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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第2章 魂の帰路
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幕間 妹は恋バナが好き

 それはある日の事。

 異世界について来てしまった妹のみゆに、スマホで撮った景色の画像を見せようとした時の事だった。


「電源が……入らない…………」


「お兄ちゃんはこの世界に来てどれだけたったの?」


「え? 多分一ヶ月くらい?」


「お兄ちゃん……」


 みゆの冷ややかな視線が俺に向けられる。

 そして、呆れる様に口を開いた。


「そんなに時間が経ってたら、電源なんて入るわけないよ」


「いや、でもずっと電源オフにしてたぞ?」


「あのね、電源オフでも、元々満タンじゃなかったんだよね? それにこっちの世界で使ってたんでしょ? だったら当たり前だよ」


「そう言うもんなのか?」


「うん」


「マジかあ……」


 残念過ぎる。

 まさか電源をオフにしていても、電源がつかなくなるなんて事が起きるとはって感じだ。


「あ、そうだ。お兄ちゃん、べるお姉ちゃんが大事なお話があるって言ってたよ。この後お昼ご飯を食べてから来てほしいって」


「ベルが? なんだろ?」


「愛の告白だったりして」


「あのな。そんなわけないだろ」


「えー」


「ホントお前は直ぐ恋バナにしたがるな」


「でも、お兄ちゃんはまんざらでもないんでしょ?」


「……みゆ、忘れたのか? 俺は好きでも無い女子に告白しようとした男だぞ。そう言うのとは無縁なの」


「えー。お兄ちゃん、つまんない」


「つまんなくて結構だ」


 最近、こっちの世界に来てからというもの、みゆの恋バナ好きが加速している。

 多分セイとチーワの関係だったり、実はお似合いなウルベとミーナさんの関係だったりの影響だと思うが、俺にまでそれを向けないでほしいところだ。

 しかも、俺とベルの関係はそう言うのじゃない。

 俺達の目的は邪神を封印する事。

 そんな色恋沙汰なんてしてる場合じゃない。

 俺にならまだ良いが、ベルをそんな目で見るのは迷惑なんだからやめてほしいと言っても聞かないので、妹のこれに俺は最近頭を悩ませている。


 因みに、ある意味一番悩めるのは、みゆとナオのコンビだ。

 最早完全に頭がお花畑で出来ているんじゃないかと思える様なコンビで、歳も近いからか仲が良く、みゆがナオは将来のお姉ちゃん候補と言っている。

 この間なんか「なおちゃんはもう結婚できるから、後はお兄ちゃんが結婚出来る歳になるだけだね」なんて言いだした。

 本当に頭が痛い。


 尚、この世界の人間の成人年齢は十五らしいので、実はこの世界であれば俺も結婚出来る歳らしいが、みゆはそれをまだ知らないので教えていない。

 と言うか、教えたら教えたで煩いだろうから言いたくない。


 それはともかくとして、昼飯を食べた後、俺はベルが待っているらしい王宮と宮殿の間にある中庭へと向かった。

 そして、凄いバレバレの尾行をしているみゆが、俺の背後で隠れたつもりで追って来た。


「ヒロくん、来てくれてありがとう」


 俺が側まで行くと、ベルがそう言って笑顔を向けた。

 なんと言うか、ベルは相変わらずの美少女だ。

 いつもの緋袴ひばかまの短い巫女装束の姿だが、それがまたよく似合っていて可愛い。

 それに、みゆが変な事を言うもんだから、少しだけ意識してしまう自分がいる。


「ん。ま、まあ、俺は暇だしな。それで話って何だ?」


「うん。メレカからまた手紙が届いて、後少ししたら帰ってくるみたいなの」


「おお。そうなのか。もう随分と会ってないから、すげえ久しぶりだな」


「そうだよね。メレカがフロアタムを出て二週間近く経ってるもん。でも、結局その間に他の宝鐘の在り処は分からなかったけど」


「ああ。でも、一応ウルベが各国に使者は出してくれてるんだろ?」


「うん」


「それなら気長に待とうぜ」


「そうだね」


 ベルは頷いてくれたけど、普通に考えて俺は最低な事を言っている。

 何故なら、本当は違うけど、ベルが俺を召喚した事で寿命を削っているからだ。

 と言っても、それはベルがそう思ってるだけで、削られているのは俺の寿命だけどな。

 でも、ベルはそれを知らないんだから、本当は気が気でないのだろう。

 ベルは頷きながらも、少し顔の表情を曇らせていた。


「話ってのは、メレカさんの事か?」


「あ、うん。それもそうなんだけどね、そろそろ、今後の事を話し合おうと思って」


「成る程な。確かにメレカさんが戻って来るなら、次の目的地も決めておいた方が良いかもだな」


「うん。でも、丁度良かったよ」


「丁度良かったって、何がだ?」


「だって、みゆちゃんも連れて来てくれたんでしょ?」


「……そうだな」


 バレバレである。


 ベルが隠れている様で全然隠れきれていないみゆに視線を向けて、ベルとみゆの目がかち合う。

 みゆは驚いている様だが、我が妹ながらにポンコツだ。


「お兄ちゃんのバカ」


「いや、俺のせいじゃねえよ。それで、次の目的地は決めてるのか?」


「うん。一度クラライトに戻って、その後直ぐに東の国リュートに行こうと思うの」


「高山地帯が多い国だっけ?」


「おお。山登りだー。吊り橋効果が狙えそう」


「吊り橋効果……?」


 みゆの言葉にベルが首を傾げ、みゆがそんなベルに目を輝かせて目を合わせる。


「高い所にいるドキドキと、恋のドキドキが一緒になっちゃうんだよ」


「こ、恋……っ!?」


 どうやら、みゆのお花畑が始まってしまったようだ。

 ベルもベルでつきあいが良い。

 みゆにつきあって、驚いた顔をしている。


「あのな、みゆ。何度も言ってるけど、俺達はこの世界を救う為に旅をしてるんだ。そんな色恋沙汰にうつつを抜かしている場合じゃないの。いい加減分かれ」


「ええー。お兄ちゃんつまんなーい。恋だって大事だもん。お兄ちゃんの朴念仁」


「どこで覚えてくるんだよ、そんな言葉……」


 なんでもかんでも恋愛に結び付けようとして、否定したら朴念仁扱いとは……我が妹ながらに将来が不安だ。


「みゆみゆの言う通りにゃ! ヒイロはみゆみゆのお兄ちゃんなのに、何も分かってないにゃ!」


「――っ!?」


 突然背後から声がして驚いて振り向くと、そこにはナオがいた。

 ナオは凄く真剣な顔を俺に向けていて、ゆっくりと歩いて俺達に近づいた。


「ニャーの目標は強くって恋する兵士だにゃ! ヒイロと恋をして、子供もいっぱい作るんにゃ!」


「きゃー! 子供いっぱいだって、お兄ちゃん!」


「そ、そんな! 駄目だよ、ナオちゃん! ひ、ヒロくんには好きな人がいるんだから!」


「…………」


「お兄ちゃんの好きな人!? 誰!?」


「そ、それは妹のみゆちゃんでも言えないけど……」


「ええー」


「きっとニャーの事にゃ」


「ち、違うよ!」


 ……帰るか。


 女三人寄ればかしましいとはよく言うが、マジだよな。

 なんて事を思いながら、俺は中庭を後にした。

 と言うか、最早あの中には入りたくない。

 男一人だとすげえ落ち着かないって言うか、マジで気まずい。


「確保ー!」

「にゃー!」


「――っうお!」


 中庭を後にして直ぐ、俺はみゆとナオのタックルを背中に食らう。

 おかげで思いっきり受け身もとれずに倒れて、思いっきりあごを地面に打ち付けた。

 そして、俺の背中にみゆとナオが乗る。


「お兄ちゃんの話なのに、逃げちゃ駄目でしょー!?」


「そうにゃそうにゃ! さっさと観念して、ニャーとアバンチュールな夜を過ごすにゃ!」


「……いてえ。っつうか、なんだよ? アバンチュールな夜って。そんな言葉どこで覚えてくんだよ」


「みゆみゆに教えて貰ったにゃ」


「みゆ……後で説教な」


「説教が必要なのはお兄ちゃんでしょ!」


「大事な話の最中に何処かに行こうとしたヒイロが悪いにゃ!」


「俺のせいかよ」


「だ、大丈夫? ヒロくん」


 ベルの声がして顔を上げる。


「あ、ああ」


 やっぱり、ベルは優し――――ぶふっ!


 俺は突然の衝撃に吹き出して、ベルから顔を逸らす。

 と言うか、地面に顔を埋めた。


「――ひ、ヒロくん!?」


「にゃー?」


「……お兄ちゃんかっこ悪い」


「うるへえ………」


 俺が顔を上げて見た物。

 それは、ベルのノーパン姿だった。


 ホント、パンツくらい穿いてほしい……。

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