幕間 こんなのあんまりや
※今回はニクス視点のちょっと短めなお話です。
「ええ湯やなあ」
「はい~。フウさんとランさんが一緒に来られなかったのが残念ですね~」
「あたくしはヒロ様と一緒に来たかったわ」
「ヒロしゃんは今頃サウンドサンクチュアリーでしゅかねえ」
ここは温泉の村ウクレレや。
メレカさん達が最北の地に向こうた後にこの村に来て、今は温泉に浸かっとるとこや。
うちと話しとるんは、ピュネちゃんとハバネロさんとアミーや。
それから、少し離れたところでみゆが泳いどる。
ここは女湯やからおらんけど、男湯にはうちの師匠もおる。
「ああ。愛しのヒロ様……。きっと今頃凍えていらっしゃるに違いないわ。出来るなら、今直ぐヒロ様をあたくしの肌で温めて差し上げたい」
「心配しなくても、ベルしゃんが用意してた魔道具があるから平気でしゅよ。それより、あたち達も温泉をあがったら古代都市リュート跡地に向かうから、気を引き締めないとでしゅよ」
「そうね~。多分魔族はいなくなってると思うけど、何が起きるか分からないものね~」
「いざとなったら、うちの師匠を囮にして逃げればええし問題無いやろ」
「貴女、ご自分の師に対して随分と冷たいわね。本当に師弟関係なのかしら?」
うちの師匠への態度に、ハバネロさんが疑いの眼差しを向けたで、うちはニコッと笑うて答えたる。
「うちと師匠はそう言う関係ってだけや」
「変な関係ねえ」
「でも、あたちも不思議に思ってたでしゅ。と言うか、ニクスしゃんはタイムしゃんに何を教わってるんでしゅ?」
「あ~。そう言えば言うてへんか――――」
「わたしもそれ聞きたい!」
「――ったあ! びっくりしたわあ。もう、みゆ。脅かさんといてー」
遠くで泳いどったみゆが、突然目の前の湯船からバシャー水飛沫上げて出て来たで、驚いて非難したった。
せやけど、当の本人のみゆは、悪びれる様子も見せんと笑いよった。
「えへへ」
「えへへ。ちゃうわ。まあ、ええわ。隠す必要も無い事やし、話たるわ」
うちはそう言うと、一度咳払いをしてから言葉を続けた。
「まず前提として知ってもらいたいんやけど、うちはこう見えてホンマはフェニックスの一族なんよ」
「……え? マジでしゅか?」
「あ~。そう言う事なんですね~」
「どう言う事?」
「あたくしにも分からないわ」
当然やけど、宝鐘の守り人のピュネちゃんだけは、今ので理解したようや。
せやけど、みゆとハバネロさんは首を傾げとる。
アミーは二人とは別の意味で理解出来てへん様子や。
「うちのニクス=スワロー言う名前は、今の両親の姓を一部借りたものなんよ。ホンマの名前はニクス=フレイム=フェニックスや」
「あれ? でも、魔人フェニックスってたいむお兄ちゃんだよね?」
「せやな。せやけど、ちょっとそこ等辺はややこしくてなあ。分かり易く説明したると、それは師匠が魔人になった時に名乗っただけや。せやで、実際はフェニックス言うんは個体を表す言葉やのうて、種族を表す言葉なんや。そんでフェニックスっちゅうんは妖族に近い種族やな」
「そっかあ。でも、それが何で師弟関係に関係してるの?」
「フェニックス言う種族は特殊でな。各々が生物の生死に関わる能力か魔法を持って産まれるんや。もちろん例外もあるんやけど、うちにはそれがちゃんとあった。それでこっからが重要なんやけど、そう言ったもんを持って産まれた子には、必ず産まれて直ぐに師が出来て、その能力か魔法の正しい使い方を師から教わるんよ」
「なるほど。理に適っているわね。あたくしも貴族として産まれて直ぐに、両親が専属の乳母と侍女、それから英才教育の為に家庭教師をつけたわ。要はそれと同じと言う事ね」
「どうでも良いでしゅけど、ハバネロしゃん滅茶苦茶自然に会話に交ざってましゅね?」
「あら? 駄目かしら?」
「駄目では無いでしゅ」
アミーがハバネロさんに冷や汗を流しとるけど、とりあえずうちは話を続ける。
もちろんさっきのハバネロさんの言葉を聞いた上でや。
「まあ、うち等フェニックスは普通は正体隠して生きとるで、そこまでの事はせんけどな。基本は他人とは関わらんのや。関わる奴がおったとしても、それは生死に関わる能力や魔法が使えへん連中やな。そう言う連中は基本は野放しにされとる。いくら自分等がフェニックス言うても力が無ければ信じて貰えへんし、何より師匠が魔族になって評判ガタ落ちで名乗れんかったでな」
「そっかあ。仲間って思われたら大変だもんね~」
「そうね。それなら黙っていた方が身のためね」
「でも、タイムしゃんはなんで魔族になったんでしゅかねえ? 元々は魔族じゃなかったって事でしゅよね?」
「反抗期やったからみたいやなあ」
「反抗期……? マジでしゅ?」
「意外と可愛い理由なのね」
「可愛いか? うちは最初聞いた時、アホや思うたけどなあ。まあ、そんなんやから魔族を裏切ったんやろな。反抗期が終わって」
「そう聞くとアホに思えるでしゅね」
「ホンマ当時は勘弁してほしかったわあ。うちが産まれて直ぐに魔族なりよって、おかげで殆ど能力の練習出来んかったんやで? おかげで殆ど独学や。普通ならそれでも十分やけど、うちの場合前世の記憶もって産まれてしもて、いきなりこんなファンタジーな世界でファンタジーな事せえ言われて出来るわけないやろ? しかも背中から翼はえとるやん。そんなん前世人間やったうちが使えるわけないやろ? せやで、最初は全く飛べんし、魔法も能力も分けわからんしで、どないやねんってなっとったわ」
「そっかあ。ニクスちゃん大変だったんだね。あ、そう言えばニクスちゃんって、姿を変える力だったよね? じゃあ、もう一つあるって事なの?」
「そう言えばそれも言うてへんかったなあ。まあ、そんな大したもんちゃうよ。師匠の能力と比べて使う機会なんてあらへんしな」
「そうなんだー」
どんな能力かは言わんでもええやろ思て言わんかったけど、みゆはそれで納得した。
まあ、ホンマ大して使う機会の無いもんやし、詳しく聞いてこうへんのやで言う必要も無いやろ。
実際他の皆も気にした様子があらへんしな。
「そろそろリュート跡地に行きましょ~」
うち等が会話を終わらすと、ピュネちゃんがそう言って立ち上がった……んやけど…………。
でっか!
ピュネちゃんが立ち上がった拍子に突如巻き起こったナイアガラの滝。
うちと違って肉付きの良い体と、揺れる滝の発生源。
ピュネちゃんのデカすぎるその胸に皆の視線が集まって、短くも長く感じる沈黙がやってきよった。
初めて会った時からデカいデカい思っとったけど、こうして見るとホンマにデカい。
絶対百センチ越えの大物や。
それと比べてうちは…………。
首を下に曲げて自分の胸に視線を向けると、そこには悲しい現実が映ってしもうた。
うちは自分の胸にそっと両手で触れて確かめて、再びピュネちゃんの巨大なソレに視線を向けて、絶望してまう。
あまりにも酷い胸囲の格差社会。
こんなのあんまりや。
何や知らんけど涙出てきたで……。




