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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
最終章 君と絆の物語
188/256

16話 この戦いはどう考えても負けられない

※今回はフウ視点のお話です。



 アリア王女を攫った魔族を追って、ヒロ様と一緒にやって来たのは、文献が何も残されていない古代遺産として有名な古代遺跡カリヨンでした。

 そしてそこには、魔族の仲間がいました。


 ヒロ様にここにいる魔族達の隊長をお任せして、私とランで魔人二人を相手にする事になったんですが、どちらも強くて未だに倒せていません。

 ですが、それは強いからと言う理由だけではありません。


 原因の一つは、突然現れた毒沼です。

 戦いが始まって直ぐでした。

 地面が毒に侵されて毒沼が出来上がったんです。

 でも、これは私達が戦っている二人の魔人が原因では無く、ヒロ様が相手にしている隊長の仕業です。

 だけど、これが私とランの行動範囲を狭めたのは言うまでもない事でした。


 とは言え、それも漸く取り除かれました。

 ヒロ様が決着を付けて、隊長を倒したから……と言うわけでも無かったようですが、それでもかなり戦いが楽になります。

 そして、私達の戦いは、これをきっかけに大きく動き出しました。


「へえ。あっちは盛り上がってきたみたいだね!」


「英雄はルシファー様を殺した人間だよ。隊長が本気を出す事になるのは最初から分かってた」


 魔人達はそう言うと、私達から視線を移し、ヒロ様と敵の隊長の戦いへと視線を向けました。


 チャンス!


 二人の魔人が視線を私達から外した事で、出来た一瞬の隙。

 私はその隙を狙って、雷速で飛翔する。


 先に狙うのは魔人グシオンです。

 体つきが良く、ローブを着崩して羽織っている、能力スキル狩猟領域(テリトリー)】を使う魔人。

 予備動作無しで繰り出す拘束の鎖が厄介な相手です。


「ライトニングスラッシュ!」


 剣に雷を纏って一瞬で斬り払い、魔人グシオンの体は真っ二つに――


「――っ速い!」


「君の雷速より、僕の方が速い」


「おっと、危ない。助かったよ、ボティス」


 私の斬撃は、魔人ボティスの二本の刀で易々と防がれてしまった。

 しかも、向こうは魔法を使ったようには見えない。

 能力スキルとも違う……単純に実力の問題ですねん。


 この魔人ボティスと言う頭から二本の角を生やす鬼の魔人は、かなり厄介な相手だと言えます。

 速さも私の雷速以上の速さで、しかも切れ味抜群の二刀流。

 その刀の威力は、私とランでは受けきれず、避けるしか身を護る方法が無い程です。


 私は直ぐに距離を取り、ランの側まで後ろに下がりました。

 ただ、これには戦術的に下がると言うより、ランに頼んでいた事への確認があったからです。


「ラン、そっちはどう? 進展はあったかい?」


「ううん、駄目。やっぱり、あれもあのグシオンの能力スキルの一部だと思う。さっきから魔法で幾つも起爆させてるけど、直ぐに増えて全然減らせない」


「本当に厄介だねえ。あの狩猟領域(テリトリー)って能力スキルは」


 私とランがこの二人の魔人に苦戦している理由の一つ。

 頭上に散りばめられた無数の爆弾。

 爆弾と言っても実体はなく、パッと見は何も無いように見えるものです。

 でも、良く目を凝らして見ると分かる空気の歪みがあります。

 その空気の歪みが、触れると無数の刃を周囲に散りばめ攻撃する爆弾です。


 これのおかげで、私とランは低空飛行でしか飛ぶ事が出来なくなっていました。

 それで私は一先ずランに上空の爆弾をどうにかしてもらおうと思って、出来るだけ一人で戦っていたんですけど、そんなに甘くはいかないらしいですね。


「減らせないって事なら、やっぱり二人がかりで、まずはグシオンを倒すべきかもねん。グシオンを倒せば爆弾も無くなるだろうし、空を飛んで、あのめちゃ怖な斬撃を相手に有利に戦えるだろうしね~」


「うん。私もそう思う。いつも通り私がサポートに回るよ」


「それじゃあ…………」


 二対二の戦い。

 ともなれば、この戦いはどう考えても負けられない。


「「我等フウラン姉妹のコンビネーションをお披露目するぜい!」」


 二人で同時に声を上げて、左右対称に飛翔する。

 もちろん上空の爆弾が無い範囲での話だけど、走るよりは速く動けますからね。


 二人でグシオンとの距離を一気に詰めて、雷と風の刃の斬撃を浴びせる。

 でも、やはりと言いますか、ボティスがそれを阻止しました。


 ボティスが私達の剣を二本の刀で受け止めて、平然とした顔で振り払いました。


「その位置もらった!」


「「――――っ!」」


 次の瞬間、四方から何かが私達に向かって飛んで来ました。

 私とランはそれを避けましたが、それだけでは終わらなかった。


「掴んだよ!」


「っしま――――」


「――姉さん!」


 避けた方向に仕掛けられた罠。

 私は避けて直ぐにグシオンの能力スキルの“トラップ”にかかり、鎖で体を拘束されて身動きを封じられた。

 そしてそこに、ボティスが二本の刀を構えて間合いを詰める。


「エアキャノン!」


「そいつはドカンよ!」


「僕の一太刀は全てを斬り裂く必斬の極み」


「――っライトニングアップ!」


 次の瞬間、様々な攻撃がぶつかり合う。

 ランがボティスを狙って空気の砲弾を飛ばす。

 グシオンが人差し指と中指を合わせて立たせて、それを空気の砲弾に向けると、二つの指先から空気の砲弾が飛びだして相殺。

 ボティスが私に向かって刀を振るって、私は魔法で速度を上げて寸でで避ける。

 すると、私の背後に立っていた鐘楼塔しょうろうとうが幾つも斬られて崩れていく。


「鎖に掴まれたまま僕の攻撃を避けるなんて、器用に避けるウサギだね」


「褒めてくれるのかい? 僕っ鬼娘ちゃん。お姉さん超嬉しいぜい」


「その上冗談も言える余裕があるなんて、気に入らないなあ」


「ボティス! 先にこっちよ! そいつは上位魔法が使えるけど剣士だ! 鎖で拘束しちまえばもう何も出来ない! こっちは下位だが動ける!」


「っ。……承知」


 ボティスがグシオンに呼ばれて、少し不満気な表情で承諾した。

 どうやら、敵さんはあまり連携がお上手ではないのかもしれません。

 しかし、それはそれとして、グシオンとボティスがランを狙い接近する。

 けど、心配はいりません。

 彼女達はうちの自慢の妹を甘く見ているのだから。


 確かにランは未だに上位魔法を修得していません。

 だけど、私と違ってランは元々戦いの才能があって、負けず嫌いなんです。

 私が左足を失った後、ランは石になっていた自分を責めていました。

 でも、それと同時に今よりも強くなろうと決め、ピュネ様に修行してもらってたんです。

 ランは下位の魔法しか使えないけど、でも、戦いにおいて上位魔法を使える私よりずっと強い。

 私の妹を、甘く見ないでもらいたいですねえ!


 ランは周囲に魔法陣をバラ撒き、二人の魔人を迎え撃つ。

 私も魔力を集中して、ランの狙いの先を読み取って飛翔した。


「ストームカッター」


 ランが魔法を唱え、切れ味の良い風が暴風となって飛び回る。

 そしてラン自身もその風に乗って、不規則な動きで飛翔しました。


「馬鹿ねえ! 上空はあーしの狩猟領域(テリトリー)だよ!」


 やれやれ。

 馬鹿なのはそちらさんですねえ!


 ランの動きは不規則だけど、それでも私とランは産まれる前からずっと一緒にいる双子の姉妹。

 あの不規則な動きの終着点は、私には見えている。


「エレキテルショック!」


 鎖で体を拘束されていようと、剣を振るえる状態では無かろうと、この魔法なら関係ありません。

 それに、私は空を飛べます。

 狙いたい方向に魔法を放てるように飛べば、造作もないんです。


 電気を帯びた衝撃波を飛ばして、ランの飛翔した先にあった爆弾を排除しました。

 だけど、その排除した爆弾は直ぐに補充されて元に戻る。

 でも、それでも構わなかった。


 一瞬でもその場にそれが無くなるならば。


 ランはその一瞬で、自分が出した暴風から外れて、剣を構えながら一気に急降下する。

 そしてその急降下の先にいるのはグシオン……では無く、ボティス。


 そう。


 ランが狙っていたのは、グシオンでは無くボティスだったんです。

 グシオンを先にと話していた私達ですが、なんて事はありません。

 私とランは心が繋がっているから、口に出さなくても分かりますからね。


 ランの剣が風を纏い、ボティスがランの間合いに入る。

 しかし、相手は私の雷速について来れるボティスです。

 ボティスも既にランに向かって二本の刀を構えていました。


「笑止。その速度で僕を斬れると思うなんてね」


「狙い撃ちにしてやるよ!」


 次の瞬間、ランは二つの攻撃に襲われる。


 一つは、ボティスが振るった二本の刀。

 音も無く静かに振るわれたそれは、空間さえも斬り裂く二本の一太刀。


 一つは、グシオンが放った空気の砲弾。

 まるで大きな鉱石が破裂するような轟音を上げて、音速にも近い速度で飛翔する。


 しかし、そんなものは関係ない。

 私は既に、それを攻略する準備を用意している。


「マグネティックフィールド“サクション”!」


 私を中心に磁場が発生して、ボティスが私に引き寄せられる。

 その速度は雷光に匹敵する脅威の速さ。


「――まさか!?」


 ボティスは私の魔法の意図に気がついたようだけど、構いません。

 何故なら、既に私の狙いは完了しているからです。


「がはっ――――」


「あーしの攻撃が利用された!?」


 グシオンが放った空気の砲弾がボティスに直撃。

 もちろん、それだけではありません。


 ランはボティスの斬撃を先読みしてかわしていて、狙いを定めている。

 そして、私も。


「ライトニングスラッシュ」

「ディスターバンスカット」


 瞬間――鋭利な雷を纏った私の足がグシオンを斬り裂き、同時に、乱れ舞う風の刃がボティスを斬り裂く。


「あ……しで…………? そん――――」

「僕が……こんな下位魔法で――――っ」


 次の瞬間、二人の魔人が体に亀裂を走らせ光を放ち、同時に爆発しました。

 私を拘束していた鎖も消えて、上空に漂っていた爆弾も消え去っていく。


 私とランはお互いを見て、視線を合わせると、ニヤリと笑みを浮かべて近づく。

 そして、左右対称にハイタッチをして、そのまま勝利のポーズを誰に見せつけるでもなく披露する。


「「やっぱり我等フウラン姉妹のコンビネーションは最強だぜ! イエイ!」」


【魔族紹介】



・グシオン

 種族 : 魔族『魔人』

 部類 : 人型

 魔法 : 闇属性上位『重力』

 サブ : 土属性

 能力 : 狩猟領域(テリトリー)


 今は亡きルシファー親衛隊の一員で、素行があまりよろしくない女魔族。

 体を鍛えるのが趣味で筋肉質な体型をしていて、実は肉弾戦が得意。

 しかし、フウが雷速で動き回るせいなのもあって、その実力を出し切れなかった。

 能力は、対象を縛る“トラップ”や、圧縮した空気を飛ばす“ボウガン”と、上空に設置する“ボム”がある。

 魔法があまり得意では無く、基本は浮遊する以外は使わない。

 血の気が多く、直ぐ他人を指図する癖がある為、周囲からはたまに煙たがられている。



・ボティス

 種族 : 魔族『魔人』

 部類 : 人型『鬼』

 魔法 : 闇属性上位『雷』

 サブ : 風属性

 能力 : 必斬


 今は亡きルシファー親衛隊の一員で、妖族の里出身の侍系女魔族。

 フウとランは気が付かなかったが、刀のとんでもない切れ味は能力によるもの。

 実際に本人は“必斬”と喋っていて、その名の通りの斬れぬ物無しのとんでも能力。

 フウの雷速と同じスピードだったのは、雷魔法が使えるから……と言うわけでは無く、本当に魔法無しでの速さではあった。

 魔法を使わなかったのは、自分の能力と実力に絶対の自信も持っていたから。

 しかし、だからこそ、最後に自分と同属性である下位の風魔法で敗れた事に驚いていた。

 一人称は“僕”と男の子っぽいものだが、自慢の刀で木彫りの可愛い系の人形を作るのが趣味。

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