戻って来て、俺達の情報を魔族に流しているのかもしれない。

 もしそうだとしたら、メレカさんが国に帰ったのも、何か魔族達の考えが……と思ったが、まったくの見当違いだった。


「「改心したんですよ。超絶にびっくり仰天ですよねん」」


「は? 改心……? え? マジなのか……?」


「「マジもマジで大マジですよ。何なら会いに行きますか? そんな暇は無いですけど」」


「…………やめとく」


 何がどうなったか知らないが、一先ずはフウラン姉妹を信じる事にした。

 と言うか、ポスターにはイラストが描かれていて、開催場所だって書いてある。

 しかも、改めて町の様子を見てみると、そのポスターに書かれたサーカスのパンフレットを配っている子供までいた。


 どうなってんだ……?


 マジで意味が分からないが、本気で害は無さそうだ。

 パンフレットを配る子供に魔力を見る目を向けても、特に何も無い。

 いや、魔力が無い。

 まさか死人!? なんて事を思ったが、魔力を持たないドワーフと言う種族らしい。

 死人であれば操る為の魔石やらが必要になるが、そう言うのも無さそうだ。

 実際、表情が生き生きとしているし、死人って感じもしないので間違いないだろう。

 最早認めるしかない。


 と、そこで俺は気が付く。

 俺がまさかの展開に驚いている間、ベルとみゆは重要な話を進めていた。


「聞こえる?」


「うーん……。あっちから音が聞こえるかも」


 重要な話とは、楽器魔法の事だ。

 やはりと言うべきか、ここ港町トライアングルにも楽器魔法があるようだ。


「「私達は港で船を探しますので、ヒロ様とベル様はみゆちゃんと一緒に楽器魔法を探して来て下さい」」


「そうだな。今は……丁度昼過ぎか。夕刻前に船着場で集合って事で良いか?」


「「わっかりました~。では後ほど落ち合いましょ~」」


「また後でね」

「またねー」


 去り行くフウラン姉妹と手を振って分かれるベルとみゆ。

 あまり目立ってほしくはないが、このくらいなら大丈夫だろう。




 みゆだけが聞く事が出来る音を頼りに町の中を進んで行くと、噴水のある広場に辿り着いた。

 噴水の上には正三角錐のモニュメントがあり、広場にはそこそこ人が集まっていた。


「あの三角のから音が聞こえる」


「あれか……。困ったな。流石に人前で封印の解除は出来ないよな」


「そうだよね。そんな事したら目立っちゃうもん」


「どうしよっか? ご飯先に食べる?」


「なんで先にご飯なんだよ」


 みゆの提案に冷や汗を流して答えると、みゆが自分のお腹を押さえて眉根を下げる。


「お腹空いたんだもん」


「うんうん。もうお昼だし、お腹空いちゃったよね。先にご飯にしよっか」


「べるお姉ちゃん好きー!」


 みゆがベルに抱き付いて、ベルも嬉しそうにみゆを抱きしめる。

 こう見ると、仲の良い姉妹みたいだなと考えたが、それは言わないでおく。

 意識し過ぎだとは思うが、自分の妹のみゆとベルが姉妹みたいだなんて、それだとまるで……いや、これ以上は考えないでおこう。


 みゆがベルの手を掴み、二人は手を繋いで昼飯を食う場所を探し始める。

 俺は念の為に周囲に注意しながら、二人の後ろを歩いた。

 するとそんな時だ。

 少し先にある店の扉から、男が吹っ飛ばされた様に扉を突き破って飛び出して来て、そのまま地面に転がってベルとみゆの目の前で倒れた。


 ベルが咄嗟にみゆを引き寄せて護るように抱きしめ、みゆは驚いて口をポカーンと開けて目を瞬かせる。

 そして、目の前で倒れた男が起き上がって、ベルとみゆに視線を向けた。


「なに見てやがる!?」


 突然怒鳴り声を上げた男にベルがビクリと体を震わせて、みゆもベルを強く抱きしめる。

 俺は直ぐに二人の前に出て、その男を睨みつけた。


 男の風貌は、ガラの悪いおっさんと言った感じだ。

 身長は俺より頭一つ分大きく、更に体もデカいと言う言葉がしっくりくる。

 何となく海賊の様な服装で腕が見えていて、その腕の筋肉はかなりのものだった。

 腰の左側にはサーベルがあり、右側には銃があった。

 それから、酒とタバコの臭いが凄かった。


「なんだてめえ? その目、気に食わねえな」


「悪いな。この目は生まれつきだ」


 男の言葉によくある返しをしてやると、男は目を鋭くして俺を睨んだ。

 するとその時、破壊された扉から、ぞろぞろと何人……いや、十数人もの男達が現れた。

 その男達は全員が目の前の男と同じ格好をしていて、種族は様々。

 そいつ等は現れたと思ったら、俺とベルとみゆを囲って視線を向けて来た。


 囲まれた……。

 面倒なのに絡まれちまったな。

 っつうか、どいつもこいつも酒とタバコの臭いが強いな。

 酔っぱらいの相手とかマジでごめんだぞ。


「デリバー! 誰だあ? そのガキ共はあ! てめえの知り合いかあ!?」


 面倒だと思っていたら、更に面倒臭そうな奴が現れた。

 灰色の髪に、赤紫色の瞳。

 目は鋭く尖っていて、上半身はタンクトップだけで筋肉が凄くごつい体。

 身長は馬鹿みたいにデカくて、多分二百五十センチはある。

 かなりデカいが恐らく人……ヒューマンだ。

 そして、顔には額から口にかけて斬られたような傷跡があった。


 こいつもこいつで酒臭いし、口にはタバコをくわえている。


「んなわけないだろ。知らねえガキ共だ。それより、よくも蹴りやがったな、カルク」


「てめえがキャプテンである俺に勝ちを譲らねえからだ。反省しろ」


「「「ギャハハハハハハハッッ」」」


 何なんだこいつ等?


 俺とベルとみゆを無視して、酔っぱらいどもが笑い、騒ぐ。

 勿論周囲を歩いていた人達は、俺達を含めて、この集団に関わり合いにならない様に避けている。

 ベルもみゆも困惑していて、心配そうな表情をしていた。


「一人、中々良い体の女がいるな」


「――っ」


 カルクと呼ばれた最後に出て来たデカい奴が、ベルの体を舐める様な目で見て舌なめずりをする。

 俺はそいつからベルを隠すように立ち睨みつけた。

 すると、そいつは眉間にしわを寄せ、俺を睨み返した。


「おいガキ。女の前でナイト気取りか知らねえが。俺に向けてその目はいけねえな。俺は泣く子も黙るシャーン海賊団の船長様ってやつだ。ここいらでは有名なな」


「は? 知るかよ。おっさん、お前こそ痛い目にあいたくなかったら、さっさとどっか行った方がいいぜ」


 売り言葉に買い言葉をしてやると、この男だけでなく、周囲にいる連中も俺を鋭く睨んだ。

 しかし、言われて納得だ。

 パッと見た感じ海賊に見えたが、やはりその通りだった様だ。


 俺と船長と名乗ったカルクが睨み合い、周囲の連中が腰に提げた武器を手に取ろうとする。

 そんな中、最初に出て来たデリバーと呼ばれた男だけは、他の連中と違う行動に出る。

 その男だけは、やれやれとでも言いたげな顔をカルクに向けた。


「いい体の女を見ると直ぐこれだ。今日だけで三人目だぞ? カルク、てめえのそれで俺達は苦労してんだ。分かってんのか?」


「あ゛あ゛? キャプテンは俺だぞ、デリバー。てめえ等にもおこぼれをやってんだ。悪く言われる筋合いはねえ」


「貰ってやってるのは他の連中で俺じゃねえ。女を嬲る趣味は俺ぁもってねえからな」


 何だかよく分からんが、こいつ等がとんでもなくろくでもない連中なのは確かだ。

 出来ればこれ以上関わり合いたくない。

 多分だが、この手の連中は力で追い払っても、必ずストーカーの様に地の底まで追いかけて復讐しようとする。


 俺は二人が喋っている今の内に逃げようと考え、ベルとみゆの手を握った。

 そして、能力すきるの力を使って、空高く跳躍。

 家の屋根の上まで跳んで、連中からの包囲網を突破した。


「飛んだ!? 鳥の獣人か!?」


「羽なんてねえだろ!」


「キャプテン! あの野郎凄い跳びましたぜ!」


「何の獣人だ!?」


 俺達を囲っていた下っ端連中が騒ぎ出し、カルクとデリバーが俺達を見上げる。

 直ぐに追って来る様子は無かったが、カルクの目を見て、俺は急いでこの場を離れようと考えた。

 そして、ベルをお姫様抱っこして、その上にみゆを乗せて屋根の上を駆けだした。


「ひ、ひひひひひひひ、ヒロくん!?」


「悪い! あいつ等から逃げる為に、嫌だろうが少しの間だけ我慢してくれ!」


「い、嫌!? そ、そそそ、そんな事はああああああ…………」


 ベルが突然の俺の行動に頭を混乱させて、目をクルクルと回す。

 よっぽど嫌なのかもしれん。

 ちょっとショックだけど、いきなりお姫様抱っこなんてする俺が悪いんだし、二度とやらないでおこう。


「お兄ちゃん! 追って来たよ!」


「やっぱり追って来たか!」


 みゆが俺の肩から後ろへ向けて顔を出し、屋根の上にわざわざ上って追って来た連中に向かって指をさす。


「みゆ、後ろはお前が見ていてくれ! ヤバそうだったら教えてくれ!」


「うん!」


 本当はベルに頼もうと思っていた事だが、未だに目を回していて、それどころではなさそうだった。


 しかし、連中が追って来るんじゃないかとは思ったが、ここまで執念深く追いかけてくるとは思わなかった。

 屋根の上を次から次へ移動しながら逃げていたが、連中の中に鳥の獣人もいるらしく、空を飛んで追って来てやがる。

 更に、あの船長のカルクってデカい奴だ。

 あの野郎が他の連中と比べて滅茶苦茶な追いかけ方をして来る。

 水の魔法が使えるらしく、屋根の上に津波を発生させて、その上をサーフィンでもするかの様に追って来ていたのだ。

 おかげで屋根の下が突然発生した水で大騒ぎになっているし、完全に大惨事になっていた。


「お兄ちゃん急いで! 津波が来るよ!」


「分かってる!」


 何なんだよあの野郎!

 マジで頭おかしいんじゃねえか!?

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