28話 この蛇女めちゃくちゃだにゃ!
※今回はナオ視点のお話です。
ザアザアの雨の中、馬鹿王子のせいで始まった魔族達との戦い。
時間が夜なのもあって、空は真っ黒で周囲も暗く、おまけに害灰が漂ってるから視界が悪すぎるにゃ。
でも、文句なんて言ってもいられないにゃ。
戦いは始まって直ぐに蛇女の登場で激しさが増したにゃ。
ベルっちが開始早々に神楽鈴林道のある森林の中に飛ばされてしまって、ニャー達はそれを追って、姉様から伝言を頼まれてベルっちに伝えたのにゃ。
ベルっちは神楽鈴林道にある社に向かって走り出して、それと同時に蛇女が重力の魔法で衝撃波を飛ばしたにゃ。
でも、そんなの通してやらないにゃ。
ニャーは蒼炎の爪で重力の衝撃波を斬り裂いて、蛇女の攻撃を防いだにゃ。
「あーあ。逃げられちゃった。そんなに先に死にたいの? 変わってるわね~アンタ」
「にゃー? ここで死ぬのはそっちにゃ」
「その通りだ、魔人ヴィーヴル。封印の遺跡で遅れをとったけど、今度はそうはいかない。あの日死んでいった仲間の為にも、ベル様の近衛騎士団団長として、ここでお前の首をとる」
「や~ん。もう起き上がってきちゃったの? 意外とタフなのね~僕ちゃん」
蛇女に吹っ飛ばされたセイケンが戻って来たにゃ。
でも、身に着けていた鎧の上半身だけ無くなっていたにゃ。
蛇女の攻撃で破壊されたか、それとも脱ぎ捨てたのか分からないけど、口元に血を拭った跡があるにゃ。
どっちにしてもあの跡を見る感じだと、結構ダメージを受けたんだと思うにゃ。
セイケンはベルっちの近衛騎士らしくて、実力は姉様と同等。
戦力としては申し分ないにゃ。
「全部まとめて殺してあげる」
蛇女が自分の周りに結晶化した重力の塊を大量に浮かばせて、ニヤリと笑って動き出す。
その動きは音速を軽く超える速度で、油断すれば一瞬で見失う速度にゃ。
でも、音速程度の速さなら、ニャーだって負けないにゃ。
ニャーは魔爪に纏っている蒼炎の爪の他にも、両足に蒼炎を纏う。
セイケンも剣に纏っていた風の他にも、背に見えない風の翼を生やして羽ばたいたにゃ。
「アハハ」
蛇女が笑いながら最初に直接狙ったのはニャーにゃ。
重力の結晶が不規則に宙を飛び回って、それがニャーに向かって飛んで来る。
ニャーはそれを直接斬り裂かずに、姉様直伝のバレットファイアを連発して相殺していったにゃ。
理由は見ての通りにゃ。
バレットファイアが重力の結晶に当たると、結晶が砕けて、その瞬間にそこを中心に強力な重力が発生。
発生した重力は周囲五メートル以内の物を吸引して、ぐっちゃぐちゃに潰してるにゃ。
しかもそれは地面もだから、とんでもない威力だにゃ。
でも、それ以外の理由ももちろんあるにゃ。
蛇女は重力の結晶を飛ばしながら、ニャーに近づいて来ているのにゃ。
だから、ニャーは近づいて来た蛇女を返り討ちにする為に、蒼炎の爪を振るったにゃ。
「アンタの得意分野で勝負してあげる」
「――っ」
蛇女の指先から真っ黒な爪のような刃が伸びて、それでニャーの蒼炎の爪を受け止める。
それだけじゃないにゃ。
蒼炎の爪を受け止めて直ぐにニャーのお腹を尾で殴打して、怯んだニャーに追撃の爪撃を繰り出したにゃ。
だけど、その爪撃はニャーまで届かない。
「はああ!」
「僕ちゃんさあ!」
セイケンがニャーと蛇女の間に割り込んで、蛇女の爪撃を受け止めたにゃ。
おかげでニャーは体勢を整えれるし、ついでに魔力を集中するにゃ。
「邪魔ばかりしてると、お姉さん怒っちゃうよ!」
「笑わせるな!」
セイケンの風の刃と蛇女の黒爪が何度もぶつかり合う。
そして、ニャーは集中して魔爪に集めた魔力を一気に解放するにゃ。
「燃やし貫け! ピラーファイア!」
「――っ」
蛇女に向かって高火力の蒼炎の柱を伸ばす。
セイケンのおかげで確実に捉えたにゃ。
でも、蛇女が想像以上にめちゃくちゃだったにゃ。
「そんなもの、うちに通用するわけないでしょ~♪」
蛇女がピラーファイアの射線上に渦を巻く黒い何かを出して、それがピラーファイアを吸い込んでしまったにゃ。
「――っにゃあ!?」
「はい、お返し」
直後にニャーとセイケンの直線上に渦巻く白い何かが現れて、そこからニャーが放ったピラーファイアが飛び出したにゃ。
「――っな!」
「――にゃ!」
予想外の攻撃にニャーとセイケンは驚いて、慌てて左右別方向に避ける。
すると、セイケンの目の前に蛇女が移動して、セイケンが蛇女に黒爪でお腹を横一直線に斬られたにゃ。
体を真っ二つにされたわけじゃなかったけど威力は絶大で、セイケンは血飛沫をお腹から出して、更に蛇女の尾で殴打される。
「あああああっっ!」
セイケンは背後にあった木をたくさん薙ぎ倒しながら吹っ飛んでいって、完全に気を失ってしまったにゃ。
「可愛いお顔をしてる僕ちゃんだから、顔は傷つけないでいてあげたの。うちって優しい。でも、次の猫女は顔をぐっちゃぐっちゃに斬り裂いてあげる」
蛇女がニャーの顔を見て舌なめずりをして、更に速度を上げて近づいて来る。
その速度は今のニャーの限界速度を超えた速さ。
油断したら、本当に顔を斬り裂かれるにゃ。
「クロウズホーリーフレイム!」
魔爪に纏わせていた蒼炎の爪が、青白い光を放って輝きを出す。
ニャーが今まで魔爪に纏わせて使っていた蒼炎の爪は、あくまでクロウズファイアの上位互換。
この青白く光り輝く蒼炎の爪こそが、蒼炎魔法本来の魔法にゃ。
だから、今までと比べて切れ味も抜群の最高火力の爪だにゃ。
でも、これにはちょっとした欠点があるにゃ。
それは常に維持しようとなると、常にかなりの量の魔力と集中力を持っていかれる事。
だけど、蛇女が想像以上に強いから、それも止む無しだにゃ。
「威力を上げたところで、うちの爪は斬り裂けないかも~?」
「っにゃああ!」
次の瞬間、蛇女の黒爪に害灰が収束されていく。
そして、蛇女がニャーに黒爪を振るって、ニャーはそれを蒼炎の爪で斬り裂くつもりで受け止める。
でも、蛇女の言った通りになってしまったにゃ。
黒爪を受け止めるのが精一杯で、斬り裂く事が出来なかったにゃ。
それにこうして爪を交えたからこそ分かったにゃ。
ニャーの蒼炎の爪と蛇女の黒爪の切れ味は互角。
害灰を吸収する事で、蛇女の黒爪が切れ味を増したのにゃ。
「互角だって、そう思っちゃった?」
「にゃ?」
「互角なわけないでしょ? うちの爪が!」
「――っ!」
この蛇女めちゃくちゃだにゃ!
蛇女の黒爪に害灰が再び収束されていって、次の瞬間、ニャーの最高火力の蒼炎の爪が斬り落とされてしまったのにゃ。
そして、驚いて隙を作ってしまったニャーに、蛇女が黒爪を振るったにゃ。
「グラビティシールドでしゅ!」
間一髪だったにゃ。
ニャーの顔が黒爪で斬り裂かれる直前で、重力の盾が目の前に飛び出して黒爪を防いだにゃ。
そして、突然ニャーは左真横に落下するように引っ張られて、蛇女から離れる。
引っ張られた先に到着すると、そこにはアミっちがいたにゃ。
「遅れてごめんでしゅ。それにしても、ナオしゃん危なかったでしゅねえ」
「アミっち! 助かったにゃ」
「でしゅ。作戦前にメレカしゃんにこれを借りたんでしゅけど、正解だったでしゅね。市販の小杖より優秀でしゅよ、これ。何も無しで魔法を使うより、圧倒的に楽に魔法が使えましゅ」
アミっちがそう言ってニャーに見せたのは、姉様が魔銃を持つ前に使っていた小杖。
最近使っている所を見なくなったし、もう捨てたんだと思ってたけど、まだ持っていたみたいにゃ。
それで今回の作戦前にアミっちに渡すなんて、流石姉様って感じだにゃ。
「誰かと思ったら、裏切りのドワ女? 重力魔法の特徴の一つ、重力魔法同士であればある程度は攻撃を防ぎやすい。と言う欠点があるって言っても、うちの爪を完全に防いだ……?」
アミっちに攻撃を防がれると思ってもみなかったって驚いた顔で、蛇女が動きを止めたにゃ。
よっぽどショックだったのにゃ。
隙だらけってわけでも無いけど、とりあえず斬られた蒼炎の爪を元に戻す時間くらいは出来たにゃ。
それに、その間にアミっちが蛇女に聞こえない小さな声で話しかけてきたにゃ。
「ナオしゃん、先に言っておきましゅ。メレカしゃんのおかげでパワーアップ出来たけど、あたちは元々魔力も少ないでしゅ。だから、そこまでしっかりした完璧なサポートは出来無いでしゅ。出来る限りの事はするけど、期待しすぎないでほしいでしゅ」
「分かったにゃ」
「あと、あたちがここに来るまでに何度か魔従に襲われたでしゅ。その時、メレカしゃんが遠くから援護射撃で倒してくれていたんでしゅが、途中で援護射撃が無くなったでしゅ。多分ベルしゃんと合流して何かあったんだと思いましゅ。だから、ここには来ないと考えた方がいいでしゅ」
「村に行ったのかにゃ?」
「どうでしゅかね。とにかく、あたち達三人でヴィーヴルを倒すでしゅよ」
アミっちがそう言うと、その言葉に応えるように気を失っていたセイケンがやって来て隣に並ぶ。
さっきの攻撃のダメージが当然まだ残っているけど、戦意は失っていないみたいにゃ。
少しだけ息を荒げながらではあるけど、風の刃を纏った剣を構えて、まだ驚いた顔してる蛇女を睨んだにゃ。
「すみません。油断しました」
「そんな大怪我のセイしゃんには悪いけど、相手がヴィーヴルだから期待させてもらうでしゅよ」
「望む所です」
セイケンがアミっちに答えると、その直後に蛇女の様子に変化が起こる。
驚いていた蛇女はニャー達を順番に睨んで、口角を上げた。
「アンタ達に使うつもりは無かったけど、ドワ女がうちの魔法を防げるって事なら使ってあげる」
蛇女はそう言いながら、姿を変えたにゃ。
だけど、それは大蛇の姿では無くて、下半身がニャー達と同じ足のある姿。
蛇の尾は巨大な尻尾として残って、背中には二つでは無く四つになった体よりも大きな黒い翼。
髪は足の踝まで伸びて、それが腰のあたりまで滑らかに浮かぶ。
「この姿にならないと、うちは能力本来の力が使えないの。ほんっと不便な能力で困っちゃうのよね~」
「能力……でしゅ? ヴィーヴルが能力持ちだなんて初めて聞いたでしゅ! それにその姿も見た事無いでしゅ!」
「当たり前じゃない。だって、これは邪神様の体を乗っ取ったネビロスが与えてくれた力よ。アンタが知るわけないでしょ~?」
「邪神の体を乗っ取ったにゃ!?」
「邪神の体を乗っ取った!?」
突然飛び出した情報に、ニャーとセイケンが驚いて声を上げたにゃ。
すると、蛇女がニャーとセイケンを見て、テヘっと笑って舌を出したにゃ。
「いっけな~い。これ内緒だったっけ」
「じゃ、邪神が……ネビロスに体を乗っ取られた……っ? いつからでしゅ!?」
「さあ。うちがそんなの知るわけないでしょ。それに知っていても、今から死ぬ相手に教えるなんて時間の無駄」
蛇女が翼を広げて空を飛んで、ニャー達を上空から見下ろしてニヤリと笑う。
「それじゃあ、さっさと終わらせちゃおっか。うちの能力【雨乞いの女帝】でね」