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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
最終章 君と絆の物語
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59話 始まりの地

 大きな龍の姿に変身したピュネちゃんの背中に乗り、封印の遺跡を目指して暫らくすると、前方からもの凄いスピードで接近して来る魔族が見えた。

 すると、その魔族を見た途端にピュネちゃんが急ブレーキをして止まり、俺はその事に驚いた。

 何故なら、ピュネちゃんはここに来るまで一切止まる事無く突き進んでいたからだ。


 前から魔族が止めに入ろうが、後ろから追われて魔法で攻撃されようが、ピュネちゃんは今の今まで絶対に止まらなかった。

 だが、今回は違って止まった。

 だからこそ俺は驚き「ピュネちゃん?」と話しかけた。

 すると、ピュネちゃんはいつもののほほんとした口調ではなく、真剣な口調で答える。


「ごめんなさい、ヒロさん。少しだけ厄介な子が来たみたいです」


「厄介な子……?」


 言葉を繰り返す様に質問すると、丁度そのタイミングで前から迫っていた魔族が目の前までやって来た。


 その魔族は二十歳くらいの見た目の女性の姿をしているが、腕が無く、その代わりに腕の部分から鳥のような翼が生えている。

 更には、背中からも鳥の翼が生えていて、翼が全部で四つ。

 それに鳥のような見た目な部分は腕だけでなく、足も見た目が鳥の足だったし、足下まで伸びる尾羽が見えた。

 薄い紫色の髪は長くウェーブがかかっていて、ピンク色の瞳に鋭い目つき。

 ナオのように薄い服装で、上はへその見える長さのノースリーブシャツに、下はショートパンツ。


 魔力はそこまである様には見えない。

 だが、計り知れない何かを感じさせた。


「アハハ! もしかしたらって思ったら、やっぱりデルピュネーじゃない。久しぶりねえ!」


「ガルーダさん……。やっぱり貴女も邪神の下にいたのね」


「当然でしょ? 私はアンタと違って、ソロモン様の事を理解してる。あの方の考えに共感して、私は自ら配下になったのよ」


「今でも考えは変わらないの?」


「変わるわけが無いでしょ? ソロモン様のおかげで力も手に入れた。今ではソロモン様の配下の中でも、五番目の実力を持つまでになったのよ」


「五番目……ですか。ガルーダさんはいつも強くなりたいと言っていたから、願いは叶ったのね」


「そうね。でも、私は五番の座で終わるつもりは無いわ。デルピュネー。アンタを殺して、そしてこの戦いでソロモン様に逆らうゴミ共を殺しまくって、誰よりも強くなるのよ」


「……そんな所も変わらないのね。昔から貴女はそうだった。邪神の仲間になる前も」


「この世は力が全て。弱いゴミは強い者に殺されたって文句なんて言えない。弱いゴミが悪いんだもの。だから、強さを求めるのは当たり前よ。ソロモン様はそれを分かってる。あの方は私の憧れ。アンタ等みたいな甘ちゃんには、死んでも分からないだろうけどね」


「分かりたくもないわ」


 二人の会話からするに、恐らく知り合い。

 だが、再会を喜ぶと言う感じでは無さそうだ。


 二人の会話を黙って聞いていると、ガルーダと呼ばれた魔族が俺に視線を移して目がかち合う。


「ねえ、デルピュネー。まさか、アンタの背中に乗ってるそいつが例の英雄えいゆうなの? 思っていたより弱そう。それに魔力もゴミ。こんなのが本当にルシファーをったの? こんなゴミが?」


「ヒロさん、本当にごめんなさい。ここからはお一人で封印の遺跡に……邪神の許に行って下さい」


「……分かった。ここまでありがとな。お互い頑張ろうぜ」


「はい。お気をつけて」


「ちょっと聞いてんの? 無視しないでくれない!」


 ガルーダを無視してピュネちゃんとの話を終わらせると、俺はピュネちゃんの背中から地面に向かって飛びおりる。

 そして、ガルーダの怒声を聞きながら、魔族がひしめく地面へと着地した。


 ガルーダは怒っていたようだが、俺を追って来るつもりは無いらしい。

 あの様子だとピュネちゃんとは何かあるみたいだし、ピュネちゃんに任せて問題無いだろう。

 だから、一先ずは遺跡に向かって駆け抜けるのみだ。


 そうして着地後に周囲を見れば、どこを見ても魔族でいっぱいだった。

 魔族は俺を見て目を鋭くし、今にも俺を殺しに襲って来そうな勢い……いや、もう来てる。


「「「殺せええええええええええええええええ!!」」」


 魔族どもが咆えるように大声を上げ、一斉に襲いかかってきた。


「準備体操は出発前に終わらせたし、今度は封印の遺跡までの準備運動だな」


 俺は呟き、能力スキルを発動。


 思い出すのは、出発前にガブリエルが俺に言った言葉。

 先代ドレクの爺さんに連れられて来たガブリエルは、本当に別人のようだったが、それでも俺に伝えた言葉は大きなものだった。

 あの時、ガブリエルが俺に伝えたのは、能力スキルについてだ。

 そして、その内容と言うのが、俺の能力スキルが既に“覚醒”しているかもしれないと言う事。

 そしてそれは、邪神の【限りない野心(オールスキル)】とは別の進化を遂げていると、ガブリエルは言っていた。


 俺の能力スキル【想像の体現化】が覚醒を果たして、そして掴んだ進化の先。

 それこそが、あの時に見えた光の速度を超えた先の領域。

 だから、俺は封印の遺跡に辿り着くまでに、今からあの領域に辿り着かなければならない。

 そうじゃなきゃ、邪神は絶対に倒せない。

 “ベルの英雄”になんてなれやしないのだから。


「まずはこいつで!」


 左手で鉤爪の形を作り、イメージを乗せて目の前の魔族の群れ目掛けて振るう。

 瞬間――目の前から数十キロ先に届く斬撃が、魔族の群れを斬り裂いて一掃。


 斬り裂いた魔族は悲鳴を上げる事無く絶命し、魔人は爆散して、魔従は溶けて骨だけ残った。

 群れを作っていた魔族が死亡して、数十キロ先までの道が出来たので、俺は走りながら次をイメージする。


「まだ弱いな。次は……」


 足元に落ちている石ころを拾い、思い描くは空間すらも貫く一本の槍の刺突。


「これで!」


 イメージを固めて石ころを投げる。

 すると次の瞬間、俺のイメージ通りに石ころは飛んでいき、数百キロ先までいた魔族の群れをも一掃した。

 そして出来上がった一本の道を、俺は再び走り抜ける。


 こんな調子でイメージして攻撃を繰り出し、道を作って走るを繰り返し続ける。

 勿論それを止めようとする魔族も沢山いたが、なんて事は無い。

 全部まとめて一掃してやった。


「よし、この調子なら」


 独り言ちすると俺は更に走る速度を上げに上げ、イメージしながら勢いに任せて回し蹴りをする。

 すると次の瞬間、回し蹴りで発生させた衝撃波が、前方にいた魔族の群れを扇状に殲滅せんめつ

 それは数千キロ先までに及び、一瞬で目の前の見晴らしをよくして、開けた荒野を走り抜ける。


「次は……っ! なんだ。意外とあっさりだったな」


 それなりに速めの速度で走りながら、魔族の群れを殲滅して進んでは来たが、想像していたよりも早く辿り着いたようだ。


「見えたぜ! 封印の遺跡!」


 俺の視界に映ったのは、随分と古い見た目の古代の建物。

 所々に壊れた箇所やらヒビやらが見えてはいたが、それでもしっかりとした形で残っている。

 それから、淡い光を放つ緑の植物に覆われていて、それが遠目にも綺麗に遺跡を主張しているのがよく分かる。

 そして、遺跡の周囲に漂う害灰がいはいの数は、他と比べてとても多く不気味な雰囲気を出していた。


 遺跡が見えると、俺も攻撃手段を変更する。

 今までは殆ど何も考えず、目の前の魔族の群れをひたすら一掃するだけの攻撃をしていたが、ここから先は慎重にしなければならない。

 何故なら、封印の遺跡の中には恐らく邪神がいて、そこには封印されているベルもいるからだ。

 万が一と言うのもあるし、ベルに攻撃が当たって傷つけるわけにもいかない。

 だから、攻撃範囲は最小限に抑えて、邪魔な魔族を蹴散らして進むのみだ。

 と言っても、ここまで来ると殆ど魔族がいなくて、いるのは多分遺跡周辺を護る魔族のみ。

 そいつ等を倒しながら進んで行き、封印の遺跡の目の前までようやく辿り着く事が出来た。


 封印の遺跡は、ベルとメレカさんにとって、魔族達との辛い戦いの始まりの場所でもある。

 ここで封印の儀式に失敗し、そして、ここから始まった戦いの日々。

 周囲を見渡せば、魔車の残骸や、魔族に殺されたのであろう騎士達の骨が残っている。

 きっとここで沢山の人が死に、ベルは心を痛めて苦しんだのだろう。


 初めて会った時のベルは、本当に悲しそうな目をしていた。

 俺はそんなベルを助けたくて魔族と戦うと決めたのだ。

 と言っても、今にして思えば、あの時から既にベルに惹かれていたのかもしれないが。

 もしそうなら惚れた女の子にかっこいい所を見せたくて魔族と戦おうとするって感じで、本当にかっこ悪い感じになるが、この際それはどうでもいいだろう。


 全てが始まったこの封印の遺跡で、全ての決着をつける。

 あの時、“ベルの英雄”になりたいと願った気持ちは、今も変わらず残っている。


「ベル、必ず助け出すからな」


 俺は呟くと、始まりの地【封印の遺跡】の中へと足を踏み入れた。

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