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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
最終章 君と絆の物語
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10話 突然脱ぐのは良くない

 宝鐘の守り人ティアマトの話を聞いた次の日。

 俺達はまだティアマトの氷の家の中にいた。

 と言うか、この氷の家はかなり凄い作りになっていて、外観のパッと見が六畳にも満たない家なのに、中に入ると一部屋八畳はある3LDK。

 どうなってんだと聞いて見ると、ティアマトの能力スキルの成せるものだった。

 と、言うわけで、昨晩はここで寝泊まりしたわけだ。


 まあ、暖房器具的なものが無かったので、そこそこ寒かったわけだが……。


「ヒエ~。宝鐘を手に入れたら今日中に出て行くんですか? もう少しゆっくりしていけばいいのに」


「気持ちはありがたいけど、のんびりもしてられないからな」


 朝食を済ませた後に、氷の精霊スリートと食後の紅茶を頂きながら話していた。

 と言っても、もう既に昼になる時間ではある。

 何故こんなにのんびりしているのかと言うと、メレカさんが外でティアマトから上位の魔法を教えて貰ってるからだ。

 ベルとナオもそれにつきあっていて、俺だけ家の中でのんびりしていた。


 寒いからな。


「帰りはまたスリートの魔法で送ってあげます~」


「あれ? 昨日ティアマトに帰りはスリートの魔法で帰るのは禁止って言われたんだけど、聞いてなかったのか?」


「ヒエ~? 初耳です~。本当ですか?」


「ああ。本当だよ。まあ、そう言うわけで、この通り服も軽装にしたってわけだ」


 言いながら上着のえりを引っ張る。

 すると、スリートは「ヒエ~」といつも通りの悲鳴を上げた。


 そんなわけで、俺はモコモコ装備を外している。

 相変わらず寒いからマフラーは付けているが、身軽な服装になっていた。

 これだと多少寒いわけだが、戦闘で足手纏いにもなりたくないので我慢だ。


「二人とも楽しそうですね」


 スリートと話していると、不意に声が聞こえて振り向く。

 すると、ティアマトが微笑を浮かべて俺達に近づいて来ていた。


「あ、ティアマト様お疲れ様です~」


「あれ? みんなは?」


「氷の魔法を修得しましたが、本人がまだ納得していないので練習していますね。私は英雄様にお話があるので、先にこちらに戻って来ました」


「俺に?」


 目の前にティアマトが「はい」と答えながら座り、スリートがティアマトの分の紅茶をれ始める。


 ティアマトは答えてからは無言だった。

 何故無言なのか……と言うか、ジッと俺は見つめられ、正直緊張と気まずさで居た堪れなくなった。

 そうして時間が少し経過すると、スリートが紅茶をティアマトの前に出し、ティアマトは紅茶を一口飲んでからようやく話を始める。


「話と言うのは、貴方様の能力スキルについてです」


「俺の能力スキル……?」


「見たところ、まだ覚醒していないご様子ですね」


「え? ルシファーとの戦いで掴めたと思ったんだけどな」


「貴方様のその能力スキルが覚醒していれば、この氷砂もそのネックレス無しで歩けるでしょう」


「……マ?」


「信じられないのであれば、試しに今から取ってみましょう」


「いやいや流石に――――っ」


 それは一瞬の出来事だった。

 突然強烈な冷気に襲われて、息が出来なくなり、一瞬で体が冷たくなっていく。

 何が起きたのか分からず、体も動かなくなり、そのまま意識を失いかけた。


「やはり覚醒にはまだ至っていませんね」


 意識が消えるかどうかの瞬間に、ティアマトの言葉が聞こえた。

 するとその直後に、俺は温かな水に包まれて全身が火照っていき、体も動くようになった。

 体が動くようになると、俺を包んでいた水が消え、俺は水浸しの状態で解放された。


「さっむ……。俺って今何されたんだ?」


「貴方様が首に提げているそのネックレス……抑氷よくひょうの首飾りを外しただけです」


「外しただけです。じゃねえよ! 俺を殺す気かよ?」


「ヒエヒエです~。ティアマト怖いです~」


 俺が若干怒りながらツッコミを入れ、スリートが顔を青ざめさせて震えた。

 すると、ティアマトが不思議そうに首を傾げる。


「あら? 二人で私を責めるなんて。そんなに酷い事をしましたか?」


「ヒエ~。外しますよとか言うなりのせめて前置きは必要だと思います~」


「そうですか。反省ですね」


 ティアマトはそう言うと、親に叱られた小さな子供のような表情を見せる。


 なんと言うか、短い時間ながらも一緒に過ごして分かったが、ティアマトは基本悪気無しでとんでもない事をしたり言ったりする。

 知識を身に着けた善悪の分からない園児を相手にしている様な感じだ。

 だから、話してみると結構素直で、注意するとこうして本当に反省する。

 それもあって俺はティアマトに対して怒る事はあっても、嫌いにはなれなくなっていた。

 まあ、だからと言って、今みたいに死にかけるのは勘弁願いたいが。


「っつうか、この抑氷の首飾りを外すとマジでヤベえな。俺の能力スキルが覚醒すると、本当にこの寒さでも平気になるのか?」


「はい。最初の世界でも英雄様は覚醒には至りませんでしたが、それは確かです。覚醒をすれば無意識での発動が可能となり、どの様な環境でも対応できると、女神ヘーラー様が仰っていましたので」


「女神ヘーラー……か。その女神様ってのには、俺やベルは会えないんだよな?」


「恐らく難しいですね。あの方はこの世界の事を完全に私と天使ガブリエルに託していますので。基本は干渉しません」


「そうか……え? ガブリエルにも任せてるのか?」


「はい。元からこの世界は誕生した当初から、天使ガブリエルに一任していました。この世界を創造したのは天使ガブリエルでしたので。私が介入する様になったのは、天使ガブリエルがこの世界をおもちゃ箱にしたのが原因ですから」


「おもちゃ箱……っつうか、この世界を作ったのは神様じゃなかったのかよ」


「女神ヘーラー様の監視の下ではありますが、そうなりますね」


 なんと言うか、ゲーム会社みたいなもんだろうなと、ふと思う。

 女神ヘーラーと言う会社に勤める天使ガブリエルが世界を創造して、それを女神ヘーラーと言う会社の作品として出品みたいな。

 だから、創造神は天使ガブリエルではなく、世界を天使ガブリエルに作らせた女神ヘーラーなのだ。


「ヒエ~。天使ガブリエルは世界を遊び道具にしてるんです~」


「俺が知ってるガブリエルは、結構良い奴だったんだよ。だから、その話は未だに信じられないんだよな」


「その件はスリートから話を伺っています。信じられないのであれば、私はそれでも良いと考えます。誰かから聞いた話では無く、貴方様が見て判断し、信じたいものを信じて下さい」


「……ああ。そうだな。そうするよ」


「ヒエ~。それで良いんですか?」


「良いも何も、これは私達ではなく、英雄様が判断する事です。強制する様な事ではありません」


「そうかもですけど……」


「一応注意はするからさ、心配すんなって。それに、ガブリエルも邪神をどうにかしたいのは同じだろうし、悪いようにはならないだろ」


「ヒエ~。楽観すぎです~」


 スリートの言う通り、楽観した考えかもしれないが、警戒した所であれ以来出てこない相手なんだ。

 目の前に現れない相手の事で考えていても仕方が無いし、現れた時にでも考えればいいと俺は思った。


「さて、ところで英雄様」


「ん?」


 一通りの話を終えると、ティアマトが微笑して……と言うか、ニッコリと笑う。

 そのニッコリ顔は何か含みのある感じがして、俺はそれを見ていぶかしんでしまった。

 すると、ティアマトは何やら楽しそうに話しだす。

 そして――


「絆の魔法を使うのがお上手では無いので、今から少し勉強しましょう」


「――なんで脱いでんだよ!?」


 そして、何故か脱ぎ始めた。


「何故って、絆を深める為ですよ?」


「何で深める気だよ!? 服を脱ぐ必要なんて無いだろ!?」


「ふふふ」


「わああああああああああああっっ!!」


 ティアマトはクスクス可笑しそうに笑いながらも脱ぎを再開。

 美人でスタイルの良いティアマトの裸体が完成されていく中、俺は混乱して叫ぶ事しか出来なかった……。







「アイスデザートって、今思うと美味しそうな名前だにゃ」


「え? うん。そうだね」


 メレカさんが氷の魔法を練習している風景を見つめながら、ナオが突然と呟き、ベルがそれに答えて頷く。


 俺が絆の魔法を勉強? している時、ナオだけが暇そうにしていた。

 と言うのも、実はベルは宝鐘を手に入れる為に、宝鐘の封印を解いていたのだ。


 ベルも三つ目となると手慣れたもので、ナオと会話しながらそれをこなしていた。

 なので、宝鐘は今、ベルと一つになろうとしている最中だ。

 その光景はかなり幻想的で、ベルは魔法陣の上で光に包まれて、目を奪われる程の美しさである。

 しかし、それも台無しな状況。


 ナオは見慣れていると言うわけでは無かったが、お腹を空かせていてそれどころでは無かった。

 まさに花より団子な状態で、頭の中は昼食の事でいっぱいである。


 ベルはベルで宝鐘を手に入れてる本人なので、その美しさに気付いていないし、何よりそれで見惚れたらただのナルシスト。

 そんなものはベルとは無縁なので、ナオのこのやる気の無い感じに合わせて会話してしまっている。


 メレカさんに至っては自分の事に集中していて、宝鐘を手に入れると言うこんな大事な事を、まさか自分の練習を見るついでにやっているとは思っていないので気付いていない。


 そんなわけで、結局は目を奪われる程に美しいその幻想的な光景は、誰の目にも留まらずに終わってしまった。


「プリンが食べたくなってきたにゃ」


「え? アイスじゃなくて?」


「アイスは体が冷えそうにゃ」


「そっか。確かにそうかも」


 なんとも内容の無い会話の応酬。

 ベルとナオはメレカさんの練習を見守りながら、そんな会話を繰り返す。

 だが、そんな時だった。

 氷の家からスリートが出てきて、ベルとナオの目の前にやって来た。


「ヒエ~。スリートはとんでもない人を主人にしてしまったです~」


「にゃ?」


「何かあったの?」


「聞かない方が良い事です~」


「にゃー?」


「うん?」


「それより、ティアマト様からお昼ご飯を食べて行きなさいと伝言を預かって来たです」


「やったにゃー!」


「うん、ありがとう。じゃあ、お昼ご飯を食べてから出発だね」


「にゃー。今日のお昼は何かにゃ~」


「ご希望はありますか?」


「お魚が食べたいにゃ」


「分かりました。って、あれ? 宝鐘が無くなってます~」


「うん。ティアマト様がもう持ってって良いって言ったから、さっき貰ったの」


「ヒエ~。手に入れる時に綺麗なものが見れるって聞いていたから、見たかったです~」


「え? ご、ごめんね」


「お気にしないで下さ――」


「気にして下さい!」


 スリートと話をしていると、いつの間にか練習を終えたようで、メレカさんがベルに近づいていて珍しく抗議した。

 すると、ベルはそんな珍しいメレカさんに冷や汗を流す。


「め、メレカ? お、お疲れさま」


「ありがとうございます。ではございません! 一声私に声をかけて下さっても良かったではありませんか!? 宝鐘を手に入れる姿を私は見た事が無いのです。不謹慎かとも存じますが、これが最後だったので楽しみにしていたのですよ!」


 メレカさんの目は本気で、かなりがっかりした様子で、これまた珍しく顔にそれが思いっきり出ていた。

 そんなメレカさんを見て、流石にベルも申し訳なかったと思い「ご、ごめんね」と謝罪すると、メレカさんはハッとなって身を引く。


「取り乱してしまい申し訳ございません」


「ううん。いいの。声をかけなかった私も悪かったんだし。あ、それより、ティアマト様がお昼食べて行ってって」


「かしこまりました。もう既に食事の用意は……?」


 メレカさんが質問しながらスリートに視線を向けると、スリートは首を横に振った。


「まだです~。ティアマト様が全裸になって英雄様と絆を深めているので、スリートは逃げて来たです~」


「ええええええええええええええ!?」


「あ、言っちゃったです~」


 スリートの爆弾発言に大きな声を上げて驚くベル。

 ナオは「にゃー?」と首を傾げ、メレカさんが眉根を上げてニッコリと笑みを浮かべる。

 そしてそんなメレカさんの顔を見て、スリートは顔を真っ青にして、いつも通り……とは若干違う悲鳴を上げるのだった。


「ヒエヒエでずううううううううっっ!」

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