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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第2章 魂の帰路
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35話 動揺する者達

 話は少しだけさかのぼり、俺が片道ゲートの中に入った直後の事。

 みゆが自称天使のガブリエルに話しかけ、とんでもない事を言いだした。


「お兄さんと一緒に異世界に行きたい?」


「うん。お兄ちゃんと一緒にいたいの。天使さん、わたしも異世界に連れてって?」


 みゆが真剣な面持ちでガブリエルを見上げ、ガブリエルは目を瞬かせてみゆを物珍しいとでも言いたげな顔で見た。

 すると、母さんがみゆの隣に立ち、ガブリエルに向かって頭を下げた。


「……どうか私からもお願いします。あの子の、ひーろーの側に、この子を連れて行ってあげて下さい」


「へえ、意外だなあ。普通なら子供に怒ったり止めたりすると思うのに、一緒になって頼んじゃうんだ?」


「確かに貴方の言う通りです。私は駄目な親なのだと思います。でも、ひーろーを一人にしたくない思いの方が強いんです。きっと、異世界と言うところは危険な所なんだと思います。そんな所に、この子……みゆまで行ってしまうなんて、とても辛いです。でも、私は子供達の気持ちを尊重してあげたいと思うんです。だから、寿命が必要だと言うのであれば、私の寿命を使って下さい。それでみゆを連れて行ってあげて下さい」


 母さんの目は本気の目で、覚悟をしている目だった。

 ガブリエルはその目を見て、含みのある笑みを見せる。


「ふーん。その結果、息子と娘、両方を失う事になるかもしれないよ? 君だって、二人が戻って来る前に死んでしまうかもしれない」


「それは大丈夫です」


「っ? 大丈夫? 何を根拠に?」


「だって、私とあの人の子供ですもの。きっと、帰って来ます。それまでは、寿命が尽きても死ぬ気は無いです」


「うん。わたし、お兄ちゃんを連れて帰って来るよ。お兄ちゃんはもう会えないかもって思ってるけど、わたしがそんな事させないもん」


 母さんもみゆも自信のある表情で答えた。

 それを見たガブリエルは、キョトンとした表情を見せ、数秒後に笑いだす。


「あははははは。面白い。親子そろって大馬鹿だね。良いよ。連れて行くってわけじゃないけど、ゲートで送ってあげるよ」


「――っ。ありがとうございます」


「ありがとー! 天使さん!」


「それから大サービスだ。君達大馬鹿親子にボクからのプレゼント。寿命はいらない。対価無しで、お嬢さんと先に行った息子さんが異世界で暮らせるようにしてあげるよ」


「本当!? 天使さん!」


「ああ、本当さ。但し、条件付きだ」


「条件?」


 みゆが首を傾げて聞き返すと、ガブリエルは含みのある顔でニコリと笑み、人差し指を上に向けて答える。


「それはね、君がこの事を誰にも言わない事。お兄さんには、“召喚の寿命は免除してもらって、異世界で暮らしている間に支払う君の分の寿命は、お兄さんから頂いている”と伝える事さ」


「言わなければいいの?」


「ああ。但し、言わないのはお兄さんだけにじゃない。あちらの世界で、これを関係ない相手だとしても言ってしまえば、強制で君をこっちの世界に連れ戻す。例え、どんな状況だったとしてもだ。紙に書いて伝えるとかも、もちろんダメだよ」


「そっかあ。わかった! わたし内緒にする!」


「ふふふ。いい子だ」


 ガブリエルが微笑んでみゆの頭を撫でる。

 そして、母さんに視線を移した。


「後悔はしないね?」


「はい。きっと、これがひーろーの為になると、私は信じています」


「よろしい。では」


 再び片道のゲートが開き、ガブリエル笑みを浮かべる。

 母さんとみゆは別れの挨拶を交わして、みゆは元気にゲートの中へと飛び込んだ。







「お、おお、おおおおおま……え、なんでここに……?」


 所変わって現在。

 ここは異世界の切り株の村タンバリンの村外れ。


 異世界に戻って来たと思ったら、そこがフロアタムでは無くタンバリンで、しかも妹のみゆまで俺の隣にいるこの状況。

 俺はこの事実に驚きを隠せず、ニコニコと笑顔で物珍しさに周囲を見回す我が妹みゆに尋ねた。

 すると、俺の気も知らずに、みゆは楽しそうに答える。


「天使さんに頼んで、わたしも来たの。ちゃんとお母さんにも“いってきます”って言ったよ」


「いや、そう言う話じゃないだろ。なんでついて来ちゃったんだよ? あのゲート片道なんだぞ? 戻れないんだぞ?」


「えー。だってぇ……お兄ちゃんとお別れしたくなかったんだもん。ちゃんとお母さんも“お兄ちゃんを任せたわよ”って言ったもん」


「あんのクソ親~。普通自分の娘をこんな危ない世界に放り込むかよ」


 母親に向かってクソ親呼ばわりとはって思うかもなとこだが、今回ばかりは言わせてほしい。

 大切な娘をこんな危険な場所に放り込むなんて、普通じゃありえないって話だ。

 しかし、俺の目の前に来てしまったみゆは、嬉しそうに話す。


「でもほら。可愛い子には旅をさせよって言うし、お母さんもそう思ったのかも」


「そう言う問題じゃないだろ……」


 何だか頭が痛くなってきた。

 問題が山積みだってのに、更に問題が増えた感じだ。


 問題……?


「……あ! おい、みゆ! こっちの世界に来たら、寿命が削られるんだぞ!? おまえ、ちゃんと分かって来たのか!?」


「うん。こっちに来る時に使う寿命はサービスで無しにして、過ごした分の方は、お兄ちゃんの寿命から削ってあげるって天使さんが言ってた」


「そうか……。まあ、それなら良かった……のか?」


 どうやら、俺の早死には決定したらしい。

 まあ、それでみゆが問題無く生きられるなら、良しとしよう。

 しかしあの自称天使、実は堕天使じゃなかろうか? と思わずにはいられない。


「それよりお兄ちゃん、何処かに行くんじゃないの?」


「あ、おう。そうだな……」


 みゆが来てしまった事で、つい忘れてしまったが、早くセイに頼みに行かなければならない。

 正直、みゆを巻き込みたくはないが、とにかく今は会いに行く。

 そう考えた俺は、早く行く為にみゆをお姫様抱っこする。


「飛ばすぞ!」


「きゃあ♪」


 お姫様抱っこされて喜ぶみゆを連れて、俺はベルとセイがいるであろう部屋に向かって走り出した。




 タンバリンの町並みならぬ村並みを目を輝かせて眺めるみゆを連れて、ベルとセイがいる部屋の前までやって来た。

 俺は急いでいたと言うのもあり、ノックもせずに扉を開ける。

 そして、全力で後悔する事になる。

 何故なら……。


「ベル! セイ! 事情があってこっちに戻って来た! セイの風の魔法――っぶは!」


「きゃっ。びっくりし……え? ひ、ヒロくん? え? え? あれ? どうしてここ……っ! その女の子は? もしかして、ヒロくんのかの…………じょ……?」


「わあ。綺麗なお姉さんが裸だー」


「ごめん!」


 全力で後悔した理由。

 それは、扉を開けて部屋の中に入って直ぐそこに、全裸のベルがいたからだ。

 俺は急いで部屋の外に出て、扉を閉めた。

 すると、部屋の中からドタドタと音が聞こえて、数秒後に扉が開く。

 振り向けば、ベルが肌着のみの姿で扉の隙間から顔を覗かせていた。

 と言うか、こんな時にアレなんだが、可愛すぎるしエロいしで直視出来ない。


「お兄ちゃん、綺麗なお姉さんだね。この人がお兄ちゃんの言ってたお姫様?」


「お、お兄ちゃん……? ヒロくん、この子、もしかしてヒロくんの妹さんなの? って、そんなわけないよね? 私何言ってるんだろ? あ、あはは」


「いや、妹であってる。色々あって……とりあえず説明する」


「え? 本当に妹なの……?」


「うん。わたしお兄ちゃんの妹のみゆって言うの」


「え? あ、うん。私ベル。えっと……そっかあ。妹かあ。あ、入って入って」


「おじゃまします……」


 ベルの格好が肌着だけで直視が……って言うか、パンツを穿いて無い!?

 俺はベルがたった一枚の肌着しか着ていない事に気が付いてしまい、天井を見て歩き出す。

 おかげでこけた。


「いったあい」


「……すまん」


 こけてしまった事で、お姫様抱っこをしていたみゆを落としてしまい、みゆが尻餅をつく。

 そして、俺は豪快にあごを床に打ちつけて、あと一歩のところで舌を噛む所だった。

 そんな俺たち兄妹の様子を見て、ベルが慌てて近づいて来て屈み、どこがとは言わないが見えそう……と言うか完全に見えてるので俺は慌てて床にキスをした。


「だ、大丈夫?」


「わたしは平気だよ。ちょっとお尻が痛いけど」


「俺は駄目かもしれん……」


「ええ!? 大変! 直ぐに回復するね! 痛いとこ見せて!?」


「あ、そう言うのじゃないんで、俺の事は放っておいて、服を着た方が良いと思います」


「え? 服……? 来てるよ?」


「着てるって言うのは、その肌着の事か?」


「うん」


「みゆ、頼む。このお姫様に服を着させてあげてくれ。兄ちゃんはそれまで床と愛を語ってるから」


「……お兄ちゃんかっこ悪い」


「…………」


 妹の冷やかな言葉が突き刺さる。

 と言うか、おかしい。

 俺、ここに何しに来たんだっけ?


 と、そんな時だ。

 部屋の扉が叩かれる音がした。

 そして、扉の向こうから「ベル様、お着替えは済みましたか?」と、少年の声……セイの声が聞こえてきた。

 俺はその言葉を聞き理解した。

 お着替え中だったのだと。


「あ、セイくんが戻って来た」


「お姉ちゃんの彼氏?」


「お、お()姉ちゃん!? そ、そんな、私まだ(・・)そう言うのじゃ」


「……あー。お姫様顔真っ赤。可愛いー」


「そんな事、えっと、み、みゆちゃんの方が可愛いよ」


「えへへ~。お姉ちゃんも可愛いよ」


 なんだこれ?


 扉の向こうでは、セイが「あれ? 何処かに行かれたのかな?」なんて言っている。

 こんな時にメレカさんがいてくれればと、ついつい思ってしま――メレカさんが危ない!


 俺は顔を上げて立ち上がる。

 馬鹿みたいに床にキスしてる場合じゃなかった事を思いだしたのだ。


「ベル! 緊急の用件だ! セイの力を借りたい!」


 俺が大声で話すと、ベルが目を大きく開いて驚いて俺を見上げた。

 そして、俺の声が外に響いたのか、セイが扉を開けて入って来た。


「ベル様、今男の声が――――っ!? も、申し訳ございません!」


 ベルの肌着一枚の姿を見て、セイが再び部屋から出て行く。


 駄目だ。

 まずはベルをどうにかしないとだな。


「ベル、まずは着替えろ」


「う、うん」


 真剣な面持ちでベルに視線を向けると、ベルが冷や汗を流して無雑作に床に散らばっていた服を掴んで着始める。

 勿論、俺は後ろを向いた。




 ベルが無事に着替えを終えて、セイに部屋の中に入って来てもらい、俺は事の顛末てんまつを簡単に説明した。

 すると、さっきまでとは違い、ベルもセイも真剣な表情になった。


「セイくん、ヒロくんをフロアタムまでお願い出来る?」


「はい。無論です。戦力としてはお力になれませんが、英雄様を王都に送る事くらいはやってみせます」


「助かる。あと、ベルにお願いがあるんだが、良いか?」


「私に?」


「ああ。俺がフロアタムに行ってる間に、妹、みゆを預かっていてほしいんだ」


「うん。勿論だよ。みゆちゃんの事は私に任せて」


「ありがとう。みゆもいい子にしてるんだぞ?」


「わたしはいい子だから大丈夫だよ~」


 いい子なら片道のゲートを通ってこっちに来るなと言いたいが、言っても意味のない事なので黙っておく。

 とりあえず我が儘を言わなかったので、安心して俺はみゆの頭を撫でた。

 そして、頭を撫で終えると、俺はセイに視線を向けた。


「それじゃあ、早速だが頼む」


「はい。全力で行きます」


 こうして、俺は切り株の村タンバリンから王都フロアタムに向かって、セイに捕まって風の魔法で飛んで行く事になった。







 俺がセイに捕まってタンバリンを空から飛び立ったのを、大きな木の枝から見送る人物が一人。

 それは、ベルとみゆ以外の人物。

 その人物に、のほほん顔の女性が話しかける。


「珍しいですね~。お見送りですか~?」


「おや? 急に話しかけるから誰かと思ったら、デルピュネーじゃないか。五千年ぶりだね。元気そうで安心したよ」


「うふふ。元気いっぱいですよ~。それより珍しいですね? ガブリエル様が人の子のお手伝いを直接するなんて~」


「そうだろう? 実は言うとボクも驚いているんだよ。こんな事は五千年前以来の事かもね。でも残念だなあ。せっかくタンバリンに送ってあげたのに、彼、巫女に魔石を渡し忘れてるんだ。アレを渡しておけば、邪神相手にいい勝負が出来たのにね~。実に残念だ。彼、死んじゃうかもね」


「あらあら。それは困ります~。教えてあげないんですか?」


「嫌だよ。そんなの面倒だし、それに教えない方が面白いじゃないか」


「いじわるですね~」


「そんな事は無いよ。ボクほど優しい天使は他にはいないよ」


「優しい天使は、あんな小さな女の子まで巻き込まないと思いますけど~?」


「あはははは。君も言う様になったね。でも仕方が無いだろう? あんなに可愛い女の子がお願いしてきたんだ。応えてあげなきゃ、それこそ天使じゃない。天使は子供の願いには弱いのさ」


「相変わらずですね~」


「そう言う君こそ……う~ん。君はおっぱいが随分と成長したね。もう立派な女性だ」


「そう言う意味で言ったわけじゃ無かったんですけど~。あ、それから、それってセクハラですよ~」


「向こうの世界ならともかく、この世界にセクハラなんて言葉は無いから、その言葉は成立しないさ。だから、ボクはセクハラなんてしない純粋無垢な可愛い天使だよ。あ、そうだ。大事な事を忘れていたよ。実は、君に頼みがあったんだ」


「頼み事ですか~? なんでしょう?」


 ピュネちゃんが聞き返すと、ガブリエルは妖艶ようえんな笑みを浮かべて頼み事を話す。

 そして、それを話すと手を振って「よろしくね」と消えていった。

 残されたピュネちゃんは困り顔で頬杖をつき、ため息を一つ吐き出した。

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