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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
最終章 君と絆の物語
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4話 見た目や雰囲気で判断しないで下さい

※今回はメレカ視点のお話です。



 姫様の事をヒロ様に託して、私は氷の精霊様の里を見て回っていた。

 目的は、熱のある姫様の為に、熱を冷ます効果のある薬を探す事。


 ただ、精霊様が病気になると言う話は聞いた事が無いので、ここにあるとは限らない。

 だから、ふと目をかち合わせた精霊様に尋ねてみた。


「おくすりですか~? ねつをさますなら、こおりをだせばいいですよ」


「病気かもしれないので、出来ればお薬が――」


「わあ! かっこいいおねえさんだー!」


 精霊様と話している途中で、別の精霊様が来て騒ぎ出す。

 すると、次々と精霊様が集まって、薬を聞くどころでは無くなってしまった。

 精霊様達には悪気があるわけではないし、どうしようかしら? と困っていると、少し遠くの方から、スリート様が慌てた様子でやって来た。


「た、大変です~。ヒエヒエです~」


「どうなさいました?」


「スリートの友達が、暴獣ぼうじゅフェンリルに捕まっちゃったんです~! このままじゃ餌にされちゃいます~」


「わああああ! たいへんだー!」

「こわいよう。みんなたべられちゃうんだー」

「またおうちをいどうしなきゃー!」


 スリートの話を聞くと、集まっていた精霊様達が悲鳴を上げて一斉に散らばって行く。

 数秒後には、この場に残ったのは私とスリート様だけになっていた。


「スリート様、今直ぐヒロ様達にこの事を伝え、ご友人を助けに行きます。場所を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」


「ヒエ~! そんな暇無いです~! お姉さんだけでも直ぐに来て下さい! こっちです~!」


「――っスリート様!?」


 暴獣フェンリルと言えば、クラライト王国では有名な暴獣。

 サウンドサンクチュアリーに生息し、群れを成さずに一匹で行動している事が多い。

 しかし、一匹だからと油断してはいけない凶暴さを持っていて、出会ったならば死を覚悟しなければならない。

 昔、一匹のフェンリルを相手に、クラライト王国の精鋭騎士団が一つ壊滅した。

 それ程に強く、凶暴で凶悪な暴獣。


 間違いなくヒロ様のお力が必要になる。

 私はそう考えた。

 しかし、スリート様は私の話を聞かずに、もの凄い速度で移動を開始してしまう。


「呼びに行っている余裕はありませんね」


 私は呟いて、既に結構な距離が離れてしまったスリート様の後を追いかけた。




 スリート様を追いかけて暫らくすると、里から二里にり程離れた場所で、暴獣フェンリルを発見した。


 フェンリル……話には聞いた事あるけど、姿は初めて見たわね。

 見た目は他の暴獣とそれほど変わらないのね。


 青白い毛並みで狼の姿。

 体長は恐らく五メートル程度。

 唯一違うのは、頭が他より一回り大きく、尻尾の長さが二倍ほどある事。

 それ以外は本当に他の暴獣と変わりなかった。


 ただ、今はそれよりも気になる事があった。

 スリート様のご友人の姿が無く、あるのはフェンリルに狩られたであろう獣の死骸だけ。

 それから、フェンリル自信は獣の死骸を食べている最中で、私達にはまだ気づいていなかった。


「スリート様のご友人がいませんね。無事に逃げ延びていれば良いのですが……」


「ご友人……? あ、そうです~。ヒエヒエです~」


「…………スリート様?」


 私の言葉を聞いたスリート様が、明らかに妙な反応をした。

 それに、ご友人の姿が見えないと言うのに、まるで気にしていないようにも見える。


 妙だと感じ、スリート様の顔を今一度見る。

 すると、スリート様は何やら動揺して、私から目を逸らした。


「スリート様……まさか、私に嘘をつ――――」


 スリート様に疑いの眼差しを向け、嘘をつかれたのかと問おうとした次の瞬間、私は背後に迫る殺気と魔力を察知した。

 私は直ぐに背後に振り向き、魔銃まじゅうアタランテを構えて水の銃弾を発砲する。

 すると、いつの間にか食事を止めて接近していたフェンリルが、水の銃弾を凍らせて氷の砂の上に落とす。

 そして、フェンリルは勢いよく私に噛みつこうと大きな口を開けた。


「スプラッシュ!」


 大量の水を放ち、私は直ぐにスリート様を掴んで後ろに下がって距離をとる。

 しかし、私の魔法は全く効いた様子はない。

 フェンリルは唸り声を上げながら、私を睨んで威嚇を始めた。 


「ヒエ~。食べられちゃうところでした」


「スリート様、撤退します。今ので理解しました。暴獣フェンリル相手では、私の水の魔法は通じません。水の上位である氷属性を扱うフェンリル相手では、私の魔法はあまりにも相性が悪すぎます」


「だ、駄目です~! “英雄”なら、このピンチを乗り越えて下さい!」


「……英雄? ――っぅく」


 スリート様から発せられた“英雄”と言う言葉。

 その言葉で私は大方理解した。

 そして、その瞬間にフェンリルが爪を立てて跳びかかって来て、私は寸ででそれをけて再び距離をとる。

 しかし、避けた筈の私の体……いえ、正確にはメイド服の腹部が裂かれてしまっていた。


 とりあえず肌が露出する程度には攻撃を受けたようだけど、肌は斬られていないわね。

 良かった……でも、状況が良いとは言えないわね。


 フェンリルの爪で斬られると、その斬られた場所……皮膚や肉が凍ってしまうと言われている。

 そんな事になれば出血は抑えられるだろうけど、間違いなくそこを中心に凍傷が始まって、最悪まともに動く事も出来なくなる。

 当たり所次第では内臓などが凍ってしまい、最悪死に至る可能性も十分ありえる。


「ヒエ~! やっぱり“英雄”でも、フェンリルは無理なんですね! こんな事ならクリームワームにすれば良かったです~! ヒエヒエです~!」


 何やらおかしな言動。

 クリームワームにすれば良いと言うのは、どう言う意味なのか?

 クリームワームと言えば、このサウンドサンクチュアリーに生息する昆虫の一種で、かなり凶暴性の高い生物。

 フェンリル程ではないけれど、いずれにしても危険度が高いのは変わらない。

 しかし、それよりも気になるのは、やはり“英雄”と言う部分。


「スリート様、勘違いされている様ですが、私は“英雄”様ではございません」


「ヒ…………え?」


「何故そのような勘違いをされたか存じませんが、“英雄”様はヒロ様です。いくら精霊様と言えど、私程度の者を“英雄”様と間違えるなど、ヒロ様に対して失礼にも程があります」


「……ひ、ヒエエエエエエエエ!? ヒロって、あのモコモコおばけですよね!? あのモコモコおばけはブリザードスコーピオンに手も足も出てなかったです~! それに“英雄”はヒューマンだって聞きました! 獣人の女の子は違うから、もうお姉さんしかあり得なかったです~!」


「私はメイド服で体を隠しているので分かり辛いかもしれませんが、魚人とヒューマンのハーフです。それに、あんなに服を着込んでいるのですから、まともに動けなくて当然でしょう。普段のヒロ様であれば、あの程度のさそりに遅れをとる事は決してございません」


「は、ハーフ……? で、でも、お姉さんの佇まいとか気品とか、あのモコモコおばけより凄いです~! モコモコおばけは見た目も動きもマヌケです~! あんなの“英雄”に見えません!」


「そう見えたのは、恐らく私の中にある王族の血が招いた結果でしょう。それにヒロ様は私達の世界に来るまでは、一般家庭で普通の生活を送っていた方なのです。王族や貴族の様な気品などあろうはずもございません。その事でスリート様を責めるつもりはございません。ですが、“英雄”様であるヒロ様を、見た目や雰囲気で判断しないで下さい。あの方の素晴らしさは、そんなもので推し量れるものではございません!」


 ヒロ様を馬鹿にされた事で、つい最後には語尾を荒げて答えてしまった。

 しかし、スリート様はようやくご自身の間違いに気が付き、顔を真っ青にして身を震わせた。


「ひ、ヒエヒエです~! ティアマト様ごめんなさい! スリートまたドジしちゃったです~!」


 ティアマト……?


 焦るあまりにスリート様の口から零れた名前。

 その名前は以前何処かで聞いた事があった。

 いえ、正確には少し違う。


 確か、ピュネ様が以前ティアお姉様と仰っていましたね。

 絆の魔法の事をヒロ様に教えては駄目だと、ピュネ様が言われたと仰っていた。

 スリート様のこの様子から、恐らく今回の件にも関係していて、裏で手を回した人物。

 それから、スリート様を見れば分かる事だけれど、決して“英雄”様であるヒロ様を陥れて殺そうとしたわけでは無い事。

 今回の件は、“英雄”様であればフェンリルを倒せると判断しての事だと分かるわ。

 つまり、これはヒロ様に課せられた試練のようなもの。

 ティアマトと言うのは、ピュネ様の仰っていたティアお姉様と言う方と同一人物……“宝鐘の守り人”で間違いないわね。


 ただ、それが分かった事で、今は意味のない事。

 私は直ぐに思考を切り替えて、この状況を脱しようと考える。


「とにかく今は撤退しましょう。私ではフェンリルには勝てません」


「駄目なんです~! もう逃げられないんです~!」


「逃げられない? それはどう言う――――っあれは!?」


 私とスリート様が話している間に、フェンリルは何故か襲って来なかった。

 しかし、私はそれに疑問を置かずに、この場でのんびりと居てしまった。

 その結果、事態は急激に悪い方へと向かいだす。


 直径およそ五百メートルくらいの巨大な魔法陣が上空に現れて、魔法陣の外枠から氷の壁が出現して、それが氷の砂へと降下して刺さっていく。

 そして、最後には魔法陣そのものが氷の天井となり、脱出不可能な氷の牢獄が完成した。


「フェンリルは獲物を逃がさないように、魔法で自分と一緒に閉じ込めるです~! スリートたちでもフェンリルには敵わないから、いつもこの氷に閉じ込められる前に、フェンリルを見つけたら皆で里を移動してるんです~!」


「そう言う事ですか。厄介な相手ですね……」


 ここに来る前に精霊様達が騒いで、中には“またおうちをいどうしなきゃー!”と仰っていた精霊様もいた。

 私はその意味を理解して、氷の属性に至っては他種族よりも優れている精霊様に恐れられるほどの目の前の暴獣を相手に、流石に恐怖を感じた。


 でも、ここで怯えているわけにもいかないわ。

 それに相手はたかが暴獣。

 私はヒロ様と、そして姫様と共に、あの邪神を封印しなければならいないのよ。


「予定を変更して討伐にかかります。スリート様は身を隠して避難していて下さい」


「ヒエ~! 危険です~!」


「危険だとしても、既に退路が断たれているのです。ならば、フェンリルを倒す以外の道はございません」


「お姉さ~ん……っ」


「さあ、早くお逃げ下さい。既に戦いは始まっています」


「は、はい~!」


 スリート様が安全な場所を探して逃げて行き、私はフェンリルと向かい合って銃口を向ける。

 私が“戦いは始まっています”と言ったように、フェンリルは既に行動を開始している。


 フェンリルは動き回るのではなく、私を威嚇しながら氷の鎧を纏っていた。

 恐らく、これがフェンリルの本来の狩猟する時の姿。

 二度も私を仕留め損なった事で、私を本気で狩ると決めたようだ。


 しかし、私もそう簡単に狩られるわけにはいかない。

 この程度の苦難を乗り越えて見せなければ、この先の邪神との戦いで足手纏いになってしまう。


 私は魔銃アタランテに魔力を集中し、フェンリルと睨み合う。

 相手は近接戦闘を得意とする暴獣フェンリル。

 対するこちらは、中距離から長距離戦で有利に戦いが出来る魔銃アタランテを使用。

 距離を保って戦えるかどうかが、この戦いの鍵になる。


 魔銃アタランテの引き金を引くと、同時にフェンリルが駆けだして、私とフェンリルの戦いが始まった。

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