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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第2章 魂の帰路
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36話 復活の魔人

※今回は話を遡りメレカ側の三人称視点のお話です。



 ここは、フロアタム王宮の宝物庫内。

 突然現れた邪神によって、ヒロが元の世界に送り返されてしまった直後。


 ヒロが目の前からいなくなりメレカは焦っていた。

 敵は魔族のトップの邪神だと言うのに、ウルベは未だに目を覚まさず、頼れるのは自分だけ。

 勝機なんてものは完全に無い。


 メレカは己の死を覚悟し、せめてヒロがいなくなってしまった事を、なんとか自分の主人であるベルに伝えようと考えた。

 しかしそんな時だ。


 ヒロを元の世界に送って満足したのか、邪神はメレカには目もくれず、近くに置いてあった宝を入れる箱の上に座り足を組む。

 そして、メレカに視線を向けながら「ネビロス」と呟いた。

 すると次の瞬間、ここ宝物庫内に、メレカの知らない魔族が現れた。


「お呼びでしょうか?」


「暇だったのでな。英雄を元の世界に送った。ネビロス、貴様はここに残ったそこの女を殺す所を我に見せよ」


「……承知しました」


「ネビロス!? この男が……っ!?」


 一瞬だけネビロスと言われた男が顔を歪めたが、メレカは驚いていて、それには気が付かなかった。

 それも無理はないだろう。

 何故なら、目の前にいるネビロスと言われた男が、自分が知るネビロスとは全くの別人だったからだ。


 元々、ネビロスの見た目は、邪神に魔力を奪われて髪の色は濃紺と黒の交ざった色。

 肌の色は青く、瞳の色は黄色で、身長が二メートルある魔族。

 しかし、目の前にいるのは、髪の色は緑で、肌は人と同じ。

 瞳の色は緑で、白目が無く黒く染まっていて、身長は百七十程で頭一つ分は低かった。

 そして何より、纏っている雰囲気が全くの別人だった。


「本当に、貴方があのネビロスなの……?」


「ん? ああ、そうか。お前は知らなかったな」


 ネビロスと呼ばれた男はそう話すと、邪神に視線を向ける。

 すると邪神が口角を上げ、それを肯定と捉えて、メレカに視線を戻して言葉を続ける。


「俺は英雄ひーろーに殺されて、魂だけとなった時に、前世の記憶を取り戻した。おかげで性格も変わったよ。今は前世が色濃く出てる。そして、俺は能力スキルを開花させ、魂だけでも自分の意思で行動出来る様になったんだ。その結果、こうして他の魔族に憑依して操っているってわけだ」


「……仮にそれが本当だとして、貴方が相手なら、私でも太刀打ち出来そうね」


「自分の力量を過信するのは良くないな。この肉体は魔人ボフリの肉体。以前の俺のものより強いんだけどなあ」


「そうだとしても、あの頃の様な威圧感が無いのよ。今の貴方には」 


「威圧感? くだらないなあ。そんなもの、貴様等雑魚を殺すのには必要無いんだよ!」


 次の瞬間、ネビロスがメレカとの距離を詰めて、掌底を繰り出す。

 メレカはそれを寸でで避けて、ネビロスから距離をとり、直ぐに魔銃まじゅうの銃口をネビロスに向けた。


「貴方に見せてあげるわ。魔銃アタランテの力を」


「くだらないな」


 ネビロスがそう言ってメレカを馬鹿にした直後、ネビロスは目を見開いて驚いた表情を見せながら首を右に曲げた。

 そしてその次の瞬間、ネビロスのこめかみに何かが掠れて通り過ぎる。

 何かはネビロスの背後の壁まで届いて穴を開け、ネビロスのこめかみには血が流れた。

 ネビロスは歯を食いしばり、メレカを睨みつける。


「はっはっはっ! どうした? ネビロス。たかが水の銃弾に情けないじゃないか」


 邪神は愉快そうに笑みを浮かべ、ネビロスは舌打ちを打ち、メレカに向かって駆けだす。

 メレカは銃口をネビロスに向けたまま、引き金を引いて魔法を放つ。

 次の瞬間、ネビロスが水の銃弾を避けてメレカに接近し、掌底を繰り出した。

 しかし、その掌底がメレカに届く事は無い。

 いや、正確には届いたが、それが届いた瞬間にメレカの全身がただの水になって床へ零れ落ちた。


「――っ水だと!?」


「はっはっはっ!」


 邪神が愉快だと言わんばかりに笑い、そして、ネビロスを鋭い目つきで睨みつける。


「あの女が言う通りだな? つまらん。まんまと小僧と一緒に逃げられたぞ?」


「――っ! あの女ああああっっ!」


 そう。

 ネビロスが最初の攻撃を受けた直後、ネビロスが邪神に笑われて、一瞬メレカから注意を逸らした時の事だ。

 メレカから視線を逸らしたわけでは無かったが、注意が逸れたその瞬間に、メレカは自らの分身を水で作り上げた。

 そして、ネビロスが気付かずに分身に攻撃を仕掛けた時には、気絶しているウルベを抱き上げて、この場から逃げ出したのだ。


 邪神はそれには気が付いていたが、ネビロスに任せると決めていたので見逃した。

 邪神にとって、これはただの暇つぶしで、言うなればスポーツ観戦をしている様なもの。

 外からヤジを飛ばすが、決して戦いと言う名の試合には参加しない。

 言わば暇つぶしの娯楽なのだ。


 そうして、宝物庫から逃げ延びたメレカは、ウルベを連れて王宮の中を走っていた。

 メレカはフロアタムの王宮内には何度かベルの付き添いで来ている為、ある程度の王宮内の知識がある。

 そして、魔力を探知出来る為、王宮に潜んでいる魔族や操られた兵士を避けながら、宮殿まで移動していた。

 何故宮殿を目指すのかには、勿論理由があった。


 ヒロ様がいなくなってしまった以上、ナオと合流する必要があるわね。


 そう考えて、宮殿に向かっているのだ。

 実際にその考えは悪い考えでは無い。

 魔銃を手に入れたからと言って、ヒロがいなくなってしまった現状で、今のネビロスはともかく邪神を一人で相手にするのは得策とは言えない。

 ただ、事はそう簡単には上手く進まないものだ。


 王宮と宮殿を繋ぐ中庭の屋根付き通路を走っている時だ。

 通路の屋根を突き破り、新手の魔族がメレカの目の前に降り立った。

 その魔族は全身が炎に包まれていて、目の前に立つと左手で払うようなしぐさを見せ、それを合図に炎が消える。

 そうして現れたその姿は、二足歩行の猫。


 身長は百センチより少し上で、普通の猫と比べて大きい。

 全身は紫の毛並み。

 シルクハットを頭にかぶり、これと言って特殊では無い布の服を身に着けている。

 靴はいておらず、手も足も完全に猫。

 ただ、普通の猫と違い、全身の炎が消えた今でも尻尾がメラメラと燃え続けていた。


 魔族はメレカに視線を向けて目をかち合わせ、どう掴んでいるのか、シルクハットを頭から外して紳士的な一礼を見せる。


「吾輩はベレト。猫のなりをしているが、立派な魔人である」


「ま、魔人ベレト……?」


 自己紹介をした猫、もとい魔人は、その姿からは想像も出来ない程の魔力を秘めていた。

 メレカはその魔力に当てられ、そして魔人ベレトと言う言葉に一歩後退る。


「にゃっはっはー。邪神様の暇つぶしにも困ったものだ。おかげで吾輩までネズミ退治に駆り出された。いや、お前は魚か」


 魔人ベレトはシルクハットを頭に戻し、メレカでは無く、メレカに抱きかかえられたウルベに視線を向けた。


「死んではいない……か。ふむふむ。非常に残念だ。吾輩は犬が苦手でね、目を覚まさない内に殺しておこう」


 魔人ベレトはそう言うと、尻尾の毛を逆立てて、尻尾の炎が大きく燃え上がる。

 そして次の瞬間、一瞬でメレカとの間合いを詰めて、ウルベに向かって鋭い爪を振るった。


「――っ!?」


 魔人ベレトの攻撃はあまりにも速く、ネビロスと比べて桁違いのスピード。

 その結果メレカは反応しきれなかった。

 しかしその時だ。

 気絶していたウルベの右手が魔人ベレトに向かって伸び、メレカの目の前に魔法陣が展開される。

 そして次の瞬間、数十センチもある鋼鉄の分厚い盾が出現して、斬られはしたものの魔人ベレトの爪を防いだ。


 魔人ベレトは攻撃を防がれた事に一瞬の隙を見せ、その隙をメレカが逃さない。

 メレカは瞬時に魔銃を構え、魔人ベレトに向かって水の銃弾を発砲。

 しかし、殆ど零距離から放たれた水の銃弾を、魔人ベレトは避けてしまった。

 だが、魔人ベレトもそのまま攻め込まず、一旦メレカとウルベから距離をとった。


「すみません、メレカさん」


「ウルベ様、お目覚めになられたのですね」


「はい。苦労をかけました。……ここは?」


「王宮と宮殿を繋ぐ中庭の通路です。ヒロ様が戦線から離脱し、ナオとフウとランに協力を求めに行く途中でした。目の前にいるのは魔人ベレトです」


「……その様ですね。しかしヒロが……。何があったかは分かりませんが、状況の半分は理解出来ました。今は目の前の魔人をなんとかしましょう」


「承知しました。では、私が接近戦で挑みますので、ウルベ様は援護を!」


「分かりました!」


 メレカが魔銃に魔力を込めて水で覆う。

 すると、魔銃が形状を変化させ、水の刃を持つ剣へと姿を変えた。

 ウルベは本を開いてページを捲って、魔法陣を幾つも展開させる。


 魔人ベレトは二人の準備が整うまで待っていたのか、猫そのものの様に四足歩行になって伸びをしていた。

 そして、その時だ。

 伸びを終えた魔人ベレトが二足歩行に戻った直後に、魔人ベレトの突き破った天井から魔族が追加で現れる。

 そして、その魔族は魔人ベレトの隣に立った。


「ベレト様、この者達は俺にらせて下さい」


 そう言って現れたのは、宝物庫でメレカに逃げられた見た目の違うネビロスだった。


「誰かと思えばネビロスか。にゃっはっはー。邪神様のお叱りから逃げて来たのか?」


「今一度チャンスを頂いて来ました」


「そうかそうか。それなら吾輩も同志のお前を尊重してやろう。吾輩の代わりに魚と猫を料理する許可をやる」


「感謝します」


 二人の魔人の会話の最中、メレカは手を出せないでいた。

 それは、別にメレカとウルベの会話を待っていた魔人ベレトに敬意を払っての事では無い。

 単純に隙が無く手が出せなかった……と言うわけでも無い。

 理由は別にあった。


 メレカが手が出せなかった理由……それは、動揺だ。

 ネビロスが現れた直後に、メレカはネビロスの登場にでは無く、ウルベの反応に動揺し嫌な予感を覚えたのだ。


 ウルベはネビロスが現れて見せた反応は、顔を顰めて「ネビロス」と呟くだけだった。

 つまりそれは、とある最悪な事態へと繋がる証拠。


「ウルベ様、ウルベ様がミーナと見たネビロスは、元々あの姿だったのですか?」


「はい。違うのですか……?」


「いえ、違いません。では、ネビロスの姿を見て、ミーナは何か言っていませんでしたか?」


「ネビロスの姿を見て? 何も……。そもそも、ネビロスの姿を見て、あれがネビロスと教えてくれたのはミーナです」


「……そう言う事ですか」


「メレカさん?」


 メレカは気付いた。

 ウルベがミーナと一緒に見たと言うネビロスの今の姿の意味を。

 それは、メレカの嫌な予感が的中したと言う事。

 何故ならそれは。


「ウルベ様、落ち着いて聞いて下さい。目の前にいるネビロスは、元々のネビロスの姿ではありません」


「――っ!? どう言う事ですか?」


「ネビロスは死んで体を失い、別の魔族に憑依しています。そして雰囲気も全くの別人。そのネビロスを見て、ミーナはネビロスと言い当てたのです」


「そ、それじゃあ。地下で合流しなかったのは……」


「はい。ミーナは既に、魔族達によって操られています」

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