表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第2章 魂の帰路
39/256

13話 防戦一方な戦い

 ついさっきまで真っ二つになっていた腹回りの痛みを我慢して、俺は向かってくるグラシャラボラスを返り討ちにしてやろうと構えた。

 すると、五メートルはあるんじゃないかと思える大鷲の様な羽が、グラシャラボラスの背中から飛び出した。

 突然の事に羽に気を取られた俺は、次の瞬間、何かに右側の横腹を殴打された。


「――ぐぁっ!?」


 一瞬よろめいて、咄嗟に左足で踏ん張る。

 そこへ、グラシャラボラスが攻撃を仕掛けてきた。

 グラシャラボラスの右手が黒く光り、ニヤリと笑む。


「逝っちまいなっ!」


「ヤバっ」


「ブラックインパクト!」


 俺の顔面目掛けて、しかも目と鼻の先くらいの近さで魔法が放たれる。

 黒く染まった魔力の集合体が当たり、凄まじい衝撃が俺を襲う。

 何とか両腕でガードするが、衝撃が強すぎて後方へ吹っ飛ばされた。


 やっぱり魔人だな。

 攻撃の重みが半端じゃない。

 しかも、何なんだ最初のアレ。

 横腹を攻撃されたアレ、威力としては今のと比べて大した事は無かったけど、何も見えなかったぞ?

 っつうか、おかげで腹が余計にいて――っ!?


 その時、またもや何かに腹が殴打される。


「が……っ」


 くそっ!

 マジで分からねえっ!

 何に殴られてるんだ俺は!?


 衝撃を受けた方向に視線を向けるが、怪しい物は何も無い。

 その時、グラシャラボラスが更に攻撃を仕掛けてきた。


「ダークフェザーダンス」


「……っ!」


 グラシャラボラスが翼を広げ、魔力で羽を黒く染める。

 同時に無数の羽が舞い踊る様に飛び回って俺を狙う。

 それは触れた物を切り裂く羽。

 全方角から一斉に飛び舞い、完全に避ける隙を与えようとしない。


 こんなの避けられないだろ!?


 全身に魔力を集中して防御する。が、更にグラシャラボラスがこっちに向かって来る。


「どうしたどうした!? 防戦一方じゃねーか! 英雄様よぉおっ!? ブラックインパクト――」


 今度はグラシャラボラスの右手ではなく、俺を囲むように宙に魔法陣が幾つも浮かび上がった。


「――バラージ!」


「うっそだろっ!?」


 瞬間――魔法陣から黒い魔力を帯びた衝撃が放たれた。

 凄まじい衝撃が次々と俺を襲い、防ぐ事しか出来ず身動きが取れなくなった。


「コイツが本命だっ!」


「――っな!」


 俺の全身を黒い影が覆う。

 上を見上げると、巨大な犬の顔の形をした魔力の塊が俺を捉え、今にも噛みつこうとしていた。


 まともに食らったら、本気で洒落にならんだろこれ!?


「死ねやあああああっっ! デスファングッッ!」


 咄嗟に後方へ跳躍して避けようとする。

 だが、あまりにも巨大な一撃だった為に、直撃は免れたものの攻撃を食らってしまった。


「ぐぅ……ぁあっ…………っ!」


 攻撃を受けてしまったせいで、跳躍の勢いとその衝撃が合わさって、俺は勢いよく吹っ飛ばされた。

 それは水面を跳ねる様に何度も地面に当たりながら、もの凄いスピードで飛んでいき、最後には勢いよく転がって倒れた。


 マジでヤベえ。

 今ので傷口かなり開いたんじゃねえか?

 ああ、ちくしょう。

 一瞬だけ意識が吹っ飛んだぞ。

 痛いってレベルじゃ無いぞこれ……。


「……げほっげほっ。…………くっそ……っ」


 俺は上半身だけ起こして、血反吐を吐き出して立ち上がった。


「これでネビロスより下かよ。滅茶苦茶強くないか?」


 ネビロスの魔力が移ったのは聞いていたが、使いこなせていないと言うのが、嘘なのではと思える程に尋常じゃない強さ。

 ネビロスが万全であれば、これ以上だったと思うとゾッとする話だ。


「ったく。しぶてえ野郎だなあっ! てめえよおっ! さっさとくたばれやっ!」


「嫌だね!」


 グラシャラボラスが再び翼を広げる。


「ダークフェザーダンス!」


 魔力を帯びた無数の羽が舞い踊る。


 くそっ。

 またこれかよ!


 嫌気がさしながら目前の魔法に備える。

 すると、また何かから、今度は背中を殴打された。


「――がっ。……またっ!?」


 そして、それに気を取られてしまった為に、俺は無数の羽の餌食となる。

 全身を羽で斬られ続け、どうにかしないとと周囲を見回した。

 そして、草木が生い茂る森の中まで走った。


「ぎゃははははっ! なっさけねー! 逃げんのかーい? 英雄様よ~っ!」


「……っく」


 走る途中、またもや何かに背中を殴打される。

 だが、今度は逆に利用してやる。

 殴打された勢いそのままに、小さな木々が並ぶ草木の合間に頭から転がる様に突っ込んだ。

 その時、グラシャラボラスをチラリと見た俺は、一つ気になるものを見つけた。


 あいつ、喋りながら何かやってたか?

 何かこう……そうだ。

 こっちに親指の先を向けて、指を鳴らす様な動作をしていたよな?


「さっきのまな板娘の例もあるからなー。のんびりさせちゃ、あげないぜ~」


 あの指の動きが何だったのかと考えていると、グラシャラボラスが俺を追って、こっちに勢いよく飛び込んで来た。


「弾け飛びな! ブラックインパクト!」


 グラシャラボラスの右手に魔力が集中し、黒い光を放つ。


 考える時間くらい、くれっつうの!


 寸での所で攻撃をかわすと、俺の背後にあった大木に命中し、大木が粉微塵に弾け飛んだ。

 そして、グラシャラボラスが舌打ちして俺を睨む。


「ちっ! 避けんじゃねーよ糞がっ!」


「おことわ――がはっ!」


 またまた何かから殴打された。

 しかも今度は頭だ。

 一瞬目の前がぐらついて、俺は歯を食いしばった。

 そしてその隙を狙って、グラシャラボラスが俺の腹に回し蹴りを繰り出した。


「ほらよっ!」


「――っ!」 


 グラシャラボラスに蹴られた俺は、数メートル先にあった巨大な大木まで吹っ飛び、ぶつかる。

 巨大な大木は衝撃で轟音を森に響かせながら倒れて、俺は再び気を失いかけて地面に膝をついた。

 だが、のんびり膝をついてる場合でも無い。

 気がついた時には、既にグラシャラボラスが目と鼻の先まで近づいている。


「ブラックインパクト!」


 寸でで躱し、グラシャラボラスの放った魔法の衝撃で、辺り一面が物凄い衝撃を受けて弾け飛ぶ。

 俺もその衝撃で後方へ吹き飛ぶと、追うようにグラシャラボラスが接近して来た。


「ブラック――」


「しつこすぎだろ!」


 今度は避けられそうもなく、俺は衝撃に備える。

 しかし、次の瞬間、俺を襲ったのは何かだった。


「くそ……っ」


 腹を見えない何かに殴打され、それによって腹の激痛が更に増し、痛みで一瞬の隙を作ってしまった。


「――インパクトォッ!」


「――が……っぁっ!」


 グラシャラボラスの魔法をもろに受け、尋常でない程の衝撃がダメージとなって俺を襲う。

 草木を薙ぎ倒しながら吹っ飛んで、勢いのまま転がると、数十メートル先の大木にぶつかり制止した。


「げほっげほっ……」


 血反吐を吐いて、頭を押さえて立ち上がる。


 くそっ。

 かなり吹っ飛ばされたな。

 ああ……頭がフラフラする。

 斬られた腹も尋常じゃないくらいに痛いし、それどころか今ので全身が痛い。

 こりゃあ、“痛すぎて気絶出来ないのが救い”って思うしかないな。

 はあ……ホント嫌になる痛さがだ、くだらない事考えてないで、勝つ方法を考えないとだよな。


 周囲を見まわす。

 どうやらここら辺一帯は、人並みに高さのある草や木が大量に生えている様で、視界があまりよくないようだ。


「使えるかもな」


 俺はそう呟くと、草むらに身を隠す。

 何故なら、さっきの攻撃で気がついた事があったからだ。


 同じ手に何度も何もしないで、ただやられていたわけではない。

 見えない何かの攻撃を受ける度に、俺は魔力を見る目を周囲に向けていた。

 だが、全く怪しいものは何も無く、そんな時に見つけたのが指を鳴らす様な動作だった。

 そして、今のでハッキリと確信した。

 親指を鳴らしている様な動作は、無詠唱で生成した魔法を飛ばす動作だったのだ。

 恐らくだが、見えないその魔法の正体は“マジックボール”。

 どういうカラクリなのかは分からないが、グラシャラボラスの放つその魔法は、姿を消して俺を攻撃していたってわけだ。


 しかし、問題はある。

 分かった所で見えないんじゃ、対策のしようがないって事だ。

 仮に魔力を見る力を使い続ければ、攻撃を見ることは出来るとは思う。

 だが、この力は集中力をかなり使うから、長くは持ちそうにない。

 グラシャラボラスの部下だと言っていたメレオンも姿を消していたが、アレはまだやりようがあった。 

 そこで、俺が考えたのが、この場を利用する事だ。

 俺の考えが正しければ、この草木が生い茂る場所は、かなり有効に使えるはずだ。


 するとその時、草木が揺れる音が聞こえた。


「――っ!」


 音のした方に視線を向けると、草木の一部が円状に消えて、その反動で残った部分が揺れていた。


 きた!


 揺れた方向から俺の立つ位置の直線上を軸にして、直ぐに横へ移動する。

 すると、その直後に俺の背後にあった木に何かが衝突した。


 やっぱりだ。

 ここに逃げ込んだのは正解だったな。


 予想通り、姿が見えない何かは見えていないだけの魔法だ。

 だから、この生い茂る草木をすり抜ける事は不可能で、避ければ別の何かに命中する。


「ちっ! やりづれーな!」


 グラシャラボラスが悪態を吐いて、手を前方にかざして、魔法陣を幾つも生み出したのが見えた。


 こっちの正確な居場所は、まだ気づいてないのか?


 グラシャラボラスは俺がさっき血を吐いた場所いる様で、周囲を見回して俺を捜していた。

 そして、俺が隠れている草木の根元を見て呟く。


「そっちか」


 その視線につられて見ると、草木の根元には俺の足跡と、周辺には血がついていた。

 それを見て、やらかしたのだと気がついた。

 隠れる前に足跡を残し、草木に飛び出た血を垂れ流したのだ。

 これでは隠れた意味がない。


 咄嗟にその場を離れようとした時、グラシャラボラスが魔法陣を宙に浮かばせた。


「世話焼かせんじゃねーぞ! 英雄さんよぉおっ! スティングダークネス!」


 魔法陣から黒く鋭い針が飛び出して、俺に向かって真っ直ぐに飛んできた。

 しかもそれは、終わる事なく永続的に魔法陣から放たれ続ける。

 俺は嫌な予感がして、真横にあった草村に飛び込んで避けた。


 瞬間――グラシャラボラスの放った魔法が、数十メートル先まで射線上にあった草木や岩を貫いて、蜂の巣の様な風穴を空けた。


「……あぶねー」


「ブラックインパクト!」


「――っ!」


 気が付くと、目前まで迫っていたグラシャラボラスが拳に魔法を纏って、その拳を俺に向かって振るった。

 俺はそれに直前で気が付きしゃがんで避ける。

 すると、グラシャラボラスの拳が空振り、俺の背後にあった木が衝撃で粉微塵に粉砕された。


「てめぇっ! ちょこまかとよぉっ! いい加減イラついてきたぞ! さっさと死ねやぁ!」


「イラついてるのは最初からだろ!?」


 グラシャラボラスは更に蹴りを繰り出して、今度は俺も蹴りで対抗する。


「――ちっ!」


 蹴り合いでは俺が力勝ちして、グラシャラボラスが舌打ちして後退した。


「ムカつく野郎だが、ネビロス様にまぐれでも勝てただけはあるって事か~。雑魚とは思えない、攻撃に重さがある」


「そりゃどおも」


「そんなてめえに教えてやるぜ」


 グラシャラボラスが翼を広げる。


「ネビロス様は格下相手に手を抜く悪い癖があった方だが、俺様は違う。てめえの様な死にかけの格下相手でも、決して手は抜かねーのさ!」


 グラシャラボラスの翼が魔力で黒く染まる。

 更に手を前にかざし、前方に魔法陣を幾つも浮かび上がらせた。


「俺様の考えが正しければ、てめえは殴るか蹴るかぐらいしか出来ないみたいだな?」


「……お前に教えてやるつもりはねえよ」


 グラシャラボラスは下卑た笑みを浮かべた。


 参ったなこりゃ。

 ただでさえ防戦一方だったのに、安易には近づけなさそうだ。


「ダークフェザーダンス! アンドッスティングダークネス!」


 グラシャラボラスから二つの魔法が放たれる。

 その凄まじいまでの魔法の猛攻は、防御するにしても数が多すぎで、避けようにも避けきれない。

 俺は全神経を研ぎ澄ませる。


 ――見切れるか?

 目の前。

 右。

 目の前。

 左。

 左――――両サイド!?

 ヤベえっ!

 余裕なんて無いぞ!


 二つの魔法を避けるので精一杯だった俺は、姿の見えない魔法の直撃を左右両方の横腹に受けた。


「が……ぁ……」


 最悪だ。

 横腹のダメージが傷口に響いて堪らず怯み、その直後に強力な二つの魔法を食らってしまった。

 そして、その魔法は止む事なく次々と俺を襲い、俺はそれを受け続けてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ