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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第2章 魂の帰路
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12話 都合の良い展開

 時は少しさかのぼり、ベルとナオがグラシャラボラスに操られたセイとブールノと戦う中で、メレカさんに傷を回復してもらいながら俺は色々と考えていた。


 俺が斬られた後に、グラシャラボラスがブールノに言っていた言葉、何か引っ掛かるな。


 引っ掛かる言葉。

 それは“死人は喋んないから、反応無くてつまんないねえよなあ”だ。

 この言葉の通りなら、セイが喋ったのは生きているからという事になる。

 何故なら、セイは普通に返事をしていたからだ。


 ベルとメレカさんから聞いた話では、セイはネビロスやバハムートに殺されている。

 しかし、奴の言葉から考えると、実は殺されていなかったって事になる。

 そうなると、俺は今まで凄い思い違いをしていたのかもしれない。

 メレオンも“生きた人間は”までしか言っていなかった。

 操れないとは言っておらず、俺が勝手に解釈して出来ないのかと思ったわけだ。

 もし、あの言葉の続きが“上手く操れない”や“ネビロスの様に多くは操れない”などだった場合、あの言葉は全く違う意味になる。


 ベルとナオの二人の戦いを見ていて、気になる事もあった。

 それは、激しい戦闘をしているナオの方ではなく、殆ど睨み合いが続くだけで、全く動かないベルの方ばかりにグラシャラボラスが気を取られていた事だ。

 しかも、セイが魔法を使うたびに、目を必ずセイの方に向けていた。


 どうも怪しいんだよなあ。

 まあ、とにかくだ。

 セイって騎士を助けられるかもしれないって事か?

 しかし、どうやって助けるかだよな?

 何か良い方法は……グラシャラボラスを半殺しにして、魔法を解いてもらうとか?

 いやいやいや。

 俺の世界で俺等不良がやる喧嘩じゃないんだから、そんな単純な話じゃないっての。

 そもそも魂を操る魔法だぞ?

 そんなアホな方法で魔法が解除されたら可笑しいだろ……魔法か。

 そういや、ピュネちゃんが俺の魔法は“絆の魔法”とか言ってたよな?

 絆の魔法って言っても、正直よく分からないよな。

 ん~……絆…………絆か。

 よし、決めた。


 俺は回復後に、まずやる事を決めた。

 そして、それの問題点の解決方法を考える。


 俺にも魔力を読み取る事が出来れば良いんだけどなあ。

 どうしたもんかね?


 やる事を決めたは良いが、それには他人の魔力を読み取る必要があった。

 魔力を読み取るなんてのは、正直なところ俺にはどうすれば良いのか想像もつかない。

 そもそも、俺の魔法は魔法って感じでもない。

 魔力を集中して魔法を使う事には、結構理解出来たつもりではいる。

 だけど、魔力を集中して殴る時も、気合や根性で殴るって表現の方がしっくりくる現状だ。

 魔力を感じ取るなんて曖昧あいまいな事ではなく、せめて目で見る事が出来れば、俺にも分かりやすくて良いもんなんだがって気分だ。 


 ――ん? 

 目で見れれば……?

 あ、そうか。


 目に魔力を集中する。


 見えろー見えろー。

 魔力を見るんだ、俺。

 どうせ俺の魔法は魔法って言うよりも、気合だとか根性だとか、そう言う精神論的な言葉が似合うんだ。

 だったら、敵の魔力だって気合と根性で見るってのも、やってやれない事はないはずだ!


 その時、俺の目が覚醒した。

 今まで目で見えていなかった、何かが見え始めた。

 それは、ユラユラと揺らめくもやの様な存在。

 その靄が、見た相手の体から出ているのが、俺の目に映ったのだ。

 靄は見た相手によって違い、ベルなら白く、ナオなら赤く、メレカさんなら青かった。


 これか!?

 これなのか!?

 マジで見えるぞ!

 それにしても、成る程なあ。

 属性によって見える色が違うのか。


 しかし、集中を解くと靄は見えなくなってしまい、見る為には集中力が必要だった。

 とは言え、これでさっき考えついたやる事が出来そうだ。

 するとそんな時、激しく咆哮しながら、マンティコアが木々を薙ぎ倒して現れた。


「あらあら。あの子、普段はここへは来ないのに、どうしちゃったのかしら~?」


「何か様子がおかしいですね。怒っている様に見えます」


 マンティコアは確かに怒っている様に見えて、しかもその対象はナオだった。

 そして、直ぐにマンティコアの執拗な攻撃が始まって、ナオがピンチになっていた。


「何故マンティコアがナオを!?」


「ここに来る途中で、マンティコアと遭遇して何かしたのかしら~?」


 ヤベえ。

 多分アレだ。

 俺がナオに頼んでぶっ放してもらった炎の魔法だ。

 縄張り燃やされてキレてるんだ。

 くそっ。

 こんな事なら別の方法を考えるべきだった!


 後悔してももう遅い。

 しかも今の俺にはどうする事も出来なくて、不甲斐無い自分に心底苛立った。


 それに、ヤバい状況はナオだけではない。

 ベルも危険な状態だった。

 マンティコアがナオを狙い始めてから、ブールノが今度はベルを狙いだしたのだ。


 二人のピンチに焦りも生まれ、俺は黙っていられず、動けないかと考える。

 そして、斬られた傷を確認する為に、手で触れた。


 まだ治ってないか……。


 しかし、こうしている間にも状況は悪化していく。

 俺は意を決してピュネちゃんの魔法の外に出ようとするが、斬られた部分から下、つまりは下半身が上手く動かない。

 足が言う事を聞いてくれない。


「あらあら。ヒロさん、焦らなくても大丈夫よ~」


 何を呑気に……。と、俺は苛立った。


「ヒロ様のお気持ちは十分私にも理解出来ます。ですが、今はご自分の体の事を心配して下さい」


 メレカさんに視線を向けると、悔しそうな顔をしていた。

 その顔を見て、メレカさんが俺の為に我慢しているのだと知り、苛立った感情は治まっていった。

 だから、俺は自分の感情を押し殺して、ベルとナオを見守る事にした。


 だけど、事態は一変する。

 ナオはマンティコアの体内に魔法を放つ事で、見事に勝利を収めたが、限界がきてその場に倒れてしまった。

 ベルの状況はナオよりも最悪だ。

 セイとブールノの攻撃が激しくて追い込まれ、ついには蹴り飛ばされて草木に突っ込んていった。


 ナオは気を失っていて、もしそれにグラシャラボラスが気付けば、必ず止めをさしに行く。

 あんな状態で放置なんて出来ない。

 ベルは大きな傷を負わされ、そこを狙って蹴り飛ばされて、満身創痍でいつ気を失ってもおかしくないのは目に見えていた。


 これ以上黙って見てられるかよ!


 いてもたってもいられなくなり、動かなかった足を、それこそ気合と根性で動かして、ピュネちゃんの魔法の外に飛び出した。


「――ヒロ様!?」


「いつつ。ピュネちゃんの魔法って凄いな。さっきまで痛みが感じなかったのに、外に出た途端に傷が痛くなった」


 まだ怪我は完治していない。

 だけど、我慢できない程の痛みじゃない。


「馬鹿な事を言ってないで、傷が回復するまでジッとしていて下さい!」


「心配しなくても大丈夫だって。おかげさまで超元気」


 俺は、その場で走る真似をしたりジャンプしたりした。

 勿論痛いが顔には出さない。


「ヒロ様、お願いですからジッとしていて下さい」


 心配してくれるメレカさんには悪いけど、グラシャラボラスがいる所へ走ろうとした。

 すると、メレカさんに「待ちなさい!」と後ろから腕を腹に巻かれて、抱き付かれて止められてしまった。


「離してくれ! もう我慢出来ないんだよ! あの野郎ぶっ飛ばす!」


「気持ちは分かりますが、貴方の怪我はまだ治ってないのですよ!」


「そんなもんどうでも良い!」


「どうでも良いわけがないでしょう!」


 メレカさんが俺を逃すまいと、きつく腕を締めて抱き付き、それが傷口に響いて血が流れる。

 血を見てもメレカさんは力を緩めようとはせず、どうあっても俺を助けには行かせないと言う強い意志を感じた。

 だが、俺だってそれで引き下がれない。

 何としてでも助太刀に行こうと抗う。

 しかしそんな時、ベルが光の矢を放った。

 そして、俺の目は見逃さなかった。


「――っ! 頼むメレカさん! 俺に行かせてくれ! メレカさんはナオの回復をしてくれ! お願いだ!」


 メレカさんを引き剥がそうとするのではなく、俺は真剣な顔をメレカさんに向けて頼んだ。

 すると、メレカさんは少しだけ沈黙した後、表情は納得してないながらも「分かりました」と言って、俺を離してくれた。


「ありがとう!」


 俺は一言お礼を言うと、急いで駆け出した。


 先程ベルが放った魔法はブールノを肉体ごと吹き飛ばし、ブールノの魂を解放したのが見えた。

 だが、そこから先は違う。

 セイはベルの放った魔法を、魔力を込めた剣で切り払って威力を弱めて回避していた。

 グラシャラボラスもセイの背後にいた為に、魔法から免れて食らっていない。

 そして、今どうなっているかは土煙が上がって視認は出来ないが、それでも魔力を見ればどうなっているのかが分かる。

 今まさに、セイがベルに近づいて、斬りかかろうとしているのだ。


「させねえよっ!」


 ベルの前に移動して、振り下ろされたセイの剣を、魔力で硬化させた腕で受け止める。


「――ヒロくん!?」


 ベルの驚く声を背後に受けながら、俺は腕で受け止めた剣を、セイごと払いのけた。

 すると、その先にいたグラシャラボラスが苛立った様子で、「もう復活しやがったのか?」と俺を睨んだ。


「間にあって良かった。ベル、後は任せとけ」


「……うん。ヒロくん、お願い」


 俺はセイと向かい合った。

 今からの予定としては、手始めにこの悪趣味な魂を操る魔法を消し飛ばす事。


「言い伝えの英雄か。相手にとって不足はない」


 セイが剣を構えて、俺は全神経を研ぎ澄ます。


「悪いけど、直ぐに終わらせてもらうぜ!」


 ネビロスを相手にしたときの速度を思い出す。


 何よりも早く。

 相手が動きを捉えられないスピードだ!


「歯ぁ食いしばれっ!」


 一瞬にしてセイの懐に入って、殴り掛かる。

 だが、流石と言って良いだろう。

 俺の拳を、セイは反射的に剣で受け止めた。


「ならっ!」


 次の瞬間、俺は拳をセイでは無く、セイが持つ剣へと向けた。


「――っ!」


 まさか剣を殴られるとは予想出来なかった様で、セイはそれをかわす事もいなす事も出来ず、俺は剣を殴る事に成功して折ってやった。

 そしてそれにより、グラシャラボラスも顔を歪ませて動揺し、目の前にいるセイも驚いたのか動きを一瞬止めた。


「狙いはっ!」


 セイに流れる魔力の流れを目で見て、そして、セイの顔面を殴り飛ばす。

 動きを一瞬止めたセイは、俺の攻撃を防ぐ事も避ける事も出来ない。

 俺の拳を左頬に受け、何も出来ずよろめくだけ。


「まだまだいくぞ!」


 この好機を逃がしはしないと、俺は次から次へとセイの全身を、あらゆる所を殴り続けた。

 最早サンドバックと化したセイは反撃する事もままならずに、俺に殴られ続け、頑丈に作られた騎士の鎧をも俺に砕かれ破壊される。


「はあ!? おいおい、どういう事だよこれは! そいつは巫女の騎士だろ!? なんで一方的にやられてんだよおお!?」


 そんな事も分からないのか?

 あの馬鹿は。

 仕方がない。教えてやるか。


 最後にセイを地面に叩きつけて、グラシャラボラスに振り向く。


「最初の俺の攻撃で、おめえの魔法が一部解けたからだよ」


「はあ!?」


 俺は最初の一撃目に、呪いごと殴り飛ばすイメージをこめた。

 魔力を視認してセイを見た時、セイの全身を覆うグラシャラボラスの魔力が見えたからだ。

 そして、一撃目にイメージをこめた攻撃は殴った頬を中心に、顔面を覆っていたグラシャラボラスの魔力が剥がれた。

 魔力が剥がれると、同時にセイの動きが鈍くなるのを感じて、それを見て同じ様に全身のあらゆる所を殴った。

 こうして、俺の作戦は見事に成功したわけだ。


 つまり、俺の作戦は魂を操ってる魔法を全身から剥がす事。

 その為に全身を殴ったってわけだ。


 ようやく事の状況を理解したグラシャラボラスが、怒りをあらわにして怒鳴り出す。


「ふっざけんな! んな事があってたまるかっ! ご都合主義すぎんだろうがよ! こんなにくだらねえ事があるかっ!? 俺は認めねえ!」


 こいつが出て来てからというもの、喋るごとにずっと思っていた事だが、一々煩い。

 俺は呆れ顔をグラシャラボラスに向けて、鼻で笑ってから答えてやる。


「お前は馬鹿か? ご都合主義? 結構じゃねえか。俺はこの世界を救いに来たんだ。それくらいやってみせなきゃ、世界なんて救えねえよ」


「調子こいてんじゃねえぞ? ああっ! 上等だあ! ぶっ殺してやるよ!」


 グラシャラボラスが怒りのまま、こちらに接近してくる。

 煽るだけ煽りはしたものの、この煩いのと戦う前にやる事がある。

 そんなわけで、まず先にセイを持ち上げて、雑に扱って悪いと思いながらもベルへ向かって放り投げた。

 すると、今まで驚いた様子で見ていたベルが、慌ててセイを全身で受け止める。


「悪い、ベル。言い訳みたいでかっこ悪いけど、呪いを吹っ飛ばすには、本気で殴るしかなかった。結構ダメージを与えちまったから回復してやってくれ」


「――あ、うん」


 ベルは目をパチクリとさせて頷いて、セイに回復魔法を使い始めた。


 さて、ここからが本番だ。

 今まさに向かって来ているグラシャラボラスに振り向いて、深く息を吐き出した。

 ぶっちゃけた話、マジで腹と言うか背中と言うか、とにかくさっき真っ二つにされてくっついた腹回りが痛い。

 血も出てるし、正直言って重症だ。

 メレカさんの言う事を聞かずに飛び出したむくいが、残念ながら早くも俺を悩ませていた。


 ああ、いってえなあ……ちくしょお。

 でも仕方が無いよな。

 メレカさんの心配をないがしろにして出て来ちまったし、自業自得で笑えねえわ。

 なるべくさっさとやっつけちまわないと、またかっこ悪いとこ見せる事になるぞ。

 気合いれろよ、俺。

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