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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
最終章 君と絆の物語
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36話 雨の中走るのは危ない

※今回は少しだけ時間を遡ってヒロ視点のお話に戻ります。



「お兄ちゃん、わたし思ったんだけど、魔車ましゃいらないかも」


「…………マ?」


 ベルがメレカさんとナオとアミーを連れて、平和の村トーンピースの村人達を助けに行って数日が経った頃だった。


 結局俺は魔族に狙われているベルの妹……クラライト王国第二王女アリアを護る意味も兼ねて、クラライト城を出られなかった。

 実際に魔族達の襲撃が何度もあって、ここ数日間は戦いが続いていた。

 だが、そんなある日に出たみゆの言葉。

 それを聞き、俺は何か策があるのかと我が妹に期待した。


「うん。お兄ちゃんが走っていけば良いんだよ。わたしの音魔法の音速の速さだと普通の魔車じゃ持たないみたいだし、お兄ちゃんをトーンピースに連れて行くのは、それが一番良い方法だと思う」


 どうでもいいが、その場合連れて行くとは言わないのでは?

 って感じだが、無粋なので言わないでおく。


「なるほど考えましたねん、みゆ様。確かにヒロ様自信が走って行っちゃえば問題無いですね~」


「え? でも姉さん。それだとヒロ様がトーンピースに着く頃には、疲れ果てて役立たずになってるよ」


「役立たずて……。っつうか、王家御用達の魔車って時速千キロ出せて、殆ど音速なんだぞ。そんなのより速く走れるわけ…………いや、いけるか?」


 無理じゃないかとも思ったが、俺の能力スキル【想像の体現化】なら可能だ。

 ただ、そのスピードを持続出来るかと言われると、正直自信が無い。

 流石にそんなスピードで延々と走り続ければ、体力的にはヤバい気がする。


「走ってる途中で疲れて休憩入れるだろうし、どうせ時間がかかりますよ。ヒロ様はあまり自惚れない方が良いと思います」


「あの、ランさん? さっきから辛辣じゃないですかね? 俺なにかしました?」


 俺が思った事と同じ事をそのまま口にしてくれたのは良いが、ランの辛辣な物言いに少し困惑して尋ねた。

 すると、ランは不機嫌な顔を俺に向けて、暫らく目を合わせてから視線を逸らした。


「いえいえ、そんな事ございませんよ。昨日姉さんと二人だけ(・・・・)で町に行ってデートした事なんて気にしていません」


「気にしてんじゃねえか! っつうかアレはデートじゃないだろ。駐屯地に行って魔車が戻ってないか確認しに行ってただけだ」


 確かに昨日フウと二人だけで町に出かけた。

 だが、あれは城下町の各所にある騎士達の駐屯地に、魔車があるか確認しに行っただけでデートなわけじゃない。

 しかも、二人で出かけたのだって、魔族に狙われているアリアの護衛が必要だからだ。

 今はピュネちゃんもいないし、城内の騎士もあまり残ってない。

 そうなると、連絡係としてみゆを残して、残りの俺とフウとランの三人で誰を城内に残すかと言う話になる。

 一人でもって話も出たが、一人で行動だと万が一って事もある。

 その結果、最近はアリアの護衛で城内にこもっていた俺に外出の機会が回って来て、ランが俺と二人きりは襲われそうで嫌だからとフウが一緒に来る事になった。

 つまり俺は悪くない……と言うか、そもそもランが嫌だと言った結果だしデートじゃない。っつうか、襲わねえよ! って感じである。


「お兄ちゃん、それもデートの形の一つだよ」


「なんでだよ」


「ま、まあまあ。不謹慎かもですけど、私はデートじゃなくても楽しかったですし、それで良いじゃないですか」


「そう言う事なら……あれ? 話の本質すり替わってない?」


「そんな事よりお兄ちゃん、光速だよ光速! 光速で走れば一瞬だよ!」


「おいおい……」


 期待した俺が馬鹿だった。

 途中で話が脱線してしまったが、とにかくみゆの提案は滅茶苦茶だった。

 確かに俺の能力スキル【想像の体現化】の力であれば、光速で走るのだって、やろうと思えば出来るかもしれない。

 しかし、例えそれが出来たとしても、絶対に何かにぶつかって、その衝撃で死ぬ未来しか見えない。

 音速で走るだけでも危険なのに、それが光速となれば、その危険は計り知れないヤバさがある。

 と言うか、万が一の事が起こって死んだとして、異世界での死因が速く走りすぎた為とかそんなかっこ悪い最後なんて嫌すぎる。


「とにかく、当たって砕けろだよ、お兄ちゃん!」


「そうですね。みゆ様の仰られる通り、砕けて来て下さい」


「あのなあ……なんで砕ける前提なんだよ? っつうか、これってマジでやんないと駄目な流れなのか?」


「安心して下さい。ヒロ様が留守の間は、アリア様は私達が護ります」


 フウが力強く後押ししてくれたが、マジで乗り気しない。

 だが、まあ、やるしかないか。とも思う。

 このままここにいても時間を無駄に浪費するだけだし、何よりベルが心配だ。

 駄目なら駄目で仕方ない……なんてわけにもいかないが、やるしかないだろう。


 俺は意気込むフウに苦笑してから、頑張ってみると伝えた。







 結局昼間に出発して、到着したのはその日の深夜だった。

 想像以上に疲れて長めの休憩をはさんだり、雨がめっちゃ降ってて滑ってこけて大惨事になったりで、ここに来るまで苦労したけど無事に到着。

 みゆとランの言う通り、当たって砕ける……と言うよりは、滑ってこけて当たって砕いたって感じで、色々自然破壊的なものをして来てしまった。

 いや、ホント申し訳ない。

 とりあえず人身事故的なものはしてないので、なんとか見逃してほしい所だ。

 まあ、まさかあんなどしゃ降りの雨が広範囲で延々と続くように降ってるなんて思わなかったし、こんな危険なら次からはやめた方が……って、今はそれどころではない。


 どう言う状況だ? これ。


 メレカさんとアミーは少し離れた場所で地面に倒れていて、恐らく重力魔法で押さえ付けられている状態。

 それにナオの姿が見えないが、代わりに見知らぬ女性が倒れている。


「ヒロくん!」


「久しぶりだな、ベル」


「う、うん……じゃなくて、どうやって来たの? みゆちゃんや他の皆は……?」


「俺一人で走って来た。ほら。こけまくって泥だらけだろ? 雨のせいで滑りまくるしさ。もうマジで最悪だったわ」


「……そ、そうなんだ?」


 ベルの質問に答えて泥だけになった服をアピールすると、ベルは冷や汗を流してまじまじと見た。

 するとそこで、魔族……確かアスタロトだとか言う爺さんが、俺達に向けて重力魔法を使った。


「きゃああああ!」


「おっも!」


 ベルが悲鳴を上げて地面に倒れ身動きが取れなくなる。

 俺も強力な重力を感じたが、まあ、この程度ならとりあえず平気だ。


 って、そうか。

 今戦闘中だったんだよな?

 喋るのは後だ。


「わ、儂の魔法が効かない……?」


「ふざけんな。効いてるっての。まあでも、貰うぜ」


「――なに!?」


 絆の魔法を発動し、利用する。

 ついでに少し離れた場所でベルと同じ様に地面にへばりついていたメレカさんとアミーにかけられた重力魔法も利用して、それをまとめてアスタロトにお返ししてやった。


「ぐおおおおおおおおっっ!!」


 アスタロトが低い悲鳴を上げて、地面に倒れてへばりつく。

 そしてそれと同時にベルとメレカさんとアミーが動けるようになって、三人とも立ち上がった。


「聞きたいんだけど、ナオはいないのか?」


「そうだ! 早くナオちゃんを治療しないと!」


 ベルが遠く離れた場所に視線を移して、慌てた様子で走り出す。

 それでその先に視線を向けると、ナオが気を失って倒れていた。


「お、おのれ……っ。やはりルシファーを倒した英雄相手は荷が重いのう」


 いつの間にか重力から解放されたアスタロトが、少し離れた場所から声を上げた。

 視線を向けると、そこには何処かで見た事ある女の魔人が倒れている。

 全身傷だらけで気を失っているようで、恐らくベル達が戦って、とどめまでには至らなかった魔族だと思われる。


「ヴィーヴルが気を失ってしまっておるな。巫女は残念じゃが、ここは引こう」


「……は? ヴィーヴル?」


 言われて再度しっかりと見る。

 すると、確かに言われた通りで、気絶していて顔がよく見えないがヴィーヴルで間違いなかった。

 それにあの蛇のような尻尾も、よく見れば見た目がヴィーヴルと同じものだ。


「どうりで見た事あると思ったな……って、あ!」


 アスタロトが転移用の魔石を使用して、ヴィーヴルを連れてこの場から姿を消してしまった。

 逃がすつもりは無かったが、ヴィーヴルに驚いて逃がしてしまった。


「やっちまった。逃がすつもりなかったのになあ」


 思わず独り言ちすると、そこに苦笑するメレカさんとジト目のアミーがやって来た。


「ヒロ様、来て下さったのですね。おかげで助かりました。ありがとう存じます」


「少し見ないうちにまた強くなってましゅね。おかげで助かったでしゅ。でも、よくここが分かったでしゅね?」


「直ぐそこってわけじゃないけど休憩しててさ。深夜なのにすっげえ明るくなったから、それでもしかしてって思って来たんだよ。まあ、来る途中で一回滑ってこけたけどな」


「こけたって、それでそんな泥だらけなんでしゅ? ま、まあ、とにかくでしゅ。あたち等だけだとマジでヤバかったでしゅ。ナオしゃんも溜まっていたダメージと疲労のせいで、一撃でやられちゃったでしゅし」


「そうですね。魔人ヴィーヴルとの戦いを終えた直後に魔人アスタロトが現れた時は、本当に肝を冷やしました」


「そう言う事か。大変だったんだな。とりあえず全員無事で良かったよ」


「おかげさまで。しかし、こうしている間も作戦は進んでいます。のんびりもしていられません」


「作戦……?」


「今は作戦中なんでしゅよ。ちょっと簡単に説明するでしゅ」


 アミーはそう言うと、俺にその作戦とやらを教えてくれた。

 そして、その作戦中に……と言うよりは開始前に、ヘンリーがヴィーヴルの攻撃を受けた事も聞かされた。

 結局ヘンリーは周囲を巻き込みながら、何人もの犠牲を出して死んでしまった。

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