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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
最終章 君と絆の物語
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46話 格の違う能力

 それは、突然の出来事だった。

 俺達が封印の遺跡へ向かう当日の、午前三時と言う朝日もまだまだ先の時間。

 物見櫓ものみやぐらから村を見張っていた騎士が、ゆっくりと歩いて近づいて来る男を二人見つけた。


 二人の男がやって来た方角は、封印の遺跡がある方角だった。

 騎士はその二人の男をいぶかしみ、光で照らして目をらす。

 それで分かったのは、一人はローブを着ている老人で、一人は浅紫色の肌の成年で、どちらも間違いなく魔族だと言う事。


 騎士は慌てて物見櫓に備えてあった警鐘けいしょうを鳴らして、魔族が来た事を知らせようとしたが、それは叶わなかった。

 何故なら、警鐘に手を伸ばした時には、物見櫓と共に全身を真っ二つに斬り裂かれて絶命していたからだ。







 けたたましい音で目が覚める。

 宿でぐっすりと眠っていた俺は、まだ陽も昇らない深夜の時間帯に、何かが豪快に破壊された様な音を聞いてベッドから飛び起きた。


「な、なんだ……?」


 眠気眼で周囲を見まわすと、いつの間に女子会から帰って来ていたのか、みゆが俺の隣でぐっすりと眠っていた。


「気のせいか…………? って、一応外の様子でも見て来るか」


 大きくあくびをしてベッドから出て、隣で眠っていたみゆに布団をかぶせる。

 それから適当に動きやすい服に着替えてから、宿の外へと向かった。


 外に出ると、何人かは俺と同じ様に音を聞きつけて出て来ていて、周囲をキョロキョロと見回していた。

 俺はそれを見て、さっき聞いた音が気のせいでは無かった事を知り、一先ずベルやメレカさん達も起きてきていないか捜した。

 するとそんな時だ。

 南の方角から再び大きな音が鳴り響き、遠く離れた場所から夜の闇を真っ赤に照らす大きな炎が空高くまで舞い上がった。


「なんだよあれ……? なにが起きてるんだ?」


 そう俺が呟いた直後だった。

 炎が上がっている方角から、住宅が破壊されていく音が次々と鳴り、それと同時に炎の数も増えていく。


 寝起きで頭が回らないと言うのもあり、俺はこの突然の出来事に動揺して、ただジッと増え続ける炎を見ている事しか出来ずにいた。

 すると、そちらの方角から慌てて逃げる様に、村人達が何人も何十人もこちらに向かって悲鳴を上げながら走ってきた。

 いよいよ本格的にこの場も緊張が高まり、次第に眠気も覚めていく。

 そして次の瞬間、数十メートル先で何かが光り、空間が歪む。


「――ヤバい!」


 空間が歪んだ直後に、俺は慌てて能力スキル【想像の体現化】を発動。

 こっちに向かって逃げてくる村人達を一瞬で追い越して、歪んだ空間の目の前に移動した。


 瞬間――歪んだ空間が弾けて、大爆発が巻き起こる。


「こんっぬおおおお!!」


 爆発は凄まじく、周囲一帯を吹き飛ばした。

 だが、間一髪で俺が目の前に来て爆発をある程度防いだから、俺の背後にいた逃げて来ていた人達は護る事が出来た。

 しかし、あくまで俺の背後にいた人達だけだ。


 だから、結果は最悪だ。

 爆発が起きた場所から半径百メートル以内にあった建物は倒壊し、地面や草木は一瞬で焼土された。

 少なくとも人が住んでいた建物は二つあったし、もし俺の見えない範囲に人がいた場合助けられてないから、何人被害が出たのか分からない。


 周囲から聞こえていた悲鳴はより一層に大きくなり、人々の混乱は増していく。

 さっきまで俺と同様に家の外に出て様子を見ていた村人達も、命の危険を感じて逃げ始めた。


「くそ! どこから攻撃しやが――」


「あれを防ぐとは、少しは強くなったんじゃないか?」


「――っ!」


 不意に声が聞こえて振り向くと、そこには魔族の男が立っていた。


 男は、二メートル越えの長身に、浅紫の肌に深紫の髪。

 真っ黒い翼を持つ、悪魔の様な容姿。


 間違いない。

 俺はこの男と一度会っている。


「邪神! いや、今はネビロスって言った方が良いか?」


「へえ。俺の事を知ってたのか。そうだぜ、ひじり英雄ひーろー。俺は邪神ネビロス様だ」


 ネビロスがニヤリと笑みを浮かべて両手を広げる。

 その姿に、俺は妙な違和感を感じて眉を顰めた。

 すると、ネビロスは俺の顔を見て愉快そうに笑みを見せた。


「以前会った時と俺の雰囲気が変わって、違和感があるって顔だな? 無理もないぜ。今の俺には前世の記憶があるんだからな」


「そう言えば、そんな話を聞いたな。俺に恨みがあるんだって?」


「ああ。大ありだ。今思い出しても腹が立つ。聖英雄、俺は貴様のせいで最悪な人生を送って死んだんだよ」


「は? 俺のせいで人生が最悪ってなんだよ? っつうか、俺に恨みがあんなら、直接俺に攻撃してこいよ。他人を巻き込むな」


「別に巻き込んではいないぜ。どうせいずれこの世界を滅ぼす時に、全員まとめて殺すんだ。殺すのが早いか遅いかの違いでしかないんだよ」


「世界を滅ぼす?」


「この世界をぶっ壊して、俺達の世界に行く。そして前世で俺を苦しめた連中を地球ごとぶっ壊す。それが俺の野望だ」


「はあ? とんだ糞野郎だな。結局は無関係の人を巻き込むんじゃないか。っつうか、マジで誰なんだ? 恨みは俺だけじゃないのかよ?」


「聖英雄! 貴様には一生かかっても分からないだろうな! 俺は貴様のせいで、惨めな思いをして何十年も生きていたってのによお! 何が英雄えいゆうだ!」


 ネビロスが激昂して俺を睨み、その場から姿を消した……違う。

 見えなくなる程のとんでもないスピードで俺に接近したのだ。


 ――ヤバ……っ!


 一瞬で接近したネビロスは俺に拳を振るい、俺はそれを寸ででかわす。

 すると次の瞬間、俺が躱したネビロスの拳がくうを突き、そこから衝撃波が発生した。


 その威力はとんでもないもの。

 俺だけでなく周囲一帯に衝撃を与え、倒壊して瓦礫となった建物が粉々になって吹っ飛んだ。

 俺自身も能力スキルで防御したおかげで助かったが、軽く数十メートル先まで吹っ飛ばされてしまった。


「何十年って、マジで誰だよ? っつうか、まさか俺の世界の未来で死んで、この世界の過去でネビロスに転生してんのか……?」


「馬鹿な貴様でもその程度の事は分かったみたいだな、聖英雄」


 ネビロスが再び俺を睨んで目がかち合う。

 と言うか、マジで誰か分からないし、そもそも一々フルネームで呼んでくる奴なんて今まで会った事が無い。


「役者がそろったな」


 さっきまで俺を睨んでいたネビロスがニヤリと笑みを見せ、俺……ではなく、俺の背後に視線を向けた。

 つられて後ろを確認すると、ベルとメレカさんが慌てた様子でこっちに向かって来ていた。

 ナオや他の皆の姿は見えないが、いつの間に目を覚ましたようで、みゆも少し離れた場所からこっちを見ていた。


「しかし、ここに来るまで一苦労させられたぜ。聞いてくれよ、聖英雄。遺跡からこの村が近いと聞いて歩いて来たんだけどよ。流石に歩いて来るには遠すぎて数日もかかっちまったんだ」


「……は?」


「笑えるとは思わないか?」


「笑えるとはって、なんでいきなり世間話なんか――」


「質問に答えろよ。英雄えいゆう気取りの英雄ひーろーさんよお!」


「――っぁ……っ」


 それは一瞬の出来事だった。

 気がついた時にはネビロスが俺の右横に立っていて、俺は腹に拳を一撃食らっていた。

 だが、吹っ飛んだりはしない。

 何故なら、俺の右腕がネビロスの左手で掴まれていたからだ。


 俺は拳を食らったと同時に右腕を引っ張られ、吹っ飛ばずに衝撃をその場で受けて体を浮かせた。

 そして、体が浮いた直後にネビロスが軽く跳躍し、俺はネビロスに回し蹴りをされて地面に叩きつけられた。

 すると、その衝撃で地面が抉られて亀裂が走り、大地と大気が同時に揺れる。


 能力スキルのおかげで血反吐を吐く程度のダメージで助かったが、正直言って想像以上の威力に気を失いかけた。

 と言うのも、俺の能力スキル【想像の体現化】は、あくまで俺の想像……イメージが力の全てだから、それを超えたものは対応しきれない。

 せっかく使いこなせるようになったってのに、俺の想像を超えられてしまえば、こんなにもあっさりとピンチに追い込まれてしまうのだ。


 ただ、おかげで一つ分かった。


 地面に叩きつけられ気を失いかけたものの、直ぐに両手の力だけで跳躍して、その場から離れて着地した。

 そして、口に着いた血を腕で拭って、一呼吸置く。

 すると、俺の側にベルとメレカさんとみゆが近づいて来た。


「ヒロくん、遅れてごめんね。あと、ナオちゃん達は昨日お酒を飲み過ぎちゃったせいで、今直ぐには来られないの。本当にごめんね」


「ナオはいつもなら真っ先に飛んでくるから、おかしいと思ったらそう言う事か。まあ、まさか邪神が来るなんて思わなかったし、仕方ないだろ。っつうか、フウとランもか?」


「いいえ。フウとランは民の救助の為に他の場所に向かって頂きました。ここから邪神の魔力を感じましたが、広範囲にわたって村に被害が出ている様なので。それよりも、ヒロ様。傷を治します」


「そうか。傷は治さなくて良い。この程度なら大丈夫だ。メレカさんは念の為に魔力を少しでも温存してくれ」


「承知しました。ですが、無理だけはなさらないで下さい」


「分かってる」


「お兄ちゃん、邪神の能力スキルって……」


「流石みゆだな。さっきの見て気付いたのか?」


「うん。でも、それじゃあやっぱり……」


「え? 二人とも邪神の能力スキルが分かったの!?」


「ヒロ様、みゆ様、それは本当ですか!?」


 そう。

 おかげで分かった一つ。

 それは、邪神が使う能力スキルだ。


 みゆが能力スキルについての資料を集めて、そして調べていたからこそ、それに気がつけた。

 と言っても、その能力スキルについて詳しく書かれていた書物があったわけでは無く、あくまで予想の範囲だ。

 しかし、それでも確実だろう。

 そう言えるだけの自信が俺とみゆにはある。

 何故ならそれは……。


「へえ。俺の能力スキル……正確には邪神の能力スキルが何か気がついたのか? 聖英雄」


「まあな」


「じゃあ聞かせてもらおうか? 当たってるか聞いてやるぜ」


 ネビロスがニヤニヤとした笑みを見せ、俺の答えを待つ。

 俺はみゆに一度視線を移して頷き合い、そして、ネビロスに視線を戻した。


「ネビロス、お前の能力スキル……それは俺と同じ能力スキル【想像の体現化】だ」


 俺とみゆがネビロスの能力スキルに気付いたのは、俺と同じ能力スキルだから。

 能力スキルについて調べて辿り着いた答えの一つとして、俺とみゆはこの可能性を考えていた。


 何度か繰り返されたこの世界で、俺が邪神に勝てない理由。

 それは、俺と同じ能力スキルを持っているから。

 最初俺はまさかと思ったが、みゆは直感で俺にその可能性を示した。


 何故そんな事をみゆが考えたのかと言うと、それは【想像の体現化】がチートと言って良い程に、あまりにも強力だからだ。

 みゆから言わせれば、俺は能力スキルの使い方がまだまだなっていないらしい。

 実際に俺は能力スキルの覚醒までは至っていないし、みゆの言う通りまだまだ未熟。

 だからこそ、もし邪神が俺と同じ能力スキルであれば、俺よりも優れていてもおかしくないと言う考えに至った。


「くくっ。ハッハッハッハッハッ! 違う! 違うぜ! 聖英雄!」


「な!? 違う!?」


「うそ!? わたしも想像の体現化だと思ったのに!」


 やはりみゆも同じ考えに至っていたようで驚いた。

 すると、ネビロスは愉快そうな笑みのまま、両手を広げる。


英雄えいゆう気取りの英雄ひーろーさんよお! 耳の穴かっぽじって、よおっく聞きやがれ! 俺様の能力スキルは想像の体現化の上位互換! 最強の能力スキル限りない野心(オールスキル)】だ!」


限りない野心(オールスキル)……?」


「そうだ! 貴様の持つ想像の体現化を覚醒させ進化したのが、【限りない野心(オールスキル)】だ! 分かったか!? 貴様のちんけな能力スキルとは格が違うんだよお!」


「覚醒だと……っ!?」


「そんな。ヒロくんと一緒の……ううん。それよりも……」


「何度も繰り返されていると言うのに、邪神に勝てない原因はこれですか」


 俺とベルとメレカさんは驚き、動揺する。

 しかし、このヤバい事実に全く動揺を見せない者がいた。


「え~。なんだ~。じゃあ、やっぱりわたしの考えが当たってるじゃん。驚いて損しちゃった」


 みゆは自分の予想通りだと、まるでガッカリした様な表情を見せる。

 そんなみゆの言葉を聞き顔を見て、俺はこんな時もマイペースなみゆにも動揺する。


「何言ってんだ!? 呑気な事を言ってる場合じゃないだろ!」


「そうかな~? お兄ちゃんも覚醒しちゃえば良んだよ」


 みゆには本当に驚かされる。

 覚醒しちゃえばと簡単に言ってくれるが、そんな簡単なものじゃない。

 とは言え、おかげで少しは目が覚めた。


「ったく。まったくもってその通りだな」

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