18話 脅威
突然俺の頭上を通り過ぎ、爪に炎を纏わせてネビロスに攻撃を仕掛けたナオ。
しかし、それは軽々とネビロスに後ろへ跳躍されて避けられてしまった。
とは言え、俺が助かったのは変わりない。
俺は痛みに耐えながら上体をなんとか起こして礼を言う。
「助かった。ありがとな」
「当然だにゃー。それより、ヒイロ大丈夫かにゃ?」
ナオがそう言いながら手を出したので、俺はその手を掴んで、引っ張られながら立ち上がる。
「あまり大丈夫じゃないな。正直マジで助かった。ベルとメレカさんは?」
「二人はまだ暴獣の相手をしてるにゃ」
「おいおい。二人だけで大丈夫なのか?」
「姉様がネビロスの魔力を探知して、暴獣なんかよりこっちの方が危険だって言ったんだにゃ。それでニャーだけ送り出してくれたのにゃ」
「そっか。ありがたいな。おかげで助かった」
「それに心配しなくても、あそこにいた三人を起こして、加勢に行かせたにゃ」
「三人……?」
ナオが視線を向けて、その視線を追う。
すると、そこはミーナさんが捕まえた三人がいた所で、巨大な土の手だけを残してその三人はいなくなっていた。
それを見て俺が「いつの間に」と呟くと、巨大な土の手が消えて、同時に俺達の許にミーナさんが駆け寄った。
「ナオ様に情けない姿をお見せしてしまいましたわね」
「ミナミナ、大丈夫かにゃー?」
「はい。これしきの事で値を上げてはいられませんわ」
ナオとミーナさんが言葉を交わすと、そこでネビロスがナオを見てニヤリと笑んだ。
「誰かと思えば、この間の小娘か。丁度良い。貴様は中々に良い素材だと思っていたのだ。魂を操り、俺の配下として使ってやろう」
「にゃー? よくわからないけど、絶対にお断りだにゃ!」
ナオが喋りながらネビロスに向かって跳躍する。
二人の距離は一気に縮まり、ナオが炎を爪に纏わせる。
「クロウズファイア! 切り裂くにゃ!」
ナオがネビロスに向かって無数の爪撃を繰り出す。
しかし、ネビロスはそれを全て避け、更にはナオの背後へと回って背中に掌底を放った。
「――にゃあっとおお!」
ナオが掌底を寸でで躱して、直ぐに右手に魔力を集中して魔法陣を浮かび上がらせる。
「ファングフレイム!」
虎の顔の形をした炎が魔法陣から飛び出してネビロスを襲う。
だが、近距離で放ったナオの魔法は、ネビロスに払われて地面で爆散した。
「良いセンスだ」
「――にゃっ!」
次の瞬間、ネビロスの魔力を帯びた掌底がナオの顔面を襲う。
ナオは咄嗟にそれを両腕で受け止めたが、その凄まじい衝撃で後方へと勢いよく吹っ飛んだ。
「ナオッ!」
ナオは地面に爪を刺し、勢いを殺して立ち止まる。
「痛いにゃぁ……」
ナオは腕をプラプラと払うしぐさをして、直ぐに姿勢を低くしてネビロスを威嚇し、跳躍して一気にネビロスとの距離を詰めて跳びかかった。
「英雄殿」
「はい?」
不意にミーナさんに呼ばれて振り向くと、ミーナさんの目と目がかち合う。
ミーナさんは相変わらずの無表情ではあったが、その眼差しは真剣そのものだった。
「ナオ様は獣人の中でも、身体能力が非常に高く戦闘に優れた方ですわ。そして、魔力の操作においても才能に溢れていて、天才と言われているお方ですの。それ故に、この国の獣人の誰よりも強い。そんなナオ様でも魔人ネビロス相手では通じない様子ですわ。こうなると、英雄殿だけが頼りです」
「俺が……?」
「英雄殿がこの世界に来て、まだ間もなく、戦闘に関してまだ素人だと言うのは十分承知してますわ。その事は、わたくしもメレカから詳しく聞いてますの。ですが、だからこそ、この戦いで英雄殿に期待させて頂きますわ」
ミーナさんはそう言うと、ネビロスに向かって跳躍して、槍を魔法で覆って攻撃を仕掛けた。
「ナオ様! いきますわ!」
「にゃーっ!」
ナオとミーナさんがネビロスと攻防を繰り広げる中、俺は何も出来ずその様子を見ているだけ。
未だに続く激痛に耐えるしか出来ないこんな俺が、本当に英雄として期待されるだけの事が出来るんだろうか?
何も出来ない自分が情けなく、悔しさから拳を握りしめた。
俺がそんな葛藤をしている中、ナオ達の戦いにも変化がおきた。
ナオとミーナさんは一旦ネビロスから距離をとり、ミーナさんがゴーレムハンドと唱えて地面から巨大な手を出現させる。
そして、出現したそれはナオを掴み、ネビロス目掛けて投げた。
投げられたナオは、そのまま魔力を集中させて、魔法陣を前方に浮かび上がらせる。
「ファングフレイム!」
そこで更にミーナさんもネビロスに接近して、魔法陣を目の前に浮かび上がらせる。
「ファングアース!」
大口を開けて牙をむき出しにした炎の虎の頭と、土や石などで出来た虎の頭、二つの魔法がネビロスに向かって放たれた。
だが、ネビロスはそれ等を軽々と受け流し、それどころか流れる様な回し蹴りを二人に食らわせて蹴り飛ばした。
しかし、ナオは蹴り飛ばされたその先で踏みとどまる。
そして、ネビロスに向かって指をさし、魔力を集中して指先ならぬ爪先に魔法陣を浮かび上がらせる。
「姉様直伝バレットファイアだにゃあ!」
ナオの爪先の魔法陣から、ネビロス目掛けて炎の弾丸が放たれる。
しかし、ネビロスはそれさえも軽々と避けて、ナオとの距離を一瞬で縮ませた。
だけどナオもジッとしているわけじゃない。
接近したネビロスにを迎え撃つ。
「クロウズファ――」
「遅いな」
瞬間――ネビロスの魔力を纏った掌底がナオに直撃する。
「あぐ……っ」
直撃を受けたナオは、そのままもの凄い勢いで吹っ飛んだ。
するとそこで、交代するかのようにミーナさんがネビロスに接近し、槍を振るった。
しかし、ネビロスはそれを軽々と避ける。
更に、ネビロスはミーナさんに回し蹴りを食らわせて、続けてミーナさんの顔面を掌底で殴打した。
「――ぐ……っぁ」
ミーナさんは数十メートル先にある木々を薙ぎ倒しながら吹っ飛び、そしてついに倒れてしまった。
「ミーナさん!」
俺はミーナさんに駆け寄ろうとするが、そこにネビロスが迫る。
「行かさないにゃ! ファングフレイムッ!」
俺とネビロスの間にナオが飛び出して魔法を放つ。
ネビロスはそれを見てニヤリと笑い、次の瞬間、魔法がネビロスに直撃して爆発した。
そして、爆発した煙が舞う中から、ネビロスが飛び出してナオに接近する。
「――にゃ!?」
咄嗟にナオが身を守る為に腕をクロスさせる。
「良い判断だ」
次の瞬間、クロスされた腕がネビロスの掌底を防いだ。
しかし、まだネビロスの攻撃は終わっていなかった。
ネビロスは軽く跳躍をして、ナオの顔を地面に向けて叩きつける様に、かかと落としの様な蹴りを繰り出したのだ。
ナオはそれを頭に食らってしまい、地面に頭から叩きつけられる。
「ぎにゃ……っ!」
地面に叩きつけられたナオだったが、そのままの姿勢でネビロスに手をかざした。
すると、かざした手から魔法陣が浮かび上がり、魔法陣から炎が舞う。
「ピラーファイアッ!」
瞬間――巨大な火柱が魔法陣から飛び出して、それがネビロスを覆い尽くした。
その火力は恐ろしい程に強く、それなりに離れた距離にいた俺の所にまで熱が押し寄せた。
ナオは魔法を唱えると、その場から立ち上がり、直ぐに後方へ跳躍して距離をとった。
しかし、ネビロスがそれを許さない。
あんなとんでもない火柱に包まれてるってのに、平気な顔して火柱から飛び出して、ナオに向かって猛スピードで駆けだしたのだ。
そして、ナオの腹部へと魔力を込めた掌底を放つ。
「――に゛ゃぁっ……!」
尋常でない衝撃がナオを襲い、その衝撃で周囲の木々が騒めく。
ナオは後方へとんでもない勢いで吹っ飛んでいき、地面を転がって倒れてしまった。
「ナオ!」
「にゃー。……結構効いたにゃ」
俺が叫ぶと、ナオがフラフラと立ち上がる。
しかし、やはりダメージは大きい様で、苦しい表情をしている。
息切れも起こしていて、肩を上下に揺らしていて、汗もかなり流していた。
だと言うのに、あれだけの動きをしてもネビロスは息を切らす事も無く、汗だって一つもかいていない。
あの野郎、本気でヤバいな。
それに気になる事があった。
未だに余裕を見せているネビロスは、先程からずっと詠唱無しで魔法を使っているのだ。
ネビロスは掌底を繰り出す時も、それに魔法で魔力を覆わせている。
その結果、掌底は黒い靄がかかった様になり、その状態で攻撃していたのだ。
ベルやメレカさん、それにナオやミーナさんも、魔法を使う時は必ず魔法を唱えている。
それに実際に魔法を使う為には、大なり小なり詠唱は必要だと聞いた。
だからこそ、それをしないネビロスが更に驚異的に見えた。
それにまだ厄介な事もある。
ネビロスはナオが放つ魔法、サーベラスの頭を噛み千切ったあの魔法を受けても、まったくの無傷だった。
それだけじゃない。
さっき初めて見たナオの火柱の魔法は、俺のいる所にも熱が来るくらいにかなり強力な火力を持つ魔法だった。
それなのにもかかわらず、火傷の痕すら残っていない。
こんな化物相手に、本当に勝つ事が出来るのだろうか?
だが、そんな中でも、俺はまだ諦めていない。
それに、俺は自分に起きたある事に気が付いていた。
前回、俺はネビロスに一撃で瀕死にさせられた。
だけど、今回は前回の様になってない。
確かに未だに激痛を感じてはいるが、前回と違ってまだ意識は保っていられる。
恐らくだけど、しっかりと魔法は発動している。
そうでなければ、ネビロスの攻撃を二発も食らったのだから、俺はとっくに死んでいる筈なのだ。
だからこそ、これは俺にとってかなり重要な事だった。
唾を飲み込んで、深く深く深呼吸する。
この戦いで俺が出来る事は、体を張ってなるべくネビロスの隙を作って、ナオにその隙を攻めさせる事だろう。
ただ、倒す気でいかなければ、間違いなく隙を作る事など出来はしない。
さっきから戦いを見ているだけで何も出来ないのは、激痛のせいってよりは、動きが速すぎて入って行けないからだ。
でも、だからこそナオがボロボロの今この時に俺が動かなければ、ここに俺がいる意味がない。
俺はネビロスに向かって走り出す。
「次は貴様か?」
薄ら笑いをするネビロスの顔目掛けて殴り掛かる。
だが、それを屈む事で軽く避けられ、その姿勢から腹に掌底をされて食らってしまった。
「が……っぁ!」
俺は吹っ飛び、ついでに意識も吹っ飛びそうになったが、なんとか歯を食いしばって留まる。
だけど、吹っ飛ぶ勢いはなくならず。
数十メートル先の木を薙ぎ倒して、草むらに突っ込んで何とか死なずに倒れた。
意識はあるが、腹は痛いし最悪の気分だ。
俺が吹っ飛ぶと、それと同時にナオが攻撃を仕掛けていた。
「フレイムダンス!」
宙に火の玉が大量に出現し、それは一気にネビロス目掛けて飛翔する。
火の玉の動きは不規則で、まるで踊る様に宙を舞いながらネビロスを狙っていく。
更に、ナオは火の玉が舞う中ネビロスに接近し、攻撃を繰り出す。
「ファングフレイムッ――」
ナオの右手に魔法陣が浮かび上がり、巨大な虎の頭をした炎が纏う。
「――デスバイトーッ!」
魔法が放たれ、ネビロスに食らいつく。
「ふん。面白い。だが」
ネビロスは火の玉を避けながら、魔力を集中させた右手でナオの魔法を粉砕した。
爆風が巻き起こり、ネビロスがニヤリと笑む。
「この程度では俺様には通用しない」
ネビロスが尋常じゃない程の魔力を集めた掌底を、ナオ目掛けて放った。
次の瞬間、爆発にも似た激しい音が聞こえて、数十メートル先にある暴獣の巣穴に向かってナオが吹っ飛んだ。
そして、ナオは巣穴の出入口付近の壁に勢いよくぶつかって、今度こそ意識を失って倒れてしまった。
「……嘘だろ?」
俺は目を疑った。
ファングフレイムデスバイト、それは、サーベラス戦で決定打になった強力な魔法だった。
それをネビロスは右手一つで粉砕してみせたのだ。
それに、ナオを気絶させたあの攻撃は、どう見ても今までの攻撃の比じゃない。
「む? どうした英雄とやら。ビビったか?」
「――っ!?」
気が付くと、目の前にネビロスがいた。
ネビロスは不気味な笑みを浮かべながら、右手に魔力を集中させている。
ヤバい。
防げ――
次の瞬間、俺はネビロスから掌底を腹にもらい、勢いよく吹っ飛んで地面の上をそのまま転がった。
「げほっげほっ。いっでぇっ……」
勢いが止まると、腹や体中のあちこちから激痛がするなか、俺は血反吐を吐いて立ち上がった。
くっそ。
滅茶苦茶いてえけど、この程度で済んだのは身体能力が向上したからか?
未だに意識もなんとか保ってられるし、いや、それにしては……。
こんな時だと言うのに、俺は自身の魔法に対して疑問を覚えた。
身体能力の向上。
恐らく俺の魔法の効果だと思われるが、果たして本当にそうなのだろうか?
何かが引っ掛かる。
確かに色々とそう考えれば、説明がつかない程の攻撃を受けて生き残っている説明が付く。
だが、おかしな事がある。
実を言うと、ネビロスに掌底を食らった腹より、吹っ飛んで転がった時の衝撃の方が明らかに強かったのだ。
何かがおかしい。と、俺が自身の魔法について再び考えるのは当然だった。
「貴様、雑魚のくせに打たれ強いようだな」
ネビロスが魔力を集中させて、俺に向かってマジックボールを放つ。
それは、闇属性の黒い球体。
禍々しい魔力を秘めた高威力の初歩魔法。
メレカさんが俺に見せたマジックボールとは、比べ物にならない威力の脅威。
だけど、直接の攻撃でなければ、俺にだって策はある。
俺は反射鏡を取り出して、飛んでくるマジックボールに向かって構えた。
「頼むぞ反射鏡!」
次の瞬間、反射鏡にマジックボールがあたり、魔法を反射――しない!?
マジックボールは反射鏡にぶつかった瞬間に爆散し、反射鏡はネビロスの魔法を受けて粉々となってしまった。
「おいおいおい。壊れちまったぞ!?」
「反射鏡か。はっはっはー。残念だったな。そこいらの魔族の魔法ならともかく、そんな物では俺様の魔法は防ぎきれんぞ」
「みたいだな……」
俺は粉々になって、微かに手に残った反射鏡を見る。
最早反射鏡は原形を留めておらず、粉々で使い物にならない状態。
俺の変わりに、粉々になってくれてありがとな。
心で反射鏡に感謝を言いながら手を掃う。
するとその時だ。
「ヒロくん!」
「ヒロ様、ご無事でしたか!?」
俺の側に頼もしい助っ人が現れた。
「ベル! メレカさん! 良かった。ナオとミーナさんが結構ヤバいんだ。早速だけど、二人を回復してやってくれ」
「――大変! メレカはミーナをお願い! 私はナオちゃんを――」
その時、ネビロスがベルに迫る。
「わざわざ殺されに来たのか? 巫女姫よ」
「――っ!」
ネビロスが右手に魔力を集中させ、掌底を繰り出す。
だけど、それをメレカさんがさせない。
「スプラッシュ!」
メレカさんがベルの前に立って、魔法で大量の水を放った。
しかし、ネビロスの攻撃を防ぎきれず、メレカさんがネビロスの攻撃を食らってしまった。
ネビロスが更に足に魔力を溜めてメレカさんに蹴りかかる。
「させるかよ!」
俺は咄嗟に間に入ってメレカさんを庇い、ネビロスの蹴りをまともに食らった。
ヤバいくらいに尋常じゃない痛みが俺を襲うが、やはり意識は保っていられる。
ただ、だからと言って吹っ飛ばされないわけでは無いので、俺はそのまま勢いよく吹っ飛んでしまった。
「……っこっの!」
勢いよく吹っ飛んだ俺は、今度はなんとか途中で足に地をつけて、転がらずに停止する。
少しづつだけど、ネビロスの攻撃に対応出来てきているのは確かだった。
だが、だからと言って俺の体調の状況は良くなるどころか悪くなる一方だ。
息を切らして体力的にも限界が近いし、全身が激痛でヤバいし、頭も朦朧としていて今にも倒れそうだった。
気を抜いたら、そのまま気絶するな、これ……。
だが、倒れるわけにはいかない。
ネビロスの気をこっちに向けないと、ベルとメレカさんが回復に専念出来ない。
激痛に耐えながら、気合で平然とした態度を装う。
「おい糞野郎。お前の攻撃もたいした事ねえな。そこ等辺の不良と大して変わらねえぞ」
「死にかけの雑魚が俺様を挑発か? いい度胸じゃないか。面白い」
ネビロスが俺にゆっくりと近づく。
「死ぬ覚悟は出来たか? 英雄とやら」
「殺せるもんなら殺してみやがれ。糞野郎」
ネビロスは両手に魔力を集中させた。
「そうか。ならば、願い通り殺してやろう。ソウルショック」
「――っ!?」
瞬間――ネビロスが両手で掌底を俺に放ち、俺はそれを胸部に食らってしまった。
それは、本当に邪神に魔力を取られたのかと疑問に思える程に、尋常ではない魔力を含んだ一撃だった。
魔法の知識が全く無い俺でも分かる程の強力な魔力の塊。
ナオを気絶させた時とは桁違いの魔力を持ったそれは、俺の脳裏に“死”を思わせた。
掌底を受けた直後、掌底から放たれる黒い光が俺の胸部を更に襲う。
俺は凄まじい速度で吹っ飛んで、吹っ飛びながら、段々と意識が薄れていくのを感じていた。
流石にこれは……本気でヤバ……いかもな…………。
「――ヒロくん!」
どれくらい吹っ飛ばされたのかは分からない。
だけど、薄れゆく意識の中で、ベルが俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
それは、何処か悲痛が入り混じった声だった。
ああ……泣かせちまったかな?
俺は、あの時……君を――――
吹っ飛んで転がり続けた俺は、転がり終わる頃には意識を失っていた。




