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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
最終章 君と絆の物語
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7話 記憶

 最北の地であるサウンドサンクチュアリー。

 その最も寒い極寒の氷の砂の大地に、俺達が求める宝鐘ほうしょうがあった。

 そしてその直ぐ側に、氷で作られた小さな家がある。


 氷の精霊スリートの裏ワザを使い、俺達はこの地にたったの一時間でやって来た。


「ま、まさかこんな最低な方法を使ったなんてな……っさむ


「ニャーは楽しかったにゃ」


「わ、私はちょっと目が回ったかも……」


「姫様、少しお休みになられた方が」


 さて、そんなわけで色々な感想が飛び交った裏ワザなんだが、その方法とは……氷の大砲アイスキャノンと言うものだ。

 自他ともに認める駄目駄目でザコザコ精霊のスリートだが、唯一誰もが認める凄い魔法がある。

 それが氷の大砲アイスキャノンと言う魔法。


 氷の大砲で使う弾は、決して砲弾では無い。

 使うのは自分自身……つまり、飛ばしたいものを砲弾として使う。

 と言うわけで、俺達は砲弾となってここまで来たのだ。


 一見すると、とんでもない人道の外れた魔法だが、実は言う程そうでも無い。

 使用時に砲身の中に入ると、自動で氷の膜で身を包まれ、あらゆる衝撃などを防いでくれる。

 そして、これは大砲と言いながらも、戦闘では一切使われない。

 これはあくまで移動手段に過ぎないもので、戦闘向けでは無いとの事。


 と言うわけで、俺達はアイスキャノンで何度も(・・・)ぶっ放されて、たったの一時間でやって来たわけだが正直滅茶苦茶寒かった。

 目が回るし寒いしで、体調不良が半端ない。


「ったく、みゆが好きなゲームじゃないんだから、人間を大砲で飛ばしちゃ駄目だろ……」


「ゲーム? ヒエ~? ゲームってなんですか?」


「何でもない……」


 全身にモコモコを着込んでいる俺ですらこんなに寒いと言うのに、露出度多めのベル達はとんでもなくヤバいだろう。

 とも思ったが、意外と寒さは平気な様だ。

 そして俺はようやく気がついた。


 よくよく考えても見れば、これには魔法の特徴が関係している。

 水……正確にはスリートが言うには氷の魔法が使える筈のメレカさんは、寒さに対しての耐性がある。

 ナオは火の属性だから、火を起こせばだんが取れる。

 ベルの場合は……まあ、良い事ではないが、恐らく害灰がいはいを吸収した影響だろう。

 未だに熱があるようで、俺達より寒さを感じていない節がある。

 まあ、そんなわけだから、この中で寒さに弱いのは俺だけなのだ。


「にしても、ここの宝鐘は滅茶苦茶分かりやすいな」


「そうだね。隠さないで野ざらしだなんて思わなかったよ」


 ベルの言う通り、宝鐘は氷の砂の上空で野ざらしになっていた。

 状態としては、常に光を放っていて、術式が砂の大地や周囲に浮かび上がっている。

 それから、宝鐘の周囲は若干ではあるが暖かかった。


「当然です~。暴獣たちにとって、ここはサウンドサンクチュアリーで最も危険な地なんですよ」


「最も危険な地……? って、なんかあるのか?」


「ティアマト様です~。ティアマト様の存在が暴獣を寄り付かせない地に変えてます~」


「ティアマトね~」


 宝鐘の守り人ティアマト。

 スリートの話では、女神から唯一宝鐘を託された人物らしいが……。


「とにかく、まずはそのティアマトってのに会おうぜ。宝鐘を手に入れるのはそれからで良いだろ」


「うん。勝手に持って行ったら駄目かもだし」


「ニャーは宝鐘の所で日向ぼっこしてるにゃ」


「それなら念の為に宝鐘の見張りをしてもらえないかしら?」


「分かっ――」


「それには及びません」


「――にゃ?」


 不意に聞こえた背後からの女性の声。

 その声は美しく、メレカさんから感じる気品と同様のものを感じさせた。


 俺はその声に驚いて振り向き、そして、そこに立つ人物を見て再び驚いた。


「はじめまして。私は宝鐘の守り人ティアマト。英雄様、そして封印の巫女、貴方方をお待ちしておりました」


 ティアマトと名乗った人物は、龍の角と翼と尻尾を生やした絶世の美女。

 青く美しい綺麗な髪は腰まで届き、宝石の様に透明感のある綺麗な水色の瞳。

 どこか落ち着いた雰囲気を感じさせ、スタイルの良さがそれを引き出し、大人の魅力を感じさせる。


「ティアマト様~!」


「ふふふ。スリート、お帰りなさい。ご苦労様です」


「フェンリルが怖かったです~!」


「それは大変でしたね。ゆっくりおやすみなさい」


「はい!」


 スリートの返事を聞くと、ティアマトは俺と目を合わせて微笑して、軽い会釈えしゃくをした。


「英雄様には、この氷砂ひょうさの海は酷だったようですね。家の中に招き入れたい所ですが、宝鐘の側の方が気温が暖かいので、そちらでお話を致しましょう」


「お、おう……」


 緊張しながら頷くと、ティアマトが再び微笑して、音も立てずに歩き出した。

 しかもその足元を見ると、氷の砂の上を歩いていると言うのに、全く足跡が付いていない。

 かと言って浮かんでいるわけでも無く、間違いなく氷の砂に足を付けて歩いている。


「ね、ねえ? メレカは気づいた……?」


「……はい。ティアマト様からは……殆ど魔力が感じられません」


「あ、本当だにゃ」


 ティアマトの後ろに続いて歩き出すと、ベル達が小さな声で話しだした。

 それを聞いて俺もティアマトに向けて魔力を見る目で探ってみると、確かに魔力を全然見る事が出来なかった。

 と、そうこうしている内に宝鐘の側まで辿り着く。


 宝鐘の側までやって来ると、ティアマトは俺達に振り向き手を前にかざす。

 すると、俺達の背後に魔法陣が浮かび上がり、そこから氷の椅子が現れた。


「どうぞお掛けになられて下さい」


 ティアマトはそう言いながら、自分の背後にも氷の椅子を出して座る。

 とりあえず言われた通りに座って見ると、これが何故か不思議な事に冷たくなく、それどころか氷で堅い椅子の筈なのに柔らかく座り心地も良かった。


「まずはここまでの長旅お疲れ様です。英雄様、貴方様にはスリートを使い、試練などと言う試すような真似をした事をお詫び申し上げます」


「あ、いや。結局俺は何もしてないし、俺としては別に良いんだけど……」


 言いながらメレカさんを横目で見る。

 すると、メレカさんと目が合って、何故か苦笑された。


「何もしていない……? スリート、それは本当ですか?」


「ヒエ~。ごめんなさい。試す相手を間違ってしまいました」


「まあ……」


 スリートの素直な謝罪を受け、ティアマトが驚いた顔して両手で口元を押さえる。

 なんと言うか、やはりティアマトもこれは予想外だったのだろう。

 マジで驚いて目を丸くしながら、スリートに視線を向けていた。


「では、どちらの方が試練を……?」


「私です。ですが、フェンリルを倒したのは私ではなくナオ……この子です。私は逃げ道を作り出す事しか出来ませんでした」


 メレカさんがナオを手差しして説明すると、ティアマトが「そう。貴女が……」と呟いてから、メレカさんをじっくりと見て言葉を続ける。


「見たところ、氷の魔法を使用出来るまでの実力を持ちながら、未だに使っていないようですね。なにか理由でも?」


「見ただけで分かるのにゃ?」


「凄い……。って、あれ? メレカって氷の魔法が使えたの?」


「いえ。スリート様もその様に仰られていましたが、残念ながら私に上位の魔法は使えません」


「ふふふ。おおむね理解しました。貴女は確か……封印の巫女様の侍女でしたね。後で貴女に氷の魔法を伝授します。よろしいですか?」


「……はい。ご口授をありがたくお受けします」


 メレカさんが頭を下げて、ティアマトは微笑する。

 ベルは驚いていたようだけど、俺は何となくそうなんじゃないかとは思っていた。


 と言うのも、目で魔力が見える俺にとっては、その魔力の本質と言うか色的なものが見えているからだ。

 水の属性と言うのは目で見ると青色なわけだが、メレカさんの魔力には若干だが青に水色が混じっている。

 水色の魔力は水の上位である氷を意味していて、だからこそ俺は、メレカさんがその内ナオの様に上位魔法を修得するんじゃないかと思っていた。


「さて、前置きが長くなってしまいましたが、そろそろ本題に移りたいと存じます」


「本題……。やっぱり、ティアマト様も宝鐘の守り人としてのお話があるんだね」


「はい。もちろんです。では、まずはそうですね……やはり、五千年前の事を知って頂く事にします」


「五千年前の事……って、五千年前の邪神との戦いの事か?」


「はい。では、早速始めるとしましょう」


 ティアマトはそう告げると立ち上がり、目を閉じて両手を軽く広げた。

 するとその直後、まるで別の空間に飛ばされたかのように、視界が……周囲が暗闇に包まれる。


「宝鐘の守り人が一人、我が名はティアマト、真実を継ぐ者なり。我が魔力を以って、彼の者達に真実を示す」


 瞬間――視界に光が差し、周囲に景色が生まれた。


 広がる景色は、広大で美しい草原。

 そして、その真ん中でシートを広げて座り、弁当を仲良く食べる少年と少女。

 その少年と少女はどちらも見覚えがあり、そして、初めて見る顔だった。


「これは……?」


「誰にゃ?」


「あれ? あの子達の着てる服にある紋章って、クラライト王家の紋章じゃない?」


「はい。間違いなくクラライトの紋章です。しかし、彼等が何故それを……?」


 確かにベルの言う通り、少年と少女の服にはクラライト王国で見た紋章が付いていた。

 だが、そのクラライトの王女であるベルと、ベルに仕えるメレカさんでも知らない二人の子供。


 俺達がその答えを出せずにいると、ティアマトが漸く口を開く。


「彼等は五千年前の邪神と封印の巫女。つまり、現世の封印の巫女である貴女の先祖です」


「この人達が……私のご先祖様…………? じゃあ、これって」


「はい。この映像は五千年前の封印の巫女の記憶です。これから見て頂くのは、五千年前の封印の巫女の記憶の一部分。音声は流れませんので、私が映像ごとの説明役を務めさせて頂きます」


 ティアマトの言う通り、映像には音が無く、場面だけが切り替わっていく。

 俺達はその切り替わっていく映像を見ながら、ティアマトから真実を告げられていった。

 そして――







 ――ベルの瞳には涙が溢れていた。

 五千年前の戦いで起きた出来事は、封印の巫女となった双子の片割れ……少女の悲しく残酷な物語だった。

 そしてその物語は、ベルに大きく関わる物語でもあった……。

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