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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第1章 異世界召喚
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3話 魔法

 クラライト王国辺境の村トランスファ。

 人口およそ60人程度の小さな村で、村人は自給自足の生活をしている。


 俺達はこの村にある空き家を借りていた。

 そして今はリビングで、何故この世界に呼ばれたのかを聞き終わった所だ。

 俺が呼ばれた理由は、この世界に昔から言い伝えられている言葉が関わっていた。


 それは二つあり、その一つは“五百年に一度、光の魔力を携え生まれし子を封印の巫女とし、巫女と伝道師三人の力を束ね封印の儀式を執り行え。さすれば、世界が再び闇に覆われる事もなく、平和が満ち続けるであろう”と言うもの。

 そして重要なのはもう一つの言い伝えだ。

 “いずれ儀式が破られ封印が解かれし時、再び世界が闇に覆われる。しかし封印の巫女の導きにより聖なる英雄が異界より現れ、闇を再び封印するだろう”

 この聖なる英雄とやらが、どうやら俺の事らしい。

 つまり、今この世界は邪神とか言う魔族のせいでヤバい状況って事だ。


 それから、この世界には科学ではなく魔法の文化が発達してるようだ。

 魔法を使う魔力は時間と共に回復されるらしく、基本は完全に無くなる事は無い

 らしいのだが、ベルは邪神に殆どの魔力を根こそぎ奪われて、その結果として魔力が回復出来なくなったようだ。

 しかもそのせいで、強い魔法が殆どの魔法が使えなくなってしまった。

 まあ、俺としては魔法がいまいちピンとこないから、そんな話をされてもよく分かってない。


 しかし、こう話を改めて聞いても思う事なんだが、“聖なる英雄”扱いは勘弁してほしい。

 確かに俺の名前は聖英雄だが、読み方は『ヒジリヒーロー』であって『セイなるエイユウ』ではない。


 そうして話を全て聞き終わると、俺は「話は分かった」と言ってから言葉を続ける。


「だけど、俺にそんな化け物を倒す様な力は無いぞ? 出来たとしても、その辺にいるごろつきと殴り合いの喧嘩が出来るくらいじゃないか?」


 それに聖なる英雄なんてのもガラではない。

 なんでよりにもよって、俺みたいなただの不良を英雄として召喚してしまったんだ? とも言いたいが、それは二人も困るだろうから黙っておく。


「あと、先に言っておくけど、俺は魔法なんて使えないぞ」


「えっと……」


 ベルが困惑した顔で、メレカさんに視線を送った。 


「姫様も既に察している様ですが、私も英雄えいゆう様から魔力を微弱でしか感じ取れません。魔法が使えるかどうかは、確認してみなくては分かりませんが、使えたとしても戦力外かと」


むしろ微弱でも魔力ってのが俺の中にある事に驚きなんだけど?」


英雄えいゆう様は本当に魔法が使えないのですか?」


「んー、まあな……。あのさ、その英雄えいゆう様ってのやめてくれないか?」


 さっきからずっと気になっていたので、思い切って話を切りだす。

 すると、ベルは「え?」と驚いて、メレカさんは眉根を上げて俺を睨んだ。


 うわっ。

 すっげえ睨んでるよ。


 メレカさんの視線が怖いから、俺はベルに視線を向けて言葉を続ける。


ひじり英雄ひーろー。それが俺の名前だ。だから俺の事は、呼びやすくヒロって呼んでくれ」


「ヒロ様ですか?」


「出来ればその“様”ってのと敬語も一緒にやめてくれると嬉しいかなあ。呼び捨てが言いにくいなら、名前の後に“くん”とかでも良いぜ」


 呼び方はともかく、“くん”の部分は冗談だ。

 メレカさんの睨みが怖いから、少し冗談を言って場の空気を和ませようかと思っただけで、本気では無い。

 そもそも“くん”呼び強制とかキモい。


「う、うん。わかりま――わかったよ、ヒロくん(・・)


 ベルが少し困惑して答えて、同時に俺は無性に恥ずかしくなった。

 まさかの“くん”呼び。

 本当に呼んでくるとは思わなかった俺は、呼び捨てにしてもらおうかと思ったが、自分から言いだした手前何も言えない。


「では、ヒロ様。本当に魔法が使えないか確認します」


 どうやら恥ずかしがっている場合でもなさそうだ。

 ここにも1人、俺に“様”呼びと敬語を使う人がいた。

 しかも相手は年上の女性。

 ベルにされるより落ち着かない。


「待って下さい。それより、メレカさんは年上なんですし、様とか敬語をや――」


 やめて下さい。と言葉を続ける前に、俺はメレカさんに睨まれる。

 よって、その鋭く恐ろしい睨みに俺の意思は崩れ去った。 

 逆らっちゃいけない相手だと、俺の直感が言っている。


「――あ、はい。そのままで良いです、メレカさん」


「では、まずはヒロ様が持つ魔力の属性を調べましょう」


「属性……?」


 メレカさんに聞き返すと、ベルが人差し指を立てて「お答えします」と、得意げな顔を俺の顔に近づけた。

 目と鼻の先まで迫ったベルの顔。

 その顔に耐えられず、俺は顔が熱くなるのを感じながら、ベルから一歩分離れる。


 俺と違って何とも思っていないベルは、そのまま言葉を続ける。


「魔力には【火】【水】【風】【土】の四つの基本属性があるの。それと、封印の巫女だけが使える【光】属性。メレカは水属性だよ」


「な、なるほどな。それなら、人によって属性が違うから、使える魔法も変わってくるって事か?」


「その通り! だから、まずは属性が分からないと、魔法も使えないの」


「へえ。何でも出来るってわけでもないのか」


「ヒロ様、これを」


 俺が頷いていると、そこでメレカさんに丸い水晶の様な物を渡された。


「何ですかこれ?」


「【魔晶石】です」


「魔晶石……?」


「はい。これを持った者の属性を、他の者が調べる事が出来る道具、マジックアイテムです」


「マジックアイテム……。便利ですね」


 受け取った魔晶石に注目していると、ベルが説明を始める。


「普通は物心つく頃には誰でも魔法が当たり前に使えるの。でも、稀にそれが出来ない子供もいて、そう言う子達の為に調べてあげる方法なんだよ」


「なるほど」


 そう言う事なら、是非調べて貰おうじゃないか。と、魔晶石を両手で持つと、メレカさんが右手を魔晶石に近づけた。


「では、始めます」


「お願いします」


 メレカさんが、詠唱と思しき言葉を口に出す。


 何言ってるかさっぱり分からんな。

 本当に俺でも魔法が使えるようになるのか?


 なんて考えていたが、ある事に気がついた。

 それは、メレカさんが喋っている言葉が、英語だと言う事。


 英語……?

 今マジカルパワーとか言ってたぞ?

 どういう事だ?

 何で異世界の呪文が英語なんだ?

 いや待てよ?

 そもそもさっき、魔晶石がマジックアイテムだとか言ってたよな?

 思いっきり英語じゃねえか!

 日本語が通じるし英語使ってるし、ここって本当に異世界なのか?


 妙に気になって考えていると、目の前の魔晶石が突然光りだした。


「――これは!? ヒロ様の持つ魔力の属性は【無】です」


「――うそ!?」


 二人が驚き、俺の頭にはクエスチョンマークが浮かんだ。

 さっき聞いた話では、火と水と風と土の四種類だった筈。

 無の属性があるなんて聞いてない。


「俺の属性は無属性なんですか?」


「そのようですね」


「もしかして、結構珍しい属性だったりします?」


「はい。この世界において、無属性の魔力を持った者は現在は存在しません」


「え? 存在していない?」


「はい。姫様が先程説明させて頂いた通り【火】【水】【風】【土】【光】ですね。しかし、正確には属性は全部で六つあります。六つ目の属性が【闇】です」


「闇? もしかして、魔族って連中が使うのか?」


「はい。純粋な闇属性は魔族にしか使えません。ヒロ様の持つ無属性は、闇属性以上に本来ありえない属性です」


 メレカさんの言う“純粋な闇属性は”の純粋(・・)の部分に妙な引っ掛かりを覚えたけど、とりあえずそれは置いておく。

 それよりも今は無属性についてが気になった。


「なあ、ベル。現在は存在しないって事は、昔は使える人がいたって事か?」


「うん。古い文献や書物によれば、邪神と戦って封印した昔の英雄様達の中に、無属性の魔法を使う人がいたみたい」


「なら、俺もその過去の英雄とやらと一緒の属性って事か」


「そうですね。未だに信じられませんが、魔晶石が出した答えに間違いはありません」


「よし、分かりました。魔法はどうやって使えばいいんですか?」


「魔法は様々な使用方法がありますが、その中でも最も簡単なものは、利き手に魔力を集中させて放つ。と、いった魔法です」


「それならイメージ出来るかも。妹のつきあいで見るアニメとかで、そんな感じなの結構見たよ」


「アニメ……? それは分かりませんが、そうですね。イメージするのは良いかもしれません」


「うん。魔法を使う時は、その魔法をどうやって操るかを想像するし」


 ベルが同意すると、メレカさんが「試しにお手本を見せます」と言って、右手を胸の高さまで上げて手のひらを上に向けた。


「マジックボール」


 メレカさんが魔法を唱えると、手のひらの上に水分が集まり、水の球体が現れた。


「すげえ……」


「これは簡単な魔法で、名前を唱えるだけで誰でも使える魔法です。私は水の魔力を持っていますので、水属性の魔法として発動されます」


「じゃあ、火属性なら火の玉が出せるって事ですね。それじゃあ俺も……」


 早速メレカさんと同じように、肩の高さまで手を上げて、手のひらを上に向ける。


「イメージ……」


 頭の中で無属性のイメージをする。


「マジックボール」


 集中……。


「うおおおおおおおおおおっ……」


 集中……。


「おおおおおおおおおおっ……!」


 集ちゅ――


「――あ。雰囲気でいけると思ったけど駄目だわこれ。無属性って何イメージすれば良いか分かんないぞ。無ってなんだよ?」


 俺の言葉にメレカさんが顔を歪め、ベルは何だろう? と首を傾げる。


 俺は考えに考え、そして一つの答えに辿り着く。


「無と言えば何も無い空間。空気だけって事か? ベル、空気を圧縮するイメージなんてのはどうだ?」


「多分だけど違うと思う。空気を圧縮する魔法は、風の魔法……もしくは水属性の上位【氷】魔法に近いと思う」


「氷……? 氷の属性なんてあるのか?」


「属性ではありません。氷魔法は水属性を極めた者が使える上位魔法です。その為、属性区分で言うと水属性に入ります」


 どうやら、氷属性ってわけではないらしい。

 メレカさんの答えに納得していると、メレカさんは話の続きを始める。


「でもそうですね。空気の圧縮は、姫様の言う通り、風か氷になりますね。ただ、氷の場合は冷やして圧縮になるので、効率はあまりよろしくないかと思われます。一つ言えるのは、少なくとも無ではないと言った所でしょうか」


「なら駄目か。メレカさんは氷魔法ってのは使えるんですか?」


「いえ。私には上位魔法を使えるだけの実力はありません」


「でも、メレカは水魔法の使い手の中でもトップクラスなんだよ。それにメレカの場合は癒し系の回復魔法を主流にしてるから、上位の氷魔法との相性が悪いのもあるかも」


「そうなのか」


 魔法の世界も甘くはないらしい。

 しかし困った事に、結局は無属性が何なのか分からないままだ。

 やはり魔法は、元々この世界で生まれた人間にしか使えないんじゃないかと思えてくる。

 このまま話をしていても、今は答えが出なさそうだ。


「とりあえず、魔法は追々どうにかするとして、聞きたい事が幾つかあるんだけど良いですか?」


「追々……ですか。まあ良いでしょう。お伺いします」


 聞きたい事は二つ……だけど、まずはこっちかな。


「まずはベルに聞きたいんだけど、ベルが俺をこの世界に召喚したんだよな? 魔力を失ったのに、そんな事どうやって出来たんだ? 召喚にも魔力ってのは必要なんだろ?」


「えっとね、【魔石】っていう便利な鉱石があるの」


「魔石? さっきの魔晶石とは違うのか?」


「うん」


 ベルは頷くと、胸元に手を突っ込んで、白く輝く魔石を取り出して俺に見せる。

 とんでもない所から魔石が出て来たもんだから、俺は不意を突かれて赤面してしまった。


「これが魔石。魔石には種類があるんだけど、これは光の属性の魔力を宿した魔石なんだよ」


「……その石があれば魔力が無くても使えるって事か?」


「そーだよ。この魔石の魔力を媒介にして、魔法を使う事が出来るの。だから、今の私でもそれなりの魔法が使えるの」


 それで魔力が殆ど残ってないベルでも、魔法が使えるわけなのか……あれ?


「それなら、俺もその魔石を使えば光の魔法が使えるのか?」


 もしそうなら、無なんて言うわけのわからん属性の魔法じゃなく、もっと分かりやすい属性の魔法を使えるじゃないか。

 なんて事を考えたが、その考えは一瞬にして終わる。


「残念だけど無理だよ。魔力を回復する為に、魔石が宿した魔力を使う条件は、使い手が魔石と同じ属性であることだから」


「ぐぐ……。そうなのか」


「うん。それにね? 魔石の魔力を使用する時は、使用者の魔力を微量だけど使わないと駄目なの。だから、もし使うとなると、ヒロくんも魔法が使えないと使えないよ」


「って事は、ベルも魔石を使う時に魔力を使ってるのか。なら、邪神に魔力を取られたって言っても、魔石無しでもそれなりに魔法が使えるんだな?」


「そんなに使えないよ」


 ベルは俺の言葉に答えると俯いて、言葉を続ける。


「魔石無しで出来るのは、他者の魔力を読み取る事と、魔石に宿る魔力を引き出せる程度。メレカがさっき使ったマジックボールだって、今の私には使えない。魔石を使った魔法だって、よっぽど強い魔力を宿した魔石でもないと、強力な魔法は使えないの」


 ベルは顔を上げて微笑む。

 だけど、その微笑みは儚く、悲しい表情をしていた。


 失敗したと思った。

 こんな顔にさせるつもりは無かったのに、下手な質問をして悲しい思いをさせてしまった。

 デリカシーの無い自分に後悔するも、どうすれば良いか分からなかった。

 だからせめて、少しでも明るくなるようにと、話題を変えようと考えた。


「うし。それじゃあ、次の質問……と言うか、疑問なんだけどさ。何で言葉が通じるんだ?」


「え?」


 ベルとメレカさんが顔を見合わせる。


「メレカ、言葉って普通は通じないものなの?」


「いえ。その様な事は聞いた事がありません」


 何故か二人が困惑している。

 この世界には、国同士で言葉が違うって事も無いのだろうか?

 そう言う事があれば、俺の言いたい事も分かると思うんだが……。

 と、そこで、俺は自分の考えから質問方法のヒントを得る。


「なら、日本語とか英語って分かるか?」


「ニホンゴ?」


「エイゴ?」


 どうやら、日本語と英語を知らないらしい。

 しかしそうなると、言葉が通じている事と、魔法の呪文が英語っぽいのが謎だ。


「なら今こうやって話してる言葉や魔法を使う時の言葉は、この世界では何て呼ばれているんだ?」


「え? 今話してるのは現代語で、魔法を唱える時の言葉は古代語だよ?」


「現代語と古代語? って事は、昔は魔法を使う時の言葉で会話してたって事か」


「はい。書物によれば、今の言葉に変わったのは、およそ五千年も前の話の様です」


「ご、五千年!? 本当ですか!?」


「はい。ヒロ様の世界とは、やはり違うのですか?」


「そうですね。俺の世界って言うか星かな? は、それぞれの国によって言葉が違ってて、今使って会話している言葉が日本語って言われてます」


「なるほど。それで、ニホンゴですか」


「はい。それで、この世界で言う魔法を使う時の言葉が、他の国で主に使われている英語です」


 と言っても、この世界の英語は本場のものでは無く、日本人が使う英語な感じだった。


「言われてみて思うけど、確かに言葉が通じるのって不思議だね? それにヒロくんの世界では、現代語と古代語が日常会話で使われてるって事だよね?」


「だな。だから、英語……ここでは古代語か。が、五千年前の言葉って聞くと、正直信じられないくらいだよ」


 言葉が通じる謎については、結局分からずに終わった。

 ベルもメレカさんも知らない様だから仕方が無い。

 ここは気持ちを切り替えて今後の事を話し合うかと、俺は改めて二人に視線を向ける。


「それで、これから俺はどうすれば良いんだ? いきなり邪神ってのを封印しに行くとしたら、かなり無謀な行為だと思うんだが?」


「その事ですが、まずは各国に眠る【宝鐘ほうしょう】を集めます」


「宝鐘?」


「うん。一つは鳴らすと対象の頭上に光の鐘を生み出し、一つは鳴らすと対象の足元に術式を作り、一つは鳴らすと対象を術式の中に捕え、一つは鳴らすと対象を捕えたまま光の鐘の中へ封印する」


「それを使って邪神を封印するのか」


「うん。だから集めに行くの」


 魔法が使えないままでどうするんだとは思ったけど、心配はいらなそうだ。

 つまり、宝鐘を集めてる間に魔法が使えるようになっていれば良いと言う事で、それなら使える様になる可能性はありそうだ。


「ただ宝鐘の在り処は各国でそれぞれ管理している為、まずは各王に会わなければ所在が分かりません。ですので、まずは獣人達の国である【獣人国家ベードラ】の【王都フロアタム】に向かいます」


 獣人国家ベードラに王都フロアタムか……って、あれ?


「ベルって、お姫様なんだよな?」


「うん。私はクラライト王国の国王の娘だよ」


「じゃあ、先に自国の宝鐘を取りに行った方が良いんじゃないか? 何処にあるか知ってるんだろ?」


「それは恐らく不可能ですね。クラライト王国にある宝鐘は、【サウンドサンクチュアリー】と呼ばれる最北の地にあります」


「サウンドサンクチュアリー?」


「はい。別名アイスデザートと呼ばれ、一面が氷の砂の大地で覆われています」


「息を吸うだけで、肺が凍るほど寒い場所なんだよ」


「それはそれは……」


 大変寒そうですね。

 氷の砂で覆われてて、肺が凍る程寒いって、どう考えても危険すぎる。

 そんな所にいきなり俺みたいな魔法も使えない素人が飛び込んだら、確実に終わる。

 まあ、魔法が使えるようになったとしても、そんな危険な場所に行けるか謎なんだが。

 そんな場所、こっちから願い下げだ。


「とりあえず、フロアタムだっけ? そこに向かうんだな」


「うん。出発は明後日。明日は色々と準備があるから、ヒロくんはゆっくりしておいてね」


「うし。分かった」


 返事をすると、今日の話し合いは終了した。

 話し合いが終わると、俺は使って良いと言われた部屋に行き、備えてあったベッドにダイブした。


「今日は何だか色々あったな――あっ」


 不意に大事な事を思いだして飛び起きる。

 その大事な事とは、持ち物のチェックの事だ。


 ハンカチ。

 手鏡。

 ポケットティッシュ。

 生徒手帳。

 財布。

 スマホ。

 腕時計。


 これと言って劇的な物はない。

 でも、手鏡は意外と助かるかもしれない。


 先程気が付いた事だけど、この世界には何故か鏡と呼べる物がない。

 単純にまだ見てないだけかもしれないが、部屋に来る前に借りた手洗い場にも無かった。

 もちろんこの部屋にもない。

 この世界でスマホや腕時計や財布の中身が役立つかどうかは不明だが、少なくとも手鏡は毎朝のお供として役立ちそうだ。


「そろそろ寝るか」


 部屋の明かりを消して、使う事がないであろうスマホの電源を切って布団に潜ると、今日あった出来事を思い出す。

 いつものように朝起きて、ちょっと早く起きてきた妹と朝食や弁当を作り、家族で朝食を済ませて学校に行った。

 そして、放課後に学校で告白してる最中に、この世界に飛ばされて……。


「はあ……」


 ため息が出た。

 マジでこの先どうなるんだろうと不安になる。

 実際の所、かなり深刻な状況に陥ってる気がしていた。


「みゆ……心配してるだろうな」 


 妹の事を思い出す。


 向こうに帰ってから、みゆにこの世界の事を言ったら、きっと羨ましがるんだろうな。

 アニメとか好きで、魔法とかに憧れてたしな。

 それにしても、人生に変化がほしいと思ったけど、こういう事じゃないんだよなあ。

 と、俺はそんな事を考えながら、やがて眠りについた。

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