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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
最終章 君と絆の物語
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24話 お兄さまたちとの再会

※今回もベル視点のお話です。



 夢を見た。

 それは、五千年前の悲しい夢。

 ティアマトに見せてもらった記憶。


 だけど、少し違っていた。


 まるで、双子の妹……初代封印の巫女シャインに自分がなったような、そんな夢。


 双子の兄、アーサーお兄さまは【ソロモン】と名乗るようになって、一人で何かの研究を始めた。

 その頃からアーサーお兄さまはおかしくなった。


 アーサーお兄さまの様子に心配と不安を感じていた日々が続いて、そんな中で私に新しい家族、妹が出来た。

 初めて出来た妹に夢中になった私は、気が付けばアーサーお兄さまに感じていた心配と不安を忘れてしまっていた。

 そしてある日、アーサーお兄さまはお母さまとお父さまを殺害して生贄にして、悪魔……魔王と契約して魔族になった。


 私は……シャインはそれを見ている事しか出来なくて、泣きながらアーサーお兄さまに「どうして?」と問い続けた。

 アーサーお兄さまは……ソロモンは魔王を吸収して、シャインともう一人の妹を殺そうとした。


「お前達には恨みはないけど死んでもらうよ、シャイン。いずれ脅威になりえる、俺と同じ天使の血を絶やす為にな」


 ソロモンはシャインの問いに答えて、それを聞いたシャインは妹を抱いて逃げだした。


 逃げる途中でソロモンによって魔族が生み出されて、罪も無い人が何人も何十人も何百人も何千人も巻き込まれて死んでいく。

 それでもシャインは怖くて逃げ続けた。

 巻き込まれて亡くなった人達に謝りながら、必死に逃げ続けた。

 そして、逃げて逃げて逃げた先に、天使ガブリエル様が立っていた。


「思った通りになったね。彼は復讐にとらわれてくれると思ったんだ。あっちの世界には行けないってのにさ。でも、これから楽しくなるよ」


 ガブリエル様は楽しそうにそう言った。

 シャインは耳と目を疑った。 

 そして、聞かずには、言わずにはいられなかった。


「ふくしゅう……? 楽しく……? 天使さまは何で楽しいの? 復讐って何!? お母さまとお父さまがお兄さまに何をしたって言うの!? お兄さまがお母さまとお父さまを殺したのに……全然楽しくなんて無い!」


「ごめんごめん。そうだよね? 悲しいよね。楽しくなんて無かったね。ボクが悪かったよ。それに復讐って言っても、それは君のお母さんやお父さんにじゃない。あれは彼の情へ対する決別の儀式のようなものじゃないかな?」


 シャインは楽しそうに話すガブリエル様と言葉が信じられなくて、涙を溢れさせた。


「あらら。泣く事はないだろう? ボクは別に君を笑いに来たわけじゃない。助けに来たんだよ?」


「私を……助けに……?」


「そうさ。君に、別の世界から“英雄”を召喚する方法と、君の兄の暴走を止める(・・・)方法を教えてあげるよ」


「本当……? 本当にお兄さまを止められるの?」


「もちろん。だけど、会得するには長い年月が必要なんだ。もしかしたら、十年以上もかかるかもしれない」


「やる! 私、お兄さまを止めたい! もう誰も殺してほしくない!」


「うん。いい返事だね。それなら、君に教えてあげよう。彼を殺す(・・)方法をさ」


「殺……す…………?」


 言われた言葉が理解出来ず、目を見開いて呟くシャインに、ガブリエル様は笑みを零して言葉を続ける。


「さあ、退屈な日々とお別れしよう。君は巫女となり、災厄の魔族になったお兄さんを殺すんだ。世界を救う為にね」







 一夜が明けて、私達は魔車ましゃに乗り込む。

 今日も生憎のどしゃぶりの雨。

 でも、昨日アミーからお誘いを受けて一緒にお酒を楽しんだおかげで、私の気持ちはとても晴れやかだった。


 この日見た夢は悲しいものだったけど、それでもスッキリとした朝を迎えられた。

 だから、私はアミーに感謝したのだけど、その当の本人のアミーは二日酔いでフラフラだった。


「だ、大丈夫?」


「あまり大丈夫じゃないでしゅ」


「まったく、あれだけ飲めばそうもなります。今日は基本一日中魔車の中で過ごしますので、吐かないようにだけ気を付けて下さい」


「りょ、了解でしゅ」


「吐く時は魔車の外に出せば平気にゃ」


「平気ではないし駄目よ。適当な事を言わないように」


「にゃー?」


「あはは……」


「うう……。気持ち悪いでしゅ……」


 魔車に揺られながら、私達四人で会話する。

 そんなわけで、ここからは魔車の運転はメレカでは無く、村に駐留していたクラライトの騎士二人。


 村は魔族に占領されてしまっているトーンピースに最も近い村と言う事で、クラライトの騎士が沢山駐留している。

 だから、昨日の内にメレカと一緒に駐屯地に赴いて挨拶をしたんだけど、今朝旅立つ前に騎士団長が騎士を二人連れて来てくれたのだ。


 騎士団長が、魔車を運転していたメレカがいざと言う時に力を最大限使えるようにと、気を使ってくれたのだ。

 騎士団長や騎士のみんなが是非にと言ってくれて、その行為に凄く感謝した。


 おかげで、アミーが二日酔いした事以外は、とくに何も問題無く目的地に向かう事が出来た。




 村を出て三日目。

 二人の騎士が交代で魔車を運転してくれたおかげで、予定よりも早く、アベルお兄さまが駐留しているキャンプ地へとやって来た。


 天気は未だにやまないどしゃ降りの雨。

 時刻は丁度お昼を過ぎて夕刻前。

 だけど、天気のせいで空は暗く、視界もそこまで良いとは言えない。


 到着すると、私達は直ぐにアベルお兄さまがいると教えてもらった救援テントまで向かう。

 するとそこには、負傷して横になっている沢山の騎士と、その側でセイくんと話し合っているアベルお兄さまがいた。


「アベルお兄さま! セイくん!」


「――っベル?」


 二人を呼ぶと、アベルお兄さまが驚いた顔で私を見て、セイくんは驚いた後に私にひざまずいた。

 私は二人に駆け寄って、セイくんに顔を上げさせてから、アベルお兄さまとセイくんに挨拶をする。

 アベルお兄さまの顔は少し疲れていたけど、それでも私に微笑んでくれた。


「久しぶりだね、ベル。まさかベルが来てくれるとは思わなかったな。悔しいけど、俺達だけではどうする事も出来ない状況だった。来てくれて助かった。歓迎するよ」


「うん。アベルお兄さま、一緒にトーンピースのみんなを助けよう」


「そうだね」


 アベルお兄さまは頷いて、私の背後に立っていたメレカとナオちゃんとアミーに挨拶する。

 それから私達は場所を変えて、トーンピースの人達を助ける為の作戦を話し合った。


「以上が今作戦の――」


「ベルが来たと言うのは本当か兄さん!」


「――っと、ヘンリー。君はいつも騒々しいね。本当だよ」


 アベルお兄さまが作戦の説明を終えた時、突然ヘンリーお兄さまが勢いよくテントの中に入って来て、アベルお兄さまが苦笑する。

 そして、まさかの登場に驚く私とヘンリーお兄さまの目がかち合い、ヘンリーお兄さまが口角を上げて私に近づく。


「遅かったな、ベル。まさかオレが先に到着するとは思わなかったぞ」


「う、うん。でも、なんでヘンリーお兄さまがここに?」


「ふっ。これから魔族を倒し、トーンピースの民を救おうと言うのだ。このオレの力無くして、どうすると言えよう」


 ヘンリーお兄さまは自信満々にそう言うけど、私としては少し困ってしまう。

 村のみんなを助ける為に来てくれたのは凄く嬉しい。

 だけど、だからってそれで戦況が優勢になって、村のみんなを助けられるかと言われればそうでもない。

 ヘンリーお兄さまには悪いけど、今回の作戦では出来れば大人しくしてほしかった。


「あの、無礼を承知の上で一つ質問してもよろしいでしょうか?」


 私が困っていると、背後に立っていたメレカがアベルお兄さまとヘンリーお兄さまに向かって声を上げた。

 それに対して、アベルお兄さまは「いいよ」と微笑んで、ヘンリーお兄さまは眉根を上げてメレカを見る。

 メレカはアベルお兄さまの許可を得たので、ヘンリーお兄さまの事はとくに気にする事無く、お礼を言ってから質問を続ける。


「今作戦でヘンリー様が何をなさるのか確認をさせて頂きたいです」


「なるほど。そう言えばそれには触れていなかったね」


「ふん。メレカ、ベルの侍女であるお前には関係のない事だ。だが、そうだな。ベルには知ってもらっておいた方がいいだろう。ベルにここで教えるついでに、お前にも教えてやろう。心して聞くがいい」


「ありがとう存じます」


 メレカが一礼すると、ヘンリーお兄さまは口角を上げて、気分良さげに言葉を続ける。


「俺は前戦に立ち、ベヒモスを討伐する!」


「っ!? そん――――」


「と言う計画をオレは立てていたのだが、兄さんがどうしてもと言うのでな。オレはいざと言う時の為にここで待機し、逃げ延びてくる民を誘導し、攻め込んでくる魔族が現れた時の迎撃だ」


「――な大事なお役目なんだね、ヘンリーお兄さま」


「ヘンリーにはかなめとして、作戦で一番重要な役目をになってもらおうと思ったんだ」


「最初聞いた時は地味でオレに相応しくないものだと思ったが、兄さんに逃げ延びた民を安心させる為に、オレの存在は大きいと言われてな」


「そっか。うん。私もそれが良いと思う」


 流石はアベルお兄さまだと思った。

 ヘンリーお兄さまの性格をよく知っていて、乗せるのが上手。

 それに、村の人達を安心させる為と言うのも、実はあながち間違っていない理由だった。


 ヘンリーお兄さまは自信家で声の大きな人。

 私でもちょっと困っちゃう事があるくらいに危なっかしくて、頑固で人の話をあまり聞かない。

 それに血筋を重んじるあまりに、王族や貴族を優先して平民をないがしろにして、それが原因で問題を起こしたりする事もある。

 でも、自信家でいつも堂々としているから、国全体を考えれば意外と国民からの指示は大きかったりする。


 何よりヘンリーお兄さまは裏表がなくて、分かりやすいのだ。

 自分の気持ちに嘘は言わないし、いつもそれをぶつけてくる。

 時にはそれがあだとなる事も多々あるけど、それでも国民たちは、裏表のないヘンリーお兄さまを信頼してる。

 そんなヘンリーお兄さまだからこそ、逃げて来た人を受け入れるここにいれば、それだけ安心感を与える事が出来ると私も思った。


 ヘンリーお兄さまが何をするか聞くと、メレカは説明してくれた事にお礼を言って頭を下げた。

 そしてその時に、メレカの隣にいたナオちゃんとアミーがヒソヒソと内緒話をしたのが聞こえて、私は冷や汗を流す。


「あんなボンクラ王子にここを任せたらヤバくないでしゅ?」


「ニャーはあの馬鹿王子は足手纏いだから、さっさとお家に帰した方がいいと思うにゃ」

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