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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第1章 異世界召喚
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4話 微妙な空気

 異世界シャインベルに召喚されて旅だってから、一日が過ぎていた。

 目的地の王都フロアタムまでは遠く、今は徒歩でそれを目指している。


 クラライト王国と獣人国家ベードラの国境付近には、暴獣の巣と呼ばれる森があるらしい。

 そこを抜けた先にタンバリンと言う名前の小さな村があるから、まずはそこに向かうとの事だ。

 タンバリンに行けば乗り物が手に入るので、徒歩での旅はそこまでだ。


 そして今、俺は見渡す限り平野で見晴らしが良い場所を歩いている。

 見た事も無い動物が伸び伸びと生活している場所で、少しばかり目移りしてしまう。

 と言っても、それは気を紛らわす為でもあった。


 

 この世界に来て直ぐの時は、それどころじゃなかったから気が付かなかったが、とにかく空気が重いのだ。

 確かにメレカさんはずっと機嫌悪いのかってくらい睨んできてたし、ベルはよく見れば空元気な感じに見える。

 しっかり寝て冷静になったからこそ、ようやく俺にも二人の事がちゃんと見えてきたのだ。

 と言っても、決して二人の仲が悪いわけでは無い。


 しかし、会話が殆どなかった。

 まあ、メレカさんが先頭を歩いて、その後ろをベルが歩き、俺が一番後ろを歩くと言う縦一列が問題な気もする。が、それにしても気まずい雰囲気が流れている。

 ただ、その重い空気の原因は、正直察しはついていた。


 ベルは封印の儀式を失敗して、魔族をこの世界に解き放ってしまった。

 そしてそれが原因で大切な人を亡くして辛いのに、俺を気遣ってか平然を装ったり笑顔を作る。

 だけど、その平然を装う姿も笑顔も曇っていて、今の俺ならそれが無理していると分かる。


 メレカさんはベルと比べて平然と見えるが、たまに悲しそうな顔をする。

 そして、ベルをとても大事に気遣っている。


 二人が明るくなる様な話題を出せれば良いんだが、それも思いつかない。

 どうしたものかと考えていると、雨雲が空を覆い始めた。


「降りそうですね」


「うん。雨宿り出来そうな所を探さないと」


「そうだな」


「少し走りましょう」


 メレカさんの言葉を合図に、雨宿りの出来る場所を小走りして探す。

 そして、小走りをしながら俺はふと思う。


 二人とも速くないか?


 俺はそれなりに運動が得意で、足も速い自信があるし、持久力にも自信がある。

 実際に毎年学校行事のマラソンだとか体育祭で、かなり活躍している方だ。

 だが、そんな俺でも、メレカさんだけでなく年下のベルについて行くのがやっとだった。

 最早小走りどころか全速力くらいの勢いだ。


 おかげで直ぐに体力の限界がきた。

 だというのに、二人は余裕なのか、全くペースが乱れない。

 のちに聞いた話だと、メレカさんもベルも足の速さは平均的な速さで、持久力は少しある位だとか。

 信じられん。


 暫らく走ると、雨がいよいよ降り始めた。

 俺の体力はとっくに限界を迎えていて、かなりきつかったが、丁度その時に運良く雨宿りが出来そうな大木を見つける事が出来た。


「はあ……はあ……。あ゛あ゛~疲れたあああ」


 大木の根元まで避難すると、息を切らして肩を上下に揺らし、俺は崩れるように座り込んだ。

 肌に流れる汗もびっしょりで、汗なんだか雨で濡れたんだか分からない。


「大丈夫?」


 ベルが心配そうに俺の顔を覗き込む。

 美少女であるベルの顔が突然接近したもんだから、俺はドキッとして思わず顔をそむけた。


「あ、ああ。それより、本降りになる前に場所が見つかって良かったな」


 動揺したのを紛らわす為に言った言葉だったけど、どうやら当たっていたらしい。

 そう言って空を見上げると、さっきよりも雨が酷くなっていた。


「うん、そうだね」


 ベルが笑顔を俺に向け、それをチラッと見たが、その笑顔はやっぱりどこか儚げだった。


 この子は、これから先もずっと、こんな悲しい顔で笑い続けるんだろうか?


 ベルがこんな顔をするのは、今回が初めてじゃない。

 多分だけど、メレカさんに心配させまいとしているのだと思う。

 二人は主従関係では無くそれ以上の関係、家族の様に見えた。

 だから、そんな風に思えたのかもしれない。

 二人はきっと、俺と出会う前もこうして支え合ってきたのだろう。


 雨が本格的に降り始めると、動物達も雨宿りをしに大木に集まってきた。

 すると、動物を見て、メレカさんが安心した様に小さく息を吐き出した。

 そのメレカさんの様子が気になり、俺は「どうかしたんですか?」と尋ねてみる。

 すると、メレカさんは俺に一瞬だけ視線を向けて、質問に答えてくれた。


「ここに雨宿りをしに来たのが、静獣せいじゅうだけで良かったと思いまして」


「静獣……? なんですか? それ」


「もしかして、ヒロくんの世界には静獣がいないの?」


「いないな」


 ベルが少し驚いた顔をして、詳しく教えてくれた。


 まとめるとこんな感じだ。

 この世界では、ライオンの様な肉食の動物を【暴獣ぼうじゅう】と呼び、牛の様な草食の動物を【静獣】と呼ぶ。

 そして、暴獣と静獣をまとめて呼ぶ時は【野獣やじゅう】と呼ぶ。

 ただ、暴獣は人を襲って人肉を食らうのがいて、静獣は人々の生活でペットとして飼われたりするから、基本は別物として扱うため野獣とまとめて呼ぶ事はあまり無いようだ。

 雑食の犬みたいな動物は、この世界では暴獣にあたるらしいが、人を襲わないからペットとして普通に飼われるのだとか。

 まあ、実は肉食の猫なんかも暴獣だけど、普通にペットとして人気も高い様で、そこ等辺は俺の世界と変わらない。

 呼び方が違うってだけだ。

 因みに暴獣も静獣も食べれるそうで、流石に人間を食う暴獣や、犬や猫みたいな見た目可愛い系なのは食わないよな? って感じではあるが。


 ベルの説明が終わる頃、静獣達が突然騒ぎ出した。

 それに驚いて視線を向けると、メレカさんが鹿に似た静獣を一匹仕留めていた。

 そして、命の危険を感じた他の静獣達は、まだ雨が降っているにも関わらず一目散に逃げていく。


「何やってんですか!?」


「そろそろ昼食にしようかと」


「ちゅ、昼食ですか」


「はい」


 若干引き気味になる俺をよそに、メレカさんは手際よく仕留めた静獣をさばいて料理を始める。

 尚、包丁は無い。

 メレカさんは水の魔法を使って、ナイフの様な形状の物を水で作り、それで切っているのだ。


「それじゃあ俺も訓練するか。ベル、頼む」


「うん、頑張ろうね」


 ベルに頼んで、俺も魔法の訓練を始める。

 二人と話し合った結果、メレカさんが料理をしている間は、ベルに頼んで魔法の訓練をする事にしたのだ。

 そう言うわけで、料理の邪魔をしないように、なるべく離れた場所に移動して訓練を開始する。


「魔力をイメージしやすい様に、私の魔力をヒロくんの中に流すから、魔力を感じ取れる様に頑張ろう」


「おう。よろしく」


 返事をすると、ベルが「手が大きいね」なんて言いながら、両手で俺の手を握った。

 不意打ちと言うわけでは無かったけど、女の子に免疫の無い俺には荷が重く、かなりドキリとしてしまう。

 だけど、俺は頑張った。

 今はドキドキしてる場合ではないのだ。

 魔力を感じとる為に、両手で握られた手に集中する。

 そして、次第に何かが手に流れ込んでくる感覚を覚え――


 ――れるかあああっっ!

 すっげえドキドキするに決まってるだろおが!?

 普通に考えて、異性なんて母親と妹くらいしか会話しねえんだぞ!

 こんな美少女に両手で手なんて握られて耐えられるかあああ!

 童貞なめんなちくしょお!


 最早頭の中はぐちゃぐちゃだった。

 と言うか、平然を装う為の集中しか出来ていない。

 結局、終始ドキドキしっぱなしの俺は、情けない事に何の進歩もなく終わった。




 メレカさんの料理はとても美味しかった。

 出された料理は、ステーキとトランスファで仕入れた野菜のサラダとスープに、それからパンだ。

 野生の動物……じゃなくて静獣の生肉なんて大丈夫なのか? なんて事も思ったけど、火を起こす為の魔石を持ち歩いているらしく、その心配はいらなかった。

 と言っても、俺の場合は肉の焼き加減を聞かれて「ミディアムで」と答えて、その通りの物が出て来たので、生肉みたいなものかもだが。

 まあ、火が通ってるし大丈夫だろう。って事にしておく。


 食後の休憩をしていたら、いつの間にか雨も止んでいたので、目的地を目指して再び歩き出す。

 歩いている間は会話がなく、ただひたすら歩き続けるだけだ。

 メレカさんが先頭を歩き、その後ろをベルが歩く。

 そして俺が一番後ろ。

 この順番は変わらない。

 やはり重い空気はそのままで、何と言うか居心地が悪い。


 このままじゃ駄目な気がするな。


 そう感じた俺は唾を飲み込んで、一度深呼吸する。


 よし。


「なあ。この世界の事、他にも色々教えてくれないか?」


「他にも?」


 後ろから話しかけるとベルが振り向いて、俺の隣に並んで微笑む。


「いいよ。何から聞きたい?」


 ベルの微笑んだ顔にドキッとして、俺はそれを直視で出来ずに目を逸らして前を向く。


「そうだなあ……」


 少しでも場の空気を軽くしたくて俺は色々な質問をして、ベルは嫌な顔をせず全て答えてくれた。

 そのおかげか、メレカさんとも少しだけだけど、気が付けば仲良く話が出来るようになっていた。

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