30話 一撃で仕留めれば良い話にゃ!
※今回はナオ視点のお話です。
や、ヤバいにゃ。
ベルっちが攫われて、狼女と戦っていたけど、ニャーの魔力が限界に近くなってきたにゃ。
おかげで魔法の威力も落ちてきて、元々狼女よりニャーの方がちょっとだけ実力不足だったのが、少しずつ開いてちょっとじゃ無くなってきてるにゃ。
その原因は、上位魔法の【蒼炎】にゃ。
ニャーは先代爺ちゃんが言った通り、下位の魔法を蒼炎魔法で使っているだけで、ちゃんとは使いこなせてないにゃ。
でも、今まではそれで何とかなってきたけど、今回は別にゃ。
この狼女が思った以上に手強いのにゃ。
こんな事なら、ちゃんと蒼炎魔法も勉強しとけば良かったにゃ。
「猫助! アンタを殺したら、次はあの音魔法使いの子だ! 巫女と違って、あの子の生死はどうでもいいからなあ!」
「にゃー? ベルっちと違って? どう言う意味にゃ!?」
「知った所でアンタにゃ意味ない話だ! ここでアタイに殺されるからなあ!」
狼女が黒炎の爪でニャーに斬りかかって、ニャーはそれを蒼炎の爪で受け止めて、力で負けて少しだけ吹っ飛んだにゃ。
でも、直ぐに地面に足をつけて止まってから、狼女に向かって駆けだしたにゃ。
「来な! 猫助! アンタの蒼炎ごと、アタイの黒炎……ダークフレイムで灰も残さず焼き尽くしてやるよ!」
狼女が手の平に魔力を集めて、魔法を発動したにゃ。
飛び出したのは、相変わらずの黒炎だったけど、今回は今までより威力が凄く高いにゃ。
でも、ニャーは負けないにゃ。
魔力が読めるニャーには、狼女の手の内が見えてるにゃ。
狼女はニャーに黒炎を放って、直ぐに跳躍したにゃ。
跳躍の先はニャーの頭上にゃ。
黒炎に気を取られたニャーの不意をつくつもりだったみたいだけど、甘く見ないでほしいにゃ。
ニャーは直ぐに上空にいる狼女に向けて、こっちもさっき先代爺ちゃんに教えて貰った蒼炎魔法で――――
「ナオ! 後ろよ!」
「――っにゃあああああああ!?」
背後から恐ろしく高熱の炎の玉が飛んできて、ニャーは姉様の声でそれに気が付いて、横っ飛びしてギリギリ避けたにゃ。
滅茶苦茶危なかったにゃ。
って、そっちに気を取られてる場合でも無いにゃ!
「猫助! 地獄の業火に押し潰されちまいな!」
「――んにゃあ! これはヤバいやつにゃ!」
狼女がニャーに向かって落下して来たけど、ただの落下じゃないにゃ。
滅茶苦茶濃い魔力量の黒炎が狼女の爪にだけ集中してて、その爪から質量の高い大きなスタンプみたいな黒炎が広がっていて、それをこっちに向けて凄い速さで落ちてきてるにゃ。
ニャーは一瞬でヤバいと気が付いて、急いで後ろに下がろうとしたにゃ。
でも、下がれなかったにゃ。
いつの間にかニャーは炎に囲まれていて、逃げ場が無くなってたのにゃ。
「ナオ! 二時の方向に走りなさい!」
「――っにゃ!」
姉様の声が聞こえて、急いで斜め右に直進したにゃ。
そしたら、ニャーが走り出したと殆ど同時に、姉様の水の魔法がその場所の炎を消して、ニャーは何とか脱出で来たにゃ。
すると次の瞬間に、狼女が落下して、地面に大きな穴が開いたにゃ。
ニャーは直ぐ側にいた姉様に駆け寄って、感謝するにゃ。
「にゃー。姉様、ありがとにゃ」
「お互い様よ。ナオが何度もあの黒炎の魔法を避けてくれていたおかげで、こっちにもそれが飛んできて、何度か利用させてもらったわ」
「そうなのにゃ?」
「ええ。あのプルスラスと言う魔族の能力も炎だから、貴女が相手していたアモンの黒炎をぶつけて相殺するには丁度良かったのよ。私の魔法では、どうしても対処しきれないものも幾つかあったから」
「それなら、ここからは一緒に戦うにゃ。ニャーもちょっときついにゃ」
「そうね。そうしてもらえると、私も助かるわ」
ニャーと姉様が話し合っている間、狼女とライオン女も同じ様に話し合っていたにゃ。
でも、ニャー達とは全然雰囲気が違ってたにゃ。
「後ちょっとだったのによ! 姉御、しっかり援護してくれよ! もう時間がねえんだぜ!?」
「何言ってんだい! あんたの魔法が派手すぎるんだよ! だから避けられる! アンタの魔法がどれだけ私の邪魔をしたか分かってんのかい!?」
狼女がライオン女と言い争っていたのにゃ。
でも、それも直ぐに終わって、ニャーと姉様に向かって二人が駆けだしたにゃ。
「ナオ、今から貴女一人でプルスラスとアモンの相手をしなさい」
「――にゃ!? 一緒に戦うんじゃ無かったのにゃ!? ニャー結構魔力残量ヤバいんにゃよ? 本気で言ってるにゃ!?」
「それは貴女が魔力を無駄に使い過ぎてるせいよ。大した事の無いものには、貴女も無詠唱で魔法を使いなさい。慣れるまで威力は落ちるけど、その分の使う魔力も減るわ。使い方次第では、無詠唱の方が魔力の調整も出来る様になるわよ」
「にゃー!? 姉様、そんな事まで出来るのにゃ!?」
「当然よ。私は姫様のメイドよ。これくらいの事は出来て当たり前でしょう?」
「メイドってそんなに凄いにゃ? ニャーは姉様と比べたらまだまだだにゃあ……」
「何言ってるの。貴女なら出来るわよ。だから、あの二人の相手を頼んだわよ」
「ほ、本気で――――っにゃああ!」
姉様と話している間も、狼女とライオン女は待ってくれないにゃ。
気が付いたら直ぐ目の前まで来てて、危うく丸焦げにされる所だったにゃ。
姉様はニャーより早く接近に気が付いていたから、ニャーを置いて勢いよくここから離れて行ったにゃ。
狼女とライオン女も姉様だけがいなくなって、追わないでニャーだけを先にどうにかしようと狙って来そうな雰囲気にゃ。
姉様は一人で相手しろって言ってるし、もうこうなったらやるしかないにゃ。
きっと姉様の事だから、何か作戦を思いついたに違いないにゃ。
ニャーは目の前に来た狼女とライオン女に、試しに無詠唱で魔法を使う事にしたにゃ。
使うのは姉様直伝のバレットファイアにゃ。
姉様は魔銃でバレットウォーターを撃つ時に、無詠唱で使ってるのにゃ。
だから、多分使いやすいにゃ。
爪の無くなった魔爪に魔力を集中して、狼女に向かって魔法を放てば、この通り発射完了にゃ。
でも……。
「何だあ? そんな中途半端な下位魔法がアタイに効くとでも思ったのかよ!」
「んにゃあ! あっぶにゃあ!」
全然駄目にゃ。
蒼炎どころか、まともな炎が出ないにゃ。
普通に魔法を使った時より全然滅茶苦茶弱いにゃ。
そもそも一点集中型で威力が高くて神経使うから、通常より使い辛いにゃ!
そのせいで黒炎の爪で斬られそうになったのにゃ……。
「無詠唱ってのはこうやんだよ!」
狼女がクルクル回る丸い輪っかの黒炎をいっぱい出して、それをニャーに向かって飛ばしてきたにゃ。
ニャーは黒炎の輪っかを全部避けたけど、それはクルクル回って戻って来て、何度も襲って来たにゃ。
「ブラックフレイム“リングブレイド”だ! 当たれば斬れた所から全身が発火するぜ!」
「当たらなかったら関係な――――にゃあ!?」
いっぱい襲ってくる黒炎の輪っかを避けていたら、ライオン女が腕に炎を纏って殴りかかってきたにゃ。
ニャーはそれを急いで避けたけど、今度は避けた先に狼女がいて、黒炎の爪で攻撃してきたにゃ。
だけど、ニャーがそれを食らう事は無いにゃ。
魔爪から出てる蒼炎の爪は維持しているから、それで攻撃を防げばなんともな――めっちゃくちゃ手が痺れたにゃ!
やっぱりパワー負けは拭えないにゃ。
「仲間に見捨てられて可哀想だなあ! 猫助!」
「見捨てられてないにゃ」
「ははははっ。可哀想にねえ。そう思ってるのはあんただけじゃないのかい?」
「にゃあ! そんな事無いにゃ!」
狼女の次はライオン女にゃ。
こっちもこっちでニャーより強い炎で攻撃してくるから厄介にゃ。
ライオン女の炎は色んな動きをするにゃ。
うねうね動いて、まるで生き物でも相手にしているみたいで面倒臭いにゃ。
しかも魔法じゃなくて能力の炎で、当たったら消えないにゃ。
一応ニャーの蒼炎で上書きすれば消せるみたいだから、当たっても直ぐに消せば何とかなるけど、厄介なのは変わりないのにゃ。
でも、そんな時にゃ。
狼女の黒炎の爪と黒炎の輪っかと、ライオン女のうねうね動く炎を避けていて、ニャーはやっと姉様が何をしてるのか分かったにゃ。
姉様は魔銃を構えていなかったにゃ。
でも、自分が立ってる地面に大きめの魔法陣を出していて、そこから小雨みたいな小さな水がいっぱい飛び出していたにゃ。
勿論ただの水じゃないにゃ。
その水には魔力が含まれていて、それはニャー達が戦ってるこの場所にも広がっているにゃ。
ただ、何をしているのかは分かったけど、これが何の魔法かは分からないにゃ。
小さな水はニャーの蒼炎と、狼女の黒炎とライオン女の炎で、触れる前から蒸発していってるにゃ。
でも、そのおかげで狼女とライオン女に見向きもされてないみたいだにゃ。
そしてニャーは思ったのにゃ。
最近みんなで一緒に戦う機会が多かったから、ついつい姉様を頼ろうとしたけど、どんなに強い敵が相手でもニャーは元々誰かと一緒に戦ったりとかしないタイプなのにゃ。
姉様が何かをしようとしてるけど、別にそれを待つ必要なんてないにゃ。
だからここは、魔力が残り少ないからって弱気になって、避けたり身を護ったりする事を優先に考える場面じゃないのにゃ。
ここは姉様を待たずに強気になって、ニャーが一人で狼女もライオン女もまとめて倒す場面なのにゃ!
魔力の残量が少ないなら、一撃で仕留めれば良い話にゃ!
そうと決まれば一気に行くにゃ。
ニャーは魔爪と両足に蒼炎を纏って、姿勢を低くして構えるにゃ。
「――目つきが変わった……? アモン、気を付けな! 何かくるよ!」
「はっ! 構うもんかよ! 力も魔力もアタイの方が上! それに猫助は限界って顔だ! 今度こそ決めてやるぜ!」
ライオン女がニャーから離れて、狼女がライオン女の話を聞かずに黒炎の爪を更に伸ばして笑みを浮かべたにゃ。
それに、黒炎の爪は伸びただけじゃないにゃ。
黒炎の爪に害灰が集まって、黒い炎だった爪が物質的な形になって、鋭利な刃に姿を変えたにゃ。
でも、完全に黒炎が無くなったわけじゃないにゃ。
鋭利な刃に黒炎が纏われて、刃が熱で黒く禍々しく光ってるにゃ。
「死にな猫助! アタイの最強の魔法、デスフレイムクロウでなああああっ!」
狼女の爪が振り下ろされたけど、ニャーだって負けないにゃ。
ニャーは無詠唱で両足からピラーファイアを使って、狼女の攻撃を真後ろに飛んで避けたにゃ。
そして、直ぐに地面を蹴り上げて、狼女に向かって跳躍にゃ。
狼女はニャーに渾身の一撃が避けられただけじゃなく、ピラーファイアの炎に当たったにゃ。
でも、今のニャーの無詠唱の魔法じゃ、大したダメージにはならないにゃ。
だけどそれでいいのにゃ。
狼女はピラーファイアの炎を振り払って、その間だけニャーをほんの少し見失ったにゃ。
だから、ニャーが直ぐに跳躍して接近している事に気が付くのも、その分少しだけ遅れたのにゃ。
ニャーと狼女の間に幾つもの魔法陣を出して、ニャーは跳躍しながらその中をくぐって行くにゃ。
魔法陣をくぐれば、その度にニャーの蒼炎の爪が青白い光を纏いだしたにゃ。
「逃げなアモン! その蒼い炎は危険だよ!」
「危険なわけあるかよ! 力も魔力もアタイが上! そしてアタイのデスフレイムクロウはまだ消えてないんだよなああああ!」
ニャー達から距離をとっていたライオン女の忠告を無視して、目の前まで接近したニャーに、狼女が攻撃を仕掛けたにゃ。
でも、負けないにゃ!
「クロウズホーリーフレイム!」
次の瞬間、ニャーの青白い光を放っている蒼炎の爪と、狼女の禍々しく黒い光を出す黒炎の爪の刃が激しくぶつかり合ったにゃ。
その威力は互角……なわけないにゃ。
先代爺ちゃんに教えて貰った蒼炎魔法が、ニャーの全力が、魔族の狼女なんかと互角なわけが無いにゃ!
「にゃああああああああああああ! 斬り裂けにゃああああああああっっっ!」
瞬間――ニャーの蒼炎の爪が黒炎の爪の刃を真っ二つにして、そのまま狼女を斬り裂いたにゃ。
「――――っがは……っ!?」
狼女が驚いた顔で血を吐いて、ニャーが斬り裂いた所を中心に亀裂が生まれて、亀裂からは黒紫色の光が溢れだしたにゃ。
「あ、アタイの黒炎が――――」
狼女は最後の言葉を言い終わる前に爆発したにゃ。
ニャーは魔力を使い果たしてフラフラになったから、狼女が爆発して出た爆風に耐えられずに、吹き飛ばされてしまったにゃ。
でも、吹き飛んだ先で戦いを見ていたニクニクに受け止めてもらったにゃ。
「お疲れやで」
「ありがとにゃー。でも、まだ終わってないにゃ。ライオン女が残ってるにゃ」
「もう終わっとるで。見てみい」
「にゃ?」
ニクニクが指をさして、ニャーはその先に視線を向けたにゃ。
そしたら、なんか凄い事になっていたにゃ。
「ちぃっ。余所見するもんじゃないねえ!」
「貴女には姫様の事で聞きたい事があるわ。必ず喋ってもらうわよ」
姉様が周囲にばら撒いていた小雨くらいの大きさの水は、細い糸のような水を伸ばしていたにゃ。
そしてその水の糸は蜘蛛の巣のような形で水と水の間に伸びていて、それがライオン女を捕まえていたのにゃ。
「メレカさんがここ等一帯にアレを散布しとったみたいやで。せやから、アレから抜け出されても、他ので捕まえられるみたいやな」
「…………にゃー? もうちょっと早く使ってほしかったにゃ」