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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第1章 異世界召喚
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2話 告白の先で

「――俺とつきあって下さい!」


 緊張のあまりグッと目をつぶり、腰を四十五度まげて告白をした。


「…………」


 だけど、沈黙が続くだけで、一向に返事が返ってこない。

 緊張が高まり、俺は内心では諦めながらも、告白した以上は頭を上げずに返事を待った。


「あ、あの。えっと……」


 戸惑う声が聞こえた。

 少し前に見た彼女の顔は緊張していたんだし、当然だろう。

 こんな場所に呼び出されて、まったくでは無いにしろ、あまり話した事も無い男に告白されたのだ。

 戸惑ったって無理もない話だ。


「ごめんなさい」


 弱々しい声が聞こえ、俺はフラれた。

 それは当然の結果だった。

 好きでもないのに告白したのだから、フラれても仕方ない。

 むしろこれで良かったと言える。

 母親が言った通りで、相手に失礼だったのだ。


 フラれた事で、ようやく俺も冷静を取り戻せた。

 だからこそ、今回の事を素直に謝ろうと思った。


「いや。俺の方こそごめん。急にこんな事言って――え? 誰?」


 話しながら曲げていた腰を真っ直ぐにして、顔を上げた俺は、目の前に立っていた少女を見て驚いた。

 何故なら、目の前に立っていたのは俺が呼び出した相手では無く、巫女装束を着た見知らぬ美少女だったからだ。


 漆黒を思わせる綺麗な黒髪で、それはサラサラで肩まで届かないくらいの長さ。

 二重瞼ふたえまぶたでまつ毛は長く、綺麗な碧眼へきがんの瞳。

 透き通るような白い肌で、小顔。

 パッと見ただけだと、人形かと間違えてしまうかの様な美少女。

 巫女装束は肌の露出度が高く、袖も腕を上げれば脇が見えてしまいそうで、緋袴ひばかまも短くて太ももが丸見え……と言うか、少し屈めばパンツが見えてしまいそうなくらいに短い。

 胸も大きく、目のやり場に困る。

 そんな美少女が、俺の目の前に立っていた。


 ただ、今の俺の心情は、そんな事はどうでも良い事だった。

 見知らぬ女の子に告白してしまったと言う事実で、恥ずかしさで体温が上昇し、顔が赤くなるのを感じていた。

 緊張しすぎて、告白する相手を間違えるとか滑稽もいいとこだ。

 しかもそれが美少女相手なのだから、尚更恥ずかしく感じるのかもしれない。

 告白失敗自体は良かったと言えるだろう。

 だが、これは流石に想定外すぎてキツイ。


 ははは……きっと罰が当たったんだな。


 恥ずかしさのあまり、俺は涙目で苦笑した。

 最早笑うしかないと言う気分だった。

 するとその時、目の前の少女と目がかち合う。

 少女はどこか悲しそうで懇願するような眼差しで、真っ直ぐと俺を見ていた。

 

 その真っ直ぐな瞳に思わずドキッとして目を逸らし、その拍子に周囲を見た俺は自分のいる場所に驚き、そして思わず声を漏らす。


「すげえ」


 綺麗な円を描くように、薄く水を張った溜まり場の中心が足場になっていて、そこに俺と少女は立っていた。

 そして、水辺には八か所から水柱が噴水の様に流れていた。

 周囲は暗く、空に輝く星々が水面を照らし、水面に映し出された光が幻想的な雰囲気を漂わせていた。


 幻想的な光景に心を奪われていると、不意に“英雄えいゆう”と、俺を呼ぶ声が聞こえた。


「ごめんなさい。英雄えいゆう様が大事な時に呼び出してしまって……」


 “英雄えいゆう”。

 それは俺の嫌いな呼ばれ方の一つだ。

 俺は『ひーろー』と名前そのままで呼ばれる事も、『えいゆう』と呼ばれる事も、どちらも嫌いだ。

 だから俺は我に返り、少女に視線を戻した。


「どうかお願いします! 私達を、この世界を救って下さい!」


「……え?」


 世界を救う?

 何を言ってるんだこの子は?


 突然世界を救ってくれだなんて言われて、勿論俺は戸惑った。

 すると、少女はハッとした顔をして、改まって真剣な表情を見せた。


「私の名前はベル=クラライト。クラライト王国の第一王女にして、封印の巫女です。この世界シャインベルを救って頂く為に、勝手ではありますが、英雄様を召喚させて頂きました」


 クラライト王国?

 封印の巫女?

 シャインベル?


 出てくるのはわけの分からない単語ばかり。

 挙句に俺を召喚したと言っている。

 この少女がベル=クラライトと言う名前だけは分かったけど、それ以外の理解が追いつかない。

 告白した相手が見ず知らずの女の子で、周りを見たら何故か夜で見た事も無い場所にいて、あげくに嫌いな呼び名で俺を呼び、この世界を救えだのと言っている。


「どうか、どうかお願いします。この世界を……」


 その時、少女の瞳に涙が浮かんだ。

 少女が凄く悲しそうに懇願するような瞳で、弱々しく俺を見ていた。


「お願いします。勝手な事なのは分かります。それでも、それでも私は英雄様に……」


 俺はこの目を知っている。


 この、悲しい瞳を。

 この、誰かに助けてほしいと懇願する瞳を。


 だから俺は――


「――姫様」


 不意に、少女の背後から声が聞こえた。

 視線を向けると、丁度さっきまで水柱が上がっていた所に、メイド姿の綺麗な女性が立っていた。


 空を思わせる綺麗な色の髪でポニーテル。

 つり目で赤紫色の綺麗な瞳の美人で、パッと見ただけでも綺麗だと分かる姿勢。

 目の前の少女とは違い、露出の無いメイド服。

 それが、俺がこの女性を見た第一印象だった。


「お話し中に申し訳ございません。近くに魔族の魔力を感じます。念の為に場所を変えましょう。説明はその後で」


「メレカ、……うん。そうだね」


 少女は女性に返事をすると、俺の腕を掴んだ。

 驚いて少女の顔を見れば、その瞳からは既に涙は浮かんでいなかった。

 そして、あの弱々しさも無い。


「来て下さい。急ぎましょう」


 あまりにも真剣な顔をした二人を見て、俺は言われるがまま移動する事にした。







 もうどれくらい歩いただろうか?

 延々と続く獣道を歩き続けて疲労感を感じる頃には、俺もだいたいだが二人の事や、ここがどこなのかが分かるようにはなっていた。

 俺の隣を歩く美少女はベルで、前を歩く美女がメレカさん。


 道中話してみると、ベルは元気な女の子って感じで、歳は俺の一つ下らしい。

 ベルから聞いた話では、メレカさんは優しく素敵で尊敬出来る美人さんとの事だが、俺から見たら怖い人だ。

 何と言うか、ピリピリしてるのがひしひしと伝わってくるんだ。

 しかも、つり目の美人だから、あの目で睨まれると余計に怖い。


 それから、ここは日本でも地球でもない【シャインベル】と言う名の別の世界で、異世界ってやつだ。

 俺はベルに召喚されて、この世界にやって来たらしい。

 本当は異世界だなんて、信じられないと言いたい所だったが、学校の校舎裏から見知らぬ土地へ移動させられると言う実体験をさせられ、信じるしかない状況だ。

 何故俺を【英雄】としてこの世界に呼んだのかは、落ち着ける場所に着いてから話すとの事なので、今はまだ分からない。


「良かった。何とかここまで来れた」


 ようやく目的地に着いたようで、ベルが安心した様子で話した。


 辿り着いたのは、木々に囲まれた緑豊かな自然に囲まれた村で、木造だけでなく石造りの家が並ぶ小さな村だった。

 村の入り口に看板が立っていたので見てみると、そこには【トランスファ】と書かれていた。

 トランスファに入った俺は、物珍しさで周囲を見た。

 石造りに作られた家々は、冬の名物かまくらの様に丸く、しかし全てが一般的な日本の家の様に大きかった。

 逆に木造の家は、瓦の屋根なんてものは無いが、まるで日本の家を見ているようで、石造りの家と並べば何とも言えないアンバランスさを醸し出している。

 その他にも、見た事も無い動物を村のあちこちで見かける。

 とは言え、今は夜で時間も遅いのか、村の人間はあまり見かけなかった。

 するとそんな時、俺はふと疑問に思い口にする。


「あれ? 言葉がわかる?」


 よくよく考えたら、おかしいな話だった。

 ここは俺の住んでいた日本ではなく異世界。

 それなのに言葉が通じているし、看板に書かれた文字まで読めた。

 いや、読めたも何も、アレはどう見ても――


「日本語だよな?」


 不思議に思い足を止めて考える。

 だけど、答えは出なかった。


「何をしているのですか? 早くついて来て下さい」


「お、おう」


 こわあ……。


 そんなわけで、考えている場合でも無い。

 前を歩いていたメレカさんに睨まれ、俺は考えるのを止めて、ビビりながらも足早に歩き出した。

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