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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
最終章 君と絆の物語
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20話 記憶の断片 後編

 古代遺跡カリヨンの祭壇にあった台座に現れた光り輝く小さな鐘。

 絆の魔法でそれに触れた俺の中に流れ込んできた記憶。

 それはティアマトに見せてもらった五千年前の映像とは別のものだった。


 そして俺は、この記憶の主役が双子では無く、天使ガブリエルだと言う事を知る事となる。




 場面が変わり、ガブリエルは一面真っ白な空間で頭を抱えて膝をついていた。


「失敗した! 失敗した! 失敗した! 冗談じゃないよ! こんな事なら、彼を転生者にするんじゃなかった!」


 ガブリエルは叫ぶと頭をくしゃくしゃにかき乱し、目を見開いて歯を食いしばる。


「まさか世界が、シャインベルが滅ぶなんて思わないじゃないか!? このままだとあっちの世界……地球も邪神に滅ぼされる! ああああああああああ!!」


 気が狂ったような叫び声。

 ガブリエルは真っ白な地面を両手で叩く。

 その時、ガブリエルと同じ天使の羽を持つ者……天使が数人現れた。


「おいおい、ガブリエル~。暇つぶしに選んだ子供に随分と困ってるんだって?」


「君は前からやり過ぎる傾向にあったからな。これに懲りたら次は気を付けなよ」


「あーあ。女神ヘーラー様にバレたらお叱りを受けるぞ」


「ハハハハハ。お叱りでは済まないだろうね。きっと堕天させられる」


「君の言う通りだ。ガブリエルはもう天界には出入り出来なくなるね」


 周囲に現れた天使達がガブリエルを囲んで、ニヤニヤと笑みを浮かべる。

 それを聞き、ガブリエルは顔を上げ、天使達を睨み見た。


「煩いなあ! 君達が退屈せずにいられたのは、ボクがあの世界を遊び場にしたからだろう? 君達にだって責任はあるってのに、他人事みたいに言わないでほしいなあ!」


「やれやれ。何を言いだすかと思えば、まさか責任を擦り付けようだなんてね。それは天使がする事じゃないんじゃない?」


「まあまあ。それだけガブリエルも今回ばかりは必死なんだよ。このままだと神様が作り出した地球にまで影響が出ちゃうしね」


「それじゃあさ。いっその事、時の魔法で巻き戻せば良いんじゃない?」


「「それ良いね~」」


 周囲にいる天使達が名案だと笑いだし、ガブリエルが眼光を光らせ立ち上がる。


「そうか。そうだよ。女神ヘーラー様に気付かれないように世界に結界を張って、時の魔法を使えばいいんだ。なんだ。簡単な事じゃないか!」


「世界に結界を張って魔法を? へえ。女神ヘーラー様にバレずに魔法を使うなんて出来っこないと思ってたけど、それなら確かに可能かもしれないね」


「楽しそうな事を考えたね、ガブリエル。それ、僕も乗っかるよ」


「ぼくはパス」


「僕は手伝ってあげるよ。丁度暇してたんだ」


「僕もやるよ。いつも楽しい遊び場を提供してくれる君に恩返ししてあげる」


 ガブリエルの提案に殆どの天使が面白半分で乗っかる。

 この選択が、最悪な事態へと向かっていく事も知らずに。


 俺はこの世界……シャインベルが一度滅んでいる事を知った。

 世界が繰り返されたのは、たったの二回だけでは無かったのだ。




 場面が変わり、映し出されるのは屍の山と、その上に座る邪神。

 そしてその屍の山の目の前で息絶えているベルの姿。

 これが記憶の断片の一部たと理解していながらも、俺はベルに向かって手を伸ばそうとして、真っ白な空間へと引きずり込まれる。


「また失敗した! やっぱり英雄抜きではどうにもならない! 邪神はボク達天使どころか、神様ですら手が付けられない! 最初の世界の五千年前の戦いで、神やボク等が手も足も出なかったのと何も変わらない!」


 頭を抱えてガブリエルが叫ぶ。

 その姿はボロボロで幾つもの傷を作り、一目で重症だと分かる姿だった。

 そして、再び場面が切り替わる。


 映し出された光景は、目から光の消えた表情の無いベルに、心臓を光の矢で貫かれて死んでいく俺の姿。

 ベルは涙を流しながら、直後に己の命を絶ち、その背後で邪神が下卑た笑みを浮かべていた。

 その光景に俺は呆然とし、真っ白な空間へと引きずり込まれる。


「まただ! 今度は英雄が死んで全部が駄目になった! あの役立たずの英雄が封印以外の選択をしたせいだ! 最初から全部を伝えるべきじゃなかったんだ!」


 ガブリエルが苛立ちを抑えきれずに髪をかきむしり、再び場面が切り替わる。


 知らない少年とベルが邪神と戦い、そして、少年が逃げてベルが邪神に殺される。

 ベルは少年を“英雄様”と悲しい声で呼びながら、命を落としていった。

 そして、俺は再び真っ白な空間へと引きずり込まれる。


「うそでしょう!? 今度は巫女が死んだ! 途中まで上手くいっていたのに! せっかくあの役立たずを英雄から除外して別の奴にしたのに! あんな奴を英雄にするべきじゃなかった!」


 ガブリエルは天使とは思えない程に歪んだ顔で怒り、叫んだ。

 そして、場面は切り替わる。




 何度も何度も変わる光景と、ガブリエルの怒りと嘆き。

 その度にベルが殺され、俺の知らない“英雄”達も死んでいく。

 十回、二十回、三十回……百回以上も世界が繰り返され、ガブリエルは焦燥しょうそうし、絶望して瞳から光が消えた。


「そんな……まただなんて……。駄目だ。繰り返しを百回以上もしているんだよ? なんで一回も成功しないのさ? もう限界だよ。このままだと本当に不味い。ヘーラー様に見つかったら、堕天だけじゃすまなくなるかもしれない。最悪、ボクの存在が消されて――」


「ガブリエル」


「――っ! ヘーラー様……?」


 絶望していたガブリエルの目の前に、女神ヘーラーが現れた。

 ヘーラーはガブリエルに怒るでもなく、ただジッと見つめて、そして告げる。


「貴方が今まで行ってきた数々の繰り返しは、目に余るものがあります。時の魔法を何度も悪用し、時を巻き戻すだけでなく早めて、シャインベルの時間軸を他の世界と比べ不規則なものとした」


 ヘーラーは告げた後もガブリエルと目を合わせ続け、そして、首を横に振る。


「……いいえ。元を辿ればもっと初めの事です。貴方は他の者達とシャインベルを戯れの場とし、にもかかわらず飽きたと言う理由で一度目を離しましたね?」


「そ、それは……」


「最初の世界で邪神が誕生したのはその時でした。数々の失敗の根源は、まさにそれでしょう」


 ヘーラーの言葉にガブリエルは震えた。

 言い返す事など出来よう筈もない。

 全てが事実だったのだ。

 だが、それでもガブリエルは食らいつこうとした。


「……も、申し訳ございません! だけど、ボクはシャインベルを滅ぼしたいわけじゃないんです! でも、邪神が――」


「分かっています。貴方がこの世界を救おうとしている事も、そして、他の天使達と一緒に世界を遊具として見ていた事も」


「――っ!」


 再び驚きを見せたガブリエルに、ヘーラーは慈愛に満ちた目を向ける。


「これが最後のチャンスです。次の世界では、今までの失敗した世界の記憶は全て排除なさい。あくまで二回目の世界としての繰り返しを、私は認めましょう」


「ま、待って下さい! それでは、それでは同じ過ちを犯して失敗してしまうかもしれません!」


「いいえ。貴方は成功を焦るあまり、三度目の世界では英雄を召喚させず愚かにも我々神を利用し、四度目の世界では段階を踏まず始めから全てを英雄に告げ、五度目の世界からは別の英雄を選ぶようにしました」


「だってそれは……え? ヘーラー様、何を言っているんですか? ボクが英雄を召喚しなかったのは二度目と四度目以降です。三度目と五度目以降じゃない」


「貴方が知らないのも無理はありません。私ですら、それに気付いたのはこの世界が滅びの道に入った時の事でした。貴方が……我々が今まで最初の世界と思っていた世界は、邪神に時を巻き戻された二度目の世界だったのです」


「そんな……まさか…………っ」


「邪神は巧みにも我々を騙し、最初の世界と同じ時間を二度目の世界で途中まで過ごしていました。恐ろしい男です。我々が最初の世界だと思っていた世界で邪神は見事に何も知らない少年を演じ、我々の動向を水面下で窺いながら、力を蓄えあの絶望的光景を作り出したのです」


「じゃあ、じゃあボクは…………」


「時の魔法を使った事。それは褒められたものではありません。ですが、あの絶望的な光景を見て、時の魔法を使った貴方の行為は責められるものではありません。だからこそ、私は貴方にチャンスを与えようと判断しました。ですから、これから貴方にも最初の世界を見せてあげましょう。唯一邪神を封印するまでに至った、あの世界を」


 ヘーラーがガブリエルの頭に触れ、その直後に、ガブリエルが体をピクリと動かして目を見開く。

 そして、動揺した様子でヘーラーを見つめた。


「こんな事が……本当に……」


「もっと早くに気付くべきでした。それは私の失敗であり、あやまちです。その罪を私も受けましょう」


 ヘーラーは真剣な面持ちで告げ、そして、再び慈愛に満ちた目をガブリエルに向ける。


「最初の世界と同じ道を辿りなさい。封印の巫女が世界に残す予言通りに事を進ませるのです。それが世界を救う唯一の方法なります」


「それが唯一の方法……?」


「はい。封印の巫女に他の記憶を無くさせる事により、今度の……最後の世界でも、二回目の世界として予言を残す筈です。それに従いなさい。そして、貴方は英雄と会う事を禁じます。干渉は一切しないで下さい。今後はティアマトに主導権を与えます」


「ティアマトだって!? 彼女は最初の戦いで家族と友人を失い、二度と戦場には立てなくなるんですよ!? それなのに頼ると言うのですか!?」


 ガブリエルは動揺し、ヘーラーに訴えた。

 しかし、ヘーラーは依然として落ち着いていて、静かな声でさとすように話す。


「それは承知の上です。だからと言って、同じようにするなとも言いません。彼女の家族と友人を見殺しになさい。その罪は私が背負います。彼女にこの世界の主導権を与えるのも、この世界で邪神との最初の戦いを終えてから、二度目の邪神との戦いが終わるまでとします」


「……でも、そうだとしても、彼女はただの龍族です」


「彼女は確かに龍族です。しかし、この世界……シャインベルで唯一世界の真実に触れる事の出来る器を持つ者でもあります。彼女には宝鐘の守り人として、シャインベルの行く末を見守って頂きます」


「…………」


 ガブリエルは口をつぐんで、言い返す事を止めた。

 すると、ヘーラーは微笑みを見せ、優しい声でガブリエルに告げる。


「ガブリエル、これが最後のチャンスです。もし、失敗する様な事があれば、その時は今度こそ貴方は責任を背負う事になるでしょう。分かりましたね?」


「……分かりました」


「頼みましたよ」


 ヘーラーは会話を終わらせると消えて、ガブリエルは一人残される。

 すると、ガブリエルは歯を食いしばって拳を握り、鋭い目つきでどこをともなくくうを睨む。


「冗談じゃない。英雄に干渉するなだって? それであの邪神をどうやって止めるのさ。最初の世界で邪神に時の魔法を使われて世界が巻き戻ったって言うなら、また同じ事が起きるに決まって――っそうか」


 ガブリエルが何かを思いつき、口角を上げた。

 何かを考え始めて瞳には消えていた光が灯り、クスクスと笑みを零す。


「そうだよ。簡単じゃないか。同じ時間を繰り返させて、最後に時の魔法を使う瞬間に、ボクが邪魔してやればいいんだ」


 落ち着きを取り戻し、何処へ行くでも無く、ゆっくりと歩き出す。


「でも、やっぱり英雄に干渉するなってのは頂けないね。最初の世界から関わっている二人目の英雄は特にだ」


 ガブリエルの表情は少しづつ苛立ちに歪んでいき、そして立ち止まる。


「あんな弱い奴、干渉もせずにどうするのさ。最初の世界どころか二度目や四度目の世界だって、能力スキルを覚醒すら出来ていなかったじゃないか。あんな役立たずは、どう考えたって英雄の器じゃない」


 そこまで言うと喋った事で苛立ちが発散されたのか冷静を取り戻し、再び何処へ行くでも無く歩き出す。


「……ま、いいか。結局最初の世界で封印までいけたのは事実なんだ。あんな役立たずな英雄でも、使いようって事だよね。でも、一応監視はしておこう。あんな才能の欠片も無いクズに、ボクの計画が台無しにされたら堪らないからね。それに、宝鐘の守り人か……」


 ガブリエルは再び立ち止まり、暫らく考え込むと、ニヤリと笑みを浮かべた。


「良い事を思いついた。ティアマト意外にも守り人を作って、役割を持たせればいい。そうすれば、遠回しにでも干渉できるじゃないか。巫女の予言なんて、あんなの呪いだ。上手くいくわけが無い。ボクが干渉するべきなんだ」


 翼を広げ、愉快そうに「アハハハハ」と大声で笑う。

 その姿は天使とはかけ離れた、邪悪に満ちた笑い声だった。


「いいぞ。楽しくなってきたよ。丁度良い事に宝鐘は全部で四つもあるんだ。要は大まかな流れを予言通りに進めれば文句は無いんだろう? そうと決まれば、ヘーラー様に守り人を増やす事を許してもらわなくちゃだね」


 ガブリエルは天を仰ぎ、開ききった瞳孔を向けて愉快そうに笑う。

 そして、広げた翼を羽ばたかせ、空を舞った。


「堕天になんて絶対になるもんか。そんなものになったら、世界を創造して遊ぶ楽しみが出来なくなるじゃないか。それに、ボクはいずれ神になる器なんだ。こんな遊ぶだけの為に創った世界に、邪魔されてたまるもんか」


 ガブリエルの姿は空を舞いながら消えていく。

 そして――――




 気が付けば、俺は意識を失っていたようで、ガブリエルが消えた所を見た瞬間に意識を取り戻した。

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