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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
最終章 君と絆の物語
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57話 動き出す強敵たち

※今回は三人称視点のお話です。



 龍に変身したデルピュネーに連れられ、ヒロが封印の遺跡に向かって行った後、その場に残った少女達も動き始める。

 彼女達の背後には、まだ避難途中の村人達がいるトーンピースがあり、前方からは魔族の大軍。

 魔族の数は五千万を超え、その数には圧倒的な差があった。

 しかし、彼女達は誰一人として怯えてはいない。

 堂々たるその佇まいは、戦場に咲く花の如く凛として美しい。

 そして、ついに戦いは幕を開ける。


「いっくにゃー!」


 ナオが掛け声を上げて、四足歩行の如く手足を使って駆けだした。

 その速度は光速の領域。

 蒼炎を手足に纏い、飛躍的に身体能力を上げているからこその離れ業で、ナオだからこそのオリジナルだ。


 魔族の大軍はまだまだ遠くに位置していたが、それでもナオは一瞬で大軍の中へと飛び込んで、挨拶代わりに先頭集団に突っ込んで蒼炎の爪を振るう。


「ぎゃあああああああああ!!」

「わああああああああああ!!」

「ぐええええええええええ!!」


「て、敵襲だああああああ!」


「全部まとめて斬り裂くにゃ! クロウズホーリーフレイム“ランニング”!」


 瞬間――蒼炎の爪が周囲に放たれる。

 蒼炎を纏った無数の爪の斬撃が地を走り、大量の魔族達を一掃していく。


 ナオはこの一瞬で早くも大量に魔族を倒していき、そこ等中から魔人の爆発や魔従まじゅうの溶解が起こっていく。

 そしてそこで、フウラン姉妹が到着した。


「うわあ。ナオ様相変わらずヤベえですなあ」


「うん。私達も負けてられないね、姉さん」


「ですねん。そんじゃ」


「「そろそろおっぱじめましょうかねい!」」


 フウラン姉妹が左右対称に空を舞い、魔族の飛行部隊を次々と斬り裂いて行く。

 その姿は芸術的で、まるで何かの舞台のように美しく華やか。

 雲一つない空に雷鳴が轟き、雷の瞬きが煌きを魅せる。

 そして、魔人が花火のように次々と爆散していき、同じく魔従が溶けてドロドロと雨を降らす。


 ナオとフウラン姉妹が魔族の大軍の中で暴れていた為、もちろん周辺の気温も熱を帯びて上昇する筈だが、この戦場ではそうはならない。

 何故なら、この戦場は既に目に見えない程の氷の粒に覆われているからだ。

 そしてその正体は、メレカの放つ氷の魔法。

 メレカは未だ村外れの丘から動いていなかったが、既に魔銃まじゅうアタランテを構え、魔法を放っていた。


 氷の粒はじわじわと範囲を広げ、魔族の体をむしばんでいく。

 そして、力の弱い魔族には、既にその脅威的な効力を発揮していた。


「なんだこれ!? 体が凍って動けな――――」


 メレカの放つ魔法は、魔族の皮膚に触れるとそのまま付着し、そして体を凍らせていく。

 一見地味に見えるこの魔法は、確実に魔族の量を減らしていった。


「よーし、いっくよー! ミュージック~スタートー♪ けっせんの歌ーっ!」


 メレカの側で戦いを眺めていたみゆが楽器を召喚して、負けじと元気な声を上げて演奏会を開始する。

 奏でられるは勢いがあり力がみなぎる元気なメロディ。

 それはこの場にいるメレカとアミーだけでなく、遠く離れた戦場で戦うナオとフウラン姉妹にも届いて力を与えた。


 大軍を前に一歩も引かず、それどころか圧倒的な力の差で次々と魔族を倒していく彼女達だったが、このまま終わるような戦いでない事も事実。

 この戦場には、まだ魔族の幹部【魔軍三将】の最後の一人がいるのだから。


「やれやれ。たかが数人に情けない」


 魔軍三将の最後の一人魔人アスタロトがそう言って、メレカ達の前に現れる。


 大きなフードを頭に被り、大きなローブを身に纏う老人。

 緑色の肌に、あごから白いひげ

 一見ただの老いぼれに見えると言うわけでも無く、大きなフードで表情こそ見えないが、その姿からはとんでもなく恐ろしい存在感を感じる程の圧がある。


「うげ! アスタロト!? 何でこっちに来たでしゅか!?」


「なおちゃんかふうお姉ちゃんとらんお姉ちゃんを呼び戻す?」


「いえ。三人にはあの大軍を相手してもらいましょう。魔人アスタロトは我々で倒します」


「我々? たかが三人、しかも内二人は幼子おさなごと落ちこぼれ。儂もなめられたものよのう」


 メレカと魔人アスタロトが睨み合い、両者が魔法陣を展開。

 そして次の瞬間には、魔法が放たれていた。


 メレカが放ったのは氷の銃弾の雨。

 前方に魔法陣を幾つも展開し、そこから吹雪の様な氷の雨が銃弾のように放たれた。


 対する魔人アスタロトが放ったのは強力な重力。

 何百倍にも及ぶ重力がメレカを襲い、その動きを封じ込めようと押さえつける。

 しかし、ここにアミーがいる事を忘れてはいけない。


「グラビティシールドでしゅ!」


 メレカから借りている小杖を構え、自分とメレカとみゆの頭上に重力の壁を展開する。

 ただ、ここで問題があるとすれば、それは魔力の差だ。

 同じ重力の魔法同士のぶつかり合いであれば、当然その質や技術なども関係するが、一番影響を与えるのは使用者の魔力量。

 当然ながらに、他者から魔力を分け与えられなければ生きてられないアミーが、魔人アスタロトの魔力を超える筈もない。

 しかし、ここにはみゆの音魔法がある。


 みゆが奏でるは“けっせんの歌”。

 それは普段使っていた“たたかいの歌”の上位版であり、仲間の能力を底上げする最強のバフ。

 アミーの魔法はみゆのバフ効果で効力を増し、圧倒的力の差を持つ魔人アスタロトの魔法を完全に防いだ。

 そして、それが魔人アスタロトに驚きを与えて、同時に隙を生ませた。


「――なに!?」


「アイスバレット“アタランテ”!」


 瞬間――とてつもない魔力の質量を持った氷の弾丸が放たれて、それが魔人アスタロトに直撃する。

 だが、しかし、魔人アスタロトも流石と言えるだろう。

 隙を見せ、その上でメレカの魔法を食らいはしたものの、咄嗟に重力の盾を目の前に出現させていた。

 その結果威力を弱める事に成功し、更に飛翔速度を遅くさせ、軌道をずらす事で致命傷から免れた。


 直撃とは言うものの、結果としては脳を貫く予定だった氷の弾丸は、左肩を撃ち抜く程度になってしまった。


「ふむ。女子供だけどは言え、油断は禁物と言うわけか」


「うげえ! 今のをかわしたでしゅか!?」


「かわしてないよ! あたってるよ!」


「殆ど躱したようなもんでしゅよ!」


「そんな事はどちらでも良いでは無いですか。それよりも、アミー様はしっかりとみゆ様をお護りして下さいね」


「分かってるでしゅ!」


「めれかお姉ちゃん負けるなー! いっけええええ!」


「やれやれ。キャーキャーと煩い連中だのう」


 魔人アスタロトがため息混じりに呟いて、魔法陣をそこ等中に展開し始めた。

 そして、頭にかぶっていた大きめのフードを取り、その顔を見せる。


 すると現れたのは、白髪の合間から覗かせる羊の角に似た二本の角。

 紺色の目をギラリと光らせ、次の瞬間、ローブを破って龍の翼と尻尾が姿を現す。


「さあ。儂の本気に、何処までついて来られるか楽しみよのう。小童ども」







 ヒロが目指し、向かっている地【封印の遺跡】。

 その最奥にある封印の間にて、邪神ソロモンが玉座に座り、口角を上げて光の鐘を眺めていた。

 邪神ソロモンの前には魔族の実力者たちがひざまずき、こうべを垂れている。

 そしてその中には、かつてベルとメレカとセイを苦しめた巨大な漆黒の龍、魔従バハムートの姿もあった。


「喜べ。ザラタン、バハムート、アンズー、ガルーダ、貴様等の出番だ」


「ほへ~。アスタロトたんがぶち殺されちゃったのじゃ? 合掌~」


「うふふふふ。あの老いぼれのお爺ちゃん、やっと死んだの? 老害が消えて世界がまた一つ平和になったわね」


「アンタ等いい性格してるね~。あんなんでも一応はソロモン様の配下よ。少しは悲しむ演技をしたら?」


「貴様等、邪神様の御前ごぜんだぞ。分をわきまえ、発言には気を付けろ」


 邪神ソロモンの話を聞き、騒がしくしたのはバハムート以外の三人の魔族。

 バハムートが邪神ソロモンを前にしての非礼な態度に注意をすると、三人は明らかに分かる不機嫌な表情をバハムートに向けた。


「よい。貴様も含め、ここにいるのは我が認めた者だ。多少は許す。それよりも……」


 邪神ソロモンが光の鐘を引き寄せて目の前に浮かばせて、触れる。

 すると次の瞬間、光の鐘が砕けるように四散して、気を失っているベルが現れた。

 しかし、ただ単純に現れたと言うわけでは無い。

 四散した光の鐘は粒子となり、その姿を変えていく。

 そしてそれは、現れたベルを閉じ込めるように、ベルを包む鐘の形をした光の牢獄となった。


「あれれ~? 巫女たんを出しちゃうのじゃ?」


「まあまあまあ。とっても綺麗で真っ黒に染めたくなるわね」


「ソロモン様、どうされたんですか?」


 バハムート以外の三人が驚くと、邪神ソロモンは口角を上げる。


「封印を解いたわけでは無い。封印の機能を一部使ったにすぎん」


「ほへ~。そんな事も出来たのじゃ? でも、わざわざそんな事する必要がありますのじゃ?」


「いい加減にしろ、新入り。邪神様に何度も質問など、到底許される行為では無いぞ」


い。我は今実に気分がいい。質問に答えてやる」


「流石はソロモン様。お心がお広い」


「どっかの口煩いドラゴンとは大違いなのじゃ」


 質問を何度も続けた魔族がニヤニヤと笑みを浮かべて告げると、バハムートがその魔族を睨む。

 するとそんな中、邪神ソロモンはその様子には特に興味を見せずに、先程の質問に淡々と答える。


「先程の質問だが、我の予想を超えた出来事が起こったので、少し遊びを思いついたまでだ」


「遊びですじゃ?」


「貴様等四人は前戦に行き、アスタロトを手伝ってやれ。ルシファーが生み出した魔族どもは欠陥品が多いらしくてな。随分と苦労しているようだ」


 今度は質問に答えずに邪神ソロモンがそう告げると、二人の魔族が不満を漏らす。


「欠陥品だなんて酷いですじゃ」


「まあまあまあ。本当に酷いわ。アタシがこんなにも尽くしているのに」


 不満を漏らしたと言っても、それは質問に答えなかった事では無かった。

 と言うのも、二人は今は亡き魔人ルシファーが量産した魔族だったからだ。

 しかし、大量に生み出された魔族の中でも実力は群を抜いていて、今では邪神を除く魔族の中でトップを争う実力者である。


「貴様等二人は別だ。我も貴様等二人の実力だけは買っている」


「当然じゃ」


「うふふふふ。それって愛してるって事ですよね? 嬉しい」


「ったく、どう解釈したら、愛してるって事になるのよ。頭がイカレてんね」


「あらやだ。先に掃除しなくちゃいけないゴミが出来たみたい」


「いいねえ。私も丁度ゴミ掃除がしたかった所だよ」


 二人の魔族が睨み合い、それぞれが攻撃態勢に入った。

 しかし、それも一瞬の事。

 二人が攻撃を仕掛けようと構えて直ぐに、邪神ソロモンが二人の名を呼んだ。

 すると直ぐに二人は動きを止め、再び邪神ソロモンに跪いた。


「貴様等の道楽など興味が無い」


「「申し訳ございません!」」


「バハムート、後は貴様に任せる。せいぜい我を楽しませろ」


「仰せのままに」


 バハムートは返事をすると、他の三人の魔族を連れてこの場を去る。

 そして、残った邪神ソロモンは光の牢獄に閉じ込めたベルを見て、再び口角を上げた。


「さて、存分に楽しませてもらうぞ? 最初の世界から始まった繰り返しの中で、どの英雄よりも弱く、最弱だった英雄(ひじり)英雄ひーろーよ」

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