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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
最終章 君と絆の物語
251/256

79話 因縁の二人

 半壊した封印の遺跡の瓦礫がれきを背にして、俺は邪神ソロモンと睨み合う。

 いや。

 睨み合うと言うのは、少し違う。

 俺は睨んでいたが、邪神は気分良さげに口角を上げていた。

 そして、懐かしむような口調で話しだす。


「こうして貴様と戦っていると、喧嘩をした昔の事を思いだすな。あの頃の我はまだ幼く、今思えばくだらん事でムキになっていた」


「幼い頃の喧嘩? なんの話だ? それもネビロスの……いや。まさかお前っ」


「フッ。漸く気づいたようだな。我の前世の正体に」


「それじゃあ、お前もネビロスと同じ“みそぎ大和やまと”だってのか!?」


「その通りだ。我はガブリエルによってこの世界に魂を連れてこられ、天使と人間の混血として生まれたアーサーとなった」


「…………嘘だろ?」


「嘘では無い。その証拠となるかどうかは知らんが、ネビロスの奴の邪神としての行動が、繰り返しの世界とほぼ同一であったであろう?」


「……そう言う事だったのかよ」


 それは思い返せば確かにと納得出来るものだった。

 何より、邪神がネビロスと同じ前世であれば、今までの不可解な事が全て説明つく。

 疑いようもなく、それが事実だと証明されている。


「ただ、ネビロスは我の記憶の断片のみを入れたまがい物だがな」


「まがい物……?」


「そうだ。奴には比較的に古い記憶……つまりは、貴様への恨みや周囲への恨みを募らせていた、昔の我の記憶のみを入れた」


 これも納得できた。

 誰かを恨む感情が、世界を滅ぼしてまでと言う異様な感情だったから。

 そして今更な話ではあるが、ネビロスは魂を操れて、しかも魂のみで動ける。

 だと言うのに、ネビロスは早朝の戦い以降、姿どころか魂さえも消している。

 つまり、それは邪神の中に分身だったネビロスが戻ったと言う事。

 だが、それなら――


「――何でそんな事をしたんだ? ネビロスがお前自身だってなら、意味がある様には思えない」


「暇つぶしだ」


「暇つぶし……?」


「何百と繰り返される同じ世界だ。それも、今回は世界の崩壊が決まっている。最後に初心の我の分身でも作って、そいつで遊んでみようと思ったまでだ。アスタロトにはそれを伝えていたが……まあ、それはどうでも良い事だな」


「アスタロト……? そうか。確かにあの時の奴の言動は、全てを知っていそうな話し方だったな」


 邪神がネビロスから体を取り戻した時に、アスタロトはまるで全てを知っているかのような言動だった。

 あの時の俺には余裕がなく、それに気付く事が出来なかったが、今にして思えばおかしかったのだ。

 しかし、その件はとにかくとして、こうなってくると疑問が浮かぶ。


「なあ? 邪神……いや、大和やまと。お前の目的って何なんだ? 何でこの世界を壊そうとしてる? 俺への復讐なのか?」


「くだらん質問だな。今の我は大和などと言う名も既に捨てている。勿論、五千年前のアーサーの名もな。復讐など興味をとっくに失せている」


「だったら何で、なんでお前は世界を壊そうとしてるんだよ?」


「あえて言うなら楽しいから。と言うのはどうだ?」


「は……?」


「確かに最初は復讐の為にこの世界を滅ぼし、我の前世にいた世界にある地球も滅ぼそうと考えた。だが、今となってはくだらぬ事だ。貴様も既に殺した経験がある。恨みなどその時に消え、貴様のあまりの弱さに拍子抜けして失望したほどだ。おかげで復讐がどれ程つまらぬのかを知った。だが、目標と言う欲を失えば、次が欲しくなる。そう言うものだろう?」


「じゃあ、お前は人が苦しむ姿を見て楽しみたいからって理由だけで、世界を滅ぼそうとしてるのか?」


「当然だ。我は今の立場を得て、苛める立場である連中の気持ちが理解出来た。弱者を好きな様にいたぶり、好きな様に殺す。これ程に面白い遊びは他にない」


「本気でいってるのか?」


「冗談を貴様に言う必要があるか? しかし、残念な事に時が繰り返されている。抜け出すにはまず、この世界を崩壊させ、神が住む天界にでも行き神々を滅ぼす必要があるだろう。またガブリエルの様な馬鹿が面倒事を犯さん為にな。その後は前世の世界にでも行って、化学兵器とやらの相手でもして遊ぶとしよう」


 饒舌じょうぜつに、そして、楽しそうに話す邪神を見て、俺は言葉を失った。

 邪神は本気で復讐でも何でもなく、ただ楽しいからと言うだけで、世界を終わらせようとしているのだ。

 そこには理想や信念や正義も悪も無い、邪悪な欲だらけの娯楽の塊しかない。


 こいつは……この男は間違いなく“邪神”と言う呼び名がお似合いの俗物だ。


「邪神ソロモン。やっぱり、お前はどうあっても倒さなきゃいけないみたいだな」


「貴様に出来ればの話だがな。しかし、我とした事がつい長々と話してしまった。やはり貴様を見て懐かしんだかもしれぬな。こうして思い返せば、我と貴様は随分と長いつきあいになった。これが俗に言う“因縁の相手”と言うものかもしれんな」


 俺と邪神は同時に駆け出し、激突。

 拳と拳が何度もぶつかり合い、更には邪神の能力スキルが飛び回る。


「てめえをそんなんにした事の発端が自分にあるって思うと、ほんっとにムカつくぐらい責任をかんじるよ!」


 黒紫の光線を発射する目玉に、目に見えない打撃、衝撃、斬撃、鞭撃。

 これでもかってくらいに次から次へと攻撃が繰り出されて、俺はそれを防いでかわしてを繰り返す。


「つまらん正義感と言うやつか? くだらんな。我と言う絶対者を生み出したのだ。誇りに思え」


「誇りだあ? どう考えても汚点だろ!」 


 指輪とブレスレットから魔力を引っ張り出して、一斉に放つ。

 蒼炎の球と氷の玉に、雷を纏う風の球と重力の球、それから音撃の球に毒の球。

 それ等を全て、邪神の放つ能力スキルに向かってぶつけていく。


「貴様に神域を極めた力と言うものを見せてやろう」


「――――」


 次の瞬間、邪神の動きに変化が起きる。


「――っぁが…………っ!」


 それは正に一瞬。

 時間が止まっていたかのような、限りない零の世界。

 俺は邪神に、顔、あばら、腹、それ等全てをその一瞬で蹴られた。

 そして、まるで俺の体が蹴られた事を忘れているかのようにその場に一秒留まり、直後に思い出したかのように時間差で吹っ飛ぶ。


 ――っくそ!

 なんだよ今の!?

 マジで洒落にならないスピードだぞ!


 吹っ飛んだ直後に体勢を整え、直ぐに地面に足を付けて勢いを消す。

 だが、想像以上にヤバいダメージを負ってしまった。


 勢いを消した後、ガクンと足の力が一瞬抜けた。

 間違いなく今の攻撃で体にガタがきている。

 それに、その直後に突然吐き気がこみ上げて、俺は大量の血を吐き出した。


「ヒロくん!」


 ベルの声が聞こえて視線を向ければ、ベルが泣きそうな顔で走って来そうだったので、片手を上げて手の平を向けて制止させる。

 心配そうな表情を見せてはいるが、とりあえずそれでベルは足を止めてくれた。


 しっかし、マジでヤベえな。

 あんなの何度も食らえねえぞ……。


「どうだ? 英雄ひーろー。これが神域を極めた者のみが許される領域。天界の神々すらも圧倒できる程の力だ」


「くだらねえな。ただの自慢話かよ」


「フッ。まだ憎まれ口を叩ける様なら、もう少し楽しませてくれるのだろうな?」


 ――――っ来る!


 集中し能力スキルを限界まで高める。

 そして次の瞬間、邪神の飛び膝蹴ひざげりを両腕で防ぐ――が、駄目だ。

 時が止まっている様な限りなく零に近い一瞬で、回し蹴りを左の横腹に食らい、再び同じ様に吹っ飛ぶ。


「っぃ…………っぎぃっ!」


 ――どうにかしねえとマジでヤバいぞ!


 吹っ飛ぶ最中に何とか地面に足を付けて勢いを殺し、邪神に視線を向け――――いない。


「手加減でもしてやろうか?」


「――冗談っ!」


 背後から邪神の声が聞こえ、振り向くより速く邪神が俺の背中を蹴り上げる。

 だが、今度は蹴られただけじゃ終わらせない。

 吹っ飛ぶ前に俺を蹴った邪神の足を捕まえて、引っ張る。


「これで――――」


「バランスも自身があってな」


「――――っな!」


 邪神を引っ張って殴ろうとしたが、流れるような動きで回転され俺は手を離してしまい、そのまま顔に回し蹴りを入れられ地面に叩きつけられる。


「が……っぁ…………っ」


 力の差は比べるも無く歴然で、最早次元が違う。

 地面に顔を埋めると、足を持ち上げられて逆さ吊りにされた。

 俺はその状態で血を吐き出し、ぶっ飛びそうになる意識をなんとか持ち堪える。


「ハッハッハッ。身を保てているどころか、意識まであるのか。凄いじゃないか、英雄ひーろー


 邪神が口角を上げ、俺を上空に放り投げる。

 今が体勢を整えて反撃に移るチャンス……だと言いたいが、今の俺にそんな余裕は無かった。

 上空に投げられれば、そのまま抵抗も出来ず上空を漂うだけだ。


「貴様の丈夫さだけは我と同等だと認めよう。褒美だ」


 ――丈夫さだけは……同等…………?


 瞬間――邪神が上空を漂う俺に向かって黒紫色の球を放つ。

 その速度は、相変わらずの時間が止まっているような限りなく零に近い一瞬。

 だが――――


 ――同等ってなら、俺にもまだ可能性はある!


 イメージを膨らませ集中し、能力スキル【英雄の鼓動】を発動する。

 すると、やってきたのは時が止まっているような感覚。


 周囲のあらゆる物がスローモーションで目に映り、そうでない物は二つだけ。

 その二つは、邪神と、今放たれた黒紫色の球……いや、奴のマジックボール。

 初心者でも使える属性付与の初歩的な魔法の球だ。


 ――躱す……いや、流せ!


 次の瞬間、俺は邪神の放ったマジックボールを流す様に手で払う。

 そして、再びイメージする。


 今度のイメージは、今払って俺の真横を通り過ぎようとしているマジックボールを掴み、蹴るイメージ。

 サッカーボールのように蹴るわけでは無く、掴んでそれに足を乗せて、蹴り上げて下にいる邪神に向かって跳躍する為だ。


 ――掴んで、蹴り上げる!


 瞬間――マジックボールを掴み、蹴り上げて、邪神に一瞬で接近して拳を振るった。


「――――っ!」


 確実に隙をついたはずだった。

 邪神は俺の速度の変化に気づいて驚き、動揺を見せ隙を作ったのだから。

 だが、ギリギリ両腕で防がれた。


 ただ、防がれはしたものの、流石に何も無しとはいかなかったようだ。

 邪神は俺の攻撃を防ぐと、その衝撃で勢いよく後ろに床を滑っていき、遺跡の瓦礫の中に突っ込んだ。


「くそっ。あっさりとはいかないか……って――――っ!」


 限りなく零に近い一瞬。

 瓦礫の中から邪神が飛び出し、俺に向かって連続で蹴りを繰り出す。

 俺はそれをギリギリで躱し、邪神から離れて距離をとる。


「――っぶねえ! この速度だと、マジでほんの一瞬でも気を緩めたら命取りだな、邪神さんよお」


「フッ。そうだな。確かに貴様の言う通りだ。我もこの領域に踏み込める奴を相手にするのが初めてでな。少々油断をしてしまっていた様だ」


「へえ。話が分かるじゃねえか。前世が大和やまとでネビロスと一緒だし、てっきりブチギレると思ったけどな」


「言ったであろう? 奴は我の分身だが、記憶の断片を与えてやったにすぎん。我をあのような愚か者と一緒にされては困るな」


「そうかよ。それは残念だな」


「フッ。くだらんな」


 挑発して怒らせて、動きを単調にしてやろうと思ったが、どうやら作戦は失敗らしい。

 同じ速度で動ける様になったってのに、喜んでいる様にさえ見える。

 こっちは既に体がボロボロで、血反吐まで吐いて限界が近いってのに、邪神は随分と余裕だ。

 少年漫画に出てくる様な戦闘狂なキャラじゃあるまいし、本当に勘弁してほしいもんだ。


 俺は睨み邪神は口角を上げ、そして、同時に駆けだした。

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