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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第2章 魂の帰路
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28話 待ち人来ず

「遅いね」


 ウルベが呟いて、俺の目の前を右に左にと真剣な面持ちで行ったり来たりしている。

 気持ちは分からないでも無い。

 魔人ヴィーヴルの脅威が無くなってから、既に一時間近くは経っているのだ。

 それだけ待てば心配にもなるし、早く王宮に戻りたくもなるだろう。


 そこで、俺は一つ提案して見る事にした。


「なあ? この先って一本道なんだろ? 俺だけ先に行って王宮の様子を見て来ようか?」


「それは駄目だ。君は今回の作戦のかなめ。回復魔法が使えるのがメレカさんしかいないんだ。少なくとも、メレカさんだけでも来ない限り、君をこの先に行かせられない」


 俺の中では向こうに着き次第、メレカさんにウルベを護ってもらう様に頼むつもりだから、その理由だと待っても関係ない。

 ただ、ここでそれを言えばもめるだけだから、どうしたものかって考える。


 一人で進むのは駄目で、いつになったら来るのかも分からない。

 せめて俺に魔力探知の力があれば、自分から迎えに……って、ああ、そうか。

 迎えに行けば良いのか。

 ヴィーヴルも似たような事言ってたもんな。

 俺の魔力で捜したって。


 と言うわけで、ウルベに視線を向けて提案する。


「今更思いだしたんだけどさ、魔力を探知すれば皆の居場所が分かるんじゃないか? 俺には出来ないけど、ウルベは出来るんだろ? それで皆を迎えに行こうぜ」


「魔力を探知して迎えに? そんなの出来るわけないだろう? あれは才能のある人間しか出来ないよ」


「は……? いや、ちょっと待て。この世界の奴なら、誰でも出来るんじゃないのか?」


「誰でも? 何処から仕入れた情報か知らないけど、それが出来ていればフロアタムは堕とされなかっただろうね」


「…………」


 言われてみれば、その通りかもしれない。

 魔力を探知できれば、魔族が王宮に潜りこんで、王族が操られるなんて事も無かっただろう。

 今にして思えば、何故今までそれに気が付かなかったのかと思えてしまう事実に、俺は驚いた。


 ベルとメレカさんとナオが出来てたから、てっきりそれが普通だと思ってたな。

 でもそうか。

 そうなると、こっちから捜しに行くってのは無しだな。


「ヒロ」


 不意にウルベが真剣な面持ちで俺の名を呼び、俺達がここまで来た通路に顔を向けた。

 その真剣な顔に何かあったのかと視線を向けると、牛頭の魔族がゆっくりと歩いて来ていた。

 確か名前は魔人マラクス。

 魔石の刃がある巨大な斧を持つ魔人だ。


「どうやら、来たのは待ち人では無いようだね」


「そうだな」


 ウルベが腰に提げた本を取って開き、ページをめくって構えて、俺もマラクスに体を向けて構えた。

 すると、マラクスが立ち止まり、俺達を見てニヤリと笑んだ。


「ヴィーヴル様は見つからないし、迷子になるわで丁度イラついてたところで英雄発見とぁ、俺は運が良いなあ!」


「運が悪いの間違いじゃないか? ここがお前の墓場になるんだからな」


「墓場? 自己紹介でもしてんのか? 小僧がよお!」


 俺達に向かってマラクスが走り出し、それと同時にウルベが目の前に魔法陣を浮かび上がらせる。


「ストーンシールド」


 魔法陣から石の盾が飛び出して、それをウルベが蹴ってマラクスに飛ばした。

 中々に面白い使い方ではあるが、マラクスは斧で石の盾を真っ二つにして、そのまま俺を斧の間合いに入れた。

 だが、それは俺の予想通りだ。


 俺に近づいて直ぐに振るったマラクスの斧を先に受け止めて粉砕しようと、斧を捉えて殴ろうとした。

 しかしその時だ。

 俺が斧を殴る直前に、マラクスがニヤリと笑んだ。

 そして次の瞬間、魔石の刃から爆発が起きた。


「――っな!?」


 爆発はとんでもない威力で、咄嗟に防御のイメージを全身にしなければ、間違いなく死んでいた。

 俺は爆風で吹き飛ばされ、壁に背中を打ちつけて倒れる。


「――ヒロ!」


 くそっ。

 完全に油断した!


 直ぐに立ち上がり、マラクスの姿を捜すと、今度はウルベに接近していた。

 いや、おかしい。

 俺の目に映ったのは、二人のマラクスだった。

 ウルベに接近しているマラクスと、俺の目の前まで迫って来ているマラクス。


 魔法……いや、能力スキルか!?


「考えてる場合じゃねえ!」


 ウルベの方に加勢しに行く前に、まずは目の前まで来たマラクスに向かって拳を振るう。

 すると拳がマラクスの顔に当たった瞬間、プラスチックが折れるような軽快な音と共にマラクスの首が折れて、首から上だけが飛んでいった。

 そして、首から下がその場に倒れて、ゴンッと重量感のある重く鈍い音を上げる。


「――はあ!?」


 俺は思わず驚きの声を上げた。

 よく見れば、俺が殴ったのは人形だったからだ。

 だから、首が折れて胴体から外れて、首から上だけが吹っ飛んだのだ。


 魔族が迷路に仕掛けた罠といい、ここでの戦いは騙されてばかりだ。

 だが、そんな事を言っている場合でも無い。


 ウルベは盾を出して、マラクスの振るう斧から発生する爆発を防いではいるが、かなり危険な状態だ。

 完全に防戦一方で、俺が人形に騙されていた間にも、少しづつ追い詰められている。


 俺は直ぐに駆け出して、ウルベの許へと向かった。

 しかし、またもや俺はマラクスの罠にハマってしまう。


 足元を注意せずに走っていた俺は、駆け出して直ぐに何かを踏んだ。

 そして、その何かを踏んだ次の瞬間、その何かが急にデカくなって俺はバランスを崩してこけて転がったのだ。


「くそっ。何なんだよ!」


 視線を向けると、デカくなった何かは、またもやマラクスの人形だった。


 ふざけやがって!

 いや、駄目だ。

 落ち着けよ、俺。

 イラついて冷静さを失ったら、このままアイツのペースに乗せられて負ける。


 なんとか心を落ち着かせて立ち上がると、そこ等中に人形が転がっている事に気がついた。

 どれだけの数があるのかは知らないが、これが全部デカくなると思うとゾッとする量。


「首から上を吹き飛ばしてやるぜえ!」


「――っ!」


 マラクスの声に振り向くと、ウルベの状況が最悪な事になっていた。

 マラクスの斧はウルベの首を狙って振り下ろされ、ウルベはそれを魔法で鉄の盾を出してギリギリ防いだが、そのまま力押しで強引に吹っ飛ばされてしまっていたのだ。

 ウルベは吹っ飛んだ先で気絶して、マラクスが斧を振り上げながらウルベに向かって走り出す。


「しぶとい犬っころだな! だがこれで終わりだぜ!」


「させるかよ!」


 ここからじゃ人形が邪魔で助けに行くのが間に合わないかもしれない。

 だが、方法はある。


 そこ等中に落ちている人形を拾って、思いっきりマラクスに向かって投げた。

 迷いの森でグラシャ=ラボラスを倒した時を同じ要領だ。

 この人形の強度がどんなもんかは知らないが、俺が殴っても首が折れるだけで砕けないくらいには硬い。

 だったら、それなりの威力は出るはずだ。


「――うご……っ」


 予想は的中し、マラクスの横っ腹に人形が命中した。

 胴体を貫通とまではいかなかったが十分な威力が出た。


 マラクスは人形を横腹に食らうと、倒れはしなかったが横腹を押さえて、その場で立ち止まった。

 そして、俺の方に視線を向けて、睨んできた。


「先に消されたいようだな!」


「自己紹介でもしてんのか? 牛頭がよお」


 さっき言われた言葉をそっくりそのまま返してやった。

 すると、マラクスが本格的に苛立った様子で、俺に殺気を向けてきた。

 そして次の瞬間、マラクスの周囲に大量の魔法陣が浮かび上がった。


「俺の魔斧まふマジックアックスが飾りでない事を存分に味わうんだな!」


 瞬間――魔法陣から黒い球体が一斉に飛び出して、それ等が俺目掛けて飛翔した。


 大量のマジックボールか!?


 恐らくその考えで間違いない筈。

 魔力を見る目で確認すると、闇属性のマジックボールと同じ系統のものを感じた。

 しかし、その量も事乍ことながら、普通のマジックボールと比べてかなりの魔力の質。

 通常のものより格段に強い威力なのは、目に見て歴然だった。

 だが、それでもネビロスが使ったものと比べれば大した事が無い。


 だったら、絆の魔法の練習にでも使わせてもらうか!


 俺は飛んでくるマジックボールに向かって、魔力を集中する。

 ピュネちゃんが言っていた通りであれば、俺に魔法は効かない。

 それなら今ここでやって見せると、俺は殴るのではなく受け止める様に、両手の手のひらを前に出した。


 頼む!

 上手くいってくれよ!

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