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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第0章 プロローグ
3/256

3話 世界が闇で覆われる時、終わりと始まりを迎える

※プロローグのラストです。




 封印の遺跡。

 それは、何千年と前からそこにある古代の建物。

 緑の植物に覆われ、その植物は淡い光を放って遺跡を包む。

 古い建物ゆえに所々が若干崩れてはいたが、その姿は美しく、何とも言えない神秘的な雰囲気を醸し出していた。


 ベルが魔車に乗りクラライト城を出発し、既に十日が過ぎていた。

 そして今、百人の騎士を連れて、ベルは封印の遺跡に辿り着いたのだ。


 遺跡の前には既に他国の騎士や兵士達が大勢集結していて、ベルが辿り着くと、封印の巫女に無礼が無いようにと一斉に並んだ。


「皆さん、ごきげんよう」


「お待ちしておりました。封印の巫女姫様」


 クラライト城では年相応の態度をとっていたベルも、魔車から降りれば他国の騎士や兵士の前では王女たる振る舞いを見せ、他国の騎士や兵士も膝をつきこうべを垂れて出迎える。

 するとそこへ、遺跡の入り口から灰色のローブを羽織った少年が現れ、ベルの許へにこやかな笑顔を向けて歩いてきた。


「やあやあ、巫女様。久しぶりだねー。昨日はよく眠れたかい?」


 他の者達と違って随分と軽い口調の少年。

 彼の名前はブールノ=フィッチ。

 海底国家バセットホルンから来た伝道師の一人、魚人の少年だ。

 魚人の特徴である背ビレやエラが体にあり、それから腕や足には鱗がある。

 体系は細マッチョの198センチ。

 灰色のローブを羽織っていて、それに隠れて見えてはいないが、腰には剣を提げている。

 本来魚人は他種族を好まない種族だが、ベルとは同世代の生まれで、年が近いからと言うのもあってか仲が良い。

 魚人の中で、唯一友好的な存在と言って良い程の少年である。


「久しぶり、ブールノ。魔車の中にお布団を敷いたから、ぐっすり眠れたよ」


「ははは。それは良かった。それと、すまないね巫女様。やっぱり、国の兵を数人程度連れて来るのでやっとだったよ。我が国の女王様なんて言ったと思う? 聞いて呆れちゃうよ。『儀式に行くだけであれば、兵は数人で十分でしょう?』だってさ。我が国の女王様は、この儀式がどれだけ重要なのか分かってないのさ」


「ううん。仕方がないよ。そっちの方は、お父さまがきっと上手くやってくれるから、私達は儀式を成功させよう」


「ははは。違いない。私もそう信じているよ」


 ベルとブールノが一通りの会話を終えると、そこへメレカが「失礼します」と話しかける。


「ブールノ様、他の伝道師様達は既に儀式のご準備を?」


「メレカさんは相変わらず美しいね。今度お茶でもいかが?」


「……ブールノ様、他の伝道師様達は既に儀式のご準備を?」


 ブールノが質問を無視してお茶に誘うと、メレカは鋭い眼光をブールノに向けて睨み、再び同じ質問を繰り返した。

 すると、ブールノは冷や汗を流し、苦笑しながら両手を肩まで上げる。


「そんな怖い顔しないでよ? 冗談だって。あ、美しいってのは冗談じゃな――」


「ブールノ様、他の伝道師様達は既に儀式のご準備を?」


 メレカの目が更に鋭くなり、ブールノは顔を若干青くさせて答える。


「そ、そうだね。他の伝道師達は既に遺跡の中で準備しているよ」


「お答えいただき感謝を。では、参りましょう、姫様」


「う、うん。……あ。セイくんも来る?」


「よろしいのですか?」


「うん。おいでおいで」


「ありがとうございます!」


 ベルの誘いにセイは喜んで、ベルの後に続いて遺跡の中へ入る。

 喜んだのは、遺跡の中に入れるのが基本は封印の巫女と三人の伝道師、それから封印の巫女の従者が一人と決まっているからだ。

 神聖な儀式になる為、昔は従者も立ち入りを許されていなかったが、封印の巫女は王国の姫が代々なるもので、どうしても身の回りの世話をする者が必要になったのが理由だった。

 逆に言ってしまえば例外は認められると言う事で、その例外に選ばれたので、セイは喜んだわけだ。


 遺跡の中に入ると、ベルは次第に緊張が高まり体温も上昇し、額に汗が流れ始めた。

 それに気付いたメレカがベルの汗を拭うと、ベルが緊張した面持ちでメレカと目を合わせ、周囲に聞こえない程の小さな声で「ありがとう、メレカ」と感謝を述べる。

 それから、少し照れた様子で「あのね」と、言葉を続ける。


「ありがとうついでに、ちょっと手を握っても良いかな?」


「はい、もちろんです」


 メレカが柔らかく微笑みながら答えると、ベルは嬉しそうにメレカの手を握った。

 手を繋ぐとベルの緊張が和らいでいき、心は穏やかになっていった。


 そうして遺跡の中を暫らく歩いて行くと、天井が無く空が見える大広間へと辿り着いた。

 大広間の中心には魔法陣が描かれており、その中心には白く光り輝く一メートルくらいの大きさの鐘が宙に浮かんでいた。

 魔法陣の周りには儀式の準備をしていた伝道師が二人いて、ベルが来た事に気がつくと、準備を中断してベルに向かって歩き出した。


「ありがとう。もう大丈夫」


「はい」


 二人は手を離し、ベルは大きく深呼吸をする。

 そして、自分の許まで来てくれた二人に向かって微笑んだ。


「ごきげんよう。クンエイ、エミー」


「ご無沙汰しております。巫女姫様」


 そう挨拶を返した彼はクンエイ=ビスカット。

 狐の耳と尻尾が特徴的な七十を超えた獣人の老人男性だ。

 ブールノと同じく、灰色のローブを羽織っている。


「ごきげんよう、巫女姫様。すでに準備は整っております」


 そう挨拶を返した彼女はエミール=ファノー。

 メレカと同世代の年齢で、顔の整った綺麗な女性だ。

 エミールも同じく、灰色のローブを羽織っていた。


「巫女姫様、お聞きになられましたか? ブールノが不甲斐無いものだから、バセットホルンの兵があまり来ていないんですよ」


「おいおい。酷いじゃないか、エミール。他国との友好関係や国の繁栄の為にも、私だって女王様を説得するのに全力で取り込んでいるんだよ?」


「そうは言っても、まったく状況は変化しないじゃない。口では何とでも言えるわ」


「まあまあ。その辺にしてあげて、エミー。ブールノのおかげで、バセットホルンとの交流が随分と良い方へ向かっているのは事実なんだから」


「はい、巫女姫様。巫女姫様に免じて、この辺にしておきます」


「やれやれ。巫女様ありがとう。今後も気を引き締めて女王様の説得を勤めるよ」


「うん。お願いね、ブールノ。私のお母さまも期待してるんだから」


「王妃に? それは頑張らないとだね」


 三人が仲良く笑い合うと、そこへクンエイが「それでは」と話しを進める。


「巫女姫様、封印の儀式を始めましょう」


「うん、よろしくね」


 ベルは返事をして、自分の胸に拳を当て気合を入れる。

 ベルと伝道師達は魔法陣の所まで行き、それぞれ指定の位置についた。

 伝道師である三人は魔法陣には入らず、クンエイは北西、ブールノは南、エミールは北東へ。

 ベルは魔法陣の中へ入り、白く光り輝く鐘の前で立ち止まった。

 メレカとセイはそれを見守る。


 そして、儀式が始まる。


 伝道師三人が同時に詠唱を始め、魔法陣に描かれた文字が青白く光りだす。

 ベルは目を閉じて、鐘に両手を真っ直ぐにかざし、少しづつベルの体が白く光りだした。

 すると、大広間全体に光の粒子が溢れ出した。


「綺麗……」


 その神秘的な光景にメレカが思わず呟き、セイはその美しい光景に言葉を忘れていた。

 どれだけの時間が流れたのか?

 暫らくして伝道師三人の詠唱が終わると、ベルが目を開き詠唱を始める。

 白く光り輝く鐘は、その光を更に増して音を奏でた。



 リーン――リーン――



 とても美しく心に響く鐘の音色が、どこまでも遠く響き渡る。

 ゆっくり、それでいて長く響き渡る鐘の音は、聞いた者から時間の流れを忘れさせる。

 ベルの体を包んでいた光は、かざした両手を通じて光の鐘と繋がる。

 その光景はまさに神秘。

 何よりも美しく、この場に居合わせた誰もが見惚れ心を奪われた。 

 しかし、そんな時だ。



「掴んだぞっ! 巫女の魔力っ!」



 突然訪れる儀式を遮る男の声。

 その声はおぞましく、鐘の中から聞こえてきた。

 次の瞬間、鐘の音が止まり、最悪の事態が発生した。

 光り輝く鐘が、バリィィィンッ! っと、ガラスが割れる様な大きな音を響かせて爆ぜてしまったのだ。


「――きゃっ」


 鐘が爆ぜた勢いで、ベルが魔法陣の外に吹き飛ばされ倒れる。

 ベルを包んでいた光は、ベルが吹き飛ぶと同時に、鐘が爆ぜた場所に吸い込まれる様に消えていった。

 そして、そこから男が飛び出す。

 男は全身に黒い瘴気な様なものを纏っていて、肌は浅紫色で髪は深紫色で、背中から黒い翼を生やした悪魔の様な見た目。

 それはまさに“魔族”の姿。

 そして更に、その男だけでなく、魔族が次々と溢れ出た。


「こ、これは!?」


「巫女姫様!」


「おいおい。これはヤバいんじゃないかい!?」


 伝道師の三人は驚き、ベルの下まで駆け寄る。


「良い気分だ。まさか巫女の魔力を頂けるとは思わなかったぞ」


 そう言葉にしたのは、一番最初に現れた悍ましい声の男。

 男は気分良さげに笑い、ベルに鋭い眼光を向けた。


「姫様!」


 伝道師達と同様にメレカはベルの所まで駆け寄り、ベルを抱きかかえる。

 セイもベルと中から現れた男の間に立ち、腰に下げた剣を抜き構えた。


「メ……レカ……私……」


 ベルは衰弱していて、意識が朦朧としていた。

 それを見て、メレカやセイや伝道師達が焦りを見せた。


「貴様! ベル様に何をした!?」


 セイが叫ぶも男は答えず、ジッと自分の手を微笑しながら見つめる。


「姫様の髪が!?」


 その時、ベルに異変が起きる。

 ベルの金髪の髪が、少しずつ黒く染まっていく。


「これは……?」


「騎士殿! 巫女姫様をお連れして、今直ぐこの場からお逃げ下され!」


 メレカが困惑していると、クンエイがセイに向かって叫び、セイの隣に並び杖を構えた。


「かつて世界を闇で覆った魔族の長、あやつが“邪神”で間違いなさそうじゃ」


「あいつが……っ!?」


「文献によれば、邪神は魔力を奪い自分の力にする事が出来る。魔力を奪われた者の髪は、呪いを現すように黒髪になり二度と戻らん。文献通りなら巫女姫様の魔力は戻らんだろう。だが、巫女姫様は我々の希望。言い伝えにあった英雄と共に、邪神を再び封印する為に失ってはならぬお方。ここは、この老いぼれにお任せ下され」


「そういう事なら、敵は邪神だけじゃないんだ。私も残ろう。既にこの大広間全体に、これだけの魔族がいるんだ。流石の老公でも一人では厳しいだろう?」


 そう言うと、ブールノがクンエイの隣に並び、剣を抜き取って構えた。


「恩に着ます! お二方、ご武運を!」


 セイが直ぐにメレカとベルの所まで下がると、その様子を見物していた邪神がニヤリと笑んだ。


「盛り上がってる所悪いが、これ(・・)はいいのか?」


 これ(・・)と言う言葉に視線を向けると、先程まで一緒にいたエミールが捕まって拘束されていた。

 そして、その背後には右目と左目が宝石で出来た巨大な蛇がいる。


「エミー!」


 咄嗟にベルが叫び、おぼつかない足で立ち上がって「ライトニードル!」と魔法を唱える。

 しかし、魔法が発動されなかった。


「なんで……? ライトニードル! お願い! このままじゃ……エミーが! ライトニードル!」


 必死に何度も呪文を唱えるが、魔力を失ったベルでは魔法を使う事が出来ない。

 ブールノも助けに行こうとしたが、その前に、邪神が笑みを浮かべて巨大な蛇に命令する。


「そいつを食え、ヴイーヴル」


「はーい。いただきまーす」


 ヴイーヴルと呼ばれた巨大な蛇が大口を開け、ベルが「お願い! やめてっ!」と走り出す。

 すると、エミールはベルに視線を向けて優しく微笑んだ。


「巫女姫様、どうかお逃げ下さ――」


 次の瞬間、エミールが最後まで言葉を話す事なく、ヴイーヴルに丸呑みされてしまった。


「そんな……。エミーッ!」


 ベルはその場で泣き崩れ、ブールノがヴイーヴルに向かって走り出す。


「貴様ぁあぁっ!!」


「実に気分が良い。……決めたぞ。おい、ネビロス」


「はい」


 ネビロスと呼ばれた男が前に出て、邪神の前でひざまずく。


「まずはあの男。それから外にも騎士や兵士の気配がある。何人か配下にしろ。やり方はお前の自由にして構わん」


「承知しました」


 答えると、ネビロスはブールノの目の前に一瞬で移動し、ブールノの剣を弾き飛ばす。

 そしてそれと同時に、周囲にいた魔族達が、一斉にベルを襲いだした。


「――っ!? そこをどけ! ウォーターブレイド!」


 ブールノが魔法で水の剣を作りだし、ネビロスに斬りかかる。

 二人が戦いを始めた頃、メレカは泣き崩れたベルを抱きかかえ、セイは魔族達から逃げる方法を探した。

 クンエイはベルがここから逃げ出せるように、襲いくる魔族を相手にする。


 この大広間全体には、既に魔族が大量にいる。

 もちろん出入口にも。

 セイは上を見上げ、空から逃げられるか確認した。

 空を飛ぶ魔族はいるが、多少は空が見えている。


「メレカ! ベル様を離すなよ!」


「分かってるわ! 姫様、しっかり私にお捕まりください」


「でもメレカ! 伝道師様達が!」


「今はこれが最善の策なのです。どうかご理解ください」


「でも――」


 ベルは言いかけて、メレカとセイの真剣な顔を見てぐっと堪える。

 そして、自分の為に命を懸けてくれている彼等の為に、我が儘で足を引っ張ってはいけないのだと理解した。


「――わかった。我が儘を言ってごめんね」


「とんでもございません。姫様のお優しい心を考えれば、当然の事です。私共の為に心労をおかけしてしまった事に、こちらが謝るべきでしょう。ですが、それは全てが終わった後で。セイ! 頼むわよ!」


「全力で行く!」


 セイは剣を構えて、右手に魔力を集中する。

 そして、左手でメレカの腰に手を回して掴み唱える。


「ブラストフライ!」


 瞬間――セイはベルを抱えたメレカを連れて勢いよく空を飛んだ。

 しかし、そんな時だ。

 邪神が愉快そうに笑い、「バハムート、アレを逃がすな」と呟くと、巨大な黒い竜が空を舞ってセイの目の前に現れた。


「――っ!?」


 黒竜が口から巨大な炎の玉を吐き出し、セイは咄嗟にベルとメレカを庇い、剣でそれを受け止める。

 だが、凄まじい威力で受け止めきれずに直撃を受け、ベルとメレカ諸共もろとも吹き飛ばされてしまった。

 そして、三人はもの凄い勢いで地面に向かって吹っ飛び、地面に激突する寸前にメレカが懐から小杖を取り出して「スプラッシュ!」と呪文を叫ぶ。

 瞬間――メレカの持つ小杖から大量の水が溢れだし、水を地面に叩きつけた

 しかし、勢いは消しきれず、三人は地面に叩きつけられる。


「かはっ。……すまないメレカ」


「ええ。それより、姫様お怪我は?」


「けほっけほっ。私は大丈夫だよ。あり……がとう……」


「姫様? どうされました?」


「ううん。本当に大丈夫だから……」


 ベルの顔色は悪くなっていて、とても大丈夫に見えない状態だった。

 しかし、今はそれどころではなく、メレカはそれ以上聞く事が出来なかった。

 三人が周りを確認すると、そこは遺跡の出入り口で待機していた騎士や兵士以外の姿、魔族達の姿は無かった。

 そして、突然空から降って来た三人を見て、騎士や兵士が何事かと騒ぎ出した。


「運が良かったわね」


「ああ、早くこの場を離れるぞ」


 セイはメレカにそう返事を返すと、直ぐにベルに向き合った。

 

「一刻を争います。皆には俺から説明しますので、ベル様は早く魔車へ」


「うん」


「姫様、こちらへ」


 メレカが先導してベルは魔車へと走りだす。

 そして、セイは周囲で騒ぎ出した騎士と兵士に向かって大声を上げる。


「封印の儀式が失敗して邪神が復活した! 遺跡の中では、伝道師様が邪神や魔族達を足止めしてくれている! 今直ぐ魔車へ乗り込み、この場より撤退せよ!」


 騎士や兵士は動揺したが、直ぐに魔車へ乗り込もう走り出す。

 しかし、最悪な事態がやってくる。

 騎士や兵士が魔車に乗り込んでいると、その内の一台が炎の玉に吹き飛ばされたのだ。


「――くそ!」


 炎の玉が飛んできた方角を見ると、遺跡の上空から飛行する魔族達を連れて、バハムートがこちらへやって来るのが見えた。


「奴等の相手は引き受けます。セイ殿は巫女姫様の騎士。巫女姫様をお守り下さい」


 そう言うと、魔法で飛行可能なクラライトの騎士が、剣を構え飛翔する。

 その騎士に続き、各国の飛行可能な騎士や兵士も飛んで、魔族の群れと戦い始めた。


「任せた!」


 セイはベルを乗せた魔車へ飛び乗り、運転席に座っていたメレカが魔車を発車させる。

 それに続き、他の魔車に乗り込んだ騎士や兵士も、次々と魔車を発車させていった。

 しかし、走る魔車の前方、メレカの目前にネビロスが現れた。


「逃げられると思ったか?」 


 メレカが小杖を構え、目の前に魔法陣が浮かび上がる。


「バレットウォーター!」


 瞬間――魔法陣から水の弾丸が飛び出して、それはネビロスに向かって一直線に飛翔した。

 しかし、ネビロスはそれを軽々と弾き、魔車の上へ飛び乗った。


「ここか」


 そう呟くと、ネビロスは屋根を殴って破壊し、その中にいたベルと目がかち合う。


「あの方のご命令だ。貴様はここで死んでもらうぞ」


「させると思っているのか?」


 セイがネビロスに斬りかかり、ネビロスはそれを避け魔車から飛び降りる。

 そして、魔法で黒い光を放つ球を出現させ、それを魔車へ向かって放った。


「ベル様!」


 咄嗟にセイがベルを抱えて魔車から飛び降り、それと同時にネビロスが放った魔法が魔車に直撃して爆発した。

 メレカもその爆発から逃れて、直ぐにベルの許へと走る。


「姫様、ご無事ですか!?」


「うん。大丈夫だよ、メレカ。セイくんもありがとう」


「いえ。それより事態はかなり深刻な状態です」


 既に周りは火の海と化し、騎士や兵士は魔車から降りて魔族と戦っている。

 バハムートと対峙してくれた者達の姿は既に無く、バハムートが頭上でベル達の様子を見ていた。

 それ等を見て、セイは深く深呼吸をした。


「メレカ、ベル様の事を任せたぞ」


「ええ。命に代えても」


「セイくん……?」


「ベル様。ベル様の騎士でありながら、最後までお供する事が出来なくて申し訳ございません。願わくば、ベル様が予言の“英雄”と共に邪神を倒すまで、側でお守りしたかったです」


「何言って――」


 覚悟を決めた真剣な顔のセイを見て、ベルは言葉を詰まらせた。

 セイが何をする気か分かってしまった。

 本当は止めたくて止めたくて仕方がなかった感情を抑えて、不安で心臓が張り裂けそうになりながらも、ベルは息を飲み込んで震えた声で言葉を繋げる。


「――覚悟を決めたんだね」


「はい」


 その答えに、ベルは涙が溢れだすのをグッと耐えて我慢する。


「セイくん、貴方と過ごした日々は私の宝物だよ。きっとこれからも、だから、だからね? セイくん。必ず帰って来て……。お願いだよ……」


「はい。必ず」


 きっとこの約束は果たされる事はないだろう。

 この場にいる誰もがそう思った。

 だが、それでもベルにとっても、セイにとっても、それは最後の大切な約束だった。

 そして、二人は背を向ける。


「メレカ、行こう」


 ベルの目には、もう涙は無かった。

 例え叶えられない約束だとしても、その約束を胸に刻んで前を向く。


「はい、姫様」


 ベルとメレカは走り出す。

 セイは眼前に立つネビロスと上空で見下ろすバハムートを睨みつけ、深く深呼吸をした。


「封印から解かれて早々に悪いが、貴様等のその首、今ここで狩らせてもらう!」


 セイは魔力を集中し、眼前の敵目掛けて飛び込んだ。




 ベルとメレカは走り続ける。

 戦いの音が背後から聞こえてくる。

 剣が弾かれる音、風が炎とぶつかり合う音。

 だけど二人は振り向かない。

 ベルの命を護る為に戦ってくれている騎士と兵士の為にも、そして弟の様に大切なセイの為にも、ただひたすら走り続けた。

 予言に書かれた【聖なる英雄】に希望を抱いて……。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

長かったプロローグも終わって次回から本編です。


もし『面白い』と思って気にいった方は、ブックマークの登録や、広告の下にある評価での応援をして頂くと、執筆の励みになりますのでよろしくお願い致します。

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