9話 猫耳娘は暴獣と戦い進化する
※今回も三人称視点でお話が進行します。
突如として現れた暴獣マンティコアは、ナオに対して恐ろしいまでの殺気を放ち、咆哮を上げてナオを襲う。
突然現れたマンティコアを、グラシャ=ラボラスは不思議そうに眺めて様子を見た。
そして、マンティコアの狙いがナオだけだと理解し、愉快だと言わんばかりの歓声を上げる。
「うっはーっ! こりゃ良いや! おっしゃブールノ~、てめえは暫らく休憩な。まな板娘と暴獣の一騎打ちだ。見ものだぜえっ! 生き残った方がまな板の方なら、そっから息の根止めてやりゃ良いってなあっ!」
グラシャ=ラボラスの指示に従いブールノは後ろへ下がり、ナオとマンティコアの一騎打ちとなった。
「なんなんだにゃ! 今はマンティコアに構ってる場合じゃ――って、言ってる場合でもないにゃ!」
ナオにはブールノとの戦いで受けた傷や体力の消耗が残っているが、マンティコアにそれは関係ない。
弱っているナオの息の根を仕留めるチャンスと言わんばかりに、もの凄い速度でナオに跳びかかって、前足の爪でナオを引き裂こうと攻撃する。
だが、ナオも黙ってやられるわけにはいかない。
襲いくるマンティコアの攻撃を魔爪で掃い、距離をとって一度体制を整えた。
すると、マンティコアが蠍の様なその尻尾の先端から、猛毒の針をナオに向かって射出した。
「――嫌な予感がするにゃ!」
咄嗟にナオが回避すると、毒針は地面に刺さり、刺さった部分を中心に地面がみるみると溶けていく。
それを見たナオは顔を青ざめさせて、溶ける地面から距離をとった。
「地面が溶けたにゃ!? これ本気でヤバいやつだにゃ!」
言ってる場合でも無い。
マンティコアは更に咆哮して、毒針を連続でナオに飛ばす。
「にゃーっ! いい加減にするにゃ! 何でニャーばっかり狙うのにゃ!?」
ナオはマンティコアの攻撃を避けながら、何故集中して狙われているのか考えるが、全く見当もつかない。
そして、グラシャ=ラボラスはそんなナオを見て、腹を抱えて笑い転げる。
「ぎゃははははっ! こいつはおもしれーや! おい、まな板娘ぇ。てめえ何か暴獣が怒る事でもやったんじゃねーかぁ?」
「煩いにゃ! だいたい、そんな覚えはな――――」
ナオはそこまで喋ると、先日の迷いの森での出来事を思いだした。
「――もしかして、あの時ピラーファイアを使って、森を一部焼き払ったのを怒ってるにゃ?」
「グオオオオオオオオオンッッ!!」
まるで、そうだと言わんばかりにマンティコアが咆哮した。
「にゃー!? 本当にアレでニャーに怒り狂ってるにゃ!?」
「身に覚えがあるみてーだなぁっ!? ぎゃははははっ!」
「本当にあの性悪男、煩くてむかつ――っにゃあ!?」
マンティコアが大口を開けてナオに飛びかかる。
その口は、無数の牙が生えており、噛まれれば確実に骨まで噛み砕かれるのが見て分かる。
それを見たナオは受けきれない事を悟り、跳躍して避けた。
「しつっこいにゃ!」
ナオが跳躍して宙にいる所に、マンティコアは体制をそのままに尻尾で透かさず襲いかかる。
尻尾の先端は猛毒を帯びていて、当たれば猛毒で死に至る。
ナオは残り少ない魔力の一部を使って炎を魔爪に纏わせて、上手く尻尾を払いのける事に成功し、そのまま着地して考える。
(なんとかしないとだにゃー。でも、イクスプロウシヴフレイムを使ったから、体力と魔力があまり残ってないにゃ。このままじゃ本当にヤバ――)
「――っ!?」
考える暇を与えまいとでもいう様に、マンティコアの毒針が放たれて、ナオの目前に毒針が迫る。
「――ファングフレイムッにゃあっ!」
一瞬で避けれないと悟ったナオは毒針を炎で燃やすべく、高火力のファングフレイムを唱えて攻撃する事で、何とか毒針を相殺して難を逃れた。
「はあ……はあ……」
伝道師ブールノとの戦闘に続き、マンティコアの登場でナオの体力は限界を迎えようとしていた。
ナオの体からは大量の汗が流れ、押し寄せるように疲労感が全身を巡っていく。
ナオ自身は気が付いていない事たが、この疲労は魔爪を初めて使用したというのも原因にあった。
魔爪に限らず、魔法を使用する為に触媒として使う武器と言うのは、武器無しと比べて高威力の魔法を出す為に必須の物だ。
しかし、それ故に慣れていない者が使うと、必要以上に体力や魔力を消耗しすぎてしまい、疲労しやすくなってしまう。
いくらナオが天才と言えど、魔爪を初めて使うと言うこの状況下で、常に全力を出さなければならない強敵との戦い。
更には、現時点で使える最強の魔法までもが初めての使用だった為、ここまで体力の消耗をしてもおかしくない話ではあった。
そんなナオに対して、マンティコアは怒りのままに次々に攻撃を繰り返す。
ナオは反撃をする余裕もなく、マンティコアの攻撃を防ぎ避けるのに精一杯になっていった。
「はあ……はあ……」
全身から疲労が伝わり魔力も残り少なくなったナオは、そんな中で考えをフル回転させて、マンティコアを倒す方法を考えていた。
問題は毒針だ。
ナオの手にかかれば、魔法で燃やすのは造作もない。
だが、それはあくまで魔力に余裕があればの話だ。
今のナオは魔力も枯渇寸前で、魔石を持って来てもいない。
ナオはマンティコアから繰り出される猛攻をギリギリの所で避け続ける。
接近されれば、地面を抉る強烈な前足での攻撃や、岩をも軽く砕く大口を開けての噛みつき。
距離をとれば、掠っただけで体が溶ける猛毒を持つ毒針。
驚異的な数々の攻撃を前に、ナオは懐かしさを感じていた。
(これだけ疲れて魔力も尽きかけで、当たると致死量の攻撃を避けていると、クンエイ爺ちゃんの修行を思い出すにゃ)
伝道師クンエイは普段は温厚で優しい獣人であったが、修行に関しては人が変わって、まるで別人。
修行が始まると鬼の様に怖く、それを見た者からは、その内に死者が出るとまで言われていた程だった。
クンエイの修行は主に実戦で行う事が多く、時には弟子を己と戦わせていた。
そして、その時にも容赦は勿論無い。
当時まだ今よりも幼かったナオが修行を受けていた時も同じで、ナオは何度も死にかけていた。
それを見た周囲の人から、幼い子供には酷だと諭されても、甘やかすつもりは無いと首を横に振る程だ。
(そうだにゃ! こんな時こそ、クンエイ爺ちゃんに教えて貰った事を思い出す時にゃ!)
マンティコアの猛攻を避けながらも、ナオは静かに心を落ち着かせて、伝道師クンエイに修行を受けていた頃の事を思い出す。
それは、毎日の様に繰り返される窮地。
それは、どんな状況下でも敵を分析する冷静さ。
それは、格上の敵にも負けない強さ。
それは、強者同士の戦いであればある程、一瞬で勝敗が決まる事があると言う事。
ナオは休む暇も与えようとしないマンティコアの攻撃を避けながら、マンティコアを分析する。
分析して分かったのは、毒針を出す時は必ず地に足をつけて、他の行動をとらない事。
接近して来ると、前足で攻撃をするか、噛みつこうするかの二択。
尻尾がある背後側に行かなければ、尻尾の攻撃をしてこない事。
(そう言えば、マンティコアと初めて会った時に、ヒイロに面白い魔法の使い方を教えて貰ったにゃ。ピラーファイアをあんな風に使ったのは初めてだったにゃ。普通は柱を寝かすみたいに出すなんてしないにゃ)
ナオは考えた。
格上のマンティコアを一撃で仕留める方法を。
そんなナオを、マンティコアが咆えて威嚇する。
その咆哮は風を帯びて、びりびりとナオに伝わっていく。
しかし、それを受けたナオはニヤリと笑みを浮かべた。
(良い事を思いついたにゃ!)
ナオは魔爪に魔力を集中しながら、マンティコアから距離をとる。
(勝負は一瞬、一撃で仕留めるにゃ!)
マンティコアが毒針を飛ばす態勢に入る。
毒針が飛ばされる瞬間を狙い跳躍すると、一気にマンティコアとの距離を詰める。
しかし、接近したナオにマンティコアは前足を振り上げた。
「にゃあっ!」
ナオがそれを避けると、マンティコアが今度は大口を開けて噛み砕こうとしてきた。
しかし、ナオはそれを待っていたとでも言いたげな顔をして、それを避けようとせず、そのまま口の中に手を突っ込んだ。
「クロウズファイア――」
「――!?」
マンティコアは命の危険を感じとり、口を閉じ噛みつくのではなく、逃げようとしたが既に遅い。
「――ランニング!」
瞬間――魔力を帯びた爪の形を模した炎が、マンティコアの口の中で放たれて、それが体内を駆け回る。
マンティコアは体内に放たれた魔法を防ぐ術が無く、全てのダメージを受けて内臓を燃え上がらせた。
「グオオオォォォォッン……ッ!」
煙を口から吐き出しながら、マンティコアは絶叫して白目をむき、その場に力なく倒れて息絶えた。
「はあ……はあ……。にゃー。ヒイロみたいに面白い使い方が出来たにゃ」
ナオはそう口にすると、満足気に笑みを浮かべてその場に倒れた。
【暴獣紹介】
マンティコア
種族 : 野獣『暴獣』
部類 : キマイラ
魔法 : 無し
ウッドブロック大森林の迷いの森を縄張りにしている暴獣で、森の主。
獅子の胴体と鬣、背中には翼、蠍の尻尾を持っている。
体高三メートルと背が高く、かなり凶暴な獣。
尻尾から出る猛毒は地面を溶かす程で、触れたら最後。
宝鐘の鐘の音を聞いた為に迷いの森から出る事が出来ず、迷いの森にさえ入らなければ襲ってはこない。
翼を持ってはいるが、体高三メートルもある体は重く、それが原因で飛べなかったりする。
悩みは、肉食故に迷いの森にある木の実が食べれず、食料が迷いの森に殆どない事。
その為、迷いの森に迷い込んだ餌を見つけるのに必死。




