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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第2章 魂の帰路
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40話 捕らわれた父

※今回はウルベ視点のお話です。



 あれはそう。

 ぼくとミーナ、そしてフウとランの四人で魔族達から逃げ出す時の事だった。


「あの男……ネビロスで間違いないですわ」


 隠れながら王都を進んでいたぼく達は、王都の出入口で魔人の男を見かけた。

 その男が魔人ネビロスだと分かったのは、ミーナが男を見て初めにネビロスだと言ったからだ。

 そして、ぼくもフウもランもそれを疑わなかった。

 何故なら、ミーナは魔人ネビロスと戦った経験があるからだ。


 ぼく達は驚き、魔人ネビロスが復活したのだと知った。

 そして同時に、魔人ネビロスが本物かどうかを、ぼくは確認しようと考えた。


 もし本物であれば、魔族達は死んだ魔族を復活させる手段を持っている可能性がある。

 もし偽物であれば、姿を変える事の出来る魔族がいるかもしれないし、知っておかないと後々厄介な敵になると考えたからだ。

 だけど、それはミーナに止められた。


 魔人ネビロスの実力はぼく達が束になっても敵う相手では無く、英雄であるヒロの力が必要不可欠だと。

 だから、ぼくはミーナの言葉に従った。

 戦った経験の無いぼくより、経験のあるミーナの判断に従った方が良いと考えたからだ。

 だけど、事態は良くない方向へと進んだ。


 ぼく達は見つかったんだ。

 十分に警戒はしていた。

 しかし、王都を出た丁度その時に、魔人ネビロスの襲撃にあった。

 そしてその時、魔人ネビロスから転生者の事を聞かされ、見逃された。


“英雄気取りのヒーローに言っておけ。前世の恨みを忘れはしない”


 魔人ネビロスはそう言っていた。

 恐らく、ヒロにそれを伝えさせる為に、ぼく達は見逃されたんだ。

 しかしまさか、その魔人ネビロスが、ミーナの知っていた魔人ネビロスとは全くの別人だとは思いもしなかった……。







 王宮と宮殿の間にある中庭で魔人ネビロスとの戦いが始まって、かなりの時間を浪費してしまった。

 近くでは、猫の姿をした魔人ベレトがぼく達の戦いを眺めている。

 今のところ様子を見ているだけにとどめている魔人ベレトも、きっと魔人ネビロスを倒せば動き出す。

 いいや、それは楽観視だ。

 いつでもこの戦いに介入してきてもおかしくないと思って、警戒をする必要がある。

 だけど、ぼくにもメレカさんにもそんな余裕は無い。


 魔人ネビロスの強さは異常だ。

 メレカさんが接近戦で相手をしてくれていなければ、今頃ぼくは死んでいる。

 そのメレカさんも魔銃まじゅうがあるとは言え、本来のメレカさんの戦い方とは違う戦い方をしていていると言うのもあって、かなり苦戦している。


 メレカさんは本来後ろからサポート、もしくは遠距離や中距離からの戦いを得意とする。

 だけど、ぼくは遠距離でしか戦えない。

 かつて、伝道師クンエイの下で修行をした経験があるとは言え、ぼくにナオ程の接近戦での才能は無かった。

 一応近接用の武器を出す魔法はある。

 だけど、所詮は付け焼刃だ。

 だからこそ遠距離を重点的に鍛えたけど、それが今はあだになっている。

 何故なら、ぼくよりもメレカさんの方が遠距離からのサポートも攻撃も格上だからだ。


 しかし、弱音を吐くつもりは無い。

 ぼくは今ぼくが出来る事をするまでだ。


「メレカさん! 七時の方向に鉄のシールドを張ります!」


「はい!」


 現在、魔人ネビロスが繰り出した闇属性のマジックボールに、メレカさんは囲まれていた。

 その中でも、恐らく対処し辛いであろう物に狙いを定めて、ぼくはメレカさんを護るように魔法で鉄のシールドを出現させた。

 それと同時に、一時の方向から魔人ネビロスがメレカさんに飛び掛かり、掌底を繰り出す。


 メレカさんはそれを変形させて水の刃を持つ魔銃で上手く受け流して、流れる様な動きで魔人ネビロスを斬り払った。

 しかし、魔人ネビロスはメレカさんよりパワーもスピードも上だ。

 メレカさんの攻撃をかわして、次の掌底を繰り出す。

 そして、それと同時にメレカさんを囲うマジックボールの一つが、メレカさんに向かって行った。


「あの位置なら! ストーンニードル!」


 メレカさんに向かって行くマジックボールを、ぼくの魔法で出した石の棘で相殺する。

 魔人ネビロスのマジックボールは通常よりも威力が高いが、遠距離を得意とするぼくの魔法でなら、相殺くらいなら可能だった。

 こうして、鉄のシールドと石の棘を使い分けてメレカさんを援護しているけど、どうにも歯がゆい。

 本当はもっとメレカさんの役に立ちたいけど、力不足なのはもちろん、魔人ベレトを無視出来ない。


 あまり魔人ネビロスばかりに構っていて、魔人ベレトの動きに気付かずに攻撃をされてしまっては話にならない。

 実際に魔人ベレトはぼく達の戦いの様子を見ながらも、殺気を漂わせているままだった。

 気を抜いたら、今にも襲ってきそうな程の殺気を周囲にばら撒いている。

 そして、魔人ベレトがついに動きを見せる。


「おーい、ネビロス。もう待ちくたびれた。吾輩も小僧で少し遊ぶ」


 やっぱり警戒をしていて正解だった。

 ぼくが石の棘で魔人ネビロスの魔法を相殺して直ぐに、魔人ベレトがそう告げて、魔人ネビロスの返事も聞かずにぼくに向かって駆けだした。

 そして、一瞬でぼくとの間合いを縮めた魔人ベレトは爪を伸ばし、それをぼくに向かって振るった。


「スティールシールド!」


 警戒をしていたおかげで、寸での所で魔人ベレトの攻撃を盾で受け止め、盾が斬り裂かれる。

 だけど、これにはつくづく嫌気がさした。

 警戒して十分注意をしていたのに、寸での所まで反応出来ず、しかも盾まで一撃で斬り裂かれてしまったんだ。

 もしこれが不意打ちであれば、ぼくは今頃死んでいた。


「ウルベ様!」


「貴様の相手は俺だ! 余所見をしてる余裕は無いぞ!」


 次の瞬間、メレカさんが魔人ネビロスに蹴られ、勢いよく吹っ飛ばされた。

 そして、その先にあった王宮の壁に激突して、そのままの勢いで壁を破壊して王宮内に転がり込んだ。


「――メレカさん!」


「馬鹿め。わざわざあそこに飛ばすとは」


「――っ?」


 魔人ベレトを前にして、メレカさんに気を取られたぼくは隙を見せていた。

 しかし、魔人ベレトもまた、ぼくと同じように隙を見せて魔人ネビロスを睨んだ。


 あの場所に何かあるのか!?


 ぼくはそう考え、魔人ベレトが魔人ネビロスを睨んでいる間に、メレカさんが転がり込んだ王宮内へと急いで走った。


「ネビロス! 分かってるだろうな!?」


「――っ。はい」


 明らかに魔人ベレトが魔人ネビロスに向けて怒っている。

 そして、その理由が分かった。


 メレカさんが吹っ飛ばされて破壊された場所から王宮内に入ると、そこには丁度立ち上がる所のメレカさんがいた。

 そして、この部屋の中には魔法陣が描かれていて、その中心にぼくのの父さん……この国の王、長老ダムルが倒れていたんだ。


「――父さん!?」


 ぼくは直ぐに父さんに近づこうとした。

 だけど出来なかった。

 魔法陣は結界だったんだ。

 そしてその結界はとても頑丈で、結界の中に入る事が許されなかった。


「父さん!」


 ぼくは結界を叩き、父さんをまた呼んだ。

 しかし、返事は返ってこない。

 すると、メレカさんがぼくに近づき、肩にそっと触れた。


「ウルベ様、どうか落ち着いて下さい。長老様からは魔力を感じます」


「……じゃあ、まだ死んでいるわけじゃないんですね」


「はい。しかし、ここから様子を見るに、かなり衰弱しておられます。早くこの結界から出して差し上げねばなりません」


 メレカさんの言葉に、ぼくは頷いた。

 するとその時、魔人ネビロスがぼく達を追って、この部屋に入って来た。


「ここからご退場願おうか」


 魔人ネビロスが呟き、一瞬でぼくの目の前まで近づいた。

 だけど、ぼくは何も出来なかった。

 ぼくに魔人ネビロスの相手は荷が重いんだ。


 でも、メレカさんは違う。

 瞬時に魔銃を元の姿に戻して、銃口を魔人ネビロスに向けて引き金を引いた。

 すると、魔人ネビロスは水の弾丸を避けながら舌打ちをして、ぼく達から距離をとった。


「父さんに何をした!?」


「知識を奪っているだけだ」 


「知識を!?」


「この国の王は何千年と生きている長寿の獣人だ。だからその知識を奪う事で、俺達魔族が封印されていた五千年分の知識を得ようとしているのさ」


「――っ! そうか! だからお前達魔族はぼく等の国に、最初は攻め込むのではなく、魂を操る所から始めたのか!?」


「貴様の言う通りだ。そしてその男が仕上げだ。その男には魂の操作が中々効かなかったので、結界内に閉じ込めて毒を撒き、弱らせていると言うわけだ」


「――毒だって!?」


「しかし、死なれては知識を得る事が出来ないからな。即死の毒は使えず、そうやってじわじわと弱らせているわけだがな」


「ふざけた事を!」


 ぼくは怒り、魔人ネビロスに向かって駆けだそうとした。

 だけど、それはメレカさんに腕を掴まれて「お待ちください!」と言われて止められた。

 そして、メレカさんは真剣な表情をぼくに向けて、小さな声で言葉を続ける。


「ネビロスは以前と比べて口が軽いようです。あの様子であれば、長老様を助ける方法を聞き出せるかもしれません。ここは私にお任せ願います」


「メレカさん……分かりました。メレカさんを信じます」


「ありがとうございます」


 メレカさんはぼくに一礼して、前に出た。

 そして、魔人ネビロスと目を合わせて口を開く。


「この結界は宝鐘ほうしょうに似た性質を持っている様に感じるわ。魔族にもこのような結界を作りだせるのかしら?」


「邪神様の力だ。邪神様は巫女の魔力を吸収して、光魔法の性質を理解した。その結果五千年前に封印された経験もあり、宝鐘など無くとも、それを逆に部分的にだが使える様になっていると言うわけだ。」


「……成る程。しかし、不思議ね。邪神程の力のある物が、何故今更長老様の知識を得ようと考えたの? 確かに五千年分の遅れを取り戻すのに必要と言うのは分かるけれど、そんなものがこうまでして必要だとは思えないのだけど?」


「それは貴様等が知る必要のない事だ」


「それは残念ね」


 メレカさんはそう告げると同時に後ろに振り向き、魔銃を構えた。


「――っまさか!?」


「でも、以前より口が軽いのは間違いないみたいね」


 次の瞬間、メレカさんが魔銃を撃って水の弾丸が放たれる。

 そして、それは結界では無く、結界を作りだしている魔法陣の線……でも無く、それが描かれている床に命中した。


 瞬間――水の弾丸が命中した床は大きく破壊され、魔法陣の一部が同時に崩れて結界が割れた。

 あれだけ強く叩いてもビクともしなかった結界は、魔法陣を描いていた床を破壊しただけで、いとも簡単に無くなったんだ。

 ぼくはその事実に驚きながらも、急いで倒れている父さんの許に向かった。


「所詮は宝鐘の結界の劣化物。宝鐘の結界で防げないものは、当然ながら防げない様ね」


「貴様あああ!」

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