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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
最終章 君と絆の物語
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12話 お騒がせ王子が動きだす

※今回は三人称視点でお話が進みます。



「アベルお兄さまとセイくんが魔族に占領されているトーンピースを奪還しに行った……? お父さま、それは本当ですか?」


「本当だ。先日、伝道師エミールの妹、クラナリアから伝書が届いた。伝書には封印の遺跡に最も近い平和の村トーンピースの現状、そこに住む民達の安否、そして魔族達の動向が記されていたのだ」


「――――っ」


 ここはクラライト城、謁見の間。

 先代ドレクによって英雄ヒロが右腕の治療を行っている時、封印の巫女姫であるベルは、城を留守にしている間に起こった事を父である国王から知らされていた。


 ベルの背後には侍女であるメレカが静かに立っていて、その隣には魔人であるアミーの姿もある。

 しかし、二人は立場上発言を控えていて、ベルと国王の会話を黙って聞いているだけだった。

 ナオはここにはおらず、現在は城の庭で日向ぼっこを楽しんでいる。


「伝書によれば、クラナリアが村の一部に結界を張り、民は無事だ。しかし、魔族に村を支配されて随分と時が経つ。結界を保つのにも限界で、貯蓄していた食料も尽きかけているそうだ。伝書を出すのも何度か試みていて、その度に犠牲を数人出していたようだな」


「そんな……」


 国王の言葉に、ベルの顔は悲痛に歪む。

 しかし、村人達が生きているのであれば、それでもまだ犠牲は少ない方だった。


 平和の村トーンピース。

 そこは、封印の遺跡に最も近い場所にある村で、元々は光鐘こうしょうと呼ばれる邪神を封印していた光の鐘の恩恵を最も受けていた村だ。

 五千年前に邪神を封印した時に記念として作られた場所でもある。

 とても穏やかな村で農業が盛んで、光鐘の恩恵はその農業に現れていた。

 あらゆる農作物が良く育ち、とても美味しいと評判も高く有名で、採れたての野菜を食べる為に国外から足を運ぶ者もいる程。

 世界最大の収穫量もあり、村には農作物の貯蓄も大量にあった。


 邪神復活前に封印の遺跡に向かったベルが一夜を過ごした村でもあり、その時に村人達から歓迎されて、とてもよくしてもらった思い出がベルにはあった。

 それもあり、魔族に占領され民が苦しんでいると言うのは、ベルにとって辛い現実だった。


「しかし、トーンピースにとっては不幸中の幸いだった。伝道師エミールの妹クラナリアが、封印の儀に向かう姉に同行してトーンピースにいたのだからな。おかげで民を救う機会を与えてもらう事が出来た」


「でも、危険です。アベルお兄さまとセイくんだけでは、トーンピースにいると言われている魔従ベヒモスには敵いません」


「無論、その事は分かっておる。アベルを行かせたのは、村を占領している魔族と正面から戦いを挑ませる為では無い」


「何か作戦があるのですか?」


「伝書には脱出ルートの提案も書かれていた。向こうに行けば、村を脱出した数名と合流する事が出来る。アベルには脱出作戦の補佐を任せている」


「……分かりました。今直ぐここにいる侍女メレカ、そして魔族の協力者アミーを連れ、アベルお兄さまとセイくんを追い作戦に加わります」


「そうか。英雄殿を待たなくて良いのだな?」


「はい。ヒロくんにはこの事は話さないで下さい。話したら……きっと治療をやめて追って来てしまうから…………」


「分かった。騎士にもそのように伝えておこう」


「ありがとうございます、お父さま」


 国王との謁見が終わると、ベルは直ぐにメレカとアミー、そしてナオを連れて魔車に乗って城を出た。







 ベル達が城を出て数時間後、静けさを増した城が再び騒がしくなりだした。

 理由は、楽器魔法を手に入れる旅に出ていた、みゆとフウラン姉妹とニクスとデルピュネーが戻って来たからだ。


 フウの足はすっかりと元に戻っていて、斬られた切断の痕は残っているものの、何不自由なく動かせるまでになっていた。


「リーンママ大丈夫?」


「ええ。大丈夫よ、みゆちゃん。ちょっと飲み過ぎちゃっただけだから」


 リーンママとは、ベルの母親であるこの国の王妃リーン=クラライトの事。

 リーン王妃はみゆからリーンママと呼ばれて慕われていて、現在二日酔いで寝ていた所を、帰って来たみゆに気遣われていた。


「「ところでその飲み過ぎた原因を作ったアミー氏はどちらへ?」」


 フウラン姉妹が左右対称にポーズをとりながら質問すると、リーン王妃は人差し指をあごに当てて首を傾げた。


「どこかしら? 確か、お爺ちゃんたちと一緒に飲むって言ってたわ」


「お爺ちゃんて、先代の爺さんの事やんなあ? そんなら、あのデリバー言う魚人の治療は終わったんやな」


「ええ。丁度今朝終わったって、騎士達から報告を受けたわ。それのお祝いみたい」


「昼間っから酒飲むな言うてるのに、ホンマしょうもない爺さん達やなあ。ところで王妃様、うちの師匠、タイムが何処におるか知ってます?」


「タイムくん? タイムくんなら二日前に一度家に戻るって、トランスファに戻って行ったわよ?」


「うわ。最悪やん。タイミング悪いなあ」


「あら? 何かあったの?」


「みゆの兄貴……ヒロの事でちょっと面倒そうな事があってまって、その事について聞きたい事があったんです。せやから、ヒロが帰って来る前に話を済ませたかったんやけど」


「そうなの? それなら――」


「決めた! うち、ちょっとトランスファまで飛んで行って来るわ!」


「あ、ニクスちゃ――――っ」


 ヒロなら既に帰ってきている。

 それをリーン王妃は知っていたので、伝えようとした。

 しかし、ニクスはリーン王妃の言葉を聞かず、部屋を飛び出して廊下の窓から飛び立って行ってしまう。

 それは本当に流れるように速く、リーン王妃も制止する事が出来なかった。


「王妃様?」


 何か言いたげな顔をしていたリーン王妃に気付いてフウが話しかけると、リーン王妃はしょんぼりとした顔をフウに向けた。


「ヒロくんはもう帰って来てるの。ベルとメレカちゃんがお見舞いに来てくれたから、間違いはないわ」


「え? お兄ちゃんが帰って来てたの?」


「ええ。町で暴れてる魔族を止めに向かったってベルが言ってたわ」


「町で暴れてる魔族……? それ、アミー氏では?」


「姉さん、ヒロ様が向かったくらいだから、流石にアミー様ではないんじゃない?」


「確かに……」


「でもおかしいなあ。わたし達がここに来る時、魔族と戦ってる雰囲気は何処にも無かったよね?」


「「ですねえ」」


「あら? そうなの?」


 みゆとフウラン姉妹とリーン王妃が首を傾げ、一緒に頭を悩ませ考える。

 するとそこで、今まで黙って話を聞いていたデルピュネーが、のほほんな眉根を下げながら手を上げた。


「あの~……」


 若干控えめな言葉ではあったが、みゆ達はその言葉に耳を傾け、デルピュネーに注目する。

 デルピュネーは自分に注目が集まると、少し申し訳なさそうに話しだした。


「魔力を読み取れるから、実はここに来た時に分かっていたのだけど、ヒロさんは先代のドレクさんと一緒にお城の中にいるみたいよ~。方角からしてあの部屋にいるみたいだから、多分治療中じゃないかしら~」


「「そう言えばピュネちゃんは魔力の探知が可能でしたなあ」」


「そっかあ。だからお兄ちゃんの声が聞こえないんだ。あれ? でも、じゃあなんでべるお姉ちゃん達の声も聞こえないんだろう?」


 デルピュネーの言葉に、みゆとフウラン姉妹は納得した。

 だが、音魔法の使い手であるみゆは周囲の声を拾って聞く事ができ、それを使ってもベル達の声を拾えずに首を傾げた。

 すると、デルピュネーは集中して、ベル達の魔力に探りを入れる。


「……本当ねえ。ベルちゃんとメレカちゃんとナオちゃんの魔力が感じられないわあ。何故かしら~? デリバーさんがいるからって、今回お留守番していたアミーちゃんの魔力も感じられないし、城下町に遊びに行ってるのかもしれないわねえ」


 本当はベルとメレカとナオとアミーは平和の村トーンピースへ向かって行ったのだが、それを知らない上に、このクラライトの城下町は広い。

 その広さはデルピュネーが魔力を探知できない範囲まであり、みゆが声を拾う事が出来ない広さだ。

 そんな事もあり、何も知らないみゆ達が、ベル達がここに既にいないと言う事を知る術は無かった。




 リーン王妃との面会を終えると、みゆ達はヒロの許へと向かう。

 するとその時、城内が妙な雰囲気に包まれている事に、フウラン姉妹とデルピュネーは気づいた。


「「何かあったんですかねん?」」


「そうね~。やけに静かよね~」


 フウラン姉妹とデルピュネーが言葉を交わすと、みゆはそれを聞いて声を探り、ピタリと足を止めた。

 そして、ジッと耳を澄ませて目を閉じ、暫らくすると目を開いた。


「べるお姉ちゃん達がお兄ちゃんを置いて、トーンピースって言う名前の村に行ったみたいだよ。村人がまだ生きてて、助けだす作戦に参加するんだって」


「「トーンピースと言えば、我々がクラライトに到着した時に、国王様から魔族に占領されていると聞いた村ですね」」


「お兄ちゃんはこの事知ってるのかな?」


「「知らないんじゃないですかね~。知っていたら、治療を受けずについて行きそうですし」」


 質問に答えたフウラン姉妹の言葉を聞くと、みゆは真剣な面持ちになり、その直後にフウラン姉妹とデルピュネーもその場で会話もせずにジッと立つ。

 三人に会話は一切なく、そうした時間が数分過ぎた頃、そこへクラライト王国の第二王子ヘンリー=クラライトが現れた。


「おや? 道の真ん中で誰かと思えば、ヒロの妹とフロアタムの騎士と守り人じゃないか。四人で真剣な顔してどうしたのだ?」


 ヘンリー王子に話しかけられると、みゆ達はヘンリーに気が付いて視線を向け、注目する。

 そして、真剣だった顔を歪ませた。

 何故なら、ヘンリー王子が赤ん坊の女の子を抱いていたからだ。

 背後には侍女が二人と騎士も二人いて、四人とも若干だが焦っている様な心配している様な表情をしている。


 しかし、それもその筈だろう。

 ヘンリー王子が今抱いているのはクラライト王国第二王女アリア。

 産まれて数ヶ月しか経っていない0歳の女の子だ。


 ヘンリー王子と言えば、この国の問題児。

 もしアリア王女に何かあったらと、ハラハラしていてもおかしくはない。


「王子さま。ありあちゃん抱っこしても良い?」


「む? 駄目だ。と言いたい所だが、許そう。みゆは俺と共にあのヴィオラで戦った戦友だからな。決して落とすなよ?」


「うん」


 ヘンリー王子がみゆにアリア王女を渡して、侍女と騎士がホッと胸を撫で下ろす。

 それを見て、フウラン姉妹とデルピュネーは冷や汗を流した。


「そうだ。戦友であるみゆに会った事で良い事を思いついたぞ。やはりオレもトーンピースへ向かうとしよう。必ずオレの力が必要になるだろうからな」


 どうしてそう思ったかは不明だがヘンリー王子は独り言ちでそう告げると、アリア王女を一撫でし、みゆに視線を向けて口角を上げる。


「みゆ、オレの妹アリアを預けたぞ。オレは前戦へおもむき、魔族どもにクラライト王国にヘンリーありと知らしめて来る」


「え? 危ないよ?」


 みゆが心配そうに言ったが、これはもちろんヘンリー王子がでは無い。

 危ないのはヘンリー王子に足を引っ張られる前戦の騎士達だ。


「ふ。心配には及ばないな。オレはあの魔人メドゥーサを一撃で葬ったヘンリー=クラライトだ。恐れるものは何も無い」


 今日も絶好調に調子に乗ったヘンリーに、フウラン姉妹が背後の騎士と侍女に視線を向ける。

 しかし、彼女達の身分で本当の事が言えるはずも無く、四人とも大きく首を横に振った。


「よし、では参ろうぞ! このオレが、トーンピースに平和をもたらそう!」


 ヘンリー王子は高らかに宣言すると、自分の騎士と侍女を連れて、この場を去って行った。

 そして、みゆ達とアリア王女の騎士と侍女はその背中を見送り、本気で巻き込まれる騎士達を心配する。


「ねえ? ヘンリー王子さまは何でありあちゃんを連れて歩いてたの?」


 ヘンリー王子が見えなくなると、みゆがアリア王女の侍女に質問した。

 すると、侍女は騎士と目を合わせてから、みゆの目線に合わせる為に屈んで答える。


「数刻前に、ヘンリー殿下が対魔族用の魔石を暴発してしまい、謹慎処分を陛下から言い渡されました。それで暇だからと、アリア殿下を散歩に連れて行くと仰り、城内を歩いていたのです」


「駄目じゃん! 謹慎処分中なのに前戦に行こうとしてるの?」


「はい……」


 あまりにも酷い出さなくていいヘンリー王子の行動力。

 みゆはもちろん、フウラン姉妹とデルピュネーは冷や汗を流して呆れるのだった。

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